今回は
について計算したいと思います。

まずは、この数の背景にある 正十七角形の作図問題 について簡単に説明します。
を素数として、正
角形が定木とコンパスで作図できることは、
が作図可能であることと同値になります。
たとえば、以下の図の ★ のマークの長さが のときの
に相当します:

この部分が作図できれば、垂線と円の交点をとることで、正十七角形が作図できることになります。逆に、正十七角形が作図できるのであれば、 も作図可能です。
歴史を紐解くと、 については古代ギリシャ時代から作図法が知られていました。つまり、正三角形と正五角形の作図法については具体的な手順が与えられていました。
それ以降の素数 については、作図可能な正
角形は2000年近く発見されませんでした。当時の数学者も、
のほかに作図可能な素数があるとは思っていなかったようです。
そんな中、1796年に当時19歳のガウスが大発見をします。なんと、 のときには、正
角形が作図可能であることを示したのです。以前のブログ記事でも、この一件がきっかけでガウスが数学者を志したというエピソードを紹介したことがありました。
tsujimotter.hatenablog.com
なお、ガウス自身はのちに、作図できる正 角形の必要十分条件は、素数
が
の形で表されること、を証明しています。
このような素数はフェルマー素数とよばれ、ガウス自身も書籍の中で以下の5つを挙げています:
19歳のガウスの発見した は、フェルマー素数の3番目の例だったというわけです。なお、フェルマー素数は、これより先は一つも見つかっていません(存在するかしないかも不明)。
ガウスの着想は、作図可能な長さに対応する数の条件を考えるという点です。
実際ガウスは、ある数が定木とコンパス作図可能であることは、その数が「四則演算」と「ルート演算」によって有理数を繰り返し組み合わせて得られることと同値である、と看破しました。
これは直線が一次式で、円が二次式であり、両者の交点を求める操作が連立方程式に対応して、それが高々二次方程式であることに由来しています。
そこで、正十七角形が作図できるかどうかは が作図できるかどうか、すなわち、
が「四則演算」と「ルート」を組み合わせて表せるかどうかにかかっています。
実際、ガウスは が次のように表せることに気づきました:
この式をよく見るとわかるように、四則演算とルートのみによって表されています。したがって、 は定木とコンパスで作図できるというわけです。
式の形だけをみて作図可能性が分かってしまうというのは、面白いですね!
そんなわけで、本記事では の式
を導出してみたいと思います。
「そんなことできるのか」と思うかもしれませんが、実際に丁寧に式変形することで実行できるのです。
計算自体はかなり複雑ですが、実際に用いるのはすべて高校数学で習う範囲(二次方程式の解の公式・三角関数・複素数平面)の計算だけです。よかったらぜひ一緒に計算してみてください。
導出の方針:16個の数のトーナメント
ここでは式 の導出の方針について考えたいと思います。
目的は とおいたときに、
を具体的に計算することです。
計算のための最初の方針は、1の原始17乗根 を用いることです。
すなわち、1の原始17乗根である
を考えます。
は、17次方程式
の解となります。
右辺の を左辺に移項して
と因数分解できますが、 なので
を解けばよいことになります。
しかしながら、この16次方程式を解くのは簡単ではなさそうです。
とします。 をセットにして
としたくなります。
を改めて変数とすると、8次方程式が得られます。これを元に解けそうな気がしますが・・・やはり複雑になりますので、この方法で進めるのは大変そうです。
そこで違う方法を取りたいと思います。
式 の解は
の16個となります。これらを2個ずつ組み合わせて扱うのが今回のポイントです。

