以下の内容はhttps://tomodatigainai.hatenablog.comより取得しました。


2025年、映画館で観た新作映画のベストを考える

晦日だよ!!みんな今年も無事に生き延びたかナ!?きな臭い出来事ばかりの昨今だけど、また来年も外国の映画をたくさん観れるといいね!!

ということで、2025年のベスト10プラス10です!今年の新作映画、144本を劇場で観たらしいですが、それでも邦画はほとんど観てないし、他の人のベストを眺めてたら、観てないな~っていうのもたくさんある。映画ってたくさんあるんだね…(?)

個別の感想があるやつはリンク張っておきます。上半期まとめとそれ以降ちょっと頑張ったおかげでまあまあ出揃っていて助かりますね。ありがとう、自分。

上半期ベストと見比べると、順位の変動が興味深いですね。面倒なので分析はしませんが……では行きますよ!

特別枠!
    ★ 羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来
    
観た順ベスト10! 
    ★ ディックス!! ザ・ミュージカル
    ★ Brother ブラザー 富都(プドゥ)のふたり
    ★ セプテンバー5
    ★ ブルータリスト
    ★ ドマーニ! 愛のことづて
    ★ サブスタンス
    ★ シンシン SING SING
    ★ 罪人たち
    ★ KNEECAP/ニーキャップ
    ★ ブラックドッグ
    
観た順次点! 
    ★ 対外秘
    ★ トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦
    ★ 終わりの鳥
    ★ 愛はステロイド
    ★ ファンファーレ!ふたつの音
    ★ さよならはスローボールで
    ★ あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの"もしも"の世界。
    ★ WEAPONS/ウェポンズ
    ★ ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅
    ★ 満江紅/マンジャンホン

『KNEECAP/ニーキャップ』

アイルランド語話者によるラップグループの本人出演による伝記映画!痛みも怒りも喜びも生活も歴史も全部ことばでできている!徹底的に反体制で反権威、逼塞した不条理な日常を過激に笑い飛ばすスタイルは確かに魅力的で、言語と音楽の可能性ってすごい!

映画の中で、国語教師のメンバーがアイルランド語で音楽をやることについて語るときに「ドードー鳥を解き放つ」て言ってたのにすごい感動したんだよね。言葉は檻に入れて保護してるだけじゃ存在しているとは言えなくて、それを使って人間が思考し、記録し、コミュニケーションを取ることで「言語」足り得るっていう話で、少数言語や方言をめぐる政治的緊張はもちろん日本にもあって、それを思い出したりしたのでした。

全体的にはポジティブでガッツがあって、めちゃくちゃ元気のでる映画だよ!

『ブラックドッグ』

2008年、五輪開催に湧く北京から遠く離れゴビ砂漠に隣接する村に、一人の男が帰郷する。我が物顔に徘徊する野犬の群れ、よそよそしい村人…閉塞し、寂れて果てた荒れ地にしがみつき滅びゆく日々をやり過ごすだけの日々、からのあまりにも美しい忘れ難いラスト!今ここに閉じ込められた人々の鈍麻が男を深く傷付けその絶望を深めるが、偶然のように行き合った黒犬との絆に救われ再び歩き出す。

広がる砂漠の圧倒的な景色、荒廃するままに点在するビル、ほぼ実写と思しき動物たちの野生、来て去ってゆく”外の”人々、地面を暖め得ぬか弱い陽光。生々しい現実と様々なレベルのメタファーが、透徹した視点で絵巻物のように映し出され、夢のようなクライマックスの風景に収斂する。 ちょっとマジックリアリズムの雰囲気もあり、これは映画でこそ語られるべき物語なのだと、宣言しているようでもあった。

オープニングの野犬の群れとか、他の動物たちの場面とか、砂漠の吹雪とか事故とか、マジでどうやって撮ったん…??みたいな場面が冒頭からずっと続くのですが、パンフレットの監督や主演のインタビューでは頑張って撮った、みたいなことしか言ってなくてビビる。ベテラン監督の腕力を感じるね…。いつも、観たことの無いものを観たい、と思って映画を観ているので、その期待に圧倒的なリソースで応えてくれてありがとう、の気持ちです。ていうかお金と時間の使い方が贅沢なんだよ、培ってきたキャリアをこんな渋くて大胆で批評精神と開放感に満ちた映画を撮るのに惜しみなく使ってくれて大感謝だよ、クワン・フー監督とエディ・ポン…。

『WEAPONS/ウェポンズ』

静かな住宅街で発生した児童の集団失踪事件に潜む邪悪な意思!田舎町の閉塞感を思う存分味わえる静かで息の詰まるような前半からのラストの爆発力よ!視点人物が固定されて少しずつ事件の全体像が見えてくる丁寧な構成と、パズルのピースが出そろった後の怒涛の展開とラストのカタルシスがすごい。

一応R18なので人体破損描写はあるんですけど、ちゃんと予告(?)してから来るし量も少ないので、サービスで付いてたデザートが本気の味わい、みたいな位置づけだった。それよりもなんか隠喩っぽいイメージを散りばめたダウナーな雰囲気で、人間の愚かさとか浅慮が招く取り返しのつかなさをいちいち嫌な感じで描写するのがマジで上手い。あとアルコールと薬物依存は良くないね。うん。そしてラストを見届けたときの後味は唯一無二のオリジナリティがある。 これアメリカのこういう町のこともっと知ってたら、着眼ポイントがたくさんあるんだろうね。あと見失ったけど監督インタビューで、アルコール依存症患者が家庭にいるときの子供の無力感の話をしていて、なるほど~と思ったのでここにメモです。

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』

謎のカーナビに導かれ、過去への旅に出る二人の到着地点は…?少し不思議で優しく切ない大人のファンタジー・ロマンス!辛気臭い顔をしたコリン・ファレルがノリの良い(胡散臭いの一歩手前)レンタカー屋とカーナビにのせられて(文字通り)、戸惑いながら旅に出て、新しい人生に踏み出す…と思いきや、いい年の大人なのでそう簡単には行かないのであった。そりゃそうだね。

自分の枠を決めて波風の無い人生を送ろうとしている大人たちに、胸の奥底に抱えたままの傷をそっと抱きしめながら、壮大で大胆な旅に出ようと誘ってくれる変なカーナビが最高だった(変なカーナビだけど)。 そう、カーナビだから、運転するのは自分なんだよね。アクセルも、ハンドルも、自分で操作しなければどこへも行けない。カーナビの言う通りにぼんやり運転してたらとんでもないところへ連れて行かれた、みたいな映画でこんな泣かされるとは思わんかったよ。そして主役二人のケミストリーが尊い。ポップミュージックを中心にした劇伴もすごく良くて、久石譲のちょっと甘めのピアノもぴったりよ。

なんというか、予告とかポスタービジュアルの印象よりはずっと内省的で、コゴナダ監督らしい落ち着いた色彩と端正な画面構成が美しく、しかしハッとするような鮮烈な飛躍があり、控えめなユーモアが優しく、旅の景色は懐かしさと新鮮さがあり、本当にとっても良かったです。

『満江紅/マンジャンホン』

やはり中華エンタメ、史劇に一日の長がある!!

時は12世紀、南宋と金の和平交渉直前、金の使者が殺された!…から始まる骨太の歴史サスペンス&陰謀劇!犯人探しに駆り出された若き武将と下っ端の甥、様々な策謀が入り乱れる中、二人はこの場を収めることができるのか!?チャン・イーモウ監督らしい洗練された撮影、犯人探しミステリーとしてのサスペンスフルな展開、重厚かつメッセージ性の高い歴史劇、達者な俳優陣による演技合戦まで全部入りで面白かった!主役コンビのキャラ設定、甥のほうが年上で部下でうだつは上がらないが妙に口が立つオジサン、叔父が立身出世を目指す真面目で有能で上役の覚えもめでたい若者、ていう組み合わせなの、中華エンタメの良いところ!って感じでいいよね!

歴史を動かすのが手紙や詩の「言葉」だという確信を登場人物全員が共有してるのが、まさに中華文明の核心そのもので、それをダイナミックな映像で表現するクライマックスには痺れるね。岳飛秦檜もの、というのは史劇の伝統的な題材だそうで、「満江紅」も本来は一般名詞なのが特定の詩を指すようになったらしいですが(「勧進帳」みたいな?)、私は色々知識が足りてないけど、それでもシチュエーションさえ理解すれば3時間の長尺もずっと面白く観れてすごい。音楽の使い方も工夫があって、見どころの多い映画でしたよ!

俳優もみんな良かったが、主役の青年『少年の君』の易烊千璽か…!いやご活躍で…(すでに錚々たる出演歴、大物監督たちに引っ張りだこだね)。

はい!今年もそろそろ終わりだよ!

来年もみんながいい映画をたくさん観れますように!

では!!!

追記! 2026/1/3

なんか有名どころ…っていうかみんな(みんな?)が一票を入れてそうな映画をベストに選んでない理由について、自分用にメモしておこうと思い立ちました!したがって、こっから先は映画の悪口になりますので気をつけてね!!あとオチについての話をしているのでネタバレあるよ!

