前回の記事の続きを書こうとは思っていたのですが、現在、広島大への3つ目の照会の回答を待っているところですので、進展はナシ。
こんな引用RTもしていたのですが、反響も余りありません。
英語教育界隈での健全な大学入試問題そのもの(出題・作問・評価)の批評って殆どないんじゃないですかね?
今はなき『英語青年』(研究社)のこの特集が2006年4月号。
19年前ですね。英語教育界隈での健全な大学入試問題そのもの(出題・作問・評価)の批評って殆どないんじゃないですかね?
— Takashi “即時停戦” Matsui (@tmrowing) 2025年3月9日
今はなき『英語青年』(研究社)のこの特集が2006年4月号。
19年前ですね。 https://t.co/0KmFOKF9yF pic.twitter.com/ospocs78wI
以前、まだ私が山口にRowing (ボート競技)の指導者として赴く前に書いた雑誌記事です。
当時は私立高校の非常勤をしていました。若い世代の英語教師には実感がないかも知れませんが、この雑誌に高校の教員が原稿を寄せる、というのは結構珍しかったのではないかと思っています。
私がこの雑誌に書くことになったのは、このブログの過去ログ、
の記事を、編集長をされていた方が読んで興味を示したことからです。
市井の一英語講師の書いたブログとはいえ、読む人が読めば新たな展開にもつながっていきました。「時代」という便利なことばでぼんやりさせたくはないですね。
ということで、しばらく空いた「気になる語法」のシリーズ回帰。
英語の文法に関わる知識についての話を。
- 「明確な過去を表す副詞的表現と現在完了形は一緒に使えない」
という知識というか知識を単純化した文言は、高校生でも結構強く印象づけられているようです。
手元の「学参」を見てみます。古めのものと新しめのものと。
(2) 現在完了が使えない場合
1.明確な過去を表す副詞(句)があるとき。
(『ロイヤル英文法(改訂新版)』 旺文社、2000年)
現在完了形は、過去の出来事を現在に関連づけて述べるときに使うものであり、明らかに過去を表す表現とはともに使えない。
(『コーパス・クラウン総合英語』 三省堂、2022年)
書いてありますね。
このような説明の言葉が頭にあるとき、次のような実例はどのように処理されるでしょうか?
More than 30,000 American textile jobs have been lost to overseas outsourcing in the last two years.
アメリカの織物産業は海外への委託が進みこの2年間で3万以上の職が失われた. (W英和)
ここでの “in the last two years” は、「明らかに過去を表す表現」ではないのでしょうか?
結論から先に言えば、ここでの “in the last two years” は過去の日時を示すものではなく、「今を基準としてそこに至るまでの2年間=今までの24カ月間」を表すものであり、現在完了形との相性がいいチャンクです。
類例。
More than 30 horses have been mutilated in the last nine months.
過去9か月間に30頭以上の馬の脚が切断された. (COBUILD米語英英和)
ここでも、「今を遡ること9カ月間≒270 days」ということですから、現在完了です。
今年は10年振りの冷夏だ.
This has been the coldest summer in the last ten years. (G和英)
また、前置詞・接続詞としてのsinceが「時の起点」を表す場合には、過去を明示する表現とも共起する、ということも多くの高校生が身につけている知識です。
辞書より実例を引きます。
昨日から彼と連絡がつかない
I have been unable to contact him since yesterday. (G和英)
先月から医者にかかっています
I have been seeing a doctor since last month. (W和英)
彼女はおととしからこの国に滞在している
She has been staying in this country since the year before last. (G和英)
sinceが接続詞で使われると、従節内の動詞が過去形となるが、主節は現在完了形で全く問題ない。
Three years have passed since I last saw Becky.
最後にベッキーに会ってから3年になる(=I haven't seen Becky for three years.) (O-LEX英和)
There have been various wagers on certain candidates since the senator announced his retirement.
議員が引退を発表してから特定の候補者が様々な賭けの対象となってきた。(COBUILD米語英英和)
sinceが接続詞として使われる場合の従節内の時制に関しても、適切で丁寧な解説がなされているのがイマドキの学習用英和。
Many things have happened since I came [OR have been] here.
ここに来てからいろいろな出来事があった
(since 節内では通例過去形を用いる.ただし since 節の内容が現在まで継続している場合は現在完了形を用いることがある) (O-LEX英和)
さらに詳しい解説が Wisdom英和の sinceの語法注記にあるので、少し長いですが引用します。
(2)since節中の時制 主節が現在(完了)形のとき, since節中の動は通例過去形だが, その状態が現在も続いている場合は現在完了形が用いられる
I've lost eight pounds since I've been here.
私はここに来て(今までに)8ポンド(≒ 3.6kg)体重が減った.
また, since節中の行為・状態が今後も継続されると話し手が感じている場合, 現在完了進行形が用いられることがある
Since you have been doing films, who has been your favorite person to work with?
