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東京都美術館「スウェーデン絵画」展(2月25日)

 雨の中、友人と待ち合わせて上野、東京都美術館で開かれている「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」を観てきた。

 スウェーデンの絵画というと、なにかピンとくるものがないな。同じ北欧ということでいえば、例えばノルウェーにはムンクがいる。フィンランドはカッレラとかがなんとなく思い浮かぶ。デンマークはハンマースホイとか。そういえば2017年とか2018年に西洋美術館で、デンマークのスケーエンという海沿いの村に集まった画家たちの企画展とか、フィンランドの女流画家のミニ企画展とかもあったような気がする。アンカーとかクロイヤーとかそんな名前の画家がいたような。バルビゾン的自然主義や印象派的な筆触分割とかそのへんを受容した画風だったような気がする。

 でも、スウェーデンの画家というとどうにもピンとこない。そういえば去年、東近美で話題になった女性の抽象画家ヒルマ・アフ・クリントはスウェーデンの人だったが、彼女はどちらかというと忘れられた先駆的抽象絵画の画家ということだった。

 そんなこんなでなんとなく思い出したのはこの一枚の絵だ。

 

《北欧の夏の宵》 リッカード・ベリ 1899-1900年 イェーテボリ美術館

 これは徳島の大塚国際美術館で観た陶板複製画だ。湖をみつめるカップル。でもなんとなく思っていることは同じで相手への愛情。互いを見つめあわなくても気持ちは通じ合っている、そんな雰囲気を感じさせる。北欧の絵画の一室で、ハンマースホイやムンクなどが展示してあるなかで、この一枚もある。いつも行くと必ずこの絵の前で立ち止まる。なかなか良い雰囲気の絵だ。

 この絵は大塚国際の中でもけっこう人気があるようで、カレンダーなどにも取り上げられる。あまり知られていない画家の人気の絵という点では、ヒュー・ゴールドウィン・リヴィエールの《エデンの園》と双璧かもしれない。そうかリッカード・ベリはスウェーデンの画家だったな。

 この二人のモデルは実在の人物で、右の男性はエウシェン王子というスウェーデンの王族の一人で風景画家としても有名。実は今回の展覧会でも出品されている。女性は当時人気のあった歌手のカリン・パイク。二人が恋愛関係にあったかというと、そういうことはなく友情でつながっていたという記述をみかけたりする。エウシェン王子は生涯独身で、一説ではゲイだったという話もある。なのでこの二人は歌手、画家という芸術家同士のつながりでしかなかったようだ。

 さらにいうとこの絵は、実際に二人が一緒にポーズをとっていたのではなく、それぞれが別の場所でポーズをとり、それを基にリッカード・ベリがこの絵画に仕上げたものだという。画家の構想力、想像力の勝利というところだろうか。

 今回の企画展で出品された作品はスウェーデン国立美術館所蔵のもので、この《北欧の夏の宵》はイェーテボリ美術館所蔵品。ということで今回の企画展で観ることはできません。これは残念なことで、いつかいつか観てたいものだと思っている。

 

 そして今回の企画展、「100%スウェーデン」というスウェーデン絵画に特化した展覧会でスウェーデン国立美術館所収の約80点の絵画が集結している。

 展覧会の構成は以下の5章に分かれている。

Ⅰ スウェーデン近代絵画の夜明け

Ⅱ パリをめざして——フランス近代絵画との出会い

Ⅲ グレ=シュル=ロワンの芸術家村

Ⅳ 日常のかがやき——”スウェーデンらしい”暮らしのなかで

Ⅴ 現実のかなたへ——見えない世界を描く

 基本的にスウェーデンの近代絵画を俯瞰するような構成だ。一通り観た感想をいえば、多くの画家がフランスで学び多くをフランス絵画から学んだ。ロマン主義、クールベ的自然主義、バルビゾン派的風景画、印象主義、そして象徴主義など。それらの受容がある意味一貫したスウェーデン近代絵画の潮流のようだ。

 このへんはデンマーク、フィンランド、ノルウェーなど北欧の絵画思潮とも共通している。いわばヨーロッパでも辺境地である北欧では、メインストリームであるフランス絵画思潮の影響を強く受け、その受容とそこに民族的、土着的文化をじょじょに込めつつ展開していくみたいなことのようにもみえた。

