今週読んだ絵本です。

「木をかこう」
訳:須賀敦子
(至光社 1983年 第2刷)
5月は新緑の美しい月です。周囲の植物たちが大きいのも小さいのも、隅っこにひっそりといるものも、見上げると先端は高すぎて見えないものも、枝葉を活き活きと広げ真新しい緑の葉っぱを茂らせ始めています。
この作品はイタリア・ミラノ生まれの国際的な造形家ブルーノ・ムナーリさんが手がけました。「木を描く」ためにどんな見方が必要か、様々な角度から「木」を見つめ表した絵本です。
そして、「ミラノ霧の風景」などの著作で知られる随筆家・イタリア文学者の須賀敦子さんが日本語訳を手掛けています。
「木」を描くためにはどんなことが必要でしょう。「木」だけではなく、何を描くにしても通じることだと思いますが、そのものがどんな存在かをよく知ることが大切です。
この絵本で作者のブルーノ・ムナーリさんは、どんな「木」でも木であれば必ず備えている、木そのものの本質的な規則を、シンプルなわかりやすいイラストで表現しながら、まず私たちに伝えてくれています。
どんな「木」であっても木なら不変の規則を持っていることがわかります。
それから次にその「木」の置かれた環境による変化に注目しています。風の強い場所の木、もっと風の強い場所の木、もっともっと風の強い木・・・といった具合です。
さらに、同じ規則を持っていても、上に伸びることもあれば下に向かって伸びることもあり、真っ直ぐの枝の木もあれば、ぐにゃぐにゃの木もあることや、幹の太いのもあれば細々としたものもあることなど。
見た目は全然違うように見えても基本の規則は同じだと、折に触れて言葉が添えられ、忘れそうになる本質をハッと思い出させてくれます。
黒とわずかな緑だけを使ったシンプルな色使いのイラストは印象的です。ものの在りようを明確に捉え真っ直ぐに見る側に伝えてくれます。
そして須賀敦子さんの日本語訳がとても自然。言葉がスッと心に入ってきます。内容も文章も心惹かれた部分を時々読み返したいので抜粋し残しておこうと思います。
この規則は、かんたんだから、これさえおぼえておけば、
だれにでも、木はかけます。ただ、こんな規則どおりの木は、
ほんとうには、どこにもないでしょう。
強い風もふかない、いつも太陽がてり、ほどほどに雨がふり、
いつもおなじくらいの栄養が、土からのぼってくるような、
そんなところは、まず、どこにもないでしょう。
かみなりも落ちない、雪もふらない、
暑くもないし、寒くもないところなんて・・・・・ないですよね。
それで、木のほうも、まわりにあわせて、
いろいろなふうに、そだちます。
でも、よくみると、規則は、やっぱり、規則。
これは「木」に限ったことではないような。この世界にあるあらゆる生命、私たち人間にもすっかり同じく当てはまる言葉ではないでしょうか。
本作を読めばいろいろな状況に立ったときに、新たな目線を自分の中に加えることができるようになりそうだと思いました。