先ほど実行したように、 をまとめると
より、 に対応してコサインの値が8個得られます。
これから私たちが求めたいのは最初の式の右辺の ですが、それ以外のコサインもまとめて計算する必要があります。
ここで、8つのコサインを次のように2つずつ組み合わせます:
この組み合わせ方が「ミソ」なのですが、実際「どういう理屈で組み合わせているのか」と思うかもしれません。
適当にまとめているわけではなく、実は組み合わせるコサインの角が「互いに4倍になるように」組み合わせています。
実際、組み合わせたコサイン同士は、次のような関係にあります:
を 4倍すると
になる
を 4倍すると
になる
を 4倍すると
になる(
なので上の式を得る)
を 4倍すると
になる(
なので上の式を得る)
括弧内の計算では、 であることや、
であることを考慮しています。
このようにして組み合わせに代数的な「対称性」を考慮することで、後々の計算が簡単になるのです。
さらに
と組み合わせて、最終的に
を計算します。
以上の要領で、16次方程式 の16個の解からスタートして、2個ずつトーナメント表のように組み合わせていきます。これを図に表すと、次のようになります:

計算するときは、逆にトーナメントの上の方から計算していきます。だんだんと下に向かって値を決定していき、最終的には左下の の計算を目指します。
計算は全部で 4ステップ となります。かなり長い計算になりますが、ぜひ最後までお付き合いください!
ステップ1:e, f の計算
最初のステップでは、 の値を計算したいと思います。
その前段階として、 の計算を試みたいと思います。どのように計算できるでしょうか。
実は、 の定義を書き下すと
がすべて現れ、対称性から
が簡単な式に帰着されます。
実際、次のように計算されます:
途中の計算では、等比数列の和公式
と を用いました。
最終的に
が得られました。

(現在の進捗)
さて、ここから を計算したいのですが、これらを掛け合わせた
が計算できれば十分です。
より、 を計算できれば良いことになります。少し大変ですが、一つ一つ計算していきましょう。
(i) の計算:
となりますので右辺を4つ展開したときのコサインを計算します。
よって
が得られました。
(ii) の計算:
となりますので右辺を4つ展開したときのコサインを計算します。
慣れてくると、左辺に出てくる角度の和と差を計算すれば右辺のコサインが計算できることが分かります。
よって
が得られました。
(iii) の計算:
となりますので右辺を4つ展開したときのコサインを計算します。
よって
が得られました。
(iv) の計算:
となりますので右辺を4つ展開したときのコサインを計算します。
よって
が得られました。
以上により、次のように の値が計算できます:
最後に先ほど計算した を用いました。
したがって
が得られました。
が得られましたので、解と係数の関係を用いると、
は二次方程式
の2解のいずれかとなります。
二次方程式の解の公式により、2解は
と表せます。
ここで の符号を決定する必要がありますが、これは幾何的に考えます。

は定義より
ですが、構成要素を考えると であることはすぐに分かります。したがって、
の符号が
、
の符号が
です。
よって
が得られました。

(現在の進捗)
ステップ2:a, b の計算
次のステップでは を計算したいと思います。
ステップ1で の値が計算できたので、あとは
が計算できれば、上と同様に二次方程式を使って
が決定できます。
の計算をするために、定義にしたがって展開すると
なので、コサインの組み合わせをそれぞれ計算していきます。
これを全て足したものが の値となりますが、よくよくみるとコサインのすべての値が登場しています。したがって
となります。
以上により
が得られました。
が得られましたので、解と係数の関係を用いると、
は二次方程式
の2解のいずれかとなります。
二次方程式の解の公式により、2解は
と表せます。
を計算する必要がありますが、これは
となります。
よって
となります。
ここでやはり の符号を決定する必要がありますが、同様に幾何的に考えます。

は定義より
ですが、図形的に が分かります。したがって、
の符号が
、
の符号が
です。
よって
が得られました。

(現在の進捗)
ステップ3:
の計算
が求まりましたので、我々の目標である
まであと一歩まで迫りました。
そこで、 を計算してみます。すると
となり、なんと の値が必要になります。これはまだ計算できていません!
そんなわけで、ステップ3では を計算したいと思います。
の計算ができていますので、
を計算できればよいですね。
なので、コサインを展開したそれぞれの項を計算していきます:
これらを足し合わせると、コサインのすべての値が登場します。
したがって
が得られます。
以上により
が得られました。
が得られましたので、解と係数の関係を用いると、
は二次方程式
の2解のいずれかとなります。
二次方程式の解の公式により、2解は
と表せます。
を計算する必要がありますが、これは
となります。
よって
となります。
ここでやはり の符号を決定する必要がありますが、同様に幾何的に考えます。