これまで映画の仕事を続けてきて(そしてこれからも続けられるでしょうが), 一緒に仕事をするのにお気に入りの人はどなたでしたか.
(3)since節中の時の副詞句・節since節は過去の始点を表すが具体的な時を明示する副詞句・節を伴うことがある
I have watched that drama since it began in 2010 [when I was 15].
私はそのドラマが2010年に[15歳のときに]始まって以来見ている
Things have changed since they got married [since their marriage] two years ago.
2年前に彼らが結婚してから事態は変わった((1)two years agoはsinceに続く節や句を修飾している; (2)現在の視点から述べるときはagoを使うが, 過去の視点から述べるときはbefore, earlierなどを用いる).
至れり尽くせりですね。
意外にも、多くの高校生がすぐに口から出てこない、作文でスラスラ書けない “since” のチャンクは次のようなもの。
They have been mates since high school. 彼らは高校以来の友達だ. (G6)
Tony and Bill have been best mates since school. トニーとビルは学生の時からの親友である. (W英和)
上の例では、この発話の当事者間で既に高校を卒業していることが前提であり、下の例で前提としているのは、今はもう学生ではない、ということ。
事程左様に、「過去を明示する語句」の認識は面倒なのです。
では、次の例はどうでしょうか?
New Zealanders are leaving their country in record numbers. In the past young expats have generally returned. But that may be changing
New Zealanders are leaving their country in record numbers. In the past young expats have generally returned. But that may be changing https://t.co/0YLvmUQSb7
— The Economist (@TheEconomist) 2025年3月11日
第2文は、イントロが “in the past” で、時制が have … returnedと現在完了形です。
以下、私の解説ツイート。
#現在完了形の生息域
学参や学習用英和では解説が手薄な、単独のin the pastが現在完了と共起し「従来は; これまでは」を表す例を確認。
expat = expatriate 「国外移住者; 海外在住者」
in record numbers 「記録的な数で; 過去最高数で」。recordの形容詞用法。この用法では通例numbersと複数形。#現在完了形の生息域
— Takashi “即時停戦” Matsui (@tmrowing) 2025年3月11日
学参や学習用英和では解説が手薄な、単独のin the pastが現在完了と共起し「従来は; これまでは」を表す例を確認。
expat = expatriate 「国外移住者; 海外在住者」
in record numbers 「記録的な数で; 過去最高数で」。recordの形容詞用法。この用法では通例numbersと複数形。 https://t.co/tmitOvM4Jq
「英和では手薄」と書きましたが、物書堂で検索できる例から用例を。
学習用英和でヒットするのはほぼほぼ最後の例のように、in the past + (数詞つき)時の単位の名詞。
単独で使われるin the pastの用例が英和の “past” や和英の「従来」の項に時制と併せて載ることは稀。
大型辞書だと、用例がなくても、使用場面・文脈が少しは分かる「訳語」と「注記」が載っています。
左が『ランダムハウス英和』(小学館)、右が『リーダーズ英和』(研究社)。
G6(G5も)は折角pastの項に用例があるけれど、これは「デジタル+」のみで収録。紙辞書派は可哀想ですね。しかも時制に関わる注記もなし。
古い文法書だと、江川泰一郎 『英文法解説(改訂三版)』(金子書房、1991年)には次のような「解説」があります。(p.239)
A. 時を特定しないで漠然と過去を示す in the pastなどが現在完了形と共に使われた例はときどき見受けられる。
The relation between the two countries will be friendly as it always has been in the past.
(両国の関係は常にそうであったごとく、将来も友好的なものになろう)
流石ですね。
「従来は」使われていた語法という、現在との対比ではなく、この表現形式は結構昔から使われていて、そして今も現役の表現だと思うので、COCA系でざっくりと確認。
まずはベンチマークでCOCA。
“in the past,” で、コロケーション検索をしました。右3語以内に “have” の活用形がくるものを拾っています。 動詞の活用形で過去形のhadも拾いますから、そこはノイズとなります。
COCAから spoken (話しことば)で、 ’ve を拾っています。
同様にTVコーパスで。
同様にGLOWBEのGB(英国)で。
破格とか、言葉の乱れとかでは説明できないくらいの頻度では見聞きすると思いますし、こうしてオンラインコーパスの検索結果を眺めてみても、「一次資料を精査してみようか」と思う人がいてもおかしくないような実態ではないかとも思います。
今日の「気になる語法」に関して最初に書いた、
- 「過去を明示する表現と現在完了形は一緒に使えない」
という「説明」の精度をもっと高める必要がある、というところは共感してもらえたのではないかと思うのですが、どうでしょう?
本日はこの辺で。
本日のBGM: 約束の橋 (New Recording) / 佐野元春