『ワン・バトル・アフター・アナザー』→これさあ、色々と今現在のアメリカに対して辛辣でしかも映画的にも工夫が合って年ベスに入るのは理解できるんだけど、あの”白人男性クラブ”がまるで無傷なのがどうしても腑に落ちないのであんまり好きじゃない…色香に惑った愚かな老人をガス室で始末するのが批評的でしょ?みたいなこと言われてもな。老人が腹に爆弾でも仕込んでて焼却炉で爆発してビルが倒壊する、くらいあっても良かったんじゃないの。そしたらもっと笑えたと思うね。

教皇選挙』→実在する人間の属性をミステリーの道具にしてるだけじゃんか、って腹を立てているので、なんでクィア映画として評価されてるんか良く分からん。孤島マーダーミステリーとしては良くできてると思いますが。だって(今のカトリックの教義ではそうなるとはいえ)結局「男だから」認めますよ、って言ってるじゃんか。あと、性別の話だけじゃなくて出身地や経歴の話も、小道具としてしか使ってないから、東アジア系の枢機卿なんか背景にしかいなかったじゃん(一瞬だけ、”アジア”でまとまる方向もあるのかな?って期待しちゃったから展開に失望したのもある)。

って感じですね!偏屈な映画ファンでごめんね!!!

では!

2025年、映画館で観た旧作映画を振り返る・続きの続きの続き

よ、ようやく終わりが見えてきたこのシリーズ、前回はこちら

さあさあフランス映画だよ!

パーソナル・ショッパー

今年、映画館で観た映画でいちばん意味が分からなかったのがこれ……え?だってさあ、心理スリラーかと思ったら超常現象が普通に発生するし、ていうかそれはいいんだけど話の展開に影響するレベルで現実に干渉してくるし(主人公が死んだかと思ったら生きてたし)、最後は急にオリエンタリズムに走るし……蛇足じゃない!?それ要る???……なんで評価が高いのか(俳優の演技はいいと思う)、本当に分からなかったので敗北です(映画鑑賞を勝敗の比喩で語るのはやめなよ)。

『赤い風船』『白い馬』

人ならざる存在と心通わす少年のお話、2篇!初めて観たんですけど、物語自体はシンプルで寓話的だけど、映像の迫力というか、その場所、その時間でしかあり得ない物語を映画で紡いでいて迫力があった。でもお話としては、子供の無邪気な心が彼我の境界を越えて後戻りができなくなる、というたぶん人類共通の恐怖についての物語なんだよね。本作、本邦の画家や作家にも大きな影響を与えているらしいのですが全然知らない作品だったので映画館で観れて良かったです!戦後直後のパリの街並みも、フランス南部の湿地帯の茫漠とした景色も、それ自体が主役のようでしたね。

ところであの赤い風船、つやつやと鮮やかな赤が非常に印象的で、周囲の風景もきちんと映り込んでいて存在感が素晴らしかったですが、どうやって撮ったのかもう分からないって本当ですか!?こんな有名作品でも撮影技術がロストテクノロジーになったりするんだね…映画って大変。

ポンヌフの恋人

レオス・カラックス!なんかシネフィルたちが大好きな(悪口ではありません)レオス・カラックス!!『アネット』しか観たことないので観ました!!うおお破滅的な運命の恋!!!いや監督が”破滅的”を意図してるのかは知らんけど…。でも主役のカップルは『アネット』の二人みたいだったよね、監督のイマジネーションの原型なのかな。

で、確かに監督が元々「素早いスケッチみたいに」撮りたいって言ってたのも分かるなあっていうか、橋の上でだけ成就する恋、だよなあと思いながら観ていて、あの二人が酔っぱらって橋がミニチュアみたいになる場面でマジでびっくりしました。あの場面が映像的な飛躍という意味で一番すごい。とはいえプロダクションノート読んだらクリスマスの降雪シーンが実際には7月だったとか、まあ本当に何もかもが大変だったのね、と思いました(ジュリエット・ピノシュが寒そうだったけど寒くなかったなら良かった)。

レオス・カラックス作品は来年以降も4Kリマスターの劇場公開がいくつか控えているみたいなので楽しみですね!!!本作のパンフレットがめちゃ凝っててかっこいいんだけど(オープンセットの空撮写真が載ってるのでみんな買おう)、シリーズで構想しているのだろうか。

最後はその他アジア映画!くくりが雑だよ~~~!!!!

『ホワイト・ストーム』

あれよ、怒涛の香港映画再放映ブームの一環で観たやつのひとつです、はい。ラストのカーチェイスには腰を抜かしたが、全体的には最近(?)の香港アクションってこんな感じだったわ~、と微笑ましく拝見しました。とはいえフルコンタクトの格闘アクションとか達者な主演3人の熱演とか、見どころたくさんでしたよ!!

『冬冬の夏休み』

実は初めての侯孝賢、評価が高すぎる監督の作品って逆に観るのに勇気が要りませんか…???いやこれまでに観た現代台湾映画ぜんぶ好きで、間違いなく影響を与え合っている侯孝賢が苦手ってなるわけないとは思っていたんだけど、でもやっぱ怖いじゃんか。ちなみに録画とかDVDはちょっとだけ手元にあるんだよね、さっさと観ろよ。

んで満を持しての侯孝賢、よ、良かった!!!田舎の親戚に預けられた少年の視点から、人生の痛みと苦みに耐える大人たちの姿、日常にある暴力と死、伸びやかに駆ける子供たちの様子、きらめく陽光の下ですべてが鮮やかに映える夏映画でしたね!端正な構図の長回しで浮かび上がる人間模様やエピソードの積み重ねで紡ぐカタルシス、個性的な俳優陣の存在感などぜんぶが有機的につながって、「一度きりのあの夏」を形作っている。物語の舞台は時が止まったような田舎で、人々は変わらないものに囲まれて暮らしているように見えて、やがて来る(あるいはもう来ている)変化の時代の予感が背景に輻輳し、明るい陽射しに照らされた風景に微妙な陰影をもたらす。

複雑な歴史(もちろん日本は責任の一端を負っている)と豊かな自然環境に裏打ちされた美意識が、台湾映画の重要な一要素であるということがものすごく腑に落ちたのも良かったです。

ヤンヤン 夏の思い出』

今年2本めのエドワード・ヤン、『カップルズ』の感想はこちらに書きました。上で書いた『冬冬~』といっつも混同していたのが、ようやく鑑賞したおかげで大丈夫になりました!やったね!!

タイトルが、登場人物の中で(少なくとも映画開始時は)最年少の少年の名前になっているんですけど、彼を取り巻く大人たち、祖母の世代から年の離れた姉まで、隣人や仕事関係の人々までを含めた、台湾社会を構成する全員の群像劇だったのがすごかったです。3時間の長尺で、ひとつひとつの場面は丁寧なのに展開は手際よく、平熱なのにドラマチックで、ひと夏の間にみんなの人生が不可逆に変わったことを、オープニングの結婚式からエンディングのお葬式の間に見せていて、だから映画を撮るんだ、という監督の決意表明にもなっていてすごかった。個人の人生だけじゃなく、台湾の社会も劇的に変化していった時代そのものを、これからそこに生きる少年の眼を通して、映しておこうという気概があった。

夏、親族がごたつきながらも都会で暮らした少年の話として『冬冬~』のアンサーソングみたいにも思えて(もちろん意識していただろうし)、近い時期に両方を劇場で観れたのは幸運だったのかもしれない。

今年の夏に台北に旅行に行って、「台湾ナショナルフィルムセンター(TAFI)」を見学…っていうかイベント参加してきたんですけど、すごく新しくてきれいに整備されていて、台湾の、文化芸術の発信力強化を進める方針の一環として(たぶん)、古い映画などの修復・保存・発信を精力的に行っていて、そのおかげで権利関係とかが整理されてデジタルアーカイブ化されて、配信も無く円盤は中古品が高騰し、みたいな状況だった台湾映画の名作たちを観れるようになったんだね。すごく充実した資料集みたいなパンフレットをもらったりしました(ちょっと話題になった万博映画のポストカードもついてた…!)。本当に助かる、ありがとうございます。

落下の王国

一応、インド映画なのでこの枠で……(無理やり)。なんか伝説化していたけど観る機会が無くて、とか思っていたら去年?BSで放送したんですけど録画だけして劇場公開を待っていたらついに!来たのでいそいそと観に行きましたよ!!!

個人的に、登場人物の誰にも感情移入できなかったのでストーリーはともかく、映画館で観て良かったな~~~と思いました!!!音楽と映像のマリアージュ(?)がオープニングから圧巻!!でしたね。精緻に計算された開幕から考えるとラストがちょっと甘いんだけど、監督が、アレクサンドリア役の少女のリアルな反応を見て展開を変えて行った、というのを知ってなるほどな~~~と思いました。あとロイは、女に振られてヤケを起こすような性格だし、明らかに俳優業より脚本とか製作側の人間だと思いますね。早く自分の才能に気付け。

いやでもキャストやスタッフを騙して撮影するのは倫理的にどうなん…なんかこの辺りも伝説化してるから(30年前だしそりゃあね)真偽は良く分からんけども。しかし好きな人が多いの分かるよ、監督、良かったね!!!

お、終わった……映画館で観た旧作映画の感想ぜんぶ書くシリーズ……なんで始めちゃったんだろう……。

ということで本当に年が明けてしまうのでこの辺で終わります。

では!!!

