以下の内容はhttps://tmrowing.hatenablog.com/entry/2026/01/25/123549より取得しました。


「裸の王様たちのメッセージ」

前回の「気になる語法」で取り上げた

  • 他動詞のrisk

は例によってあまり反応がありませんでした。

tmrowing.hatenablog.com

成句として扱われる
run a risk
take a risk
の異同に関して蛇足ながら、巷の教材での扱いを取り上げ、私の問題意識をもう少し明確にしておきます。

旺文社の『スクランブル英文法・語法』 (第5版、2025年) では、pp.378-379で出てきます。

Don’t be afraid to tale chances and risks.
一か八かやってみることを恐れるな。 (芝浦工大)

という英文を完成させるもので、解説では

be afraid of 〜 「〜を恐れる/…を怖がる」
語句 take a chance [chances] = take [run] a risk [risks]
「一か八かやってみる/危険を冒す」

という扱いで、run a risk関連の用例は出てきません。イコールの記号と訳語の両方で見直しが必要でしょう。

『英熟語最前線1515』(研究社、2024年)では、p.82で

run the risk of doing /take the risk of doing
〜する危険を冒す

という見出し項目で、この二つの表現が同意であるという扱いをしています。さらには、

Actors who speak out on political issues run the risk of losing fans.
政治問題について率直に意見を述べる俳優は、ファンを失う危険を冒すことになる。

という用例と訳語を示していて、「危険を冒す」の重力、磁場からは逃れられていません。

『大学入試飛躍のフレーズISIOMATIC 300』(アルク、2024年)では、学参レベルでは類書がないくらい、かなり詳しくrisk界隈を扱っています。(項目の232、pp.272-273)

run [take] the risk of doing (〜する危険を冒す)

という成句を取り上げて、

「run the riskは『riskがありながらも』」、「take the riskは『あえてリスクを冒す』」

と、その意味の差に言及してはいるものの、「基本的に同意表現と考えてよいだろう」と結んでいます。
また、同じ項目で動詞のriskの語義について注意喚起をしていて、数少ない良書といえるのですが、

「〜リスクを冒す」、「(危険なことを)あえてする」

という訳語の重力の強さを物語っています。

『ランク順 入試英熟語1100 (改訂版)』(学研、2025年)では、pp.318-319で

take a risk [risks] (あえて)危険を冒す

を見出し項目としています。
解説には

takeを用いると「覚悟して危険を冒す」/成り行き上「危険[恐れ]がある」という場合にはrun」

という適切な記述がとても小さな文字で付け加えられているのですが、runを使った用例は収録されていません。因に、同著者陣による『…英単語2300』(学研、2025年)に収録されているriskは名詞だけ、しかも「危険」という訳語がついているだけで、文でも句でも用例はありません。

『英検2級単熟語EX (第2版)』(ジャパンタイムズ、2023年)は、pp.206-207でriskを取り上げています。riskという見出し語と同じ頁に

名 危険(性)
動 〜を危険にさらす
形 risky 危険な

と派生語も含めて訳語をあげ、見開きの右頁には

The risk of having a heart attack increases with age.
心臓発作を起こすリスクは年齢とともに高くなる。

という適切な用例と和訳を示していますが、動詞のriskに対応する用例は無し。

『改訂版 鉄緑会 東大英単語熟語 鉄壁』(Kadokawa、2020年)では、p.171でピクトグラム入りでrisk界隈を取り上げています。他動詞としての訳語は「〜を危険にさらす;〜の危険を冒す」にとどまっています。成句としては

run the risk of doing 「〜する危険を冒す」
take a risk 「一か八かやってみる」

と意味の違いを示していて、文用例として

If you don’t stop smoking you run the risk of developing lung cancer.

