今週は安房直子さんの童話で冬を堪能しました。

「ふろふき大根のゆうべ」
安房直子 絵ぶんこ1
文:安房直子
絵:アヤ井アキコ
(あすなろ書房 2024年4月30日 初版発行)
ふろふき大根、この言葉を聞いただけで、白い湯気が立ち、あめ色に煮詰められた厚切りの丸大根が目の前に浮かび、底冷えするような冬のある日に、フーフー息を吹きかけつつ、お箸で割った一欠けらを大急ぎで口に入れるところまで思い起こしてしまいます。
胃袋があったかくなってきた気がしますが、本作は胃だけじゃなく心のほうもしみじみと温めてくれる作品でした。
冬の近づく夕暮れ時の山道で出会うふたりの会話から物語は始まります。
家路へ急ぐ峠の茶店の茂平さんの前に現れたのは、手ぬぐいでほっかむりをした大きな動物。手には買い物かごをぶら下げています。
茂平さんが思わず呼び止めてよく見ると、それは一頭の「ふっくりふとった」いのしし。
いのししに頼まれ茂平さんが持っていた大根を分けてあげると、喜んだいのししは茂平さんを「ふろふき大根のゆうべ」へ招待してくれました・・・
安房直子さんの柔らかな言葉で紡がれる茂平さんといのししのやりとりは、しみじみとしていて、なんとも自然で温かです。
「とっぷり」とか「ほやほや」とか「ぬうっと」とか擬態語が散りばめられています。
外は深々とした寒さに包まれていますが、いのししの家の中は、大きな囲炉裏に掛けられた大きな鉄鍋から立ち昇るふろふき大根の湯気でとても暖かそうだし、
ふろふき大根を食べながら語り合う3頭のいのししたちの物語は、美しくもあり明るくもある夢のようで、日常の悲しみを乗り越える力があります。
アヤ井アキコさんによるイラストも物語の雰囲気を見事に描いています。いのししは愛嬌があって、ほっかむりがとてもよく似合っています。ふろふき大根の絵は、ホクホクとした大根の食感がよみがえり、いますぐ食べたくなる美味しそうな佇まいです。
物語の始まりから終わりまで、当たり前のことで何でもないことのように、気が付かずに通り過ぎてしまうほどのさりげなさで語られている、茂平さんといのししの、お互いを大切に思いやる優しさが垣間見られるシーンも心に沁みました。
さて、いのししたちの「ふろふき大根のゆうべ」で一番大事なのは湯気。なぜでしょう?
ゆうべの宴には、もう一品とても美味しそうなご馳走も登場します。なんだと思います?
皆さんなら、どんな場面に魅かれるでしょうか。ぜひ物語を読んでみて感想をお聞きしたい作品です。
そして、安房直子さんの気負いのない、たおやかな文体に心惹かれましたので、他の作品も読んでみたいと思いました。
