以下の内容はhttps://tmrowing.hatenablog.com/entry/2025/02/23/210605より取得しました。


慣用 肝要 寛容

鼻をかみ過ぎて顔がヒリヒリしてきました。
甜茶が良いなどとも聞きますが、とりあえずは、密林で買ってあった

  • チャイミルクティー

を飲んでいます。良い感じです。信心が肝心、ですかね。

ここ何回か、今春の入試問題をいくつか取り上げて記事を書いてきました。

2025 慶大理工 大問3. Mr HiyoshiとMs Yagami の対話文冒頭
H: I'm going to cut to the chase. Do you have feelings for Stanford or not?
M: You're not one to beat around the bush, are you?
H: I hate being so direct, but it's driving me crazy. I have to know. You can give it to me straight!

2025 早大・文 大問 IV JuneとAlexの対話文冒頭
J: Hey Alex, can we talk about our class project?
A: Sure, what's up?
J: I was doing research for my part, but I can't seem to wrap my head around this concept.
A: Yeah, it took me a while to figure it out too. When the professor explained it to us in class,
she was kind of beating around the bush. I remember wishing she'd just cut to the chase!
J: Yeah, exactly.

奇しくも、同じイディオムがこれだけの短いやり取りのなかで使われていて驚きました。

beat around the bushは学習用の英和辞典にも収録されています。

bèat around [(英)about] the bush (くだけて)遠回しに言う, はっきり言わない. (Wisdom 英和)

béat aròund [⦅英⦆abòut] the bush ⦅略式⦆[しばしば否定命令で] 遠回しに言う, なかなか要点に触れない; (相手に)さぐりを入れる 《◆獲物を追い出すために茂みのまわりをたたくことから》.
Don't beat around the bush. 遠回しな言い方をするな (G6)

以前より大学入試でも出題されてきたであろう表現で、ふた昔以上前の教材にも収録されています。

・talk about things without a clear conclusion (要点に触れるのを避ける)
・being evasive (言い逃れを言う)

  • Don’t beat around the bush any longer. Tell me if the dog took my baseball glove or did you use it and leave it someplace. I can’t tell what you really mean.

(もう言い逃れはやめなさい。その犬が私の野球のグラブを持っていたのか、あなたが使ってどこかへ置いてきたか言いなさい。あなたが言うことがわかりません。)

  • This newspaper article doesn’t give a clear story. It just beats around the bush and gives rumors.

(この新聞記事ははっきり言っていません。要点を避けているに過ぎず、噂を述べているだけです。)
(『αプラス アメリカ口語中心 活用英語イディオム800』開拓社、1987年)

Without beating around the bush, Bill started to discuss that crucial issue very frankly.
遠回しに言うことはせず、ビルは重要な問題を率直に議論し始めた。
(『クラウン受験英語辞典』三省堂、2000年)

ただ、どうしてそのような意味になるのかの説明がないのは不親切だという印象。

この語義・由来に関しては、受験対策教材だと、

「薮のまわりをたたく」が原義。そこから「遠回しに言う、まわりくどい言い方をする、要点を言わない」となった。
(『大学入試 英熟語最前線 1515』 研究社、2024年)

という説明をしているものがあるけれど、なぜ「薮そのものではなく、薮のまわりをたたく」のかという、もっとダイレクトな、核心を突く説明がなければ、比喩を実感できないのではないかと心配になります。

因に、この熟語集は、このイディオムの直前で “call spade a spade” というイディオムを取り上げているのですが、その最初の訳語が「単刀直入に言う」となっていて、日本語の慣用句の使用場面とは少々ズレてしまうのではないかと、こちらも心配です。
「単刀直入」の語義は基本的につぎのようなもの。英語で言えば、むしろ “not beat around the bush” に近いとさえ言えるのでは?

単刀直入 [名・形動]前置きなしにすぐ本題にはいること。直接問題の核心をつくこと。
「単刀直入に伺いますが…」
[参考]ひと振りの刀をもって一人で敵に切り込む意から。 (明鏡)

  • beat around [about] the bush

に関しては、古いとは言え、やはりこの辞典がわかりやすいと思うので解説全文を引用。

beat around the bush 遠回しに言う
とくにイギリス英語では, around の代わりに about ということもある。 字義どおりには「薮の周りを叩く」 で,獲物の所在を突き止めようとする際, 薮の中を直進せず,その周囲を叩きあさって追い出そうとする方法にたとえた成句。なお、この表現に対し, 「探りを入れる」あるいは「遠回しに探る」などといった訳語をあてている例も見かけるが、正確ではない。 なるほど,この表現が、そうしたニュアンスの文脈で使われることもないではないが,表現自体には、直接的に「探る」 といった意味合いはない。 あくまでも「(要点をずばり言うのは都合が悪い、あるいはその勇気がないなどして)遠回しに言う」というにとどまる。
Stop beating around the bush and come to the point. I'm a busy man. (そんな遠回しに言わないで, 要点を言いたまえ。 おれは忙しいんだ)。 ◇ talk around the subject (without coming to the point)
(『アメリカ口語辞典』朝日出版社、1983年)

