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「手間暇かかってるよ」

2012年の『学習英文法を見直したい』(研究社)で結構な力で叩いておいたのですが、干支もひと回りで復活してきたのか、また市場にトンデモに近い書籍が出てきたようです。

研究社は『コンパスローズ英和辞典』でピクトグラムを(当てはめられると踏んだ語のみに)採用しているようなのですが、この項目の監修(?)となる人が東進ハイスクール(ナガセ)の新書で『普通の英単語』なるものを最近出して、さらに酷い状況になっています。

『コンパスローズ英和』の中から、ピクトグラムがいかに恣意的なのかがわかるものを物書堂のアプリ辞書からスクショで引用し示します。引用ね。

this /thatにはピクトグラムがあるがthese/thoseはない。いや、本当にないのですよ。

そして、このthis/thatのピクトグラムを、新刊の『…英単語』の “such” につけられたものと見比べて欲しい。(私は書店で立ち読みして、それを見たときに力が抜け、そっと棚に戻した)。

before/after の非対称性。

そもそも「前後」って、基準が決まらないと言えないので、1と2のどちらを前と見なすのかが同時に示されないとだめですよね?特にbeforeの図は致命的だと思いますよ。
並んでいる順番の前後って、何のために並んでいるのかのゴールが示されて初めてわかるのでは?時系列の前後関係って、時の上流に遡れば遡るほど「前」ってことででいいですか?過去→現在(→未来へ)といった、時の流れの方向とは感覚が逆になりませんか? でも、このピクトグラムは、某局のラジオ英会話のプログラム/テキストでも採用されていて、もう驚いている場合ではありませんね。

think / suppose の区別をピクトグラムだけでできますか?

言葉の補助線がなければ全く機能しませんよ。

動詞のwatchとexpectの区別は何によって?

この→の角度ですかね?太さ?描かれている人の姿勢・上半身の角度に何かを読み取らないといけない?
こんなもので多くのスペースをとったがために削られた、句用例や文用例、さらには語法解説などの無念を感じています。


研究社は最近、句動詞辞典も新装復刊させました。

  • クリストファー・バーナード 著 『英語句動詞分類辞典』(研究社、2025年)

ふた昔前の2002年に同著者が書いた辞典に加筆修正を施したとあります。
私は旧版を持っていないので、どのような句動詞が新たに収録されたのかはよくわからない。ジャケットの宣伝文句によれば、

ネイティブは句動詞を感覚的に使いこなしていますが、彼らの脳内で句動詞はどう見えているのでしょうか。新発想の「句動詞のシソーラス」です。

ということです。インデックスに工夫を凝らし、精査分類した不変化詞 (particles) の側からも、句動詞を引くことができる、ということのようです。

私はこの辞書を名指しはしていませんでしたが、既に過去ログで、step on it のonとenlarge onのonの扱いについては、ダメ出しをしています。

tmrowing.hatenablog.com

いや、他に良いところはいっぱいあるのでしょうが、この語彙項目の扱いに関しては正直ダメだと思いますよ。
こういうのを「英語ネイティブの感覚」などといって、妙に有り難がって、自分の生き物センサーの感度を磨かないから、一つ一つの実例との良い出会いのインパクトが薄れて、実感が抜け落ちるんじゃないのかなぁ…。

今日はput up with のup with に関して。
この著者は、このup with で次の4つの下位分類をしています。

①(避けられない人・事実が)近づいてくる
②我慢する
③最終的にある状態に達する;何かを生み出す
④つき合う

このうち、②の我慢するに対応する句動詞で、この辞書に収録されているのは

  • put up with

だけなのです。 本当に。しかも、文用例も1つのみです。この一例しかないのに、そのparticleの語義に「我慢する」という意味を担わせるのはどうなんでしょうかね?


『コンパスローズ英和』(研究社)では、put up withは次のような扱い。

pùt úp with …
T1 動 他 …を我慢する ⦅⇒ bear1 類義語⦆ (受身 be put up with)
We have to put up with inconveniences for a while.
私たちはしばらく不便を我慢しなければならない.