 それは極東アジアの辺境地である日本が、明治以降の近代化の中で、西洋絵画を主にフランスの近代絵画を受容するなかで洋画として発展させていったのと似ている。中心と周縁という意味でいえば、同じ欧州、欧州と極東アジアという地理的距離に大きな差があるかもしれないけれど、ある種に通ったところがあるのかもしれない。

 要はみんなフランスに、パリに憧れ、そこで学んだ画風を自国に帰って展開させていったみたいなことだったのだろう。今回のスウェーデン絵画を観て強く思ったのは、まあいつもの思いつきとか思い込みの類ではあるけれど、北欧がヨーロッパの辺境地域であること、そこで展開された辺境絵画だということだったかも。

スウェーデンを代表するABC

 展示作品は出品リスト上では84点。その中で注目されるのは、スウェーデン近代絵画のABCとされる3人の画家。ABCは頭文字からとられている。

A:アンデシュ・ソーン(Anders Zoom,1860-1920)

 肖像画を得意とするほか、故郷ダーラナ地方の風景や民俗を題材にした作品を多数描いた。

《故郷の調べ》 アンデシュ・ソーン 1920年(年記) 油彩・カンヴァス

 今回出品されている作品は民族衣装のこの作品を含め、地方の風俗画的なものが多い印象だが、Wikipediaなどで確認するとけっこう多種な技法を取り入れている。それこそマネ風だったり、ドガ的だったりと。とにかく画力があり、観る者を引き付ける魅力を感じる。

アンデシュ・ソーン - Wikipedia

B:ブリューノ・リリエンフォッシュ(Bruno Liljefors,1860-1939)

 野生動物、自然環境を写実的に描いた動物画家。

《カケス》 ブリューノ・リリエフォッシュ 1886年(年紀) 油彩・カンヴァス

 この絵を観たファースト・インプレッションはというと、どこか浮世絵に通じるような奇抜な構図だなと思ったこと。手前に大きく低木とそこに止まるカケス、さらに一羽が翔びたっていくという構図は広重や北斎が得意とした近像型構図そのものだ。この画家はフランスやドイツに遊学した時期もあるというが、どこかで浮世絵版画に接したこととかあるのだろうか。

 リリエフォッシュは動物画を得意としていて、自らたくさんの鳥を飼育して観察したという話もあるという。たくさんの鳥を飼育して観察というと上村松篁にもそんなエピソードがあるなと思ったりもした。リリエフォッシュの鳥のスケッチに、どこか上村松篁を想起させるものがあったような。

ブルーノ・リリエフォッシュ - Wikipedia

C:カール・ラーション(Carl Larsson,1853-1919)

《キッチン(『ある住まい』より)》 カール・ラーション 1894-1899 水彩・紙

 美しい水彩画だ。これはラーションが自分の家庭の日常を題材にした「私の家」シリーズの一つ。このシリーズは画集として出版され評判になったという。ほのぼのとしていて何か日本でも人気が出そうな感じがする。調べるとこの画集から19点を選び絵本として講談社から出ていたらしいのだが、残念ながら品切未定か絶版になっているようで、現在は入手不可能なようだ。

カール・ラーション - Wikipedia

 

 この三人がスウェーデンの代表的な画家、国民画家ということで、アンデシュ・ゾーンが4点、ブリューノ・リリエフォッシュが5点、カール・ラーソンが5点出品されている。その他では冒頭で紹介したリッカード・ベリ*1が4点。あとはカール・ノードシュトルムが5点、日本では小説家、戯曲家、スウェーデンの文豪として紹介されることも多いアウグスト・ストリンドベリ*2が4点出品されている。おそらくABCとこの3人がスウェーデンの近代絵画を代表する画家ということになるのかもしれない。

 

ストリンドベリ

 そういえばストリンドベリは西洋美術館が2022年に《インフェルノ/地獄》を購入していて、初出品された時に観た記憶がある。そのときには文豪ストリンドベリは絵も描いていたのかと思った。まあなんていうかイメージ的には夏目漱石が絵をそれも象徴主義風の風景画を描いているみたいな感じがした。あとで調べるとその絵の購入金額は6億5千万だという。同時期にスペインのホアキン・ソローリャの《水飲み壺》も購入していて、そっちは4億3千万だったか。ソローリヤのほうがインパクトあるし、ストリンドベリのほうが市場価値が高いのになんとなく納得がいかない部分を感じた。

