まずはセミナーの告知から。
2025年11月3日(月・祝)
14:00-16:30
「英語辞書の活用法&現代英語の語法を診る」
passmarket.yahoo.co.jp
- なぜこんな時期に辞書活用法のセミナーを?
と訝る方もいるかと思いますが、一因はLDOCEです。
私はLDOCEの第6版のアプリ版を使用中。オンライン版にも第6版の内容が反映されています。
ただ、この元版の紙版の辞書も既に10年改訂されていません。
マクミランの例を見てきただけに心配で先日ピアソンに問い合わせていた回答が来ました。残念ながら現時点で第7版の改訂の計画はないとのことでした。
「改訂中なので気長にお待ちを」などという回答ならまだ良かったのですが、「改訂の計画もない」ということなので、LDOCEはこのまま第6版が最後となるのではないかと危惧しています。第6版が出版物として残るとしても、改訂されなければ、当然古くなり、現代英語の語義用法との隔たりが出る、拡がるのは避けられません。
ということで、辞書をお持ちの方、これから買おう、買い揃えようという方たちに、辞書の特徴・特長を知ってもらい、フル活用するためのあれやこれやをお伝えし、さらには、「もうすっかり変わった英語の実態」「今、まさに変わりつつある現代英語の語法」を受講者の方と「診る」機会を作ろうと思ったわけです。
これまでにも、定期的に「英語の辞書活用法」のセミナーを開催していますが、次の写真で示すような内容とレベルは既に通過している、という方たちは受講層として想定しておりません。
- 紙と活字の辞書
- 電子辞書
- アプリ辞書
を学習者・指導者として使い、制作のお手伝いもしてきた経験から有益な内容をお届けしています。
辞書活用法の基礎基本と言えるラインナップ。
この中では上段真ん中の関山本が新しいのですが、それでも2017年です。「複数の辞書を引き比べる使い方」には向かないという記述があったりします。物書堂のアプリ辞書もまだ出始めで、統合アプリが整っていない頃ですから、その記述もまあ、わからなくもありませんが、現状は寧ろ、引き比べにこそ物書堂のアプリ辞書の出番でしょう。
昔は欧米の辞書を日本の代理店契約出版社が販売し、日本独自の活用ガイドをつけるのが「慣わし」でした。私も随分お世話になりましたが、まさに今は昔。左上の小室夕里先生執筆のWorkbookは有料別売の優れた市販本です。COBUILDの第3版は21世紀の大改訂でしたが、その前の第2版に基づくハンドブックと言えるのが右下の松本本(市販新書)です。絶版ですがCOBUILD読みのCOBUILD知らずにならないためにも、是非とも通過しておきたい一冊ですね。
1980年代〜2000年代の市販本。初学者用から指導者向けまでさまざまなものがありました。
セイコーインスツルが紙(と活字)版の辞書をまるっと電子辞書に取り込んだのが1992年くらいの製品ですから、この時代 (=20年間くらい) は、中高生は紙(と活字)の辞書を購入するのが一般的で、電子辞書はまだ、一般の実務家、研究者、指導者が主として使っていた、という感じでしょうか。
最後は回顧録的な一枚。アカデミックな月刊誌で特集が組まれたり、翻訳実務最前線の方たちの目利きが披露されたり、辞書出版社ならではの機関誌が発行され続けていたり、単行本が文庫化されたり、達人の伝記が商品として読めたりと良い時代だったなぁと…。
一つ、私が寄稿している『ぶっくれっと』(三省堂)ものも入っています。
先ほどの写真の中の今はなき『英語青年』の特集号は1981年の4月。
英語教育というよりも、英文学、英語学の大御所が寄稿、座談しています。
「語義と生息域」と普段言っている私としては、唐須教光氏の論文など、今でも、読み返す価値のあるものだと評価しています。
学習用の英語辞典はISEDが英国に引き継がれてALD・OALDとなり世界展開。その後、英和独自で発展する中、英英はLDOCEでの新機軸、コーパス準拠のCOBUILDの衝撃を経て、語法記述に強い、独自コーパス利用、インフォーマント活用の英和と充実期を迎えています。 そんな歴史もセミナーではお話しできます。
英語の指導者に限らず受講可能です。スケジュールの都合をつけて受講する価値あるセミナーになると思いますので、よろしくお願い推します。
コロナ禍で始めた「英語ニュース引用RT140字紹介&詳解」でも、「気になる語法」を数多く取り上げてきましたが、ニュースの中身も、英語表現以上に重要なのです。
出講先の高校の授業で、所謂「分詞」を扱う際に、次の英文を取り上げました。
- … and may they return unharmed.