助動詞的なhave to 原形と用いられています。

bearの類語欄を見ると、

類義語
bear 「我慢する, 辛抱する」 の意味の一般的な語で, 特に痛みや苦しみなどの重圧に耐えること
Mary bore the pain with great courage.
メアリーは大いに勇気を出して痛みに耐えた.
endure bear より改まった語で, 長期にわたって辛抱強く, 不平を言わずに我慢する
The people had to endure the tyranny.
国民はその圧政に耐えねばならなかった.
stand bear よりくだけた語で, 自制心を働かせてひるむことなく耐えること
I can't stand being stared at.
じろじろ見られるのは我慢がならない.
put up with くだけた感じの表現で, 特に怒りを我慢することに用いる
I can't put up with your rudeness anymore.
これ以上君の無礼には我慢がならない.
tolerate put up with の格式的な表現で, 人やその行為を許容すること. 痛みや苦しみには用いない.

と、こちらの用例は助動詞can’tと共起したものです。

他の辞書の扱いも見ておきましょう。

pùt úp with A *
(不平を言わずに)A<不快な状況・人>を我慢する, 耐える, 受け入れる(→ bear1;continue)
I can't put up with this nonsense any longer. もうこんなばかげたことは我慢できない. (W)

pùt úp with ...
〈他〉…を我慢する,仕方なく受け入れる(tolerate,endure;live with,stand for)(◆ with の目的語を主語にした受身形の文は可能だがまれ)
I can't put up with him [his rude manners] any more.
もう彼[彼の無礼な態度]には我慢がならない (O-LEX)

pùt úp with O
⑴O〈人・言動〉を我慢する 《◆受身はまれ》.
⑵→PUT up [自]⑴(類語比較→bear1)
We have to put up with the bad weather. ひどい天気だけど我慢するしかないね
I can't put up with him [his arrogance] . 彼[彼の傲(ごう)慢さ]には我慢できない. (G6)

pùt úp with O
D ⦅やや略式⦆〈人・言動〉を我慢する 《◆(1)bear, endure, tolerate よりくだけた語; 「じっとこらえる」というより「しょうがないとあきらめる」軽い気持をいう. (2)「〈人〉の家に泊る」意にもなる(cf. PUT up 自 (1)). (3)受身はまれ》
We have to put up with the bad weather. ひどい天気だけどしようがないね
I can't put up with her (arrogance). 彼女(の傲慢)にはついていけない. (G大)

put up with

⦅口⦆…をがまんする, 耐え忍ぶ
I can't put up with his temper any longer.
あの男のかんしゃくにはもうがまんできない. (クラウン英語句動詞辞典)

英英も見ておきましょう。
最新のコウビルドから。

put up with PHRASAL VERB
If you put up with something, you tolerate or accept it, even though you find it unpleasant or unsatisfactory.
• [V P P n] We'd been unhappy for years, but I put up with it for the sake of the kids. (COBUILD)

現行のコウビルドでは、動詞型表記での小文字のpは particle、即ち句動詞の構成要素であることを表します。

1990年代初頭には、COBUILDコーパスからのスピンオフでEnglish Guides というシリーズものがあり、その最初の巻が

  • COBUILD English Guides 1: Prepositions

で、「前置詞(&不変化詞)」を意味・働きで分類整理したものでした。
そこでは、

up
up against
up to
up until
with

は項として立ててありますが、up with はありません。
同書での

  • put up with

の扱いは辞書エントリーでputの下位項目になっていました。語義用例の提示では、

  • 7. to put up with something. Maybe Sally was not able to put up with that much stress.

とあり、前置詞のwithのみがボールド(太字)でハイライトされています。

米語の最新版からも。

put up with PHRASAL VERB 我慢する
If you put up with something, you tolerate or accept it, even though you find it unpleasant or unsatisfactory.

