
昭和時代から平成10年代くらいまで、紅茶というもんはティーバッグに入ってるもんだというのが共通認識であった。
東海林さだおさんによれば、カップに入ったティーバッグをスプーンであっちにおっちめこっちにおっちめエキスを絞り出して飲むという代物だが、だいたいそれで間違いない。
今でもチェーンで紅茶を頼むとティーバッグ形式だから、操り人形を爆走させるか釣りでせわしなく上下させるようにティーバッグを動かし、カップの底にぶつけたり持ち上げたりしてエキスを染み出させている。
ところで平成10年代くらいまでというとバブル期に当たる。そ
れまでワインといえば赤玉ポートワイン、カルピスといえば茶色い瓶に入った高級飲料、チーズと言えば伸びないプロセスチーズという昭和人共が金にあかせてキャビアフォワグラトリュフなどを食いまくって一端の食通気取りを始めた時期である。
一周して山岡がアンキモはフォワグラより美味いとか中2的なことを言ってたころでもある。
そんな時代、中元歳暮に高級紅茶が使われ始めた。しかし、ティーバッグならともかく茶葉だと飲むのがめんどくさい。そもそもその頃はゴールデンルールとか殆ど知られていなかった。当然みんな持て余す。
そんな中、読んだ小説に感化されて紅茶が好きだと言ってた子供がいたのである。私だ。親戚中、捨てるのも惜しいが使いみちのない紅茶をバンバンこっちに回してきた。
トワイニングから始まってフォートナムメイソン、ウェッジウッド、そしてフォション。景気のいい時代である、どんと500g2つ入ってたり綺麗なバラ模様の陶器のツボに入れてたりするのが山ほど送られてきた。これはおそらく、一族揃って下戸だから、という理由もあるだろう。
あそこの家はビール贈られても困るから飲み物、じゃあ紅茶でも……という考えに至ったに違いない。
おかげさまで私は紅茶大臣である。午前は優雅にトワイニングのブレックファーストを濃いめにいれて、昼はフォションのアップルティー。夜はミルクをいれたアッサムで。このガキゃあ、はっ倒したくなる。
しかし特に気にもせず成人するわけだ。そして自立し、一人暮らしになる。紅茶でも買うかあ、と懐事情に合わせて100袋入りお得用ティーバッグを買ったわけだ。
ゴミでも飲んでんのかと思った。
味覚に自信はあんまりないが、その時ばかりは舌がおかしくなったのかと思った。全く美味しくない。バックを増やしてみてもミルクと砂糖をしこたま入れてごまかしても飲めない。
この時、贅沢はしてみないとわからんもんだという誰かの言葉が身にしみた。親の財力も思い知った。正確には親戚の財力ではあるが。もったいないから残りの紅茶は全部芳香剤になった。
仕方がないから飲み慣れたフォションを買いに行くわけである。値段見て驚いたのなんの、今まで水みたいに飲んでたやつが125gで2500円もしやがる。
当時の家賃が58000円というあたりで私の財力を推し量っていただきたい。到底買えたものではない。買ったところで水みたいに飲めるわけがない。
心底過去の自分を呪ったものである。ああ、飲みきれずに捨てたやつもあったのだ。どうしてもっと大事に飲まなかったんだちくしょう。
そしてこの紅茶にだけ肥えた舌を切り落とすわけにもいかない。したがって結論は一つ、紅茶は飲まないことになる。
もっともこれはお湯で入れる場合の話しだ。ペットボトルで売ってる紅茶は別に気にせずのめる。なんでだか知らんがチェーンやファミレスにあるやつでも困らない。自分でティーバッグ買って淹れて飲むときだけ贅沢舌が発揮されるのだ。
この困った舌と懐具合と手間としばらく戦って出た結論がある。安くて美味いティーバッグ紅茶を飲む方法だ。
ティーバッグ紅茶は日東紅茶のテトラポッドタイプを選ぶ。これが一番味とコスパに優れる。テトラポッドでないと茶葉のジャンピングが起きないので他のものは外す。
これを電子レンジで加熱できるポットに入れる。水道水を500mlいれる。二杯以上いれないと美味しくない。で、水とティーバッグを淹れたポットをそのまま電子レンジで四分加熱する。これで出来上がりだ。
これだと一々ポットを温める必要もなく沸騰で茶葉がジャンピングするから美味い紅茶になる。片付ける手間もいらない。お湯からやると突沸現象が起きるからやめといたほうがいい。ちょっと雑味も出る気がする。
それから茶葉は冷凍庫保存に限る。冷蔵庫だとカビにやられる時がある。私はこれでやっと身分相応な紅茶ライフを送れるようになった。
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