 

2025年、新作映画この邦題が良かったで賞

年末進行ですね~~(雑な導入)

今年はなんか印象的な邦題(っていうか邦題まわりの印象的な話題)が多かったな~と思ったのでまとめてみました。※個人の意見です!!当たり前!!

順番に意図は無く(無いのかよ)、思いついた順になっております。

まずはこちら、しみじみと良かったタイ映画2本!タイの映画、単館系でときどきスマッシュヒットを飛ばしている印象があるが、個人的にはほぼ観たことなかったエリアです。円安が進行し外国映画の買い付け単価が高騰しつつある中、比較的お買い得なのがタイ映画なのだそうで……へえ。たぶん監督とか俳優の名前で客を呼べるジャンルではないので、邦題も宣伝も担当者の創意工夫が垣間見えて頭が下がります。

 

『おばあちゃんと僕の約束』(原題:Lahn Mah)

こちら、タイトルとしてはまあ平凡なんですが、一般向け試写会で邦題を募集する、という斬新な企画により決定された邦題です!すごい、そんなの聞いたことない…。割と穏当かつ内容に沿った邦題で良いですね。原題の意味は「金持ち」で、公式SNSアカウント名を仮タイトルの「金持ち」にしていたらトラブルで変更できなくなって焦っていて気の毒だった(が、まあまあ笑ったし、鑑賞後に「金持ち」で固定されなくて良かったねえ…と思いました)。タイの世代間ギャップとか細やかな生活習慣の描写とか、みどころも色々あって良い映画でした!

 

『親友かよ』(原題:Not Friends)

これ、この原題をこういう訳し方するのセンス良いですよね!!普通に(?)考えるともうカタカナで「ノット・フレンズ」のままにするか、なんかふわっとしたサブタイトル(←悪口)でしのぐか、にすると思うんですけど、この短くて覚えやすく、かつ分かりやすいのに意図が掴みにくいのでフックになる、良いバランスの邦題!しかし今さら気付いたけど原題は複数形なんだね…ということは??誰視点のタイトルなんだ??

急逝したクラスメイトを偲ぶため(という建前で割と自分のために)、彼の遺した小説を原作とした映画を撮ろうと奮闘するが…、という話で、手作り感あふれる撮影のプロセスや人を巻き込んでどんどんプロジェクトが大きくなっていく様子(そのことにあまり臆してない主人公は映画監督の才能があると思う)がテンポよく描かれ、また「映画を撮る」とはどういうことか、現実の人生とどうつながっていくのか、みたいな話までやっていて面白かったです。高校生活の機微みたいなのがけっこうリアルでちょっと古傷が痛む人もいるかもね!!

 

続いては台湾の青春もの!台湾映画は青春ものが得意なのか、はたまた日本の観客が台湾にノスタルジックな青春を求めているのか?全国で公開される台湾映画、工夫をこらした邦題がついていることが多く、前項のタイ映画と同じくどうやって適切な観客層にリーチするかの試行錯誤が感じられますね(誰目線だ…)。

 

『鯨が消えた入り江』(原題:我在這裡等你 A Balloon's Landing)

原題は、作中で重要なモチーフとして言及されているレスリー・チャンの作品へのオマージュ…だよね?で、そのまま日本語にすると馴染みが薄いであろうところを、作中の重要モチーフに変えて、ロマンチックで儚くて、でも爽やかなイメージの本作にぴったり!!と思いました。間違いなくスマッシュヒットの要因の一つだと思います。覚えやすいし、他と被らないし、人に勧めやすいしね。

それでなんか本国の宣伝がクィアベイティングだとかなんとかみたいな批判も薄っすら目にしましたが、いや元の脚本家が香港の作家なのに台湾で制作スタッフを探した意図とか、香港の俳優のキャリアのこととか考えたら(香港のBLドラマが大陸寄りの議員に公然と批判された話とか踏まえると)、そりゃ製作陣はロマンスだとは断言せんやろ、と思いますが、ね…。ただレスリーと主役のキャラクターを重ねるような展開を考慮すると、元の脚本はもっと明確にロマンスを意識してただろうという気はする。で、台湾で同性婚が法制化されて、こういう映画の受け皿としての場が提供できているのは、やはり公的な可視化は強いよね、という感想です。羨ましいことです。

 

『ひとつの机、ふたつの制服』(原題:夜校女生 The Uniform)

一つの机を時間差で共有する高校の夜間学生と普通科学生が友達になる、っていう映画の内容をちょっとぎこちない感じも含めてよく表現している邦題だと思いました!原題だと華語と英語に分かれちゃってるからね。

90年代の少年少女を夢中にさせたポップカルチャーや、それぞれにお洒落でかわいい等身大のファッション、思春期の瑞々しい喜び、悩みや痛みについて、優しく共感的に描写していて、ノスタルジックでありながら現代的な軽やかさもあり、いい映画でしたよ。

 

パラレルワールドを取り扱うと邦題が長くなりがちなのか、という仮説について考えさせられた2本。いや毛色が違い過ぎる。でも過去の選択に後悔し続けて、あのときああすればよかったのに、という気持ちに寄り添う2本ですよね(強引なまとめ)。というか逆に、パラレルワールドを扱っていてタイトルが長い先行作品があるんだろうか…漫画とかにあったっけ???

 

『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの"もしも"の世界。』(原題:So Long, See You Tomorrow)

原題は、作中で印象的に言及される本の一節、そして邦題、あまりにも全部書いてある!!全部!!!ただこのタイトルのイメージよりはずっと内省的、ポスターでは少年時代がピックアップされているけど、本編はほぼ大人になってからのビターな人生の振り返り(通信簿)だったので、分かりやすさゆえに取りこぼした客層もあるかもな、と思いました。いやしんみりしたいい映画だったのよ。その時々で、どういう道を選んでいても、すべてが充たされた人生などどこにも無くて(家族と親密/疎遠、地元/上京、社会的成功/普通の賃金労働者、独身/家庭、友人/同僚、etc…)、でもどこかで、欠けていた何かが別の形をして不意に目の前に現れる。3つの人生それぞれを生きる主人公を演じたシム・ヒソプが素晴らしかったです。少年時代の回想シーンと3パターンの人生が、有機的なつながりを持っていることを繊細に示す編集があって、そこからのラストが良かったわね……。

本作、『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』を引っ張ってきたKDDIの配給なのよ(感想も書いた)。ちょっと前の映画だけど、作品セレクトの方針が一貫していて(たぶん)、感心しました。

 

『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』(原題:Sew Torn)

原題は「綻びを繕う」転じて「問題を解決する」みたいな意味だそうですが、邦題、分かりやす~~~い!!全部書いてある(二回目)!!原題のダブルミーニングも素敵だけどね。あと内容そのまま書くと、「怪奇!異常裁縫女の館、燃ゆ!」みたいなテンションでしたね。いやシンプルなサスペンスなんだけど、同じシチュエーションからどれだけ話を転がせるか?みたいな脚本のアイディア例みたいにもなっていた。でも主人公のキャラ設定(異常裁縫女)が勝因なのは間違いない。ワンアイディアの勝負とはいえ3通りも見せてくれたらそれはもう満足です。元気な老婦人が過剰に出てきて圧倒されたが。あとパラレルワールドを渡り歩いて、疲弊しきったあとのハッピーエンドは沁みるね。教訓としては「いちど始めた仕事は全うしよう」だろうか(そうなのか?)。それから、作品の世界観を補強するような刺繍モチーフのポスタービジュアルが素敵だった。イメージ刺繍の図案がパンフレットに載っていて、それもかわいくて良かったです。

 

それからそれから、世界は暴力に満ちている、の2本!…だからまとめ方が無茶なんだよなあ…。暴力を扱った映画としてはかなり新機軸を意識していて、非常にフレッシュだったジャンル映画ですね!ジャンル映画だよな???

 

『愛はステロイド』(原題:Love Lies Bleeding)

原題は「愛は血を流して横たわる」転じて「叶わぬ恋」!!ロマンチック~~…ってそんな話だったっけ……。まあ偶然の出会いから運命の逃避行に発展するからロマンスものといえばそれはそう!主演二人のルックスがあまりにもイケててロマンスの説得力がすごい。しかしボディビル界のネガティブな面とかを絡めたシビアなノワールもので(面白いシーンはいろいろあるけど)、途中はしんどかったね……。邦題の、いびつだけど力強い、そして新鮮な言葉の組合せが映画の内容にピッタリだと思います!ていうか普通にかっこいいよね、自伝のタイトルとかにしたい(そんな人生はちょっと波乱万丈すぎるかもしれない)。

この映画、主役のどちらかを(あるいは両方を)男性にしても成り立つし、それでも充分面白い作品になったと思うけど、しかしこの座組で作られたからこそ、こんなにもダークで力強くロマンティックなおとぎ話になり得たのでしょう。

 

『ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝』(原題:Boy Kills World)

原題だけでもそんなに違和感ないのに、謎の漢字9文字(もしかして九字切りのパロディ!?今さら気づいた!ニンジャ匂わせ?そのまんまスト2リスペクト!?)をサブタイトルに付けておきながら情報量が増えてないにもほどがある!いやでも往年のアーケードゲームを思わせる演出、それこそ格ゲーのキャラ選択に出てきそうな登場人物たち、キッチュでダークなディストピアサイバーパンク、みたいな世界観には合ってたと思う!面白かった!あと珍しく素顔のビル・スカルスガルドがたまにびっくりするほどセクシーでびっくりした(反復)。手足が長いのでアクションが映えまくり。アンドリュー・小路もすっげえ楽しそうに躍動していた。ていうかキャラデザが全員天才。それから観た人みんな言ってますけど6月27日(キャラ名)が気になるところですよね…名前も設定もめちゃくちゃかっこいいよね…君のこともっと教えて欲しいナ…。

 

苦すぎる成長の味わい、2本!