  • They had put up with behavior from their son which they would not have tolerated from anyone else.

彼らは他人であれば耐えられないような息子の行動を我慢した。 (COBUILD米語英英和)

続いて、歴史と伝統のOALD。

put up with somebody/something
to accept somebody/something that is annoying, unpleasant, etc. without complaining
SYNONYM tolerate
I don’t know how she puts up with him.
I’m not going to put up with their smoking any longer. (OALD)

他の句動詞辞典も見ておきましょう。
Longman の句動詞辞典 (1983)では、語義の3番目に次の語義と用例。

v adv prep
3 not fml to bear or suffer (something or someone bad) without complaining:
[T1]
I cannot put up with your behavior any longer.
Why should we put up with such terrible working conditions?
I can’t put up with her another day, she never stops complaining.

put up with という句動詞で、putはvで動詞、upは advで副詞、 withはprepで前置詞という扱いです。記号のTは他動詞、1は目的語に名詞・代名詞をとる、ということを表しています。

Cowie時代のOxfordの句動詞辞典 (1993)では、

[Vp.pr pass adj]
(informal) bear, tolerate (sth/sb).
O: noise, disturbance; bad manners, inconsiderate behavior:
He just wasn’t going to put up with all the caterwauling. TC
There are some things that are not easily put up with---and his damned impertinence is one.
often neg, with will/would. = stand for 3.

記号のVp は自動詞+particleを prは前置詞を表します。ということは、この辞書では、このput up with という句動詞を、put up + with と捉えているわけですね。そのことは、この動詞型のような文法コードの凡例部分で、このパターンの典型例に put up with を使っていることからも明らかです。

個別の動詞型の詳細はこちら。

特にこのパターンのnotes (注記) の (c) が有益かと。凡例では、7. We put up with these interruptions cheerfully.という文例がありますが、それに対して、

In some cases, an adverb or adverbial phrase may be inserted between the particle and the prepositional phrase. As the following examples show, it is possible to separate particle and preposition in this way even when the latter cannot be removed

という注記を加えて示している文例のうちの一つがこちらです。up とwithの分離ですね。

  • 7. We put up cheerfully with these interruptions.

さらに、passは受け身(変形)が可能ということを表します。

adj はその句動詞から分詞形容詞を作れるということを示しています。

目的語の共起制限などコロケーションにも目配りをしています。私が今でも活用している理由が少しはわかっていただけたでしょうか。それにしても、ここまでやってくれていた辞書が1993年に出ていたのにねぇ…。

今は辞書から撤退したマクミランの句動詞辞典 (2005年;編集主幹はマイケル・ランデル)は、2億語のWorld Englishのコーパスに基づくだけでなく、句動詞にメタファーの光を当てたことでも注目されていましたが、put up with は次の定義と用例です。

to accept unpleasant behavior by someone or an annoying situation without complaining, even though you do not like it = STAND, TOLERATE
How has Jan put up with him for so long?
I don’t see why you should have to put up with sexual harassment.

これを見る限りでは、凡庸ですね。

ケンブリッジの句動詞辞典 (私の持っているのは2006年の第2版)では次の通り。

to accept unpleasant behavior or an unpleasant situation without complaining, even though you do not like it
He’s not easy to live with---I think Jo puts up with a lot.
I can put up with a house being untidy but I don’t like it to be dirty.
He’s impossible! How do you put up with him?

否定や疑問ではなく、肯定の文脈でのcanとの共起の用例が辞書に載るのは珍しいかも。

同じCOBUILDでも句動詞辞典 (2012年版)だと何か違いが表面化するでしょうか?

If you put up with something or someone, you accept them, even though you do not like them.
Don’t put up with any nonsense from Howard.
He disliked the idea of surgery and decided instead to put up with the pain.
I don’t know how you put up with him.
NOTE
Endure is a more formal word for put up with.