高校生は祈願文に慣れていないでしょうから、その簡単な説明をした後で、主格補語的な過去分詞由来の形容詞unharmedを語形成も含めて解説。
- 「…で、これって何の話?」
と振って、トラッカーの写真も見せたのですが、この背景となるグローバル・スムード船団の状況を知っている人は1割にも満たなかった(=指折り数えても片手で余る)、というのが現実です。
元ツイはこちら。
🙏 Praying for the safety of everyone on board Mikeno. The uncertainty is worrying, but we hope all activists from Brazil, Türkiye, Netherlands, Norway, USA, and Spain remain safe. Stay strong, and may they return unharmed. 🕊️💙
🙏 Praying for the safety of everyone on board Mikeno. The uncertainty is worrying, but we hope all activists from Brazil, Türkiye, Netherlands, Norway, USA, and Spain remain safe. Stay strong, and may they return unharmed. 🕊️💙
— Mohammad Mojahidul islam (@Mojahid25307M) 2025年10月2日
(Grok訳: ミケノ号に乗船中の皆さんの安全を祈っています。不確実さが心配ですが、ブラジル、トルコ、オランダ、ノルウェー、米国、スペインからのすべての活動家が無事であることを願っています。強くいてください、そして無傷で戻ってきてください。)
船団を追ったトラッカーの画像が見られるGlobal Sumud Flotillaアカウントのツイがこちら。
Update on Mikeno: CC GSF can’t confirm its status. AIS shows it in Gaza waters, but its route is unusual. Locals can’t see it, and it’s unclear if participants are still onboard.
— Global Sumud Flotilla (@GlobalSumud) 2025年10月2日
The vessel carries activists from Brazil, Türkiye, Netherlands, Norway, USA, and Spain. We hope… pic.twitter.com/BScYcsQsEi
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その現実から一夜明けて、今朝方の私のRTがこちら。
Palestinian boy Mohammed Al-Yazji was rescued from the rubble of his destroyed home in Gaza City. Covered in dust and bruises, he reassured his rescuer in a trembling voice, saying ‘I’m okay.’
Palestinian boy Mohammed Al-Yazji was rescued from the rubble of his destroyed home in Gaza City. Covered in dust and bruises, he reassured his rescuer in a trembling voice, saying ‘I’m okay.’ pic.twitter.com/WpUe8C4iuN
— Al Jazeera English (@AJEnglish) 2025年10月3日
私の紹介&詳解の引用RTがこちら。
全国の高校生諸君は、このツイートで
- ing形 (所謂「現在分詞」)
- ed/en形 (所謂「過去分詞」)
の使い方を確認しましょう。
分詞構文とか仰々しいラベルを貼ってわかったつもりになるのではなく、実例をその生息域で観察することが重要です。全国の高校生諸君は、このツイートで
— Takashi “即時停戦” Matsui (@tmrowing) 2025年10月3日
-ing形 (所謂「現在分詞」)
-ed/en形 (所謂「過去分詞」)
の使い方を確認しましょう。
分詞構文とか仰々しいラベルを貼ってわかったつもりになるのではなく、実例をその生息域で観察することが重要です。 https://t.co/h55lxdTWmD
そのツイに140字で補足したものがこちら。
was rescued では過去形の受け身
his destroyed home では名詞の前置修飾
Covered in dust and bruises, he reassured his rescue では副詞句(=分詞構文)を構成する受け身の-ed/en形
in a trembling voice は名詞の前置修飾の-ing形
, saying I’m okay は付帯状況を表す副詞句(=分詞構文)の-ing形was rescued では過去形の受け身
— Takashi “即時停戦” Matsui (@tmrowing) 2025年10月3日
his destroyed home では名詞の前置修飾
Covered in dust and bruises, he reassured his rescue では副詞句(=分詞構文)を構成する受け身の-ed/en形
in a trembling voice は名詞の前置修飾の-ing形
, saying ‘I’m okay は付帯状況を表す副詞句(=分詞構文)の-ing形
この2つのツイートは英語指導者のフォロワーさんたちがもっとRTするかな、と期待していたんですけどね…。
ということで今日の気になる語法は
- unharmed /safe
界隈。
授業で “unharmed” を取り上げたときも、
- 発達段階で恐らく最初に覚える形容詞は “safe” でしょう。
という話しはしています。
COBUILDの初級だと、形容詞の safeは次のような扱い。
safe
1. [A2] not dangerous
- We must try to make our roads safer.