西洋美術館企画展 (9月1日) - トムジィの日常雑記

 ストリンドベリは今入手可能な小説とか戯曲とかあるのだろうか。『令嬢ユリイ』が岩波文庫で定期的に復刊されていたような記憶があるが、なにかあまり刊行されていない。でも戦前はそれこそ岩波書店で『ストリンドベリ全集』が刊行されていた。岩波は日本人の作家だと、夏目漱石、芥川龍之介、森鴎外、泉鏡花など著名なところはけっこう全集を出しているのだけど、海外の作家はほとんど出していない。以前に岩波の社史とかの刊行リストを眺めていて、戦前はトルストイとこのストリンドベリだけが全集として出ていて、けっこう意外だなと思ったりもした。

 そんなこともありストリンドベリが余技ではなく、プロの画家でもあったのはちょっとした驚きだったりもした。

《ワンダーランド》 アウグスト・ストリンドバリ 1894年(年記) 油彩・厚紙

 

その他の気になった作品

《陽光》 ファンニ・ブラーテ 1898年(年記) 油彩・カンヴァス

 

《カードゲームの支度》 カール・ラーション 1901年(年記) 油彩・カンヴァス

 

《エウシェーン王子》 オスカル・ビュルク 1895年 油彩・カンヴァス

 冒頭に紹介したエウシェン王子である。彼はプロの風景画家だったが、リッカード・ベリだけでなく、このオスカル・ビュルクやその他の幾人もの画家のモデルとなっている。ここでは王室のVIPというよりも、創作に向き合う同僚画家の一人として描かれている。

 

《静かな湖面》 エウシェーン王子 1901年 油彩・カンヴァス

 この企画展の最後に展示されているのが、このエウシェン王子の作品。単なる風景画の域を超えた象徴主義的な雰囲気を持つ作品だ。

 

《夜の訪れ》 ニルス・クルーゲル 1904年(年記) 油彩・カンヴァス

 この絵が今回の企画展の中でもある種、一番のお気に入りかもしれない。夕暮れ時、三頭の馬を描く。どこかゴッホ的な筆触。惜しむらくは、右の馬の描き方、なぜかこの横向きの構図は平板な感じがする。中央の馬の正面鑑賞性からすれば、右の馬はやや後ろ向きにした方が動きが出るような気がするのだが、どうだろうか。

 

《編み物をするダーラナの少女コール=マルギット》 アンデシュ・ソーン
 1901年(年記) 油彩・カンヴァス

 

《騎士と乙女》のための習作 リッカード・ベリ 1894年 
油彩・カンヴァス(メゾナイトに貼り付け)

 冒頭に紹介したリッカード・ベリである。《北欧の夏の宵》とは画風がまったく異なる感じで、これはゴッホ的な筆触。補色の使い方もゴッホそのものだ。リッカード・ベリはゴッホやゴーギャンの画風に影響を受けているという。おそらくそのへんを強く意識した習作だろうか。

リッカルド・ベリ - Wikipedia

 

《ウップランド地方、ウースビホルム夏の夜、月の出》 リッカード・ベリ 1891年
油彩・カンヴァス

 

《スカンセンから見たストックホルムの眺め》 カール・ノードシュトゥルム 1889年
 油彩・カンヴァス

 シスレーを思わせる印象派そのものという絵。ノードシュトゥルムはフランスで印象派の洗礼を受け、帰国後その技法を試みた作品。前景の自然な風景、後景の近代化の途上にあるストックホルムの市街地という対比もまた、印象派の画家が得意としたもの。スウェーデンという欧州の辺境地の画家による印象派の受容作品とでもいうべきだろうか。

 

《チルケスンド》 カール・ノードシュトゥルム 1911年(年記) 油彩・カンヴァス

 印象派的画風からなんとなくゴーギャンの総合主義的な画風に変化したみたいなところだろうか。

 

《冬の月明り》 グスタヴ・フィエースード 1895年(年記) 油彩・カンヴァス

 どこか浮世絵版画を思わせる。そして雪を点描で描くというのはどうなんだろう。自分的にはあまり成功しているとは思えないのだけど。

 

《ヴェストマンランド地方、エンゲルスバリの湖畔の眺め》 オーロフ・アルボレーリウス 1893年(年記) 油彩・カンヴァス

 

《ゴースウー小岩島》 カール・ヴィルヘルムソン 制作年不詳 油彩・カンヴァス

*1:この展覧会ではバリと表記されている

*2:この企画展ではストリンドバリと表記




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