 

『九月と七月の姉妹』(原題:September Says)

映画単独の邦題ではなくて原作小説の邦題をそのままつかってるんですね。さすがにセンスがいいな。この邦題のおかげで観に行こうと思ったもんね。あとパンフレットのディレクションもポリシーが首尾一貫していて、監督、原作者の充実したインタビューに加え、松田青子、上坂あゆ美の寄稿、それぞれのおススメ書籍が数冊ずつ紹介されていて、ターゲット層が明確だ…!!と思いました。

映画自体は小説の粗筋を読んでもらったらいいんですけど、少女から大人に成長する途中の身体感覚が生々しく、ちょっとホラー寄りの演出も相まって個人的にはめちゃ怖かったです……。

 

『テレビの中に入りたい』(原題:I Saw the TV Glow)

原題の「テレビが輝くのを見た」はメタファーとして素敵だけど、主人公たちの切実な祈りを反映しつつ覚えやすくてフックのある邦題、かなりイケてると思います!

思春期の、世界との軋轢が無視できないほど激しくなっていく辛い時期に、ただテレビだけがアジールとして機能していて、そこに頭を突っ込んだまま夢を見ながら老いてもいいけど、そうじゃない道もあるからね、っていう話だった(よね)?ネオンカラーの紫やピンクの光、様々なレベルのメタファーが散りばめられてたぶんぜんぜん理解できてないけど、あのとてつもない息苦しさ、いくつかの分岐点、誰にも奪えない痛みと内なる光、ずっと苦しくてしんどかったね……。こんな映画を必要としているたくさんの若い人に届いて欲しいね。

 

あとは手短に!年が明けてしまうよ!!!

個別の感想でも書いたけど、『さよならはスローボールで』もけっこういい邦題だと思います、ちゃんと観て欲しい客層に届けたいという気持ちを感じる。

『エディントンへようこそ』は、現代はシンプルに『Eddington』なんだけど、「ようこそ」を付けたことで「エデントン」が地名で、そこを舞台にしたクローズドな話であることが類推できるので上手いなあと感心しました。別に好きな映画ではないが…。

テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』も上半期の感想で書いたけど、いい邦題だよね。全部説明する系という意味で、上で書いた『お針子』と同系統ではある(ジャンルも近接している)。

あと80年代アメリカのサタニックパニックを扱ったドキュメンタリー『サタンがおまえを待っている』(原題:Satan Wants You)、メインビジュアルとの相乗効果もあってダイレクトでいい邦題ですけど、なんかパンフレットにボツになった邦題案コーナーがあって、まあ現状のに決まって良かったね…て感じのラインナップなんですけど、やっぱ邦題を決めるのって大変なんだな……としみじみしたので、もしパンフレットを読む機会があれば見てあげてください。それに決まらんくてよかったね、みたいなレベルのがいっぱい読めて新鮮。新鮮?

個人的に、いい邦題が付いてる映画はそれだけで応援したくなってしまうんですよね。作品を愛して、どうにか日本の観客に観て欲しいと思ってる関係者がどこかに確実に存在しているということなので。

ということで、来年も良い邦題に出会えるといいですね!!!

では!!!

2025年、映画館で観た旧作映画を振り返る・続きの続き

前回はこちら!

まだ続いてたんですか!?そうだよ!!!今年、初見、映画館、という条件を満たす旧作の話をしています!!!しかし今年の後半はマジで異様に旧作の上映が充実していた…やはり円安の影響だろうか?旧作の上映回は割といつも客が入っていて、業界的には結構なことです。まあ映画館に高いお金を払って「外れ」に当たりたくない、という消費者心理は分からんでもない。いい感じに稼いで、誰が観るんか分からん外国の地味な映画も張り切って仕入れてください。お願いします(誰に言ってんの?)。

まずは邦画!(でまとめるのはあまりにも乱暴では??? はい……)

リンダ リンダ リンダ

なんと初見でした!や~~~長く愛されるの分かるね~~~(訳知り顔)。監督のやりたいことと、主演4人の一瞬のきらめきが奇跡的に邂逅して出来上がった唯一無二の青春映画だね!オープニングの、文化祭の準備に湧く校内の様子を長回しで手際よく映していくのとか、登場人物にあんまり寄らずにポジションとか身振り手振りで関係性やその変化を示してるのとか、学校という空間、文化祭という時間そのものが主役みたいな撮り方によって普遍性を獲得してるのかなあと思いました。

あと、練習風景をぶつ切りにして観客の音楽への渇望を昂進させ、ラストのステージのカタルシスに繋げてるのが上手いなあ、とか。みんなが知ってる曲だからこその仕掛けだよね。

しかし特に序盤、リップシンクがえらいずれててめちゃくちゃ気が散ったんだけど、あれはどういう……。

狂い咲きサンダーロード

あまりにキャッチ―なタイトルだけ知ってたけど、まさか映画館で観る機会があろうとはね!個人的な感想としては、アメリカン・ニューシネマの生き残りが極東の島国で行き止まりにぶち当たって散った終焉の花火って感じ!最初と最後は『バニシング・ポイント』を意識してるのかなと思いましたが、どうでしょうね…(見当違いだったらごめん)。

走り屋のグループが内部から崩壊していく過程が非常に日本的で興味深いのと、それのカウンター的な組織は戦中派の大人たちが牛耳っていてこれも面白い(当時の監督みたいな若者たちには世界がそう見えていたんだろうか?学生運動の終わりと、大人たちが担う高度経済成長とかが)。そしてそういう現世のしがらみの全てをぶっちぎって疾走してゆく仁さん!!もうわたしには背中すら見えないが、その土埃だけをいつまでもぼんやりと見つめているよ……。

英語圏の映画!(なんと乱暴なまとめ方でしょう…………)

『レッツ・ゲット・ロスト』

今年2本目の音楽ドキュメンタリー!チェット・ベイカーについてはもう完全にイーサン・ホークの顔で脳内再生されるのですが(『ブルーに生まれついて』はいい映画だよ!かっこいいし)。さすがにそれはちょっと申し訳ないな…と思って観に行きました!監督がチェット・ベイカーに惚れ込んでいることが良く分かる作品で、関わりの深かった女性たちが口を揃えて、まあロクな男じゃないけど、いいところもあったのよ、みたいなことを言うので、こちらとしては、ハイそうですか…(神妙)みたいな感じでした(何それ)。背景に入っている波の音や車の往来の音が、チェット・ベイカーの演奏と重なったり遠ざかったりして素敵だったわね。

本作の撮影直後にご本人が亡くなったのを知って、監督、間に合って良かったね!!などと思いました。

コーヒー&シガレッツ

ジム・ジャームッシュ、みんなが好きなやつだ!お、おしゃれ~~!(安直な感想)

どうにかしてその場を成立させる(場を終わらせない)ための会話、が登場人物みんな上手すぎて大人って…と思いました!これ脚本あるの??アドリブの割合はどれくらいですか???なんとなく始まったその場しのぎの(あるいは目的を共有していない)会話が、気まずくならずに上手く着地するかどうかはテーブル上に広げられたコーヒーと煙草をみんなが楽しめるかどうかにかかっている…みたいな確固たる哲学を感じましたね。コーヒーと煙草を!話はそれからだ!

それはそれとして、ラストの『シャンパン』が理想の大往生すぎる。みんなもそう思うよね???

ジャグラー/ニューヨーク25時』

存在すら知らん映画だったが(無知!)面白かった~!!リュミエール兄弟がフィルムを回し始めたその日から(修辞的表現)、映画というのは動きを写し取るものだったはずであり、そのことを再び宣言するかのように、登場人物みんな走り回る!!!というか、走り回っているからこそ物語を駆動できるのであって、だからこそカメラによってその運動は映される価値があり、椅子に座ってるだけの奴に割くようなフィルムなど存在しないのであった。なるほど。移動中の電車(地下鉄?)の中でさえ人混みを押しのけて走り続けるんだよね。そうしないと全てが終わってしまうとでも言うように。

当時のNY、めちゃくちゃ人が多く(それは今もか)、なんだか荒っぽく、猥雑で、エネルギッシュではあるけどうっかり呑み込まれてしまいそうな怖さがあって、それが存分に映画に映っているのがすごく面白い。これは再現しようと思ってできるものでもないよね。まあパンフレットによれば路上での強引な撮影により勘違いした通行人に警察を呼ばれたり、撮影中にマジの刃傷沙汰が起きたりしていたそうですが……野蛮!!

『荒野の誓い』

非常に渋くてルックスも凝ってて達者な俳優が揃ったいい映画だったけど、途中からずっとお葬式だった…キツい!!!

