このブログの以前の記事で、
- 「AするとすぐにB」
界隈を深堀りし、類義表現の使用頻度や生息域などを比較したものがあります。
upgrade your skills and knowledge
tmrowing.hatenablog.com
この日のタイトルは、文法語法の問題集である某書の捩りですね。
季節の風物詩ではありませんが、現在の出講先の教材で関連表現がでてきたので、重複する部分はありますが、再度取り上げ、英語の実態と、教材やテストでの扱いを考え(直し)たいと思います。
- 「AするとすぐにB」のバリエーション
まずは「日本語」の段階で、
- 家を出るとすぐに、雨が降ってきた。
- 家を出た途端に、雨が降り出した。
- 家を出るやいなや、雨が降り出した。
- 家を出たか出ないかのうちに、雨が降り出した。
の違いを感じ、使いこなせているなら、以下の英語表現も、吟味する価値はあるでしょう。
a. As soon as I left home, it started to rain.
※基本形。まずこれを押さえる。主節からでも書き始められることは大事な力。ただし、この表現では時間差にはかなりの幅があることを踏まえておく。
b. On leaving home, it started to rain.
※ くだけた会話では低頻度なので、この意味内容を表すには少し堅い印象を与えるが、改まった会話や書き言葉では一般的表現。onの代わりにuponを使うこともあるが、文語調。-ing形の場合には、意味上の主語をつけずに使うのが基本。「on は接触」と説明されることが多いが、時間差がないことをそれほど強調しないことに注意。単純に when -ingと同意とみなす人も多い。
cf. pay the bill on leaving 帰る時に勘定を払う (G6)
※注意が必要なのは、次のような例。( )での補足情報が適切な文脈を示している。
The victim was pronounced dead on arrival (at the hospital).
その犠牲者は(病院)到着時に(すでに)死亡と宣告された (研究社英和活用大辞典)
c. The moment [instant / minute] I left home, it started to rain.
※momentはもともと名詞で「瞬間」という意味。a, bに比べて、二つの行為や出来事の連続性を強調して、時間のギャップのないことを表せる「生々しさ」を持つ。その分、よりインフォーマルに。
d. When I left home, it started to rain at once [immediately].
※公式でもなんでもない、語句普通の言い回し。主節、従節を入れ替え、It started to rain immediately after I left home. とパラフレーズは可能だが、情報の提示順が異なると、臨場感は薄れ、表現効果も減るので、あくまでも説明の表現と捉えるのが吉。
e. No sooner had I left home than it started to rain.
※このno sooner /than は通例倒置で使われる。日本の教材では、基本形を学んでから倒置形を学ぶ、というのが伝統的な流れなので、この表現形式も、いちいち基本形に直して説明されることが多い。時制は過去でも、現在、これからでも可能。この例文のように過去文脈のときの時制で、時の上流に当たる過去完了のhad left の部分に単純過去形の leftを使う人は英語ネイティブは結構たくさんいる。さらには、soon 本来の副詞の語義が no soonerになって薄れたのか、No sooner than I left と倒置はどこに行った?と文句のひとつも言いたくなるような表現形式を用いる英語ネイティブもいる。
f. Immediately [Directly] I left home, it started to rain.
※英和辞典の語法注記でも、英系語法とまとめられることが多い、副詞の接続詞転用。英米ともに、directlyという語を単独で接続詞として使うことが低頻度という印象。immediatelyは今でも、一般的な表現。頻度としては、eよりも高いだろうと思われるが、入試では殆ど出題されない。
g. I had hardly left home when it started to rain.
h. I had scarcely left home before it started to rain.
※hardlyもscarcelyも、倒置よりも、この基本形の方が高頻度。COCAだとhardly + when : hardly + before = 4 : 1 位の比率で優勢だが、副詞X接続詞の組み合わせは多様。 e.の no sooner /than との混交で、このhardlyやscarcelyとthanを一緒に使う英語ネイティブもいるが、日本の辞書では「避けた方がよい」という助言を与えているものが多いだろう。e.と違い、過去文脈でも主節を過去形で使うことは少ない。
COCAでレジスター比較
hardly/when
![]()
hardly/before
scarcely/when
scarcely/before
GLOWBEで地域差・文化差を推察
hardly/when
hardly/before
scarcely/when
scarcely/before
i. Hardly had I left home when it started to rain.
j. Scarcely had I left home before it started to rain.