1語動詞との文体の比較があるくらいですね。

『動詞を使いこなすための英和活用辞典』(朝日出版社、2006年)の語義と用例は次の通り。

「〜を(じっと)我慢する、耐え忍ぶ、甘受する」
元は「(侮辱に対する怒り・不満などを)ふところにしまっておく」という意味だったが、現在では不便・不都合などを含めて、幅広い意味で「我慢する」という場合に用いる。
His bragging is hard to put up with. (彼の自慢話には我慢ならない)
How can you put up that young guy? He’s always complaining about something or other.
(なんであいつに我慢していられるんだ?いつもなんだかんだと文句ばっかり言ってるじゃないか)

この「ふところにしまっておく」というのは、他では見られない語義の由来。

困ったときのマケーレブ本で『アメリカ口語辞典』(朝日出版社、1983年)の該当箇所を見てみると、

put up something は13世紀頃から「〜を(ポケット、袋、瓶などに)しまっておく」という意味があった。それがのちに「(不満、侮辱などに対する怒りなどを)懐にしまっておく」、つまり「我慢する」という比喩的な意味にも使われるようになったが、18世紀に入ると put up with somethingとwithが入り、put up somethingが比喩的な意味では廃語となった。今では不満や侮蔑のみならず、広く不便、不都合なことなどを「我慢する」という場合にも用いられる。(後略) (pp. 885-886)

とありました。
この辺り昔の英語も踏まえている辞書、ということで、河村重治郎が編者にいる頃の『岩波英和辞典』(新版、1958年)を見ると、p.716の putと前置詞upの結びつきの項に

(vii) しまう、片づける; (剣を鞘に)納める

という語義・訳語がありました。
現役の英和辞典だと、『英和大辞典』(研究社)の put up の項に、

(20) 〈不用になった物などを〉しまう, 片付ける (put away); 《古》 〈刀を〉さやに納める (sheathe).
They were putting the deck chairs up for the winter.
冬になるのでデッキチェアを片付けているところだった.

がありました。こちらでは、「刀をさやにおさめる」に対して「古」というラベルを貼っていますね。

particleの語義を分類整理する、という点では、George A. MeyerのThe Two-Word Verb (1975) はエポックな辞書(ハンドブック)だったと思いますが、今では殆どの人が忘れていることでしょう。
そこでは、
put up の結びつきを、句動詞(Meyerの用語ではtwo-word verb)としてまずは捉えて、その枠組みの中で語義によって下位分類をして、そのうち、withを伴うものを注記して示しています。

15. put up (with) I (5)
I’ll not put up with him any longer. [I want nothing to do with him. I don’t want to be near him.]
16. I (5)
You’ll just have to put up with him. [You must accept him, and what he does.]

ここでのナンバリングの15,16は語義の項目で、その次の I (5) というのが、particleの分類・類型を示しています。I は自動詞的 (Intransitive)に使われることを意味し、数字の5は Up の項目でリストされた下位分類の5番目を見よ、ということ。すると、

  • 5. In a determined or lively way; as a matter of endurance

という下位分類の語義が示されていることが分かります。ただ、これはあくまでもupの下位分類、ということに注意が必要。

ここであらためて、最初に言及した「句動詞辞典」のparticleの分類を見てみましょう。

①(避けられない人・事実が)近づいてくる
②我慢する
③最終的にある状態に達する;何かを生み出す
④つき合う

唯一、Meyer (1975) だけは、不変化詞のup に “as a matter of endurance” という意味を当てていますが、「up with という結びつきそのものに対して「我慢する」という意味を宛てがうことには無理があるのではないか?」と思えてきます。

  • 英語ネイティブは句動詞を感覚で使いこなしている。

とただ煽られるのではなく、

  • 英語を使っている人はネイティブ、ノンネイティブ限らず、どのような生息域で、どのような意味で用いているのか?

をこそ精査していくことが重要で、その重要なプロセスを誰かに肩代わりしてもらっていては、自分の言葉にはなかなかなってくれないと思いますよ。

長くなりました。本日はこの辺で。

本日のBGM: しかたがないね (フジファブリック)

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