19世紀末、様々な勢力が暴力的に対立するアメリカ西部で、全く融和的でない多様なメンバーによる旅路の行方を抑制的な演出で丁寧に描いてて、先住民の信仰文化や生活習慣などの細部も興味深く、現代の人間から見ると何を考えてるのか掴みにくい登場人物たちにだんだん親しみが湧いてくるのがすごい良かったです。良かったけどそれゆえに最後の展開が、まあつらいことです……。

シャイアンの首長による日常の儀礼や葬送の儀式が非常に荘厳で美しく、大地に根差した文化というものの、現実に及ぼす力の強さみたいなものをリアルに表現されてたのも素晴らしかったです。

エターナル・サンシャイン

キャスティングの勝利!!!いや、最初、クリニックに行って処置を依頼するところくらいまで、なんでジム・キャリーなんだろう…黙ってれば二枚目(失礼)だけど…と思っていたのですが(本当に失礼だな)、記憶の冒険にでかけるくだりで、大納得だった!記憶があったり無かったりしてそれに伴って感情が移ろい変化していくのを、表情や仕草の完璧なコントロールによって繊細に表現していてさすがだったね!あとケイト・ウィンスレットとの組み合わせも、あんな演技巧者な二人がこんなチャーミングなカップルになるなんて!という新鮮な驚きがあった。驚いてばっかりだよこの人。

それから、病院事務のキルスティン・ダンストとエンジニアのマーク・ラファロも、当時は若手とはいえこんな上手い役者をこんな単純そうなキャラクターに?と思ったが、もちろん(製作陣の)深謀遠慮に踊らされていただけだったのでした。

私が観に行った都会の映画館ではけっこう客が入っていて、記憶の冒険を終えて長い夜が明けたときの安堵感と喪失感を、みんなが共有していたのが忘れ難い。息をつめて見守っていた観客みんなが、夜明けの場面でそっと息を吐いていた。

ストーリーも「少し・不思議」系のSFで大好きなやつだったね!人間は過去の後悔や過ちに囚われていつだって愚かな選択をしがちで、物事がずっと上手くいくなんてことはないけれど、それでも誰かと出会うことはかけがえのない奇跡であり、いつか終わりが訪れたとしても、共に過ごした人生の一部には確かに意味があるということを、軽やかに、真摯に語っていて素敵だよね。

SF的な話でいくと、ヒロインの髪の色で時系列を示唆する仕掛けが映画という媒体にピッタリで上手いなあと思いました。

トレインスポッティング

ダニー・ボイル、ずっと同じことやってんな…???(参考:『シャロウ・グレイブ』)いや個人的にぜんぜん好きなタイプの映画ではないんですが(ていうかダニー・ボイルについては最初に観た『イエスタデイ』があまりにもピンと来なかったので評価が辛辣になりがちなんだよね、ごめん)、『トレイン~』を観たあとに『シャロウ~』を観たら、無責任・無計画・無関心の三拍子そろった主人公たちが衝動を持て余してその原因からは目を背け続けた結果、全てが悪い方向へ転がっていくが最後に残った主人公が棚ボタ的に大金を手に入れてなんとなくハッピーエンド、みたいな、いや同じ話じゃん!って……。

エディンバラの荒れた社会状況とかドラッグ中毒な若者の生活スタイル(?)が生々しくて興味深く観れたけど、そういうのもういいかな、ってなっちゃった。今年は『KNEECAP/二―キャップ』とかいう似たような境遇からのし上がったミュージシャンバイオピックがめちゃくちゃ面白かったから、フィクションのくせに現実よりつまらんな、とか思ってしまったのもあるね。ごめんね。たぶん映像表現とかが革新的だったりするんだろうけど、あんまり映画でそういうのに感銘を受けないタイプの観客なんだよね、自分…。

続編もわりと評判が良かったような記憶がありますが、観てない。まあいずれ。

ごめん長くなってきたから続きはまた別記事で……続くんだよ、まだ……(フランス映画編とアジア映画編がある)。

次回で本シリーズ完結予定です!

では!!!

2025年、映画館で観た海外アニメの話

年末進行!年末進行!!!

上期のまとめを書いたときには、今年はあんまり海外アニメを観てないな~とか思っていたが、気付けばそれなりの数になっていたので書きます!12月の大本命、『ズートピア2』で今年は締めの予定だよ!しかし『バッドガイズ2』が配信スルーになったのは寂しいね……。

この記事ではソニック × シャドウ TOKYO MISSION』『野生の島のロズ』『Flow』『かたつむりのメモワール』『パフィンの小さな島』『星つなぎのエリオ』『The Summer/あの夏』『リビング・ラージ!』『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』『ズートピア2』の話をするよ!ちょっと多いね!!致命的なネタバレはしないつもりだけど気を付けてね!

ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』

東京の場面めっちゃ短いうえにたぶんフルCGなのにようこんなサブタイトルつけたな!?まあいいけどさ!!ソニックたちのキャラ造形の解釈(ふわふわ感とか動きの柔らかさみたいなの)が勝因ですよね、この映画。あとロボトニック博士のやたら湿度の高い感情のビッグウェーブ……なんだあれは。エージェント・ストーン、お前もだよ!!!でもジム・キャリーが元気いっぱいに暴れ回っていて良かったです。黙ってれば二枚目なのにねえ~(※こないだ『エターナル・サンシャイン』を観た人の感想)

平日の夜に観に行ったら、空いてる映画館で関係者っぽいスーツのおじさん二人が並んで鑑賞していた思い出……。

『野生の島のロズ』

飛翔シーンのカタルシスで号泣!!!(すぐ泣く)……手つかずの豊かな自然環境や生き生きと跳ね回る動物たちと、その中に異物のように放り込まれたロボットの質感の対比が素晴らしく、技術力!!!と思いながら観ていたのですが、中盤の飛翔シーン、音楽との相乗効果もあって一気に感情を持っていかれた。手練れのアニメーション、こわい…(饅頭こわい)。生命とは、ロボットとは何か、その存在を問う繊細な演出と脚本、種族を越えた友愛のきらめき、そして思いもよらない世界の広がり!生命は、知性は、ただ生きていることが美しく、圧倒的な他者と共に、見知らぬ景色に囲まれて、それでも未来への希望を持って生きていくことができる、そういう強靭な希望を語っていて本当に偉い。

ちょっとびっくりするような世界の描写が鮮烈で美しく、かなりしっかりSFなので、ポストアポカリプスものがお好きな人もぜひ!

『Flow』

たぶん公開当時に言ってた人いたと思うんだけど、『野生の島のロズ』とテーマや設定が本当に似通っていて、製作費をかけた大作アニメとインディーズのパーソナルな作品がこれだけ共鳴するということ自体が、このテーマが全人類的な課題であり、優れたクリエイターはそれをきちんと認識して作品として世に問うことができるんだなあ、という感想を持ちました。

あと、普通のアニメーションと違ってゲーム画面みたいに背景の景色がどこまでも相互的で細部があって、トラディショナルな映画とは違う没入感があって楽しかったです。出てくる動物それぞれの物語が、なぜそうなったかとか考えるとけっこう不思議だよね…。ネコちゃんはかわいい。ていうかこの舞台設定、キャラクターのままゲームになったら面白そうだな…とか思いながら観ていた。どのキャラクターを選ぶかによって選択肢や回想シーンが変わるの。でもラストは必ずハピエンでお願いします。

『かたつむりのメモワール』

なんかものすごい高密度の手作業が冒頭から押し寄せてくるストップモーション・アニメ!そして読み応えのある監督インタビューはこちら!あとこれは製作の舞台裏的な話が多め。もう言いたいことだいたい監督が言ってくれてるので読んでいただければ…。

場面写真の色調が暗めだったりキャラクターの造形がいびつだったり、監督が描こうとしている人生の苦しみや悲しみがそんなところにも反映されていて、だけど観ているうちに、特徴のある登場人物たちは愛らしく、細部まで作り込まれた舞台装置に宿る闇は暖かく(特殊効果?も含めてすべてが手作業で作られていることの寄与が大きいと思う)、自分は映画館の椅子に座っているのに、柔らかい毛布にくるまれて一人っきりで作品と向き合っているような気持ちになる。

世界の片隅で、ささやかな思い出と癒えない傷を大事に抱えて、ひっそりと生きている大人が、繰り返しの毎日の中で誰かと出会ったり少しだけ冒険したり、また傷ついたりしながら、自分の人生を見つけていく話なんだけど、人生はとことん苦く、何かを始めるにはいつも遅く、他人を信用すると痛い目に合う。それでも、ささやかな奇跡みたいな瞬間はどこにでもあり、本当の奇跡にだって手が届くのが人生というもの…。ラストシーンの美しさで胸がいっぱいになったよね。

パンフレットのインタビューで、人生の辛い部分だけじゃなくて美しい部分も初めてちゃんと描こうと思った(大意)と監督が言ってて、だから広く愛される作品になったんだよ!!と思いました!

『パフィンの小さな島』

また『ロズ』と『Flow』とほぼ同じテーマ来たよ!こっちはもっと対象年齢が低い分、よりストレートな表現が優しくて誠実で素晴らしかったです。気候の極端な変動により住処を失った親子が小さな島に移住してきて、その島も巨大嵐という困難に襲われ、さらに子供の世界にもささやかだけど小さな胸を痛めるには十分なほどの悲しくて苦しい出来事があり、なんというか、クリエイターの、子供たちや子供を取り巻く世界に対する誠実さが清涼な水の流れみたいに心地よかったよね…。あと音楽もいいんだよ。ケルト音楽をモチーフ?にしたみたいなプリミティブで、それでいて子供向けのアニメに相応しい手触りの良いキャッチ―さがあり、しばらくサントラをヘビロテしてた。

そして映画が終わって劇場売店を通りかかったとき、キャラクターのデフォルメしつつ実際の鳥たちの特徴を捉えたデザインがあんまりにもかわいくて、おもわずぬいぐるみを購入したのでした!ちょろい!