※倒置。入試頻出といわれるが、ほぼほぼ小説で使用される表現形式。
日常の相対的使用頻度はアカデミックな領域でも極めて低いことに注意。改まり度が高い表現形式なので、この文意程度ではちょっと不自然。上述のwhen以下の制約を気にする人は、次のような英文(入試問題からです)は不自然に感じるかもしれません。
- (△) Hardly had he left the room when he burst into laughter. 彼が部屋を出るやいなや、どっと笑い出した。
許容できるとすれば、主語が三人称での描写文であること、burst into は「自分で押さえていたものが堰を切って出る」ようなときにも使うので、自らの選択による積極的な行動ではないこと、またburst into laughter はburst out laughingよりも少し堅い印象を与えること、という合わせ技によるものでしょうか。同じ入試問題でも、次のような内容程度の英文を倒置で書くのは感心しません。
- (△) Hardly had we reached the cottage when it began to rain. 山小屋に着くとすぐに雨が降り出した。
大学入試でも、読解素材文で出てくるのは稀。
By 1932 Amelia felt ready to attempt the transatlantic challenge. There were difficulties early on in her flight; hardly had she left Newfoundland when clouds and ice on her wings threatened to put an early end to her attempt.
(1932年までに、アメリアは大西洋横断の挑戦に挑む準備が整ったと感じていた。飛行の初期段階で困難が生じた。ニューファンドランド島を離陸したばかりの時、翼に付着した雲と氷が彼女の挑戦を早期に終わらせかねない状況に陥った。)
COCAで文頭・句頭の環境で、倒置の形式での比較
hardly had + 代名詞 + -ed/en形 when
hardly had + 代名詞 + -ed/en形 before
scarcely had + 代名詞 + -ed/en形 when
scarcely had + 代名詞 + -ed/en形 before
![]()
過去完了形だけでなく、主語が代名詞という縛りはありますが、倒置形の頻度が少ないことがわかるだろうと思います。受験指導をメインにしている英語指導者や教材作成者は、「読んでわかればいい表現」と言うだけでなく、「入試では倒置形が狙われる」とまで言って重要度を指摘したりしますが、上記のような検索結果を踏まえれば、その英文を「誰が、いつ、どこで読むのか?」も併せて考える必要がありそうです。
「入試頻出」などと言われたりしますが、その実は単文での空所補充完成や、連立文動詞での書き換え完成が殆ど。
酷いものになると、読解本文では、
In consequence, the changes in what is seen in the sky are simple and periodic: the moon regularly waxes and wanes, the sun and moon and stars seem to revolve once a day around the celestial pole, and the sun traces a path through the same constellations of stars every year, those of the zodiac. Even with crude instruments these periodic changes could be and were studied with a fair degree of mathematical precision, much greater than was possible for things on earth like the flight of a bird or the flow of water in a river.
となっている英文の “much greater than was possible” のthanに下線を引き、「同じ用法のthan」を選ぶ設問の選択肢に、当該表現を放り込んでいたりします。
1 I like you better than he does.
2 Scarcely had I left than it began to rain.
3 This is a fundamentally different approach than is used on paper-and-pencil tests.
4 We have more apples than could be eaten in a day.
出題者は、正解は「疑似関係代名詞」として使われるthan の用法で4と想定して出題しているのではないかと推測されますが、”than” の用法、という括りで言えば、米国語法では比較級に相当するdifferentに続くthanの3.も、この環境では「疑似関係代名詞」として使われていると考えられるので、このthanを問題文や、選択肢の4と区別する基準は、thanに先行する語が、純粋に形容詞の比較級であるか、比較級相当であるか、という部分に移りますから、thanそのものの用法分類で識別することにはなっていないという印象です。
さらには、錯乱肢の2には、上述のg & h で言及した、
- Scarcely had I left than it began to rain.
