以下の内容はhttps://tmrowing.hatenablog.com/entry/2025/07/06/134918より取得しました。


たかが単語、されど単語

6月は生き延びましたが、7月の暑さに負けそうです。
この週末、30年来聞き続けている日本の宝、美メロ王の綿内克幸さんの還暦記念&TEARSリリース30周年のお祝いライブに行ってきました。
参加者の年齢層も高いからでしょうか、昼からの開始でしたので暑くなるだろうと思って、リネンの半袖シャツを身につけ出発。電車を乗り継ぎ、最寄り駅を降りてから会場までの徒歩15分くらいでしょうか、日差しが強く、もう汗だくになってしまったくらい。
ライブ前に腹拵えをしようと思ってカレー屋さんに寄ろうと思っていたのですが、開店時間を30分勘違いしていて、近所の喫茶店で時間つぶし&避暑。
初めて入る喫茶店でしたが、なんと、『うしおととら』(藤田和日郎)が全巻揃っているじゃありませんか!感動のフィナーレを噛みしめて、いざカレー店へ。
私が頼んだのは、キーマと牛すじの合いがけ。『うしとら』リスペクトで、「結界」でルーが仕切られた一品でしたとさ。
お目当てのライブは、秋にでる予定の新作からも披露され、綿内さんのアコギに、川嶋フトシさんのグランドピアノとコーラス。
途中でオアシス再結成ライブの話とかから、オープニングアクトを務めたThe Verve の曲をチョロチョロっと歌ってくれたりして大サービス。
そして、なんとなんと、スペシャルゲストで「さいとうみわこ」さん(元タンゴ・ヨーロッパのヴォーカル、ニャンコさん)が登場。
私はさいとうさんの左隣とでもいうべき超近距離の席で、肉声(生歌成分?)が聴こえて震えました。ご本人は「全然歌っていない」などと仰っていましたが、声そのものがもう凄いのですよ。
いやー、良かったね。

ライブの物販でペンギンマークの七味をお土産に買いました!

さて、
今日の気になる語法は tuckです。
冒頭でシャツの話をしましたが、シャツの裾をズボン(パンツ)やスカート等のボトムズの中に入れる動作を、

  • tuck in シャツ または tuck シャツ in

と言います。この場合のinは副詞 [不変化詞] です。
目的語にボトムズが来ると、

  • tuck シャツ into [またはinside] ボトムズ

となり、副詞のinから、前置詞に変わるところはチョイむず?

私が気になっているのは、tuck inの対義概念の「裾出し」の方を表す日本語です。
随分前から、

  • タックアウト

というカタカナ語が使われているのです。
ツイッターでの「タックアウト」と「シャツ」と「裾」の共起での初出はこちら。
2009年3月ですから16年前です。


「タックアウト」と「シャツ」だけでの組み合わせだと初出はこちら。
2009年10月。


これだけ前から使われていれば、「日本語のカタカナ語」としてはもう定着したと言っていいと思うかも知れません。
でも、物書堂の国語辞書では、「タックイン」は見つかりますが、(現時点では)タックアウトは見つかりません。


NDL Ngram Viewerで調べてみます。
「国立国会図書館の提供するデジタル化資料のOCR全文テキストデータを利用したNgram Viewer」で、

2023年1月現在の対象は次の通りです。

  • 図書・雑誌資料約230万点(約17億種類の単語及びフレーズ)
  • 図書資料約97万点(約8.5億種類の単語及びフレーズ)
  • 雑誌資料約132万点(約8.9億種類の単語及びフレーズ)
  • 著作権保護期間満了の図書資料約28万点(約8.3億種類の単語及びフレーズ)

図書については刊行年代が1960年代まで、雑誌については刊行年代が1990年代までの資料を主に対象としています。
・複数のキーワードをスラッシュ(/)区切りでクエリに指定することで、出現頻度を重ねて表示することができます。

というものですが、こちらでも「タックアウト」はヒットせず。

これでも「定着」と見做しますかね?

では、日本語から英語へと目を移しましょう。
結論から先に言えば、「英語」としては、現時点では “tuck” と “out” を「裾だし」の意味で使うのは、無理筋の組み合わせだと思います。

動詞tuckの語義を確認しておきましょう。
まず、Shorter Oxford Dictionaryで少しだけ通時的に眺めてみます。

8 verb trans.
a. Push in the edge or end of (something loose) so as to secure or confine it; esp. turn in the edges of (bedclothes) under a bed or its occupant. Freq. foll. by in. M17.
b. Thrust in the edges of bedclothes around (a person). Foll. by in, up. L17.
M. Spark She tucked in the loose blanket.
I. McEwan He took my napkin…and tucked it into the front of my shirt.
S. Radley Anne…stood with her left hand tucked…through the crook of his arm.
D. Profumo Do tuck your shirt in. You look a mess.
M. Wesley Laura hustled them back into bed, tucked them in.