2. [A2] not in danger
- Where’s Sophie? Is she safe?
COBUILDらしさは微塵も感じられませんね。
これがCOBUILDの中級になると
1. ADJ
Something that is safe does not cause physical harm or danger.
- Should we trust our government to decide which foods are safe?
- The beaches are excellent and safe for swimming.
2. ADJ AFTER LINK-V
If someone or something is safe, they are not in danger of being harmed or damaged.
- Crime Prevention Officers can visit your home and suggest ways to make it safer.
- Where is Sophy? Is she safe?
と単なるdangerから踏み込んで、harmやdamageとの関わり、重なりも見えてきます。
これが第10版になると、
1. [A2] ADJ
Something that is safe does not cause physical harm or danger.
- Officials arrived to assess whether it is safe to bring emergency food supplies into the city.
- Most foods that we eat are safe for birds.
- ...a safe and reliable birth control option.
2. [A2] ADJ [v-link ADJ]
If a person or thing is safe from something, they cannot be harmed or damaged by it.
- [+ from] In the future people can go to a football match knowing that they are safe from hooliganism.
3. [A2] ADJ [v-link ADJ]
If you are safe, you have not been harmed, or you are not in danger of being harmed.
- Where is Sophy? Is she safe?
となり、語義用法の細分化が進んだことが窺えます。
形容詞safeを含むイディオムでは、
- safe and sound
はお馴染でしょう。
PHRASE 無事安全に
You say that someone is safe and sound when they are still alive or unharmed after being in danger.
- All I’m hoping for is that wherever Trevor is he will come home safe and sound.
トレヴァーがどこにいようと、私が望むのは彼が無事安全に帰ってくることだけだ。
(COBUILD米語英英和) ※第10版では、Trevorが my son に置き換えられています。
定義に “unharmed” が出てきましたね。
OALDだと、形容詞 soundの項目で、safe and soundを含む用例が出てきます。以下は、OALD英英和から。
not damaged/hurt
3 [ox5000][C1] 健康な
in good condition; not damaged, hurt, etc.
- We arrived home safe and sound. 私たちは無事に家に着いた.
Oxford類語辞典は、OALDとコーパスを共有しているはずなのですが、safeの項で示される次の用例では、他にはないパラフレーズが施されています。L2学習者、運用者にはありがたい注記です。
They turned up safe and sound (= with no harm done to them) .
彼らは無事な状態で姿を現した
LDOCEではどうでしょうか?
S2 W2 adjective (comparative safer, superlative safest)
1. not in danger [not before noun] not in danger of being harmed, lost, or stolen OPP unsafe → safety
- She doesn’t feel safe in the house on her own.
safe from
- The birds’ nests are high up, safe from predators.
- Make sure you keep these documents safe.
2. not harmed or lost not harmed, lost, or stolen
- Your family are all safe.
safe and sound/well (=unharmed, especially after being in danger)
- The missing children were found safe and sound.
3. not causing harm not likely to cause any physical injury or harm OPP dangerous
- Flying is one of the safest forms of travel.
- Don’t go near the edge – it isn’t safe.
- a safe working environment
“safe and sound” も取り上げ、パラフレーズを施していますね。
今回懸案の unharmedはどのような扱いでしょうか?
OALDでは無印。
Oxford類語では、
unharmed
[名詞の前はまれ]⦅比較・最上級で⦆(危険な[恐ろしい]経験の後で)無傷の
- He was released unharmed after being held hostage for three weeks.
