なんか野球やってるおじさんたちの感傷的な映画なんでしょ……とか思って斜に構えて観たらとっても良くてほんとうにごめん!!!ってなった『さよならはスローボールで』、機会があったら観てよね!!!
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はい!映画館に通ってると、なんかあんまり優先順位は高くないけど他に時間が合うのが無いから観てみるか、つってなんとなく観た映画がすごい良かった、みたいな経験がたまにあるじゃないですか。完全にあれだったね。
粗筋は、「取り壊しが決まっている地元の小さい野球場で、社会人草野球チームが最後の試合に興じる」ていう、ホントにそれだけ!!観た人はみんな同意してくれると思う!意外な展開とか(取り壊しが中止になるとか)ぜんぜん無い!!(←ネタバレ)でも98分の上映時間のあいだずっとグラウンドから目が離せないし、最後に残るどっしりとした余韻や、忘れ難いいくつかの鮮烈な(しかし説明の難しい)場面が心に刺さって抜けないのですよ。すっごい映画だよ。
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たぶんこの映画の一番の美点…というか特徴、登場人物のほとんど(選手たちさえ!)が、あんまり野球そのものに興味がない、ってことですね。勝敗にも、おざなりな関心以上の執着は示さない(ラストゲームなのに!いままでの確執とか勝率とか、なんかあるだろ!?)。そんなので野球映画が成り立つのか??しかし本作、紛う方なき野球映画なのであった。そして観客はほぼ無し、家族が観戦に来てる選手は1人だけ、その家族(妻と子供たち)でさえ野球自体には興味なく(あんまり試合を見てない…草野球あるあるだね)、たぶんお父さんの最後の雄姿(でもないが)をせっかくなので見てあげよう、くらいのテンション。他の数少ない観客も、通りすがりの若者二人くらいで、彼らは野球のルールさえ知らない。
しかし思い返せば、映画館の観客も野球に興味無いんだよね!!!どっちかって言うとこの映画を観てる人は、野球ファンより映画ファンのほうが多いよね、そりゃそう。で、その野球に興じるおじさんに興味を持てない観客の立場を映画の中で代弁してくれるのが、野球には興味が無いけど、でもちょっとだけ立ち止まって、何も分からんけど面白いのかな、とか呟いて去っていく観客たちなんですよね。
では選手たちは何をしているのか?野球には執着していないのに?なぜ集まって野球に興じるのか?
これって、実は「野球」じゃなくても成り立つ状況なんだな、と後から気付いたのですが。つまりこの映画で描かれている、「野球場の終わり」というのは、「コミュニティの終わり」なのですね。「野球」によって集まった人々が、場を失って、バラバラに立ち去っていく話。それって、大人だったら程度の差はあれ誰にでも経験のあることだよな、とも思うのです。だからこんなに心に残るんだね。
そしてそのコミュニティの得難さが、通りすがりの人たちには理解されにくいところも、ちゃんと人生を振り返ってみれば、きっとみんな思い当たる節があるはずなんだよね。それが無くなるときは案外あっけなくて、感傷の入り込む余地の少ないところも。
野球をしながら野球以外の話をしている…と思いきやそれは野球の話で、しかもそれぞれの人生の話だったりする。
で、みんなの話を聞きながら最後まで観ると登場人物たちと昔からの知り合いだったような気分になって、でも野球場はもう無い(し、映画も終わった)ので彼らには二度と会えないのか、って気付いてめちゃくちゃ寂しくなるんですよね。このメンツが揃うのは、この映画の中で、野球をしているときだけなのだということを、エンドロールを眺めながらふと思い出してしんみりする。それは映画の中の彼らの気持ちそのものなんだよね。
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ところでこの映画、日本での公開日が10月17日だったんですけど、劇中の日付が10月16日なんですね!合わせてくれたのかな??
ちょうどアメリカ北東部(札幌と同じくらいの緯度)が晩秋の装いになって、青く澄み切った空に真っ白い雲がまばらに浮かび、常緑樹の濃い緑の間で色づいた落葉樹の葉が景色を彩り、朝晩の冷え込みで吐く息は白く、日中の陽射しは明るいのに日が短くなって夕暮れからあっという間に夜を迎えるこの季節。
気温が上がりきらない午前中にメンバーが集まってきて、のんびりした秋晴れの休日がゆっくりと始まって、ゲームの途中で日が傾き始めて、あ、もうすぐ冬だな、て思うあの感じ。季節の移ろいが身体感覚を呼び覚ます、あの手触りを繊細に描写する映像が、実観客の自分がついさっき外を歩いているときに体感したはずの、現実の秋の訪れと美しく接続してちょっと素敵な鑑賞体験になりました。
本国アメリカでも2024年の10月公開だったようなので、日本も合わせてくれたんだったら嬉しいな!ありがとう、配給の人。これ、夕暮れに合わせて野外上映で観ても楽しいかもしれないね。
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監督は、家族の影響もあって高校生までは本格的に野球をやっていたというだけあって、野球の試合についての小ネタは豊富なんだけど、その中でも「なるほど~」ってなったのが、「草野球みたいな強打者のいない試合だと、外野手はマジでヒマ」というものです。確かにそうなんだよな!!!内野手と違って話し相手もいないから、本当にヒマなんだよ。あの弛緩した感じの演出が達者で、にっこりしてしまったわ。んで油断して観客とかとお喋りしてたら、気付いたら試合の流れが変わってる、みたいなことが良くあるんだけど、それを観客が追体験するみたいになってて面白い。いやいまその人映してるけど、いちおう試合中ですよね??みたいな。でも実際の野球ってそんな感じよね。試合の中継じゃなく、野球のドラマをやるんだったらそうなる、それはそう。