というscarcelyとthanの混交語法が使われていて、ただでさえ低頻度のscarcelyを含み、しかもthanとの混交文が前後の文脈なく使われていて、「この混交語法の知識がない高校生、受験生にとっては錯乱肢として機能しない」という意味でも、問題があるように思います。
因に、上記出題の文章の出典は
筆者はSteven Weinberg (スティーヴン・ワインバーグ)で、当時76歳。
世代差を考える上でも、この執筆時の年齢って結構大事だと思います。
上記リンク先のワインバーグ氏の略歴がこちら。
Steven Weinberg (1933–2021) taught at the University of Texas, Austin. He was awarded the Nobel Prize in Physics and the National Medal of Science.
ここまでの「内容」をソースとしてNotebookLMにスライドにしてもらいました。
「はてなブログ」はpdfを直に貼れない仕様なので、noteの方にも記事を作って、そちらで公開し、そのリンクを貼っておきます。
生成AIは間違うことがありますので、その点を踏まえて上でお楽しみ下さい。
「AするとすぐにB」の表現に見る、英語の距離感とドラマ
本日はこの辺で。
本日のBGM: C調言葉に御用心 (サザンオールスターズ)
※2026年2月1日追記:
大学入試問題での語彙語法の扱いには改善が求められると思います。
上述の「混交語法」にしろ、「倒置」の用法にしろ、それを英語力のどこに位置づけているのか、が不明なものは、教育現場から指摘していかないとダメでしょう?
例えば、次のような出題。
AとBが同意となるように「最も適切なもの」での所補充完成を求めるものです。
A. As soon as I glanced at the letter, I found it to be what I had wanted.
B. ( ) I glanced at the letter than I found it to be what I had wanted.
- ア) Given that
- イ) Hardly had
- ウ) No sooner had
- エ) Scarcely had
出題側が想定している正答はウでしょう。ただ、一文で、しかもこの長さなのに、倒置を求めるナンセンスさもそうですが、「混交語法」を使う文化圏で育った受験生は、イの hardlyやエのscarcelyにthanが続くことに違和感を持たないでしょうから、正答が3つあることになります。それを踏まえて、「最も適切なもの」を見極めろと?
入試問題から、低頻度の "scarcely" 倒置で完成する英文を拾ってみましょう。便宜上、私が番号を振っています。和訳はKagi Translateの初手のものをそのまま使っています。
1. Scarcely had I started when it began to rain. 始めた途端に雨が降り出した。
2. Scarcely had she graduated when she got married. 彼女は卒業するとすぐに結婚した。
3. Scarcely had he run out before the building collapsed. 彼が飛び出した途端、建物が崩れ落ちた。
4. Scarcely had the men begun considering the solution when an aid came in. 男たちが解決策を考え始めた途端、助手が入ってきた。
先行文脈も不明なのに、なぜ倒置という技巧を使う必然性があるのか、全く分かりません。
さらには、英文の意味内容の不明さ・曖昧さ加減。
1. でKagi訳は "started" を「始めた」としていますが、「出発した」という意味に限定する先行文脈がありませんので、無理もありません。
2. でも「彼女の学業」と「その後のプラン」などがないと、この文でいったい何を伝えたいのかが分かりません。
3. 「彼」は誰?「建物」はどうして崩れ落ちたの?など、「物語」の中にでも配置して初めて意味を持つ文でしょう。
4. この一文しか与えられていないので、何を言っているのかよくわからない。the menとthe solutionの定冠詞の背景がわからなければ、when以下の an aidの意味も決められません。Kagi訳で「助手」となっているのは "an aid" を人だと推測したのでしょう。
次期学習指導要領を策定している方たちも、日本の英語教育の成果の上がらなさを批判する方たちも、こういう下らないところにエネルギーを割くことを止め(させ)てから、高校現場の英語教育に注文をつけて欲しいものです。