『星つなぎのエリオ』

宇宙の果てで、”ここではないどこか”で、ようやく会えた友達と、元気いっぱいに遊びまわる子供たちの姿で号泣…(すぐ泣く)。本当の自分の居場所はここじゃない、きっとどこか別のところにある、だから息を潜めて今を生き延びる、そういう子供時代を過ごした全ての人を救うようなSFだったね…。”ここではないどこか”って、そこに行けなくても、そういう場所があるっていうだけで心が救われて今日をやり過ごすことができるし、思い描いた場所そのものには辿りつけなくても、他のところで、ああ欲しかったのはこれだったな、ってなって気持ちが成仏したりするじゃないですか。あの感じが優しく丁寧に物語にされていて、そりゃもう大号泣よ。大人だってそういう気持ちは心の核のところに残ってるものだからね。

もちろん、大人と子供の関係性のアップデートとかケアする男性の話とか、チャレンジングなキャラデザとかいろいろ見どころはあるんですけど、孤独な魂にそっと寄り添う優しさにずっと包まれていて、本当に素晴らしかったです。

12月に入って映画館で『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の宣伝を見かけるようになってきて思ったんだけど、同じことを子供向けにやろうとしたのが本作なのかな、とも思いました。でも本作のほうが誠実だし包摂しようとする人々の射程も遠いと思うんだけどね(当方、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の原作にちょっと辛辣だよ!映画は普通に楽しみにしてる!)。

『The Summer/あの夏』

90年代韓国の甘酸っぱくてほろ苦い初恋のガールミーツガール!日本の伝統的な少女漫画を思わせる繊細なアニメ表現が馴染みやすく、地方の町から都会に出てゆく女の子たちの心情の揺らぎ、出会いと別れが丁寧に描かれていて新鮮でしたね。本邦では、こういうテーマ・意図のエンタメは漫画分野のほうが得意だよなと思いました!たぶんこんな感じの問題意識とかテーマ性の漫画、みんなどっかで見たことあると思うんだよね。原作は小説らしいです(未読)。

『リビング・ラージ!』

ストップモーション・アニメだ!ストップモーション・アニメ大好き!!!毎日を愉快に過ごしている少年が、思いがけず恋に落ちて放り込まれる思春期の嵐!そのままの自分を愛せたらいいのに、でももっと良い自分になりたい、あんなに一緒だった友達ともすれ違ってしまう、なんだか自分のことがどんどん嫌いになっていく…。カラフルでポップでユニークなキャラクターや背景セット、あと食べ物の描写が本当に素敵で可愛らしくキュートなのですが、周囲の大人たちの関わりとかが妙にリアルで、思春期ってそういう大人の事情とか優しさみたいなのが素直に受け止められないんだよねえ…ってしみじみした。

細部まで愛のこもった手作りのセットや小物は言うまでもなく素晴らしいが(食べ物が美味しそう!←これは主人公のキャラ設定の根幹に関わる)、音楽の使い方もけっこう面白くて(主人公は学生バンドのメインボーカルである)、有り余るエネルギーとジェットコースターみたいな感情に振り回される少年少女たちのままならぬ日々に寄り添って元気いっぱいで楽しかったです。

個人的な思い出、他の目的で新宿武蔵野館に行ったら、台湾のサンドイッチ屋「洪瑞珍」とのコラボメニューがあって(ピザソースとチーズ)、注文したらポストカードがもらえてすごい嬉しかったです。「洪瑞珍」のサンドイッチ好きなんだよね。

『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』

……ちょうど5年前、マジで人生観が変わるくらいの衝撃を受けてそのまま沼で溺れていた『羅小黒戦記』の続編……最っっ高だった……ありがとうMTJJ監督……同時代に生きてて良かった、この運命にマジ感謝……(重い)

もう感無量すぎて言えることが何もないのですが、前作で提示した(そして番外漫画を含めたシリーズを通してテーマとなっている)「他者との共生」という人類の課題について、さらに掘り下げ、射程を広げ、より多くを包摂しようとする野心的なチャレンジに本当に胸打たれた。もちろんアニメーションの技術という点でもまた新たな高みに達していて、度肝を抜かれたわ(マジで)。テーマも技法も、宮崎アニメの正統な後継者だよなあと思っているのですが、どうですかね。

ズートピア2』

全世界待望の、って言ってもさほど言い過ぎではなかろうと思われる続編!!主人公バディの関係性も、”ズートピア”という舞台装置についても、しっかり掘り下げた堂々たる続編!!…なんだけどさあ、ゲイリー、お前さあ!!!なんでそんな、なあ……(ダメージ)。ここから先まあまあネタバレになるんですけど、ゲイリー、すごいユニークっていうか不思議なキャラクターだなと思いながら観ていて、原音声優がキー・ホイ・クァンだったことを思い出したときにすべてが腑に落ちたのでした。ゲイリーの性格とかバックグラウンド、すべてがキー・ホイ・クァンの生き様そのものだよ……。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』での鮮烈な俳優復帰が記憶に新しいところですが、あの映画と同じかそれ以上にキー・ホイ・クァンそのものだったよ、ゲイリー…。物語上ではすぐ落ち込んだり後悔したりするジュディを、きっとうまくいくよ、って元気づけてくれるんですけど、ヘビ族の命運を賭けたチャレンジで自分の命を危険に晒していてさえ、もちろん大事な使命だし大変な冒険だけど、もっと気楽に行こうよ、僕だって一族の運命を肩に背負ってるってわけじゃないんだ肩は無いけどね、って言い切るの、本当にすごい。いや一族の運命を一手に引き受けてますよね!?ってなったんだけど、故郷から離れた街で移民として暮らし、成功や挫折を繰り返して今の立場を築いたキー・ホイ・クァンがそれを言ってると思うとさ。移民って(まあ移民だけじゃないけど)、恵まれない生活環境から立身出世を遂げた人が身内からも外からもロールモデルみたいに扱われたり、目立つ失敗を属性に押し付けられて育ったコミュニティと疎遠にならざるを得なかったり、みたいな話がどこにでもあるじゃないですか。そういうのを全部、経験したり身近で見聞きしてきたであろうキー・ホイ・クァンがさ…(号泣)。ご本人にそういう苦労を聞いてみても、あのチャーミングな笑顔のままで、僕は好きなことをやってきたよ、って言ってくれそうなのが想像できてしまう。ゲイリー……(混乱)。

前作からもちょっと言われている通り、メインのキャラクターたちの関係性や世界観の丁寧な描写と、ちゃんとしたミステリー/サスペンス/ノワール/アクションを全部やろうとしているのでかなり脚本が圧縮されており、ゲイリーやその家族、仲間たちについてはいろいろ省略し過ぎでは??という気もするのですが、その辺りをキー・ホイ・クァンご本人のキャラクター性で観客に有無を言わせず納得させるというパワー型の解決策になっていた。なるほど。

映像技術的にはまあ最先端で最高峰あることは異論の余地がないでしょう。前作のふわふわメインから、今作では爬虫類、両生類など水棲生物まで世界が拡張されて、これぞ続編!!という力の入れようでよかったですね!!

全体的な話で言うと、『野生の島のロズ』『Flow』『パフィンの小さな島』で全く同じ話をしており、世界的なトレンドを感じた(っていうかそりゃそう、気候変動は人類全体の課題だよ)のと、素敵なストップモーション・アニメが2本も観れて嬉しかったのと(実は邦画でも『JUNK WORLD』という注目作があった)、マジで待望の続編であるところの『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』『ズートピア2』で描かれた世界のタイムリーさにびっくりしていましたね。まあ優れたエンタメってそういうものかもしれん。

はい!今年も海外アニメがたくさん観れて良かったね!ずっとそういう世界でありますように!!!

では!!!

映画『さよならはスローボールで』を観ていつか失われるものは全て美しいと思う

なんか野球やってるおじさんたちの感傷的な映画なんでしょ……とか思って斜に構えて観たらとっても良くてほんとうにごめん!!!ってなった『さよならはスローボールで』、機会があったら観てよね!!!

