このブログで数回にわたって取り上げている広島大学のグラフ関連問題での私の問題意識がなかなか共有されない中、ツイッターで某氏に返信したものをまとめましたので、以下に転載しておきます。
- 「おかしいと 思う私が おかしいのか?」
というのは大学入試でのヨンギノー試験の拙速導入への反対意見を表明しているときも、東京都のESAT-J の制度上の瑕疵を指摘し導入に反対しているときにも感じていました。
今回は個別の大学入試問題。広島大だけでなく大阪大、神戸大のグラフにも言えることです。単なる知識の有無ではなく、「思考力」「判断力」「表現力」を診るとかお題目は結構なんですが、何に基づいて「思考・判断・表現」させているのか、の基盤・前提が危ういことに無頓着すぎないかと思うわけです。
今回の広島大の回答は誠実と言えば誠実で、だからこそ問題だと思っているのです。
ある問題で出題ミスがあり、それを出題側が認め、全員にその得点を与える、という対応の問題点は近年指摘されるところです。全員正解で得点付与してしまうと
- 1. その問題に時間をかけて解答したので、他の問題が時間切れになった。
- 2. その問題は飛ばして、他に時間をかけたので他の問題は完解できた。
という受験生の差は考慮・対処できないため、総合点で1の受験生が不合格になり、2の受験生が合格する可能性が出てきます。
- 問題の難易度と自分の学力を考えて、問題をスキップするのもtest-taking strategiesの一つだ。
と言われたりもしますが、明らかな出題ミスであれば、それを求めること自体が不合理です。
では、今回のように出題ミスとまでは言えないが、資料自体に違和感・疑義が生じるものがテストで課された場合は?入試問題は翌年から教材化される宿命ともいえる状況にあります。「テスト」をいかに上手く切り抜けるかには熱心なのに、そのテストそのものの基盤が危ういことは気にしないtest-takers側の問題以上に、それを気にすること自体に意味を見出さないのがtest-wisenessであると指導されることを危惧します。
数学でも統計が問われたり、共通テストにも教科として情報が入ってきました。さらに(話が大きくなってすみませんが)教育の分野でもエビデンスとか効果量が話題に上るようになっています。
そんなにデータを気にしているはずなのに、英語のテストのお題作文で使われるデータはそんな雑な扱いで平気?
さて、広島大学の前期試験の合格発表は3月8日でしたが、大学の公式サイトで「問題」及び「解答例等」を公表しました。
令和7年度 広島大学一般選抜(前期日程)、総合型選抜外国人留学生型2月実施の「問題」及び「解答例等」
www.hiroshima-u.ac.jp
前期入試の英語の問題はこちらから。
https://www.hiroshima-u.ac.jp/system/files/254228/11m-eigo.pdf
注目すべきは、問題用紙に印刷されていた情報の多くが、「著作権」を理由に白塗りになっていること。読解問題での英語の文章だけでなく、ライティング系の件の問題の「グラフ」も白塗りです。その一方で、出典情報は残されています。
まだ問題をご覧になっていない方は、新聞発表のもの(リンク切れ注意!)や、このブログの過去ログ等でご確認下さい。
そして公式の解答例もpdfで公表されています。
https://www.hiroshima-u.ac.jp/system/files/254344/z11k-eigo.pdf
そちらで示されていた大問IVの出題意図と解答例を「引用」します。
[IV]
[出題意図] ある調査結果から正確に読み取った情報ならびにそれに関する考察を、 英語の一般的なパラグラフ構造に準じて、 適切な英語表現を用いて書く力を問う。[解答例](107 words)
The graph shows the changing trends in music consumption patterns in the US over three decades. In 1990, CDs and cassettes both had a substantial share of the market, with a nearly equal distribution. From then, sales of CDs increased steadily, reaching a peak in 2002. However, the popularity of cassettes decreased rapidly, and by 2003, sales were insignificant. In the early 2000s, sales of CDs began to decline, coinciding with the rise of digitalization and streaming services. While digital downloads peaked in 2012, streaming revenue continued to soar, overtaking digital sales in 2015. Streaming now dominates the market, with CDs and digital downloads becoming less relevant.
