今日から新年度スタート。
先月献本してもらった「英文法」の学参
- 『英文法のテオリア』
は、現代英語の実態を反映させる記述がそこここに見られる非常に優れた一冊だと思っています。
それでも「英文法」の学参ですから、細かな語法ではまだまだ拾い切れていないものもあります。
これから書く表現形式・語法も上記学参では詳しく整理されていませんが、それは英文法の根幹とは言えない、マイナーな部分ですから、学参としての評価を下げるものでは決してありません。
実際、市販の英文法書では十分に扱われていないし、「語法」の問題集の解説や、「語法」に詳しいと評される最新の学習用英和辞典でも、表現間の異同などは詳しくありません。
それはしょうがないことだという認識で以下の記述をお読み下さい。
- 「…をしても無駄である」に対応する英語表現
私が高校生の頃から、次の「諺」は教材でも目にしていました。
It is no use [good] crying over spilt milk.
⦅諺⦆こぼれた牛乳のことで泣いてもむだだ, 「覆水盆に返らず」.
(『クラウン英語イディオム辞典』三省堂)
同辞典には次の表現も成句として収録されていました。
there's no [not much] point in doing …しても少しも[あまり]意味がない
There's no point in doing that. そんなことをしても少しも意味がない.
この二つの表現の生息域が重なることも考えられるのですが、使用頻度の差異に関してはよく分かりません。
最新の学習用英和辞典の記述を見てみましょう。
『Wisdom英和』(三省堂)
it is nò úse doing [(まれ)to do] * (話)…してもむだだ
It's no use arguing. 議論をしてもむだだ
It is no use crying over spilt milk.
(ことわざ)こぼれた牛乳を嘆いても仕方がない; 「覆水(ふくすい)盆に返らず」
(×この表現の場合~ to cry ... としない).
There is no point [use, sense, good] (in) talking to you. 君に話してもむだだ
[コーパス]
(1)(くだけて)ではinが省略されることがある.
(2)(in) doingの意味上の主語が示されることがある:
There’s no point (in) me [(よりかたく)my] talking to you. 私が君に話してもむだだ.
(3)use, goodを用いるときは
It is no use [good] (me [(よりかたく)my]) talking to you. の方が普通)
独自コーパスからの知見で、「use, goodを用いるときは…」という注記はありますが、There is no pointとIt is no use との差はわかりません。
『Genius英和』(大修館書店)
It is nó úse dóing = There is nó úse (in) doing (略式)…してもむだである
<◆it is of no use to doの類推からto doが用いられることもあるが, 避けた方がよい>
It is no use crying over spilled [(主に英) spilt] milk.
(ことわざ) こぼれた牛乳を嘆いてもどうにもならない; 「覆(ふく)水盆に返らず」
<◆Don't cry over spilt milk. ともいう>
It's no use pretending you're asleep. 寝たふりをしてもむだだよ.
There is no point (in) trying to persuade him.
=I don't [can't] see any point in trying to persuade him.
=(略式) No point in trying ...
彼を説得しようとしてもむだだ <◆ × It is no point (in) trying ... は不可>
こちらでも、It is no use と There is no point の使用頻度の差などは不明。
『O-LEX英和』(旺文社)
It's nò ùse dóing .... …しても何にもならない[無駄である]
(◆ doing の代わりに to do も使えるが,ややまれ)(◦ there is no point in doing ...)
It's no ~ negotiating with them any more.(=There's no ~ (in) negotiating with them ....)
これ以上彼らと交渉しても無駄だ
It's no ~ crying over spilt milk. (諺)こぼれたミルクを嘆いても何にもならない;覆水盆に返らず
『O-LEX英和』では “there is no point …” ではなく、 "there's no point" の用例が、pointの項目に収録。
同 『…和英』の方には "there is no point" もいくつか用例がありますが、やはり、二つの表現形式の使用頻度の差などは不明です。
There's no ~ in going now. We've already missed half the movie.
今から行ってもしょうがないよ.もう映画は半分終わってしまった
嘆いてもかいのないことだ
There is no point in grieving.|It is no use grieving (about it).
不正な方法で勝っても意味がない
There is no point in winning if it's done unfairly.
所謂「学参」「問題集」の扱いも見ておきましょう。
『スクランブル英文法・語法』(第5版、旺文社、2025年)では、
これ以上この問題を議論しても仕方がない。
There is no good [point] (in) discussing this problem any longer.
= It is no use [good] discussing this problem any longer.