彼は3週間人質にとられた後,無傷で解放された
と、ここだけを見るとあっさりとしたものですが、注記では、単なるsafeな状態の記述ではなく、 “harmed” となってもおかしくない状況を経て、ということがよく分かる用例と解説を載せています。
ノート
unharmed,unscathed,unhurt,uninjuredの使い分け:これらの語はすべて何かを経験した後に「無傷である」ことを意味する.unharmed,unscathedはいずれも,その経験が危険である[恐ろしい,不快である]ことを強調する.unhurtとuninjuredは「無傷である」という事実を強調する.unharmedは人が捕虜になり解放されたときに用いられることが多い.unharmed,unscathedは人がどうにか生き残った[逃れた]場合に用いられる.
Oxford類語は本家の英英よりも小学館版の英和版の方が収録語数、用例数などが少ないのですが、本家でも、この “safe” の類語のところに、 “intact” がないのは気になっています。
Few buildings survived the war intact.
無傷で戦争をかいくぐった建物はほとんどなかった
この例は 動詞 “survive” の項にあります。
次の例があるのは、名詞 “dignity” の項です。
He needed a way to retreat with his dignity intact.
彼には尊厳が傷つかないように引き下がる道が必要だった.
OALDでは、intactはundamagedの類語扱いです。以下、OALD英英和から。
intact [not usually before noun] [ox5000][C1] 損なわれていない
complete and not damaged
SYNONYM undamaged
- Most of the house remains intact even after two hundred years.
住宅の大部分は200年経っても損なわれず残っている.
- He emerged from the trial with his reputation intact.
彼は評判を損なうことなく試練を脱した.
unharmed やundamagedの違いを感じ取れるのが、COBUILDの定義文。※和訳は便宜上後付けしています。
Something that is intact is complete and has not been damaged or changed.
(「intact」とは、完全で、損傷や変化を受けていない状態のことです。)
特に後半の "change" が他動詞の受け身で使われているところに注目。intactには「手付かず」という意味合いもあるわけです。
学習用ではないCollinsの一般用の定義には次のような語義の記述があります。
left complete or perfect
2025年10月5日追記:
MEDでのintactの定義文を引いておきます。
- not harmed, damaged or lacking any parts as a result of something that has happened
この辺りまでカバーしてもらえると、本当に有り難いのですが…。
COBUILDのunharmedのCEFR表示も無印でした。
中級。
ADJ
If someone or something is unharmed after an accident or violent incident, they are not hurt or damaged in any way.
- His daughter was unharmed in the attack.
第10版。
ADJ [ADJ after v, v-link ADJ]
If someone or something is unharmed after an accident or violent incident, they are not hurt or damaged in any way.
- The car was a write-off, but everyone escaped unharmed.
定義文は全く同じですが、用例が異なります。第10版の用例にある、 “a write-off” は英文脈でなければ「危機;危険」な状況はピンと来ないでしょう。以下、第10版から。
Something such as a vehicle that is a write-off has been so badly damaged in an accident that it is not worth repairing. [BRIT]
- The car was a write-off, but everyone escaped unharmed.
LDOCEの定義と用例。
unharmed
not hurt or harmed
- The hostages were released unharmed.
- The girl managed to escape unharmed.
第一例は “hostages” に語らせ、第二例は “escape” に語らせているわけですが、「危機;危険」の切迫感を表すにはちょっとあっさりしすぎな印象。
LDOCEのオンライン版だと、コーパスからの補充用例があり、生息域を掴むのに役立てることも可能。
unharmed
- All fourteen people who were working inside the building when the blaze started escaped unharmed.
- Four people were injured, one severely, and 84 escaped unharmed.
escape unharmed
- Her parents were alerted by their pet cats and the family escaped unharmed.
この用例を補充や差し替えするだけでも、随分解像度が違ってくるように思います。
LDOCEはそろそろ改訂版が出て然るべきでは?
- Don't tell me they think leaving the dictionary intact is the safer option.
本日はこの辺で。
本日のBGM: 遠い渚 (綿内克幸)