これだけです。
グラフの懸案の箇所である「2014年のCDの急増部分」は完全無視ですね。
100語程度という指示で解答例が107語。巷で言われる「プラマイ10%」の範囲内ではあります。
便宜上Kagi訳を示しておきます。
このグラフは、米国における音楽消費パターンの30年間の変化の傾向を示しています。1990年には、CDとカセットテープが市場のかなりの部分を占めており、ほぼ均等な分布でした。その後、CDの売上は着実に増加し、2002年にピークを迎えました。しかし、カセットテープの人気は急速に低下し、2003年までに売上はごくわずかになりました。2000年代初頭には、CDの売上は減少に転じ、デジタル化とストリーミングサービスの台頭と一致しました。デジタルダウンロードは2012年にピークを迎えましたが、ストリーミングによる収益は急増し続け、2015年にはデジタル売上を上回りました。現在、ストリーミングが市場を支配しており、CDとデジタルダウンロードは重要性を失いつつあります。
「情報」と「考察」という二つの条件のうち、考察に該当するのは、シェアを「人気」としている部分と、一番最後の唐突な「重要性」への言及でしょうか。
使用語彙のレベルに関して、TextInspectorでのEVP分析を示しておきます。
CEFRでA1〜B1までのレベルの語彙がtypes(異なり語)で 約65.6%で、A1レベルが約30%と低いのが気になります。
B2〜C2の割合が、約25%となっています。この割合は高いでしょうか?内訳を見てみましょう。
B2レベルと判定されているのが、
decline / dominates / graph / overtaking / popularity / rapidly / reaching / relevant / steadily / substantial
動詞の dominateの語法、形容詞のrelevantの語義・語感はやっかいだな、と感じました。
C1レベルが
consumption / distribution / insignificant /revenue
作文で insignificantやrevenueが使えたら良いですね。
C2レベルが
coinciding / soar
soarはグラフ説明定番なので大丈夫でしょうが、coincideを現在分詞で活用できる高校生、そのように指導されている先生は素晴らしいですね。
無印ですぐには出てこないかなと思われる語(≒私が授業で言及しない語)が
digitalization
でした。
問題文のグラフは元資料があるにせよ、広島大の作問チームがプロットして作図したオリジナルのものではないかと思うのですが、それが著作権の関係で非公開の「白塗り」となっているので、この解答例だけを見た人は元のグラフ、そのグラフが表していた状況がイメージできないのではないかと思います。「解答例を示すなら、出題に責任を持たないと」と、ぼやいているだけでは埒が明かないので、以下、私の書いた英文をば。
This graph shows U.S. music consumption share changes over 30 years. In 1990, CDs and cassette tapes each held nearly half the market. From then on, CD sales steadily increased and peaked in 2002, while cassette tapes sales declined to almost nothing by 2003. Later, CD share slumped as digital downloads and streaming grew. Digital downloads topped the sales of CDs in 2012, though CDs briefly matched them again in 2014. Meanwhile, streaming became dominant by 2015, surpassing both CDs and digital downloads. Currently, streaming is mainstream in the market, while CDs and digital downloads have stabilized at single-digit percentages.
(100 words)
増減の背景や意味付けなど、「考察」してしまうと沼に嵌まるので、ほぼ無視ですね。「100語程度」という制約の中で、「不可思議なCDの急増による、2014年のデジタルとCDのほぼ首位タイ」を逃げずに説明するって大変ですよ。
Kagi訳もつけておきます。
このグラフは、米国の音楽消費におけるシェアの変化を30年以上にわたって示しています。1990年には、CDとカセットテープが市場のほぼ半分を占めていました。その後、CDの売上は着実に増加し、2002年にピークを迎えましたが、カセットテープの売上は2003年までにほぼゼロにまで減少しました。その後、デジタルダウンロードとストリーミングの成長に伴い、CDのシェアは落ち込みました。デジタルダウンロードは2012年にCDの売上を上回りましたが、2014年にはCDが一時的に追いつきました。一方、ストリーミングは2015年までに最大となり、CDとデジタルダウンロードの両方を上回りました。現在、ストリーミングは市場で主流となっており、CDとデジタルダウンロードは1桁台の割合で安定しています。
こちらのEVP分析も。
CEFRでA1〜B1レベルの語彙がtypes(異なり語)で、約70.3%、A1が40%弱。B2〜C2の割合が約15.6%となっています。個人的には良い目安なんですが、内訳も確認。
B2
currently / declined / graph / percentages / steadily
C1
consumption / dominant
公式解答例が dominateと動詞だったのに対して、私は形容詞のdominantを使ったのですが、CEFR的にはこちらの方が習熟度は上という判定でした。
C2
mainstream / surpassing / topped
私の授業では「超過」を表す動詞topは、surpass, exceedと一緒にグラフ説明の課題で教えています。
無印では、
slumped / stabilized
が一般的な高校生用の教材では扱われることが少ないかと思いますが、fallやdrop以外に、急激な減少や低下を表すplummet, slump, plungeは指導の範囲内。動詞stabilizeとその元になる形容詞のstableの語義は重点的に指導しています。
この記事を書いている段階では、3つ目の照会に対する広島大学からの回答は届いていないのですが、出典とされる元々の資料でのシェアの数値に基づくグラフを作りましたので、そちらを説明する英文を参考までに示しておきます。
グラフは2012年〜2016年までの範囲で切り取りましたので、70語程度を想定して書きました。
このグラフではそれぞれの数値が与えられていますから、これだと各メディアの栄枯盛衰というか、覇権というか、シェアの変化を明確に記述できるのではないかと思います。というか、普通はそういうグラフや表を選ぶか作るかして示しませんか?
以下、説明の英文です。
The graph illustrates music media market share trends in Japan from 2012-2016. Digital downloads decreased steadily from 40.9% to 23.5%, while CD sales declined more sharply from 35.4% to 14.9%. Streaming services showed dramatic growth, rising from 14.7% to 52.4%. Notably, streaming surpassed CD sales in 2014 and overtook digital downloads in 2015, ultimately becoming the dominant music format by 2016, accounting for over half the market.
(67 words)
実際の入試での出題とは違って、あくまでも私が作成した参考例ですので。その点をご理解の上で、よろしくご活用下さい。
本日はこの辺で。
本日のBGM: 狂い咲きピエロ (爆風スランプ)