と同意として扱うのみ。
『読むため書くための 英文法ハンドブック』(旺文社、2025年)では、
It’s no use complaining. 「文句を言ってもしょうがない」
という用例で、
- It is (of) no use [It is no good] (V)ing. 「(V)しても無駄だ、(V)してもしかたない」
という項目として整理しているのですが、用例にまったく具体性がなく、学習に十分資するとは思えません。
一方で there is no …の方はというと、
There is no point [use/good/sense] (in) (V)ing. 「(V)しても無駄だ」
There is no point in looking for her. 「彼女を探しても無駄だ」
という項目を立てて、4語を並列に同意の扱いですが、用例は具体性の薄いpoint一つしかなく、しかも注記として
- inを省略することはまれです。
という文言をわざわざ書いています。
『Insight 英文法・語法・熟語 問題集』(啓林館、2025年)では、
彼からのメッセージの返信を待っても無駄だ。
It is no use [good] waiting for him to text back.
という用例で、
It is no use [good] doing 「〜しても無駄だ」
= There is no point (in) doing
という同意の定型表現を示すにとどまっています。
冒頭で言及した『英文法のテオリア』では、動名詞を含む慣用表現の一つとして
It is no use doing 「〜しても無駄である」
- It is no use trying to fix a problem with a temporary solution. (その場しのぎの解決策で問題を解決しようとしても無駄である)
という具体的な意味のある用例を示しているのですが、there is no pointの方は扱われていません。
オンラインコーパス等で、これらの生息域を浮かび上がらせるのは難しいのですが、ザックリと検索した結果を眺めてみましょう。
ベンチマークとしてのCOCAで、
there is/it is で始まり、no point [use/good/sense] が続き、前置詞にinまたはofがくる環境を見ています。縮約形での "there's" や "it's" も含まれます。
前置詞なしで -ing形が続くもの
名詞を pointとuseに絞って 前置詞の後に -ing形が来るパターンを見てみます。
GLOWBEで地域差/文化差を推測
前置詞つき
前置詞無しで -ing形が続くもの。見事にGB祭りの様相を呈しています。
TVコーパスで前置詞つき
前置詞無し
網掛けの色が濃いのは英文化圏。
NOWで前置詞つき
前置詞なしで -ing形がつづくもの。
このNOWは精査する価値、意味のある検索結果ですね。
Ngram Viewerでも見ておきましょう。
まずは、一番知りたいのはこういうこと。
どれが「普通」なのか?
現代英語の書き言葉としては、
- there is no point in trying > it is no use trying > there is no point trying >it is no good trying > it is of no use trying
というのがおおまかな目安。
Ngram Viewerでは、縮約形は開いた形にまとめられてしまうので、"there's” や "it's" の内訳はわかりません。
これをベンチマークにして以下を確認。
Softmatchaのデモでのコロケーション比較
there + is + no point で見てみます。
isの縮約無しで前置詞inつきでtrying
3159とこれが最もヒット数が多い。
is 縮約でthere'sで前置詞inつきのtrying
460と激減。
is 縮約で there’s で前置詞無しでtrying。
305とさらに数字が小さくなりました。
縮約無しで前置詞無しのtrying
1132と、そこそこのヒット数。inがあるものと比べて3分の1程度ですが、縮約がなければ「省略は稀」、というわけでもなさそうです。上述の『…ハンドブック』の記述とは異なりますね。
縮約アリで there’s で前置詞つき
これだと40ヒットですから、ノイズ程度でしょうか?ここで 縮約アリの前置詞ナシのヒット数が309というのは、上述の305と4つ差があることに気がつきます。
SoftMatchaの「ダブり」などの扱いは、まだまだ、一次ソースに当たって検証しないとわからないことが多いです。
ものはついでで、it is no use trying 界隈も見ておきましょう。
縮約ナシ、前置詞ナシ
718ヒット。
縮約アリでit’s no use trying
216ヒットで、縮約ナシの3分の1以下。
it is of no use trying
tryingは僅かに87ヒット。この結果での7.は不定詞が続きそうな予感で、2722ヒットしているので、不定詞で検索すると…
to try が158とヒット数倍増の勢いです。
ということで、学参や問題集でも、辞書でも分からない「使用実態」「使用頻度」を推測してみた次第。
書き換え問題で同意と見做してその知識を仕込んだり問うたりするのではなく、使用頻度には差があることを少なくとも弁えておくのがいいように思います。
テストでの出題でもスピーキングやライティングで解答として求める場合には、その生息域や頻度の差には配慮が必要かと。
本日はこの辺で。
本日のBGM: Context (川田十夢)





















