今週読んだのはおとぎ話です。

「バウムヴォリの小さなお話」
(群像社ライブラリー48)
作:ラヒリ・バウムヴォリ
訳:相場 妙
(群像社 2024年11月26日 初版第1刷発行)
手のひらに軽く乗るような、小さなサイズの本のなかに101のおとぎ話が詰まっています。ページ数も多くありません。訳者のあとがきまで入れて205ページ。単純に計算しても1話2ページほどになります。それどころか、実際に読んでみると、たった4行で終わるお話までありました。
初めて見る作者のお名前だったので、まずプロフィールを読みました。
作者のラヒリ・バウムヴォリさん(1941-2000)はオデッサ(現オデーサ、ウクライナ)生まれ。これを見て、この時期だからこそ発行に至った作品なのかと思いましたが、訳者のあとがきを読むとそうではないことがわかりました。訳者がバウムヴォリさんの作品に出会ったのは10年以上前。作品に魅了された訳者が本作の構想を描いたのは出会って間もないころでした。
それからロシアの出版社を当たったり、作者のご子息の連絡先を入手したり、翻訳に向けて進まれているなかで、2022年2月訳者の気持ちにも、そして世界中の人々の心にも大きな衝撃をもたらす出来事が起こったのでした。
作者は「イディッシュ語(東欧ユダヤ人の言語)とロシア語のバイリンガル詩人であった」そうです。当初使っていたイディッシュ語を歴史の渦のなかで使うことができなくなるとロシア語で詩や童話を書き、子どもたちに愛されてきましたが、作者がイスラエルに帰化したことで、ソ連での作品は葬られ存在自体をなかったことにされてしまいます。
本作101中多くのお話が、訳者が古本商や個人から入手した原書の一冊、「大人のためのおとぎ話」によるものです。
登場するのはリスやカエルやゾウ、ライオンと子どもたちにも親しみのある動物たちや、キュウリやキャベツといった身近な野菜も主人公になっています。
一見可笑しくて可愛らしいお話のなかに、どの作品にもふと立ち止まって考えたくなるような心を動かすエッセンスがあって、平たんではない道を歩まれた方だからこそ描ける重みを感じました。
本作の101話、本当にどれも魅力的です。今の私のおすすめは、本作のなかでは比較的長い4ページを使った「28 ぜんぶいっぺん」。こちらは本作のなかでは珍しく人間のおばあさんと5人の孫が主人公です。最後のオチが、現代の日本人にグッと響きそう。もう一作は「44 ゾウとハタリス」。超ショート4行分のなかに詰まった笑いとアイロニーにハッとさせられたお話でした。
気軽に楽しくも読めるし、気付きを与えてもくれる、読書の秋におすすめの一冊です。