はい!映画館に通ってると、なんかあんまり優先順位は高くないけど他に時間が合うのが無いから観てみるか、つってなんとなく観た映画がすごい良かった、みたいな経験がたまにあるじゃないですか。完全にあれだったね。

粗筋は、「取り壊しが決まっている地元の小さい野球場で、社会人草野球チームが最後の試合に興じる」ていう、ホントにそれだけ!!観た人はみんな同意してくれると思う!意外な展開とか(取り壊しが中止になるとか)ぜんぜん無い!!(←ネタバレ)でも98分の上映時間のあいだずっとグラウンドから目が離せないし、最後に残るどっしりとした余韻や、忘れ難いいくつかの鮮烈な(しかし説明の難しい)場面が心に刺さって抜けないのですよ。すっごい映画だよ。

たぶんこの映画の一番の美点…というか特徴、登場人物のほとんど(選手たちさえ!)が、あんまり野球そのものに興味がない、ってことですね。勝敗にも、おざなりな関心以上の執着は示さない(ラストゲームなのに!いままでの確執とか勝率とか、なんかあるだろ!?)。そんなので野球映画が成り立つのか??しかし本作、紛う方なき野球映画なのであった。そして観客はほぼ無し、家族が観戦に来てる選手は1人だけ、その家族(妻と子供たち)でさえ野球自体には興味なく(あんまり試合を見てない…草野球あるあるだね)、たぶんお父さんの最後の雄姿(でもないが)をせっかくなので見てあげよう、くらいのテンション。他の数少ない観客も、通りすがりの若者二人くらいで、彼らは野球のルールさえ知らない。

しかし思い返せば、映画館の観客も野球に興味無いんだよね!!!どっちかって言うとこの映画を観てる人は、野球ファンより映画ファンのほうが多いよね、そりゃそう。で、その野球に興じるおじさんに興味を持てない観客の立場を映画の中で代弁してくれるのが、野球には興味が無いけど、でもちょっとだけ立ち止まって、何も分からんけど面白いのかな、とか呟いて去っていく観客たちなんですよね。

では選手たちは何をしているのか?野球には執着していないのに?なぜ集まって野球に興じるのか?

これって、実は「野球」じゃなくても成り立つ状況なんだな、と後から気付いたのですが。つまりこの映画で描かれている、「野球場の終わり」というのは、「コミュニティの終わり」なのですね。「野球」によって集まった人々が、場を失って、バラバラに立ち去っていく話。それって、大人だったら程度の差はあれ誰にでも経験のあることだよな、とも思うのです。だからこんなに心に残るんだね。

そしてそのコミュニティの得難さが、通りすがりの人たちには理解されにくいところも、ちゃんと人生を振り返ってみれば、きっとみんな思い当たる節があるはずなんだよね。それが無くなるときは案外あっけなくて、感傷の入り込む余地の少ないところも。

野球をしながら野球以外の話をしている…と思いきやそれは野球の話で、しかもそれぞれの人生の話だったりする。

で、みんなの話を聞きながら最後まで観ると登場人物たちと昔からの知り合いだったような気分になって、でも野球場はもう無い(し、映画も終わった)ので彼らには二度と会えないのか、って気付いてめちゃくちゃ寂しくなるんですよね。このメンツが揃うのは、この映画の中で、野球をしているときだけなのだということを、エンドロールを眺めながらふと思い出してしんみりする。それは映画の中の彼らの気持ちそのものなんだよね。

ところでこの映画、日本での公開日が10月17日だったんですけど、劇中の日付が10月16日なんですね!合わせてくれたのかな??

ちょうどアメリカ北東部(札幌と同じくらいの緯度)が晩秋の装いになって、青く澄み切った空に真っ白い雲がまばらに浮かび、常緑樹の濃い緑の間で色づいた落葉樹の葉が景色を彩り、朝晩の冷え込みで吐く息は白く、日中の陽射しは明るいのに日が短くなって夕暮れからあっという間に夜を迎えるこの季節。

気温が上がりきらない午前中にメンバーが集まってきて、のんびりした秋晴れの休日がゆっくりと始まって、ゲームの途中で日が傾き始めて、あ、もうすぐ冬だな、て思うあの感じ。季節の移ろいが身体感覚を呼び覚ます、あの手触りを繊細に描写する映像が、実観客の自分がついさっき外を歩いているときに体感したはずの、現実の秋の訪れと美しく接続してちょっと素敵な鑑賞体験になりました。

本国アメリカでも2024年の10月公開だったようなので、日本も合わせてくれたんだったら嬉しいな!ありがとう、配給の人。これ、夕暮れに合わせて野外上映で観ても楽しいかもしれないね。

監督は、家族の影響もあって高校生までは本格的に野球をやっていたというだけあって、野球の試合についての小ネタは豊富なんだけど、その中でも「なるほど~」ってなったのが、「草野球みたいな強打者のいない試合だと、外野手はマジでヒマ」というものです。確かにそうなんだよな!!!内野手と違って話し相手もいないから、本当にヒマなんだよ。あの弛緩した感じの演出が達者で、にっこりしてしまったわ。んで油断して観客とかとお喋りしてたら、気付いたら試合の流れが変わってる、みたいなことが良くあるんだけど、それを観客が追体験するみたいになってて面白い。いやいまその人映してるけど、いちおう試合中ですよね??みたいな。でも実際の野球ってそんな感じよね。試合の中継じゃなく、野球のドラマをやるんだったらそうなる、それはそう。

で、監督は長編映画を撮るにあたって、そういうよく知った題材である野球を選び、親しみのある故郷の地で、自分や父親のような人々のドラマを選んだのは慧眼…というかセンスがいいなあ、と思う(誰目線)。共感的だけど辛辣で、しかし故郷のあるがままの美しさ、優しさを映していて、もうそこには戻れない(自分は成長し、人々は老いて移ろってゆくから)というシビアな感傷があり、抑制的な親密さと美化しきれない苦さがあり。

そういう見方をすると、本作、わたしが好きな『春江水暖』『君は行く先を知らない』と同じ、「年若い監督が最初の長編映画の題材に、すでに離れた故郷と家族を選ぶ」タイプの作品なんだよね!!なるほどね!!題材は非常にコンサバティブでありながら、脚本や撮影、編集にフレッシュな感性が光るタイプの。そりゃあ好きになるわ、納得だわ、と後からパンフレットを読んで一人で腑に落ちたのでした。

フレッシュといえば劇伴が印象的でしたね。メロディがはっきりしないタイプの現代音楽みたいな電子音が、映画の展開がふと変わるタイミングで急に入って観客を突き放すの。なんか、いま君たちが見ている美しい風景は、ぜんぶ儚い夢だよ、だから美しいんだよ、って言われてるみたいだった。

試合中の(まあ映画のほとんどは試合中だけど)グラウンドを映す構図も割と大胆で、前に書いたみたいに、試合中なのに試合を映さないとか、ワイドショットで背景に試合展開を捉えているのに誰もそれに言及しないとか、まるで舞台劇みたいにベンチの選手が入れ替わりながら会話を続けるのを映してやっぱり試合は見せないとか、題材が感傷的なのに比してドライな演出がちょうど良かったですね。ラストのささやかな花火さえ映さない。やっぱり、ちょっと「故郷」から離れた人の目線なんだね。

だから試合が進んで、日が暮れて、ホントに決着がつくまでやるの??帰っても良くない??みたいな雰囲気と、ここまで来たら最後までやりたいよな、っていう両方の気持ちに観客がシンクロできるんですよね。このバランス感覚が素晴らしいね。

ところで、物語としては淡々と試合が進んでいく作中に、すこしだけマジカルな瞬間が訪れる。いちばんはやっぱり、なぜか往年のスター選手がふらりと現れて、得意としたスローボールを1イニングだけ投げてどこへともなく去っていくところ。この投手を演じたのは実際の元プロ選手だそうで、その、ちょっと現実から浮いたような存在感が映画に不思議な浮遊感をもたらして楽しい。せっかくのラストゲーム、奇跡みたいな何かがあってもいいよね、っていう贈り物みたいだった。

あと、明らかにボールが消えたよね??っていうのが2回あったよね???あれも、草野球あるある、と言われればそうなんだけど、そのせいで最後らへんでボールが足りなくなりそうになって、試合が続けられるかどうか、みたいになっちゃうの、絶妙なリアリティのピンチで面白すぎる。でも選手のみなさんが、ボールはまあええからとにかく試合を終わらそうぜ、ってなるので、観客も、じゃあ見届けてやるか…ってなるのでした。笑。

ところでここまで、野球そのものに対してはテンション低めなのがいいよね、っていう話をしてきましたが、登場人物で唯一、ちゃんと野球ファンなのがボランティアのスコアラーなんですよ。誰よりも早く球場に来て、全員が帰るのを見届けてから退場する男。彼だけが、この試合を試合として記録し、記憶している。野球は、それが無くなっても人生は続いて行くものだけど、でも誰かの人生そのものになり得るものでもある、っていうことを、彼の存在が控えめに主張していて、それはやっぱり感動的なことなんだよね。別に声高に感傷を叫ばなくても、スコアラーの仕事ぶりが、そして選手たちとの気の置けない短いやり取りが、それを充分に説明している。もちろん「野球」に限らず、人間の営みというのはすべてそういう側面がある。たぶん誰かにとっての「映画」もそういうもので、この映画はそういうことを言ってるんだと思うのよ。だから「野球」に興味のない観客も心打たれるんだね。本当に素敵な映画だよ。

ところで原題になってるイーファス(『Eephus』)って、野球をよく知ってたら日本でも使う言葉なんじゃろか。山なりのスローボールのことらしいんだけど、わたしは知らなかったので、邦題は頑張ったなあと思いました。作中でも象徴的に言及されるので、全く関係ない邦題にするのも違うよね、ってなるよね。ちょっとセンチメンタル過ぎるかなあとも思いますが、かなり健闘してる邦題だと思います!