は定義より
ですが、図形的に が分かります。したがって、
の符号が
、
の符号が
です。
よって
が得られました。

(現在の進捗)
ステップ4:
の計算
いよいよ最後のステップでは を計算したいと思います。
ここまでの議論で、 の和と積が
であることを示しました。また、 の具体的な値も計算しました。
したがって、解と係数の関係を用いると、 は二次方程式
の2解のいずれかとなります。
二次方程式の解の公式により、2解は
と表せます。
ここで が必要になりますので、先に計算しておきましょう。
それぞれの項は、次のように計算されます:
したがって
が得られます。
よって、式 を解の公式に代入すると、次のように式変形できます:
あとは の符号を決定する必要がありますが、同様に幾何的に考えます。

図形的に が分かりますので、
の符号が
、
の符号が
です。
よって、 について式を整理して、
を元に戻すと、次が得られます:
これが求める結果でした! おめでとうございます!!

おわりに
以上で、 を計算して、その値が有理数の四則演算とルートを組み合わせた形で表せることを示しました。
すごーく大変な計算でしたが、最後まで付き合ってくださってありがとうございました。
実際計算してみると分かるのですが、すべてのステップにおいて常に二次方程式の計算になっていましたね。定木とコンパスでは二次方程式が計算できるので、 が作図可能であることが途中計算からも納得できます。
ガウスにちょっぴり近づけた感じがして、楽しい計算でした。
それでは今日はこの辺で!
参考文献
今回の計算の方針は、高木貞治先生の「近世数学史談」の第1章「正十七角形のセンセーション」を参考にしました。この章では、ガウスが知人に宛てた手紙を引用し、ガウスの計算の方針が述べられています。
ただし、この手紙の内容は計算が大幅に省略されています(さすがのガウス大先生)。そこで、自分自身が納得できる形に間を埋めて計算しました。
また、ガウスの計算とはパラメータの定義を少し変えています。具体的には、 の値がちょうど2倍異なっていますので、その点はご注意ください。
この記事の計算結果を元にした実際の作図手順については、以下の記事で紹介しています:
tsujimotter.info
興味ある方は、ぜひ実際の作図にもチャレンジしてみてください。
もう一つ、私が最初に正十七角形の作図の話を知ったときに、勉強に使った記事をご紹介させてください。
正十七角形 regular heptadecagon
https://metameta.zatunen.com/misc/math/drawing/heptadecagon.html
当時私は大学生で、Web検索で見つけたこちらの記事を熱心に読んだことを覚えています。
当初は私の理解が十分でなかったために、リンク先の記事以上のものは作れないと思い、この計算についてはブログに書かないでいました。
今になってようやく自分の中で十分理解できたと確信できるようになり、今回の記事をまとめることにしました。自分の言葉でまとめられるくらいに自分の理解が進んだことを嬉しく思っています。
なお、こちらの記事はGeocitiesのサービス終了に伴い一時的に閉鎖になっていましたが、現在は上記のリンク先で閲覧できるようです。未だに記事が残されているというのはありがたいことですね。
謝辞
今回の記事は、12/20(土)に開催されたMATH EXPO 2025に触発されて書いています。飛行機に乗って札幌から東京まで来て参加してきたのですが、結果的には本当に来てよかったです。とても刺激的で楽しいイベントでした。
そんな数学漬けの一日を過ごしてきたわけですが、せっかく一日中数学漬けで過ごす機会が得られるのであれば、何かしらブログを書き切ってしまおうと思い、旅程中に一つブログを仕上げることを自分に課していました。
以前から の計算については書きたいと思っていたのですが、一方で、なかなか着手できずにいました。ところがなんと、今日1日でこちらの記事をほぼ書き上げることができました。