本記事は日曜数学 Advent Calendar 2025の6日目の記事です。
昨日は岩淵夕希物智さんの「これも一つのコラッツ問題の複素化」でした。今年の日曜数学アドベントカレンダーはコラッツ予想が盛り上がっていますね!
前回の記事(下)に引き続き、ヴェイユ予想の具体例で「遊んで」みようと思います!
tsujimotter.hatenablog.com
今日テーマとしたいのは 超楕円曲線 です。超楕円曲線とは
で が重根を持たない、かつ、
であるものをいいます。
( の場合は、前回計算した楕円曲線となります。)
超楕円曲線の場合、その種数は
となります。
今日は次数 の場合を考えます。したがって、種数の公式より
となり、種数 の場合を扱うことになります。
種数2なので、曲線を複素変数として描くと、位相的には次のような「穴が2つ空いた閉曲面」となります:

(図はGemini(Nano Banana Pro)に描いてもらいました)
今回は、具体的に2つの 上の曲線
について計算してみたいと思います。
共通する事項としては、ベッチ数は
となり、オイラー数は
となります。
合同ゼータ関数は または
として
と表されます。
ここから、任意の について
が導かれます。これが最重要の公式です。
したがって、 を計算したいと思ったら、
を因数分解して得られる
を決定すればよいことになります。
実は のうち最初の数個を計算すれば、
の係数を決定でき、
をすべて決定できるのです。実際は、たった2個の数
だけ計算できれば十分です。
すなわち
ですね!
超楕円曲線①:
まずは
の例について考えたいと思います。
まずは、(
)上の有理点の個数を数えたいと思います。
のときは
での解の個数を数えればよいです。フェルマーの小定理より
なので
の解の個数を数えることと同値です。
右辺は のとき
です。これが
と等しいことから、
の中の平方剰余の個数を数えればよいことになります。
実際、平方剰余は のみで、これに対応する
はそれぞれ2つずつあります。右辺が
になるときは対応する
は
のみ。これに無限遠点も加えると、全部で6点なので
となります。
以下、 については、SageMathで数値計算を実行します:
さて、以下では合同ゼータ関数を決定するために、 の係数を決定したいと思います。ここで
は、定数項が
で次数
の整数係数多項式なので
と表されます。
ここで解と係数の関係により、
が成り立ちます。これらはすべて の基本対称式であることに注意しましょう。
ここで共通事項として紹介した式 において、
とすると
となります。したがって、係数 が次のように決定できます:
ここで、上で計算しておいた を使用しました。
次に、 を計算したいと思います。
はすべて
の基本対称式です。我々が有限体上の点の個数でわかるのは
という形の式です。この間にどのような関係があるのでしょうか。
実はこれらの と
の間に関係性があるというのが ニュートンの恒等式 です。
ここでは についてのニュートンの恒等式
を用います。
式 において、
とすると
であり
が分かります。ここで、上で計算しておいた を使用しました。
したがって、ニュートンの恒等式と合わせて
が得られます。
以上から の係数が
というところまでは決定できました。
ニュートンの恒等式を と続けることで
も順次決定できるのですが、もっとよいのは 関数等式 を用いる方法です。
ヴェイユ予想の関数等式より、 には
という関係が成り立ちます。
(ここでオイラー数 を使っています。)
を素直に計算すると
が成り立ちます。これが と等しいことから、
の関数等式
が成り立ちます。この が得たかった関係式です。
あとは、左辺の に
を適用することで、次が得られます:
これが と等しいことから、係数比較をして
が得られます。
以上をまとめると
となります。これは明らかに
と因数分解できます。したがって
となります。これは明らかにヴェイユ予想のリーマン予想 を満たしますね。
今回の用途では必要ありませんが、合同ゼータ関数は
と表されます。
さて、 が具体的に求まったので、ここから任意の
についての
が求まります。実際
が成り立ちます。
さらに右辺は の偶奇によって場合分けできて
と表せます。
の結果が正しいことを確認してみましょう。
のとき、
ですが、実際 なので正しい。
のとき、
ですが、実際 なので正しい。
のとき、
ですが、実際 なので正しい。
のとき、
ですが、実際 なので正しい。
のとき、
ですが、実際 なので正しい。
この先も常に正しい結果となります。というわけで
という3つの情報だけから、任意の についての
の一般項を得ることができました。
これは楽しいですね!!
