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cos36° と cos72° の3通りの計算

三角関数は、有名角(たとえば  \theta = 30^{\circ}, \; 45^{\circ}, \; 60^{\circ})での値についてはよく知られていて、高校数学でも教わるかと思います。


今回は、高校数学ではあまり習わない

 \cos 36^{\circ} = \dfrac{1 + \sqrt{5}}{4}

 \cos 72^{\circ} = \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{4}

について、3通りの方法 で計算してみたいと思います。

異なる方法で計算してみることで、いろいろな視点が得られるのを楽しもうという趣旨の記事です。


1. 2倍角・3倍角公式を用いた計算

 \theta = 36^{\circ} とします。

すると、 5\theta = 180^{\circ} なので

 3\theta = 180^{\circ} - 2\theta

が成り立ちます。両辺に  \sin を適用すると

 \sin 3\theta = \sin(\pi - 2\theta)

であり、 \sin(\pi - 2\theta) = \sin 2\theta より

 \sin 3\theta = \sin 2\theta

が成り立ちます。

ここで2倍角・3倍角の公式より

 3\sin \theta - 4\sin^3 \theta= 2\sin \theta \cos \theta

であり、両辺  \sin\theta で割ると

 3 - 4\sin^2 \theta= 2\cos \theta

が成り立ちます。 1 - \sin^2 \theta = \cos^2\theta より

 4\cos^2 \theta - 1 = 2\cos \theta

であり、両辺整理すると

 4\cos^2 \theta - 2\cos\theta - 1 = 0

となり、 \cos \theta が2次方程式  4x^2 - 2x - 1 = 0 の解の一つであることが分かります。


2次方程式の解の公式より

 x = \dfrac{1 \pm \sqrt{5}}{4}

が方程式の解となります。このいずれかが  \cos \theta に一致しますが、 \cos\theta > 0 より

 \cos 36^{\circ} = \dfrac{1 + \sqrt{5}}{4}

が得られました。


また、2倍角の公式により

 \begin{align*} \cos 72^{\circ} &= 2\cos^2 36^{\circ} - 1 \\
&= 2 \cdot \dfrac{(1 + \sqrt{5})^2}{16} - 1 \\
&= \dfrac{3 + \sqrt{5}}{4} - 1  \\
&= \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{4} \end{align*}

が得られました。


倍角公式などの式を通して代数的な関係式を得ることで、具体的な値を計算によって得ることができるというわけですね。これは有名角の三角比に共通していえることかなと思います。


2. 1の原始5乗根を用いた計算

最初の解法は倍角公式によって代数的な関係式を得て、そこから計算を進めていました。純粋に代数的な解法はできないかと思って考えたのが次の解法です。


1の原始5乗根  \zeta = \exp\left(\dfrac{2\pi i}{5}\right) を用いて  \cos \dfrac{\pi}{5}, \; \cos \dfrac{2\pi}{5} を計算します。

ここで  \dfrac{\pi}{5} = 36^{\circ}, \; \dfrac{2\pi}{5} = 72^{\circ} です。

 \zeta は1の原始5乗根であるため  \zeta^5 = 1 を満たす。以降して因数分解すると

 \zeta^5 - 1 = (\zeta - 1) (\zeta^4 + \zeta^3 + \zeta^2 + \zeta + 1) = 0

となりますが、 \zeta \neq 1 であるため

 \zeta^4 + \zeta^3 + \zeta^2 + \zeta + 1 = 0

を満たします。

ここで、両辺を  \zeta^{2} で割ると

 \zeta^2 + \zeta + 1 + \zeta^{-1} + \zeta^{-2} = 0

より、整理すると

 (\zeta^2 + \zeta^{-2}) + (\zeta + \zeta^{-1}) + 1 = 0

となります。


また、 (\zeta + \zeta^{-1})^2 = \zeta^2 + \zeta^{-2} + 2 なので、先の等式は

 (\zeta + \zeta^{-1})^2 + (\zeta + \zeta^{-1}) - 1 = 0

と置き換えることができます。


上の等式は  x = \zeta + \zeta^{-1} = 2\cos 72^{\circ} が2次方程式  x^2 + x - 1 = 0 の解であることを意味しています。



