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ANA、CAのオフィスで「コロナに感染しない・させない」を掲げた除菌活動。安心の実感を機内へ

CAのオフィスである客室センターで1日2回の除菌活動。その目的や期待される波及効果を聞く

 ANA(全日本空輸)では新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために「ANA Care Promise」の取り組みを進めているが、機内で実際に旅客と接するCA(客室乗務員)のオフィスである客室センターにおいても独自の感染症対策を行なっている。羽田空港の客室センターで、その様子や取り組みの目的を取材した。

 背景として、新型コロナの影響で減便/運休が増え、CAの一時帰休や自宅でのスタンバイによってオフィスへの出社機会が減少し、管理職が担当課員と対面して日常的な会話を交わす機会も減少。健康やメンタルの面、スキル習熟の遅れなどの不安がCAから聞かれたという。

 スキル面においては、保安に関する情報や機種ごとの情報、ビジネスクラスの機内食の盛り付け、ワインや日本酒、ウイスキーに関する情報、提供機内食とドリンクとのマリアージュ(ペアリング)に関する情報など、CAに提供されているコンテンツを活用して知識の維持・向上を図るよう周知。各課ごとに語学教育や機内食サービス、体力作りに役立った自身の行動を共有するなど、自己啓発につながる取り組みを実施したという。また、6月からANA Care Promiseとして実施している新たな感染対策の取り組みに準じたサービスについても情報提供し、新たな運用でのサービスを初めて行なうCAができるだけ戸惑いなく乗務できるよう周知しているそうだ。

全日本空輸株式会社 客室センター 客室乗務二部 リーダー 鏑木葉子氏

 そして、CAからの不安の声として大きかったのがコロナ感染へのリスクに対するものだったという。ANA 客室センター 客室乗務二部 リーダーの鏑木葉子氏はCAからの声を聞くなかで、「世界中を飛びまわるCAも、感染リスクに不安を抱えている。CAという仕事の位置付けや役割が変わってきている」との実感があったという。

 そうしたコロナ禍のなか、4月から客室センター長を務めることになった西嶋直子氏や、取締役の梶田恵美子氏、部長職の役職員が、デスク周りを拭くようになったという。ANA 客室センター 客室乗務二部 部長の佐藤裕子氏は、「自分たちが率先することでCAに見せていきたい。清掃も行き届き、消毒薬や除菌シートを置いてCAも自分たちで消毒はしているが、それにプラスして感染リスクを減らしたいという思いを形にしたいと思った」と当時の状況を話す。

 それがきっかけとなって、「客室センターの除菌活動を1日2回実施する」という組織的な取り組みとしてスタート。「『コロナに感染しない・させない』というスローガンを掲げており、コロナを退治するイメージから、誰からともなく(映画の)ゴーストバスターズの音楽の話が出た」(鏑木氏)と、この活動を「ウイルスバスターズ」と呼称しており、当初は音楽をかけて楽しくやろうとの案もあったそうだが、それは「恥ずかしいみたいで(笑)」とのことで、実施前にアナウンスをして参加を呼びかけ、粛々と作業が行なわれている。

1日2回の実施前に客室センター内に活動開始をアナウンス。「コロナに感染しない・させない」のスローガンを周知している

 この除菌活動は、10時と15時に部署単位でANAエクササイズという体操が行なわれる時間があり、それに合わせて実施。各回10名程度が参加。当初は管理職者が中心だったが、現在は一般社員やスタンバイCAも多く参加している。また、現況下で毎日出社するという人が少ないなかでも、確実に実施されるよう、担当する課を決めて申し送りをしている。

 取材は10時の活動時に訪問したが、時間になるとアナウンスが流れ、給湯室で消毒薬を含ませたクロスを持ってオフィス内のあちこちを消毒。CAの休憩コーナーや、フロアのエレベータのスイッチ、会議室のドアなど、手を触れる身近な場所をくまなく拭いていた。

乗務前のCAがブリーフィングを行なうテーブルの消毒。もともと机2個をつなげて6か所設けていたが、ソーシャルディスタンス確保のために机4つをつなげた3エリアにレイアウト変更した
乗務前やスタンバイ中のCAらが過ごす休憩コーナー。自販機のボタン類や取り出し口なども消毒する。食事などでマスクを外す機会もある場所だけに、席を減らすことに加えて互い違いに配置している
共有PCや席も消毒。共有PCも1台おきに使用制限
客室センターのフロアにあるエレベータや会議室なども消毒

「オフィスで安心を実感し、その安心を機内へ届ける」。活動の目的とその先にある効果

 この取り組みについて鏑木氏は「CAが久しぶりに出社したときに安心できるオフィスを提供したい」とその目的を語る。当然、清掃業者による清掃・除菌も行なわれており、「最低限の要件はこれで満たされているとは考えている」(鏑木氏)とするほか、コロナ禍以前から「5S+S(整理・整頓・整頓・清潔・習慣づけ+スマイル)」活動の一環として週に1度「美化デー」を設け、客室センター内を掃除をする取り組みも継続的に行なっている。

 1日2回の除菌活動はこれらに加えてのものになるが、「緊急事態宣言は解除されたが、コロナ以前には戻れない新しいステージに入ったと思う。withコロナとして新しい生活様式として、出社したら自分の周りを消毒するところから仕事をスタートすることが定着しなければならないと考えた」と、習慣付けにつながることにも期待されている。そのために、5月末まではCAが所属する部署でのみ実施していたものを、6月1日からは管理部門なども含めた客室センター全体での活動へ規模を拡大した。

 さらに羽田空港の客室センターでは密の回避やソーシャルディスタンスが確保されるようレイアウトを変更。業務上、人と人とが対面する場所にはクリアパネルを設置するなどして感染リスクの低減を図っている。成田空港や伊丹空港(大阪)でも同様の体制をほぼ同時に整えたという。

全日本空輸株式会社 客室センター 客室乗務二部 部長 佐藤裕子氏
佐藤氏が動画を制作。安心なオフィスを整えていることを楽しく伝えるとともに、機内でのコロナ対策についても説明している
対面する必要がある場所にはクリアパネルを設置
客室センター内の各所に消毒剤を設置
ゴーグルなど機内で使用するアイテムも消毒・清掃
乗務前のブリーフィング時に、機内で使用するマスクや手袋を配布

 加えて、こうした感染リスク低減の取り組みが行なわれていることを出社前のCAにも伝えるため、動画も作成して業務連絡として共有。この動画は乗務二部 部長の佐藤氏自らが制作したもので、佐藤氏は「もともと10年ほど前に片野坂(現ANAHD社長の片野坂真哉氏)がプレゼンにおける動画の効果を説いていて、そのころから動画をいろいろなところで作るようになり、最近も客室センターのイベントをアルバム代わりに動画するなどしていた」と、今回もすぐに動画撮影に着手。「『みんなの職場はしっかり守って、たまにしか出社しなくても、元気に出社できるように整えているから安心してね』と伝えたい」と、CAが所属する部署での除菌活動がはじまった4月17日時点ですでに動画は完成していたという。

 鏑木氏はこの活動を通じ「この安心を実感したCAが、機内でお客さまに安心した機内をお届けする、ANA Care Promiseへと連鎖すればよいと考えている」と、飛行機内で安心な環境を構築することへの効果にも期待を寄せ、今後も継続的に取り組みを進めていく考えを示した。