超楕円曲線②:
①とは振る舞いの異なるもう一つの例として
について考えたいと思います。これも同じく種数2の曲線です。
(
)上の有理点の個数は、SageMathによる数値計算で次のように求まります:
さて、以下では合同ゼータ関数を決定するために、 の係数を決定したいと思います。ここで
は、定数項が
で次数
の整数係数多項式なので
と表されます。
ここで解と係数の関係により、
が成り立ちます。これらはすべて の基本対称式であることに注意しましょう。
ここで式 において
とすることで、係数
が次のように決定できます:
ここで、上で前もって計算しておいた を使用しました。
とならないところが、①の例と異なります。
次に、 を計算したいと思います。
①の例のときと同様に、 についてのニュートンの恒等式
を用います( であることを使いました)。
式 において、
とすると
が分かります。
したがって、ニュートンの恒等式に を代入して
であることが分かりました。
以上から の係数が
というところまでは決定できました。
①のケースで行ったように、ヴェイユ予想の の関数等式より、
についての関数等式
が得られます。
この左辺の に
に適用することで、次が得られます:
これが と等しいことから、係数比較をして
が得られます。
以上をまとめると
となります。合同ゼータ関数は
と表されます。
あとは を因数分解すればよいのですが、今回のケースにおいては純粋な4次方程式なので、これを解くのはなかなか難しそうです。
そこで、方程式の根を求める定番の数値計算手法である ニュートン法 を用いたいと思います。
ja.wikipedia.org
今回は
なる を求める問題です。多項式の次数を反転させた
の4つの根は に等しくなります。
したがって、 の根をニュートン法で計算したいと思います。
実際、計算してみると
が得られ、これらが求める の近似値となっています。
複素数平面上にプロットすると次のようになります:

絶対値は
となり、これは に十分近い値であることから、リーマン予想も満たす解であることが分かります。
さて、 が具体的に求まったので、ここから
を用いて、任意の についての
が求まります。
は数値的に得られた結果ですが、この結果がおおよそ正しいことを
で具体的に確認してみましょう。
のとき、
ですが、実際 なので正しい。
のとき、
ですが、実際 なので正しい。
のとき、
ですが、実際 なので正しい。
のとき、
ですが、実際 なので正しい。
のとき、
ですが、実際 なので正しい。
この先も常に正しい結果となります。というわけで
という3つの情報だけから、任意の についての
の一般項を得ることができました。
まとめ
というわけで、2通りの種数2の代数曲線について、合同ゼータ関数を具体的に計算し、そこから の一般項を求めることができました。
前回の楕円曲線(種数1)のときは が1つあればよかったのですが、
種数2の場合は と
の2つの情報が必要になります。
これは単純に種数に対応していて、種数 の場合は
の 個あれば、合同ゼータ関数が決定でき、そこから一般項が求められます。
代数曲線の場合は だけを決定できればよかったのですが、より高次元の代数多様体の場合はもっと多くの情報が必要となるので、難しい問題になりそうです。
いずれにしても、有限個の有理点の個数が分かれば、合同ゼータ関数を通してその先の無限個の有理点の個数が分かってしまうというのはとても面白い話でしたね。このことが具体例を通して実感できて、私は楽しかったです。
個人的には、ヴェイユ予想の4つの主張の中で一番謎だった関数等式の使い方が分かって面白かったです。具体例の計算はいろいろと発見がありますね。
それでは今日はこの辺で!
追記:4次方程式の解
ちなみに、例②の の根ですが、Wolfram Alphaを使うとこんな風に解くことができます。
実際、
と表されるようです。
こんな複雑な方程式でもちゃんと解が求まるなんて、Wolfram Alphaすごいですね!