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胸の奥に流れているあの同じ曲

過去ログで、今春の広島大の前期入試でグラフを用いた出題を取り上げて疑義を呈していました。
私個人も、広島大学に照会のメールを送っていたのですが、大学から正式に回答が届きました。
市井の一英語講師からの照会に迅速かつ誠意をもって対応してくれたことに感謝します。
本当にありがとうございます。

当日に受験をした当該の受験生だけでなく、今後この問題を教材として学ぶ可能性、教える可能性のある人にも少なからず影響はあると思うので、こちらでも紹介し、私の現時点での思いも記しておきます。

まず、私が何を疑問視、問題視していたかは、労を厭わず、必ず過去ログをお読み下さい。

tmrowing.hatenablog.com

問題視しているのは、グラフのこの赤丸で囲んだ部分です。

このグラフの、とりわけ2014年の数値が前年より上昇しているところに違和感を持ったのです。
出典とされている、こちらの資料

https://www.aei.org/carpe-diem/animated-chart-of-the-day-recorded-music-sales-by-format-share-1973-to-2022/

では2013/14/15/16年とずっと右肩下がりなので、

  • これはデータとグラフが違うのではないか?この広島大のグラフの2014年の数値は何からとってきて、何を示しているのか?

という疑義が生じ、大学に照会したわけです。

まずは、広島大学からの最初の回答。

私がデータを拾ったものと同じチャートから数値を取得しているが、その時の数値と、現在のチャートが示している数値は異なっているとのこと。問題作成チームが数値を取得した後で、サイトの側で数値を変えたと推測している、というわけです。

誠実に回答してくれたのだとは思いますが、そうすると最早入試問題の「出典」を示す意味がなくなりますね。
グラフ作成日時でも明記しておいてくれないと、事後検証不能で困ります。
確かに、言語に関わる統計資料で、オンラインコーパスなどでは、過去の言語資料も年々追加されてデータが拡充していきますから、アカデミックな研究やレポート、論文では、何年のいついつに検索した結果、というのを明記することに意味があり、そうすることが多いとは思うのですが、今回のような、音楽メディアの売り上げのシェアで、過去のデータが増えたり減ったりする、というのはどうにも解せません。過去のシェアのデータが変わるのであれば、それは修正・訂正で “correction” ということになると思うのです。

この回答を受けて、私からは、先のリンク先の一次資料のサイトにあった、次の英文解説を引いて、さらに尋ねています。
二回目の照会です。

特に、この2項目目の記述に、「デジタルサブスクリプション/ストリーミングサービスが、2014年にCDのシェアを追い越している」という解説があるので、

  • 「一次資料にあるこの解説も、広島大がグラフを作成した後に、書き加えられたものという理解でいいのですね?」

と問うています。

これに対する広島大学からの回答(都合、二通目の回答)がこちらです。

チャートの数値が問題作成時と今では異なるので、記事の内容と、入試のグラフが一致しない部分があってもしょうがない。出典から今得られる数値では、 CDのシェアは右肩下がりだけれども、作問チームがグラフを作った時点では、2014年にCDのシェアは数%の急上昇を見せていたのだから、出題に全く問題はない。

ということのようです。こう言われてしまうと、何も確かめようがありません。

再度、入試問題のグラフを見てください。

入試のグラフではタテの補助線がないので、数値を拾い難いのですが、目視で。
2013年のデジタル、CD、ストリーミングの3つのシェアはそれぞれ、約39%、約30%、約23%で、合計すると92%前後となります。グラフでは、カセットテープのシェアがほぼゼロのように見えますが、カセット以外にまだ数%のシェアを持つメディアがあるのです。
この入試問題で示された4項目以外に、

  • ビニール(アナログレコード)
  • ミュージックビデオ

などのメディアが、2%とか3%とかのシェアを持っているけれども、グラフには示されていないだけなので、グラフにある4つのメディアのシェアを足して100%にならなくても、おかしくありません。というか、100%にならない方がむしろ自然でしょう。

そして、懸案の2014年ではどうでしょうか?
デジタルが約35%、CDが約 35%、ストリーミングが30%に届くかどうか、というシェアです。
これらを足すとどうなりますか?限りなく100%に近づきますね。
では、グラフの4項目以外の、アナログレコードやミュージックビデオのシェアはゼロでいいのか?
いやいや、それはありませんって。特にアナログレコードに関しては、生産数(量)自体が少ないものの、その売り上げに一定のシェアがある、というのが「事実として」分かっていますから。

  • 「3つのシェアの合計だけで100に近い」

ということに気づいたところで、「これっておかしくない?」と思わないとおかしくないですか?

では、その翌年の2015年では?
デジタル 約30%、CD 約20%、ストリーミングが約42%となっているように見えます。
これらを足すと?
約92%です。
そうですね、2013年の数字に近づきました。

私としては、2014年の数値が異様に思えてならないのです。

現在、3回目の照会で、

  • 1. 大学の作問チームがグラフを作成した日時。
  • 2. その時に、作問チームが取得した、4つのメディアのそれぞれの数値を 2013, 2014, 2015 年の3年分だけ。

を教えて下さい、とお願いしています。
もし、上記、1,2が明らかにできない場合には、その理由も、というのが3回目の照会です。
私はこの回答をもとに、大元の記事を書いた米国の記者や編集者に、

  • チャートの数値が変更(修正/訂正)された日時
  • チャートの解説(上述の「2014年に追い越した」など)が書かれた日時

を照会しようと思っています。
この記事を書いている時点では、まだ広島大学からの回答はありません。

今回は、大学の正式な部署から2度にわたり、迅速で誠実な回答をいただけたことは良かったと思います。しかしながら、入試で使われたグラフの懸案の部分の変化(=CDシェア急増による突出)が何によってもたらされたのか、説明ができないことには変わりありません。時代背景を考えても、その年だけCDのシェアが急拡大する要素が見当たらないのですから。

グラフ説明問題では、主題・争点に関わる「顕著な変化に着目して記述する」というのが定石ですが、この問題に関しては、この突出部分は「無視する」というのが最適なアプローチということになります。

  • では、そもそも何のために、実際のグラフを使うのでしょうか?

過去ログでも書いたように、私は英文ライティングのシラバスを「テクストタイプ毎」に構築して課題を設定・設計しているので、グラフは「事実を事実として書くスキル」、「数量の多寡や増減などの(不)変化の表現に習熟すること」を目標として取り入れています。

今回の広島大の出題のグラフのように、事後検証不能な「幻」のデータに基づくものであるなら、何も「実際」のデータを持ってくる必然性はないので、架空のグラフを作っても同じじゃないですか。それこそ、生成系AIの出番かと。

最後に、指導する側の方たちにお願いです。
次年度以降、この問題を過去問演習などと称して教材にするのはくれぐれも慎重に。

本日はこの辺で。

本日のBGM: 君は幻 (シングルバージョン)/オカモトコウキ

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