今週読んだ絵本です。

「かしこいビル」
訳:松岡享子・吉田新一
(ペンギン社 1982年6月初版)
この作品は、「くまのパディントン」シリーズやディック・ブルーナの絵本など、数々の作品の翻訳を手掛けた松岡享子さんと、ピーターラビットとその作者であるビクトリアス・ポター研究の第一人者で知られる吉田新一さんによる翻訳で、1982年に初版が出版されました。
作者のウィリアム・ニコルソンさん(イギリス生まれ・1872-1949)は、美術学校を卒業後、ポスターなどの商業美術や芝居の舞台美術を数多く手掛けた方。絵本としては、娘メリーのために描いた本作と「ふたごの海賊」の2作品のみが遺されています。
物語に登場する少女の名前もメリー、どうやら娘さんが主人公のようです。
ある日、メリーのもとに、叔母さまから自宅へ招待の手紙が届きます。それではと、メリーはお出かけの準備を始めるのですが、持って行くものがたくさん。少女には、靴やブラシのような生活必需品のほかにも、どうしても連れて行かなければならない大切なものが。それは馬の置物の「アップル」や布製の人人形「スーザン」、そしてイギリス伝統の衣装をまとった兵隊人形の「ビル」。そうです、ビルはメリーが大切にしている兵隊人形です。
しかし、お父さんからもらったトランクに入りきらないくらいの荷物を急ぎ詰め込んでいたら、なんとビルを入れ忘れてしまいました。置いてきぼりになったビルは、体を折り曲げてさめざめと大量の涙を流して悲しみますが、そのまま泣き寝入りしなかったのが「かしこいビル」なのです。
立ち上がると電車に乗り込んだメリーを追いかけて、野を越え山越え走る走る…
作者のウィリアム・ニコルソンさんの絵の特徴は、平明で誰にでもわかりやすいこと、ものの性格を確実にとらえることだったそうですが、この絵本でも見事にその特徴をもって物語を表現しています。一コマ進むごとにテンポ良く物語が進んで行って、見る側を愉しませてくれました。
さて、絵本の巻末に翻訳者のおふたりによる、本作の「解説」が掲載されていて、こちらも必読です。各ページ、さっさと見てしまうと気づかなかった、細やかなところまで物語を豊かに彩っている描き込みをひとつひとつ解説してくれています。
また、おふたりは解説で本作を以下のように表現しています。
子どもと人形の関係を描いた絵本の古典的作品として、また、絵本を芸術的に洗練されたものにした記念すべき作品として、イギリスの子どもの本の歴史の上で、高い位置を占めている絵本です。(解説より抜粋)
解説を読んでから読み返すと、二度三度と楽しめる作品だと思います。