で、監督は長編映画を撮るにあたって、そういうよく知った題材である野球を選び、親しみのある故郷の地で、自分や父親のような人々のドラマを選んだのは慧眼…というかセンスがいいなあ、と思う(誰目線)。共感的だけど辛辣で、しかし故郷のあるがままの美しさ、優しさを映していて、もうそこには戻れない(自分は成長し、人々は老いて移ろってゆくから)というシビアな感傷があり、抑制的な親密さと美化しきれない苦さがあり。
そういう見方をすると、本作、わたしが好きな『春江水暖』『君は行く先を知らない』と同じ、「年若い監督が最初の長編映画の題材に、すでに離れた故郷と家族を選ぶ」タイプの作品なんだよね!!なるほどね!!題材は非常にコンサバティブでありながら、脚本や撮影、編集にフレッシュな感性が光るタイプの。そりゃあ好きになるわ、納得だわ、と後からパンフレットを読んで一人で腑に落ちたのでした。
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フレッシュといえば劇伴が印象的でしたね。メロディがはっきりしないタイプの現代音楽みたいな電子音が、映画の展開がふと変わるタイミングで急に入って観客を突き放すの。なんか、いま君たちが見ている美しい風景は、ぜんぶ儚い夢だよ、だから美しいんだよ、って言われてるみたいだった。
試合中の(まあ映画のほとんどは試合中だけど)グラウンドを映す構図も割と大胆で、前に書いたみたいに、試合中なのに試合を映さないとか、ワイドショットで背景に試合展開を捉えているのに誰もそれに言及しないとか、まるで舞台劇みたいにベンチの選手が入れ替わりながら会話を続けるのを映してやっぱり試合は見せないとか、題材が感傷的なのに比してドライな演出がちょうど良かったですね。ラストのささやかな花火さえ映さない。やっぱり、ちょっと「故郷」から離れた人の目線なんだね。
だから試合が進んで、日が暮れて、ホントに決着がつくまでやるの??帰っても良くない??みたいな雰囲気と、ここまで来たら最後までやりたいよな、っていう両方の気持ちに観客がシンクロできるんですよね。このバランス感覚が素晴らしいね。
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ところで、物語としては淡々と試合が進んでいく作中に、すこしだけマジカルな瞬間が訪れる。いちばんはやっぱり、なぜか往年のスター選手がふらりと現れて、得意としたスローボールを1イニングだけ投げてどこへともなく去っていくところ。この投手を演じたのは実際の元プロ選手だそうで、その、ちょっと現実から浮いたような存在感が映画に不思議な浮遊感をもたらして楽しい。せっかくのラストゲーム、奇跡みたいな何かがあってもいいよね、っていう贈り物みたいだった。
あと、明らかにボールが消えたよね??っていうのが2回あったよね???あれも、草野球あるある、と言われればそうなんだけど、そのせいで最後らへんでボールが足りなくなりそうになって、試合が続けられるかどうか、みたいになっちゃうの、絶妙なリアリティのピンチで面白すぎる。でも選手のみなさんが、ボールはまあええからとにかく試合を終わらそうぜ、ってなるので、観客も、じゃあ見届けてやるか…ってなるのでした。笑。
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ところでここまで、野球そのものに対してはテンション低めなのがいいよね、っていう話をしてきましたが、登場人物で唯一、ちゃんと野球ファンなのがボランティアのスコアラーなんですよ。誰よりも早く球場に来て、全員が帰るのを見届けてから退場する男。彼だけが、この試合を試合として記録し、記憶している。野球は、それが無くなっても人生は続いて行くものだけど、でも誰かの人生そのものになり得るものでもある、っていうことを、彼の存在が控えめに主張していて、それはやっぱり感動的なことなんだよね。別に声高に感傷を叫ばなくても、スコアラーの仕事ぶりが、そして選手たちとの気の置けない短いやり取りが、それを充分に説明している。もちろん「野球」に限らず、人間の営みというのはすべてそういう側面がある。たぶん誰かにとっての「映画」もそういうもので、この映画はそういうことを言ってるんだと思うのよ。だから「野球」に興味のない観客も心打たれるんだね。本当に素敵な映画だよ。
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ところで原題になってるイーファス(『Eephus』)って、野球をよく知ってたら日本でも使う言葉なんじゃろか。山なりのスローボールのことらしいんだけど、わたしは知らなかったので、邦題は頑張ったなあと思いました。作中でも象徴的に言及されるので、全く関係ない邦題にするのも違うよね、ってなるよね。ちょっとセンチメンタル過ぎるかなあとも思いますが、かなり健闘してる邦題だと思います!
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あとちょっとだけ思ったのは、アメリカ北東部の秋、土地や家族との古い絆を確認していくプロセスの話ということでデヴィッド・リンチ監督の『ストレイト・ストーリー』を思い出したんだけど、見当違いだったらごめんね。でも意識したようなショットがあった気がするんだよなあ…ちょうどリバイバル上映やるらしいから観に行くか…(本作を観たあとで『ストレイト・ストーリー』を思い出していたら上映のお知らせを見つけてびっくりした)。
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はい!
長くなりましたのでもうこの辺で!!早くしないと上映が終わっちゃうよ!!!っていうかですね、この記事を書き始めたあとに見つけたこのレビューに言いたいことだいたい書いてあった、もうこれ読んでくれたらいいよ(投げ遣り)。
では!!!
追記!監督インタビュー!