OALD(英英和)で tuck。

1 〜をたくし込む
tuck something + adv./prep.
to push, fold or turn the ends or edges of clothes, paper, etc. so that they are held in place or look neat
She tucked up her skirt and waded into the river.
彼女はスカートをたくし込み, 川を歩いて渡った.
The sheets should be tucked in neatly (= around the bed).
シーツはきっちりとたくし込まれていなければならない.
Tuck the flap of the envelope in.
封筒のふたを差し込んでください.

コウビルドの第10版と中級の第5版から tuck in の定義と用例を。

tuckする対象は、何らかの位置・場所で「安定」していることが重要な語義の成分ですから、outとの結びつきで「束縛のない状態」「宙ぶらりん」になり、「ひらひら」していては拙いわけですね。

これは、out単独なら単に位置空間の記述・描写ですから、出現頻度は少なくても何の問題もありません。

Your shirt is out. Tuck it in.
シャツの裾が出ているわよ。中に入れなさい。
(クリストファ・バーナード 『英語句動詞分類辞典』研究社、2025年)

ただ、英語では通例

  • (本来入れるべき)裾を出す

という意味では、動詞の

  • untuck

を想起するでしょう。

ODEとMW’sの一般用

ODEでは動詞freeの下位概念。MW’sの一般用では、動詞単独でのuntuckは載せずに、tuckedの対義概念として過去分詞由来の形容詞untuckedを載せています。

AOD (2004年)とAHD(2011年)では次のような扱い。

Oxford系はfreeが基本ですかね。AHDのundoは筋が良いですね。

英和だと、1980年代の『ランダムハウス』では「裾を出す」語義は見られず、『リーダーズ』では反映されています。

形容詞のuntuckedが「裾だし」に対応することは『コンパスローズ英和』でも分かりますが用例は無し。困ったときのなんとやら。『研究社和英大』は流石ですね。

それでは最後に、オンラインコーパス等の検索結果を貼っておきましょう。

COCAで「シャツの裾を入れる」

GLOWBEで「シャツの裾を入れる」

NOWで「シャツの裾を入れる」

NOWで「シャツの裾を出す」。ヒット数は一ケタ違いますね。

GLOWBEでは[untuck] POSS shirtの検索ではヒット数ゼロでした。

COCAで「シャツの裾を出す」。こちらもヒット数激減。

動詞+シャツ+untuckedのパターンで検索。

NOW

have / leave / keep / show / wear などが見られますが、どれも低頻度です。

COCAでもヒット数が少なく、ベンチマークとしての機能は…。

Ngram Viewerで。

「裾入れ」での tuck in

「裾だし」で、他動詞のuntuck

まだまだ低頻度とはいえ、2010年以降、使用例が顕著に増えているとは言えるのでしょう。

ということで、次のような装いを説明/描写する場合に、「タックアウト」をそのまま英語に置き換えるのは避けて下さい。「英語ネイティブはそう言わないから」という話しなんかではなく、「英語のtuckということばが(少なくとも現時点では)それを許容しないから」ということです。

ところで、20世紀末頃に “MTV unplugged” というTV番組があったのを覚えている人は、今ではもう少ないでしょうか (ジュールズ・シアーが大きく貢献しているのですがその話しはまたいずれ)。

この unplugged という形容詞は、動詞のunplug 「プラグを抜く」由来の過去分詞から生まれた形容詞で、「プラグを抜いた状態で;プラグを挿さないで」という意味になります。この場合の「プラグ」を挿す対象とは、所謂「アンプ」ですね。電気の力で音量を増幅する道具で、これに挿したプラグを抜く/プラグを挿さない状態での演奏は「アコースティックなもの」になるわけで、MTV unpluggedというのは、比較的小さな会場でのアコースティックな生演奏が目玉の番組でした。
では、「プラグを挿す」という場合の英語表現は?
そう、

  • plug in

ですね。

本日はこの辺で。

本日のBGM: Some Might Say – MTV Unplugged (Liam Gallagher)

open.spotify.com

2025/07/20追記:
Twitterで補足をしていたものを再録。

英語ネイティブかどうかに関わらず、英語を使う人は感じたり、考えたりしていることを丁寧に確かめることが大事。

動詞+in / outが対をなすものもあれば成さないものもある。
対を成すもの
dig in 掘って埋める;掘って入る
dig out 掘り出す

対を成さないもの
fill in は、様式が求める情報を満たすべく空所を埋める
fill out は、様式が求める情報を満たして書類を完成させる
で実質結果は同じ。

zoom in / out の類は本来は「対を成すもの」。
fade in / out
pinch in / out
でのVの動作は基本的に同じ。

log in / out →sign in / out は本来undo系の動詞が担うべき意味をV + outに担わせてしまった感がある。
sign outはsigned in 状態の解除であって、何もsignしていないから。




以上の内容はhttps://tmrowing.hatenablog.com/entry/2025/07/06/134918より取得しました。
このページはhttp://font.textar.tv/のウェブフォントを使用してます

不具合報告/要望等はこちらへお願いします。
モバイルやる夫Viewer Ver0.14