という適切なものを示していますが、その訳語は

「煙草を止めないと、肺癌になる危険を冒すことになる」

となっていて、「危険を冒す」の重力がいかに強いかと窺わせるに十分です。
因に、この頁にあるriskのピクトグラム(図解)は、

  • 政村秀實 『図解 英語基本語辞典』(桐原版は1989年、アドスリー版は2019年) のものと酷似しています。

ちょっと古い辞書になりますが、
Longman Language Activator (第2版、2002年)では、
take a risk は項目の3

  • to do something even though there is a risk

の中に入っていて、

  • to decide to do something even though you know that something bad or harmful might happen as a result

と定義されていて、
run a riskの方は項目の6

  • when you are in a situation where there are risk

に入っていて、

  • to be in a situation where something had might happen to you, especially because of something you do

と定義されています。

その項目の用例で着目すべきは、

  • Men run a greater risk of dying from heart disease than women.

でしょう。便宜上Kagi訳を。

  • 男性は女性よりも心臓病で死亡するリスクが高い。

主語は人ですが、限りなく「ことがら」を意味している例です。この環境でrunをtakeに置き換えることはできません。

この辺りをGeminiとやり取りした最後の回答をそのまま示しておきます。

他動詞の **risk** は、後ろに**名詞(目的語)**または**動名詞(-ing)**をとります。
文法的には `Subject + risk + Object/-ing` の形になります。

心臓病という文脈において、他動詞の *risk* は「(結果として)~という事態を招く恐れがある」「~という危険に直面する」という意味になり、元の *run a risk* のニュアンスを非常によく保つことができます。

文脈やニュアンス別にパラフレーズ候補を挙げます。

    • -

### 1. 最も標準的・一般的な表現(Standard / Neutral)

"Men risk dying from heart disease more than women (do)."**

**構造:** `risk + -ing`(動名詞)

**解説:** 最も汎用性が高く、現代英語として自然な形です。ここでの *risk* は「~という結果になる恐れがある」という意味です。

**適用:** 日常会話からニュースまで幅広く使えます。

**地域:** アメリカ、イギリス、オーストラリア等、地域を問わず通じます。

### 2. フォーマル・硬い表現(Formal / Written)

"Men risk death from heart disease to a greater extent than women."**

**構造:** `risk + Noun`(名詞)

**解説:** "dying"(死ぬこと)を "death"(死)という名詞にし、"more" を "to a greater extent"(より高い程度で)と言い換えています。

**適用:** 医療レポート、論文、公式な文書など。

**ニュアンス:** 事実を客観的に述べている響きがあり、感情的な要素が排除されています。

### 3. カジュアル・口語的な表現(Casual / Spoken)

**構造:** `risk + Compound Noun`(複合名詞)

**世代:** 若い世代や、SNS、ブログのタイトルなどで好まれる、簡潔でパンチのある表現です。

### 4. 強調・警告のニュアンス(Emphatic / Warning)

"Men risk a fatal outcome from heart disease more often than women."**

**構造:** `risk + Noun Phrase`(名詞句)

**解説:** 単に「死ぬ」と言うのではなく、"risk a fatal outcome"(致命的な結末を招く恐れがある)とすることで、事態の深刻さを強調しています。

**適用:** 医師からの警告や、健康啓発キャンペーンなど、「このままだと危ない」というニュアンスを強めたい場合。

### 5. 比較の焦点を変えた表現(Structural Variation)

"More so than women, men risk premature death due to heart disease."**

**構造:** 副詞句の前置 + `risk + Noun`

**解説:** 文頭に "More so than women" を持ってくることで、性差を強調しています。また、単なる "death" ではなく "premature death"(早期死亡=寿命より早く死ぬこと)とすることで、現代の予防医学的な文脈(生活習慣病など)によく合う表現になります。

    • -

### 補足:他動詞 "risk" の特異性

質問者様が最初に指摘された「run は受け身的なリスク(罹患など)」、「take は能動的なリスク(冒険など)」という区別に対し、**他動詞の "risk" はその両方の文脈で使えてしまう**という便利な(しかし文脈依存の)性質があります。

1. **能動的:** He **risked** his entire fortune on the stock market.(彼は全財産を賭けた=take a risk)
2. **受動的:** Smokers **risk** developing lung cancer.(喫煙者は肺がんになる恐れがある=run a risk)