あとちょっとだけ思ったのは、アメリカ北東部の秋、土地や家族との古い絆を確認していくプロセスの話ということでデヴィッド・リンチ監督の『ストレイト・ストーリー』を思い出したんだけど、見当違いだったらごめんね。でも意識したようなショットがあった気がするんだよなあ…ちょうどリバイバル上映やるらしいから観に行くか…(本作を観たあとで『ストレイト・ストーリー』を思い出していたら上映のお知らせを見つけてびっくりした)。

はい!

長くなりましたのでもうこの辺で!!早くしないと上映が終わっちゃうよ!!!っていうかですね、この記事を書き始めたあとに見つけたこのレビューに言いたいことだいたい書いてあった、もうこれ読んでくれたらいいよ(投げ遣り)。

では!!!

 

追記!監督インタビュー

映画『ファンファーレ!ふたつの音』を観て音楽への信頼に胸打たれる

なんかぬるい邦題と予告でこの映画大丈夫か???と思ったそこの君!!(誰だよ)大丈夫です!!!観な!!!!

というわけで、『ファンファーレ!ふたつの音』観てきたんですけど。

いや自分も公開規模が小さいしタイトルもビジュアルもなんかパッとしないし(ピエール・ロタンの笑顔は本当に素敵だけど。後述!)、でもあの『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』のエマニュエル・クールコル監督だし、『秋が来るとき』でめっちゃ良かったピエール・ロタンが主演?らしいし、まあ観とくか……みたいなテンションで行ったら、まあ良かったよね!!ホントごめん!!!

人生の可能性には限りがあって、思い通りになることなんか全然なくて、それでもなんとか各々の手持ちのカードでやってかなくちゃならなくて、大事な人には傷ついて欲しくなくて、ずっと一緒にはいられなくて、でも大切な美しいものを分かち合いたくて、っていう苦くて切実な大人たちのどうしようもないけれどかけがえのない人生の話だった!えーん……

それでですね、とにかく冒頭から演奏シーンが圧巻なので、音の良い映画館で観る価値はあるよ!と声を大にして言いたい(言った)。

整然として豊かなフルオーケストラの艶やかな音色も、ブロークンで調子はずれだけど賑やかで陽気な市民楽団の音楽も、孤独な夜に響くピアノの和音も、兄弟を包み込むレコードのノイズも、全部、ぜんぶ素晴らしかった!あらゆる音楽、宴席で誰かがたわむれに口ずさむ素朴な歌曲まで、全てが丁寧に、その魅力を最大限に活かすように録られ/撮られているから、そのこと自体が、主人公たちの音楽への愛そのものを表現し尽くしているんだよね。そしてあの鳥肌の立つようなラストに結実するわけですが……!!

そういう感動的な人間ドラマではあるものの、全体的な演出はカラッとドライで、日々をやり過ごしている大人たちの感覚に寄り添う感じがむしろ優しい。大人だから、日常の雑事に追われてるうちに大事な出来事がいきなり迫ってくる感じが妙にリアルでちょっと笑える。この地に足の着いた現実感覚みたいなのも本作の良さのひとつだと思うんだよね!!

以下、なるべくネタバレせずに行きますが、観れる人は読む前に観てよね!!!頼んだよ!

生き別れたまま育った兄弟が、大人になってからあるきっかけで出会い、音楽によって強い結びつきを得て、互いの人生においてかけがえのない存在になってゆく…という骨子は割とシンプルなお話なんですが。

兄は世界的な名声を得た指揮者で、演奏活動に学生の指導に作曲にと日々忙しくしている”成功した”音楽家、弟は、かつて炭鉱業で栄えた北の寂れかけた田舎町で実家暮らしの労働者、普通に生きていたら全く接点の無い二人が出会うきっかけは一つの大きな不幸だけど、絆を深めてゆくのは音楽への深い理解と愛ゆえなわけで、それが言葉じゃなくて、ちょっとした表情や仕草、軽いやり取りで繰り返し描写されるのが本当に良かった。ヘッドフォン越しに聞こえるオーケストラの練習に耳を傾けて緊張がほんの少しだけ和らぐ弟、吹奏楽団のアットホームな練習風景を見てどんどん笑顔になっていく兄、好きな音楽の話になると夢中になって時間を忘れて語らってしまう兄弟…!!

ジャンル問わず、何か音楽が流れてくるとちょっと足を止めて振り向いてしまったり、不意に歌詞を口ずさんでそれが思いがけずシンクロしたり、そういう瞬間がたくさんあって、それは好きな音楽がある人なら誰もが共感できるフックになっているし、兄弟やその周囲の人々がポジティブな関係を築く説得力にもつながる。そういう何気ない演出が本当に、マジで上手い。

しかも(わたしは欧州の音楽文化に疎いのでなんとなくですが)作中で使われている楽曲、新旧ポップスやジャズやクラシック音楽は、フランスで広く愛されている楽曲を、意識的に様々なジャンルから選んでいると思われるので、フランスで大ヒットしたのも頷けるよなあと思いました。いや上手いのよ。こういう、シビアな現実をあまり美化せず語りながら、大衆感覚に訴求するエンタメ作品に落とし込むバランス感覚が監督の持ち味なんですかね。しかしこの記事で「(音楽の)専門的な知識はない」と謙遜しておられ、またまた~~とか思わなくもないが、しかしそのスタンスがあるからこそ本作が広く大衆に受け入れられ、届いたのだろうなとも思いますね。

で、じゃあ音楽を愛してれば人生が上手くいくかというと、もちろんそんなわけない。吹奏楽団の仲間たちは長引くストライキと雇止めの恐れ、将来への不安などのストレスで疲弊しているし、楽団の運営も一枚岩ではない。当たり前だけど、市民楽団のメンバーにとって、仕事を失ってしまえば音楽どころではないし、だから音楽で生計を立てている兄の世界と、不安定な雇用状況にある弟の住む世界には決定的な断絶がある。だからこそ、音楽によってその境界を越えることができるかもしれない、と高らかに謳うラストに、あんなにも心を動かされるんだよね……人生は苦くて辛いし願いはひとつも叶わない、だけど希望は確かにあるんだねえ……。

ちなみにフランス北部で市民楽団の活動が活発な理由はパンフレットに解説があって、作中の楽団が創立142年(!)といのも実在の様々な楽団がモデルとなっているそうです。あと作中の楽団員も、実際に市民楽団で活動されている皆さんが参加されているそうで、あの息の合った賑やかな雰囲気はそれでか!と思って嬉しくなりました。その辺りの話もしている監督のインタビューも良かったら読んでね。ネタバレはあります。「労働者のコメディ映画」というジャンルでは英国に一日の長があり、フランス映画で挑戦してみた、という話はなるほど~と思いました。楽団がモチーフの作品だと『ブラス!』だけど、労働者のエンタメ映画といえば他にも『リトル・ダンサー』や最近だと『ドリーム・ホース』とかもこの流れかなあ。たぶんもっとたくさんあるよね。

前作は舞台芸術で、今回は音楽(特に演奏活動)がモチーフなんだけど、どちらも、人間同士の関わり合いに基づく芸術活動が人生にもたらすものへの信頼がすごくあって、演劇も音楽も大昔から人類の社会活動に含まれていたことを想起せずにはいられない。人間が人間らしくあるために、互いに影響し合うことを恐れず、支え合うことを受け入れ、芸術がもたらす恵みをありのままに享受することがすごく大切なんだと思い出させてくれる。

特に音楽は、言葉によるコミュニケーションに先行して発現したとも言われているので、本来はものすごくプリミティブな意思疎通の手段のはずで、この映画はそういう話をしているのかもしれないと思ったりしました。いろんな人々が、事前の打ち合わせなく一緒に演奏したり歌ったりする場面がいくつかあって、その空間だけは、どんな時でも多幸感に満ちている。育った環境、社会的階層が異なっていて、全く接点のないはずの人々が、音楽を共通言語にしてつながる、その喜びが圧巻のラストシーンに鮮やかに結実して本当に胸打たれるよね。

ところでさ、監督も絶賛していたけど、ピエール・ロタンは素晴らしい役者だね!!!ぱっと目を引く華やかさがあり、キャラクターの複雑な内面を繊細に表現する技術があり、共演者との豊かなケミストリーがあり、ちょっと目が離せない感じの俳優だよね!!

ずる賢い小悪党なのか、心優しいヤンチャ坊主なのか、不器用な善人なのか、虚言癖の盗人なのか。僅かなリアクションや言葉のニュアンス、表情の変化で、そこにいるのがどういう人間なのかを観客に注意深く伝えてくれる、その匙加減のリアリティが素晴らしいよね。これは監督との相性もあるんだろうけどね。

で、これまで観たピエール・ロタンの出演作はけっこう”悪い”役が多くて、斜に構えたみたいな雰囲気のことが多かったんだけど、今回のキャラクターは(『アプローズ、アプローズ!』のとき以上に)音楽のことを信頼していて、音楽がもたらす喜びに素直に身を委ねたときの輝くような笑顔が本当に素敵で、それが映画全体のメッセージの説得力を底上げしていてすごかったです。

ちょっとクラシカルな雰囲気もあって、歴史文芸ドラマとかも似合うだろうな~と勝手に思っています。これからも出演作を日本で拝見できることを願っているよ!

はい!

ということで観れる人は『ファンファーレ!ふたつの音』観てね!!普通に評判いいからまだ上映してるとこたくさんあるよ!!!映画館で音楽の祝福に包まれよう!!

では!!!




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