2次方程式を解くと

 x = \dfrac{-1 \pm \sqrt{5}}{2}

ですが、 \cos 72^{\circ} > 0 より

  \cos 72^{\circ} = \dfrac{\zeta + \zeta^{-1}}{2} = \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{4}

が得られます。


また

 \zeta^2 + \zeta^{-2} = 2\cos \dfrac{4\pi}{5} = -2 \cos \dfrac{\pi}{5}

であることと、 \zeta^2 + \zeta^{-2} = (\zeta + \zeta^{-1})^2 - 2 であることを思い出すと

 \begin{align*} 2\cos 36^{\circ} &= -\zeta^2 - \zeta^{-2} \\
&= -( \zeta + \zeta^{-1})^2 + 2 \\
&= -\dfrac{(-1 + \sqrt{5})^2}{4} + 2 \\
&= \dfrac{-3 + \sqrt{5}}{2} + 2 \\
&= \dfrac{1 + \sqrt{5}}{2} \end{align*}

となり

 \cos 36^{\circ} = \dfrac{1 + \sqrt{5}}{4}

が得られます。


3. 二等辺三角形を用いた幾何的な計算

3つめの方法は図形的な対称性を活用した解法です。

次の図のような角度72°・72°・36°を持つ二等辺三角形  ABC を用いた計算です。


これは正五角形の1つの頂点から出る2本の対角線を結んで作られる三角形です。正五角形の一辺の長さを  1 とし、対角線の長さを  x とします。
(正五角形の対称性を利用した解法と言えますね。)


ここで、以下のように辺  AC 上に  AD = BD = 1 となるように頂点  D を置きます。すると、小さい三角形  BCD と元の三角形  ABC は相似となります。

したがって、相似図形の辺の比から

 x : 1 = 1 : x - 1

が得られます。よって

 x(x - 1) = 1

から

 x^2 - x - 1 = 0

が得られます。この二次方程式を解くと

 x = \dfrac{1 \pm \sqrt{5}}{2}

となりますが、 x > 0 より

 x = \dfrac{1 + \sqrt{5}}{2}

です。1辺の長さが1の正五角形の対角線が「黄金比」であることを示しています。



さて、頂点  A から辺  BC へと下ろした垂線の足を  E とすると、直角三角形  ABE が得られます。

ここで

 \begin{align*} \cos 72^{\circ} &= \dfrac{BE}{AB} \\
&= \dfrac{1}{2x} \\
&=  \dfrac{1}{1 + \sqrt{5}}  \\
&=  \dfrac{1 - \sqrt{5}}{-4} \\
&= \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{4} \end{align*}

となり

 \cos 72^{\circ} = \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{4}

が得られました。


また、頂点  B から辺  AC へと下ろした垂線の足を  F とすると、直角三角形  BAF が得られます。

ここで

 \begin{align*} \cos 36^{\circ} &= \dfrac{AF}{AB} \\
&= \dfrac{x+1}{2x} \\
&=  \dfrac{3 + \sqrt{5}}{2(1 + \sqrt{5})}  \\
&=  \dfrac{(3 + \sqrt{5})(1 - \sqrt{5})}{-8} \\
&= \dfrac{-2-2\sqrt{5}}{-8} \\
&= \dfrac{1 + \sqrt{5}}{4} \end{align*}

となり

 \cos 36^{\circ} = \dfrac{1 + \sqrt{5}}{4}

が得られました。


おわりに

今回は、 \cos 36^{\circ} \cos 72^{\circ} の値を、3通りの方法で計算してみました。

有名角の三角関数の値が、どうしてこんなにきれいな形になるのか、前から不思議に思っていました。
解析的に見ると、三角関数はテイラー展開によって無限級数で表される関数です。そんな関数の特殊値がきれいに代数的な数になるというのは、直感的にはちょっと不思議ですよね。

実際には、その裏に幾何的な対称性があって、そこから代数的な関係式が引き出されるというわけです。今回紹介した三つの方法も、どれもその構造が見える計算になっていました。

やっぱり数学は面白いなあ、と思います。


みなさんもよかったら色々考えてみてください!

それでは今日はこの辺で!




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