今回の「心臓病」のケースは上記 **2** の用法にあたります。そのため、`risk` 一語でパラフレーズしても、"take a risk" のような「自ら進んで死のうとしている」という誤解を与えることなく、自然な現代英語として受け入れられます。

Geminiが最後にあげた「他動詞 “risk” の特異性」というところが、私の当初の問題意識を的確に言語化してくれています。深謝。

私が

  • 「単語集」で、範囲を決めて小テスト

という語彙指導(学習)に批判的・否定的なのは、このような語義と生息域を反映し難く、学習者に実感させ難いからでもあります。


ついでというには、分量が多くなりますが、過去の「気になる語法」で取り上げた項目の補足もこの機会に。
所謂「ロイター語法」の扱い。
元記事はこちら。

tmrowing.hatenablog.com

・主節の主語と伝達部の主語が同じという環境で、伝達部の主語が省略される
・主節の主語と伝達部の主語が同じという環境で、伝達部に不定詞を含む述部があると、伝達部の主語とbe動詞が省略される
という現象が多くみられることは事実なのですが、原理原則をそれだけにまとめて一般化し切れないのは、少数ではあれど、形容詞impossibleやappropriate、さらにはfitなどではSV抜きで被伝達部に現れることがあるから。このような被伝達部は、通例<it is 形容詞 to 原形>となるものなので、不定詞の意味上の主語と、主節の主語は一致しないことになります。

「ロイター語法」のバリエーションでimpossibleの例をロイターで。

Man Utd's Amorim says impossible to replace injured Fernandes, others must 'step up'

(マンチェスター・Uのアモリム監督談「負傷したフェルナンデスの代役を立てることは不可能、「他の選手がステップアップしなければならない」。」

この用法はアラブニュースにも拡がっています。

Syria says impossible to move forward in talks without clear binding timeline for Israeli withdrawal

(シリアは、イスラエル撤退の明確で拘束力のある時間枠なしでは、協議を前進させることは不可能だと述べた。)

appropriateの例をロイターの見出しで。

Levin says appropriate to probe ratings agencies
jp.reuters.com

記事本文での該当部分は次の一節の最後の一文。

"The hearings held by the Permanent Subcommittee on Investigations and our subsequent report documented reckless actions and significant conflicts of interest on the part of the credit rating agencies that contributed to the financial crisis," Levin told Reuters in a statement.
"It is totally appropriate for U.S. law enforcement agencies to review that sad record," he said.
「常設調査小委員会が実施した公聴会と、その後の報告書は、金融危機の一因となった信用格付け機関による無謀な行為と重大な利益相反を記録しました」と、レビン氏はロイターへの声明で述べた。
「その悲惨な経緯を米国の法執行機関が精査するのは、まったく妥当なことです」と同氏は語った。

過度の一般化/単純化を避けて、一つ一つ丁寧に英語表現を見て行くことの重要性を再度訴えておきます。

もう一つ「気になる語法」で取り上げた英語表現から。

  • to be clear

をしつこく。
もともとはツイッターで2022年くらいから「辞書では扱われていない」として、小出しに指摘して紹介していたものを、2023年の「英語コーパス学会」のシンポジストとして招かれた際に発表し、その後ブログ記事にまとめていました。

To be absolutely clear, ….
tmrowing.hatenablog.com

そこからさらに関連表現の 

  • let’s be clear

界隈をまとめたものがこちら。

謎をといてみせてよ
tmrowing.hatenablog.com

そこに補足するとすれば、前回の記事でツイートの引用だけをしていて、解説を加えていなかった、

  • let me be direct

でしょう。カナダのMark Carney首相のスピーチからの引用でした。

ここでは、縮約形の “let’s” ではなく、”let me” で一人称単数での使用となっています。

次は、San Francisco Community Health Centerの公式サイトから。

To our donors: your support now matters more than ever. It is the difference between reactive policy and proactive resistance. Your giving fuels the grassroots, the organizers, the policy strategists, and the programs and services that make survival possible. If you’ve ever wondered whether your donation made a difference, let me be direct: it does. It always has. And now it must.
www.sfcommunityhealth.org

Kagi訳

ご支援者の皆さまへ:いま皆さまのご支援は、これまで以上に重要です。受け身の政策と、先手を打つ抵抗との分かれ目になるからです。皆さまのご寄付は、草の根の活動、オーガナイザー、政策立案の戦略家、そして生き抜くために不可欠なプログラムやサービスを支えています。ご自身のご寄付が本当に役に立っているのか迷われたことがあるなら、率直に申し上げます——役に立っています。ずっとそうでした。だからこそ、今まさに必要なのです。

因に、この声明の冒頭の段落はこう始まっています。

Dear Community, Partners, and Supporters,
Let’s be clear: what passed in Congress is not a budget bill. It’s a declaration of disregard. It is a targeted assault on the lives, dignity, and futures of millions of people, predominantly Black, brown, LGBTQ+, and low-income communities. What they’re calling “fiscal responsibility” is, in fact, a deadly rollback of essential care and public support. Medicaid is our nation’s largest HIV care provider, a cornerstone for trans health equity, and a vital safety net. It is under attack. And we will not sit quietly.

Kagi訳

コミュニティの皆さま、パートナーの皆さま、ご支援者の皆さまへ
はっきり申し上げます。今回議会を通過したものは予算法案ではありません。無視の宣言です。これは、数百万人、主として黒人・褐色人種・LGBTQ+・低所得のコミュニティの人々の命と尊厳、未来を狙い撃ちにした攻撃です。彼らが「財政責任」と呼んでいるものは、実際には不可欠なケアと公的支援を致命的に後退させるものです。メディケイドは、わが国最大のHIVケア提供者であり、トランスの健康の公平性を支える要であり、極めて重要なセーフティネットです。今、それが攻撃されています。私たちは黙って見過ごすことはしません。

“let’s be clear” が出てきましたね。

“let me be direct” の形容詞のdirectにさらにその内容やテーマが続くことがあります。
2022年9月のバイデン大統領(当時)の国連でのスピーチから。

Let me be direct about the competition between the United States and China. As we manage shifting geopolitical trends, the United States will conduct itself as a reasonable leader. We do not seek conflict. We do not seek a Cold War. We do not ask any nation to choose between the United States or any other partner.
uy.usembassy.gov

Kagi訳

米国と中国の競争について、率直に申し上げます。地政学的な潮流の変化に対応していく中で、米国は分別ある指導者として行動します。私たちは対立を望みません。冷戦も望みません。また、どの国にも、米国かその他のパートナーかの二者択一を迫ることはありません。

オンラインコーパス等で、関連表現を含め、どのくらい反映されているか見ておきましょう。
NOWコーパスで。

clearが段違いの頻度で、directはほとんど拾えていませんね。

Ngram Viewerでlet me be clearも含めて。

let me be clearを除いてみると

山あり谷あり。
独立不定詞の関連表現も併せてざっくり。

こうして眺めてみても、

  • to be fair

  • to be clear

の頻度がいかに高いかが分かろうというものです。
特に、後者の "to be clear" を辞書や教材で適切に扱って来なかったのは猛省すべきでしょうね。
もし、これから辞書で “to be clear” を収録しようというのであれば、ただ単に、項目を立てて訳語を当てて、用例を載せるだけでなく、私が過去ログで指摘した次のことがらを含めて適切に扱って欲しいと切に願うものです。

あの日、2023年の「英語コーパス学会」のシンポジウムの場にいた人には分かってもらえると信じています。

本日はこの辺で。
本日のBGM: 裸の王様 (Love Psychedelico)

open.spotify.com




以上の内容はhttps://tmrowing.hatenablog.com/entry/2026/01/25/123549より取得しました。
このページはhttp://font.textar.tv/のウェブフォントを使用してます

不具合報告/要望等はこちらへお願いします。
モバイルやる夫Viewer Ver0.14