因に、同辞書での “call spade a spade” の解説も、先に引用した熟語集の制作陣は必読だと思います。


さて、もう一方の “cut to the chase” はどうでしょうか?
学習用英和辞典でも扱われています。
ただ

cut to the cháse本題に入る. (Wisdom英和)

cut to the chase (略式)(余計な前置きなしに)本題に入る. (G6)

cut to the chase 動 自 (略式) 本題に入る, 単刀直入に話す. (コンパスローズ)

と訳語を載せるだけで用例もなく、どうしてそのような意味になるかの説明もありません。

イディオム辞典ではどうでしょう?

chase
cut to the chase  本題[核心]に入る
I just cut to the chase and say what I've got to say. 直接本題に入って言うべきことを言おう.
cut
cut to the chase 本論に移る
We don't have much time left, so let's cut to the chase. 残り時間が少ないので本題に入ろう.
以上、『クラウン英語イディオム』(三省堂、2023年)より

cut to the chase 本題に入る[戻る]
Enough small talk. Let’s cut to the chase. (雑談はもういい。本題に入ろう)
After asking the defendant a few easy questions, the prosecutor cut to the chase. (被告にいくつか簡単な質問をしたあと、検事は本題に入った)
(『英和イディオム完全対訳辞典』 朝日出版社、2003年)

由来などは書いていませんね。

とある辞書からの、次の引用文を読んで見て下さい。

cut to the chase
Get on with it, get to the point.
This phrase, often an imperative, comes from the film industry of the 1920s, where it means to edit (“cut”) film so as to get to an exciting chase sequence, an intrinsic part of many early movies. It gradually became more general in meaning, as in “She went on and on about her vacation, until I told her to cut to the chase and tell us where she stayed.”
Ammer, Christine. The Dictionary of Clichés: A Word Lover's Guide to 4,000 Overused Phrases and Almost-Pleasing Platitudes (English Edition) (p.98). Skyhorse. Kindle 版(2013). (Checkmark Books版は2006年)

所謂「クリシェ」の辞典です。著者は、

  • The American Heritage Dictionary of Idioms: American English Idiomatic Expressions & Phrases

の編者でもあります。
便宜上先ほどの英文の和訳を。

cut to the chase
さっさと済ませろ、要点を言え。
このフレーズは、しばしば命令形で使われ、1920年代の映画業界に由来する。当時は、映画を編集(「カット」)して、多くの初期の映画に不可欠な、エキサイティングな追跡シーンにたどり着くことを意味していた。それが徐々に一般的な意味になり、「彼女は休暇について延々と話し続けたので、私は彼女に要点を言ってどこに滞在したのか教えてくれと言った」のように使われるようになった。

日本の書籍でも、

  • 山田詩津夫 『アメリカ人ならだれでも知っている 英語フレーズ4000』(小学館、2005年)

では、由来も含めて適切な解説がなされていますので、是非一読を。

ここまで、「早慶」という私立大学入試で、同一年度で共通に取り上げられた「イディオム」を見てきましたが、日本の中高で学んできた受験生に求める知識として適切でしょうか?

私は、随分前に、ツイッターでこんな投稿をしていました。

中邑(2003年)「国際英語に求められる要件とは?」(pp.79-80)
ここで中邑は「読み手に背景知識がなければ理解しにくいようなことばを、文化や風習を異にする人々に対して使うのは不適当」
とまで言っています。

このツイートで言及した書籍はこちら。

中邑光男 『基礎から学ぶ英語ビジネス・ライティング』 (研究社、2003年)

私の基本的な考えは今でも同じです。
特定の文化を強く反映した表現を知っているか否かで「英語の学力」や「英語の運用力」を決めるのは感心しませんし、歓迎できません。

昨日も取り上げ、冒頭で再度示した早大・文の対話文の続きに、こんなやり取りが出てきます。

June: Great, thanks. I'll check it out. How's your part going?
Alex: Pretty good. Designing presentation slides is a pain in the ( neck ) though.
June: Oh, I'm pretty good at it actually! It's my ( cup of tea ). I'm happy to help.
Alex: Super! Thanks, June.

最初の空所に入るneckは “a pain in the neck” という成句の要素。
単純に「悩みの種;頭痛の種」で覚えている人も多いかと思いますが、このneckの部分にくる身体部位にはバリエーションが多く、しかも卑俗な言い方にもなるので、注意が必要です。

『ランダムハウス英和』(小学館、1986年)では用例でいきなり、 “ass” がきています。

a (real,royal) pain in the neck [or ⦅卑×⦆ the ass,the butt,the rear, ⦅英卑×⦆ the arse]
⦅話⦆ 悩みの種; 腹立たしいこと[人,もの].
He gave her a pain in the ass.
彼は彼女を怒らせちゃったよ.

学習用英和の扱いを見てみましょう。

be a pàin (in the néck [bútt, báckside])
(くだけて)<事が>面倒くさい, わずらわしい, やっかいである; <人が>お荷物[やっかい者]である, 嫌なやつである
It's a pain going back and forth in the classroom. 教室を行ったり来たりするのはうんざりだ. (Wisdom英和)

a páin in the néck = a páin in the bútt (米) [(米俗) áss, (英俗) árse, (略式) báckside]
(略式) うんざりさせる人[物, 事], 悩みの種. (G6)

  • neckまでは日常で使っても大丈夫だから…

などと線を引いて覚えておくべき表現でしょうか?

  • be extremely bothersome

で十分では?

先ほどの対話文の二つ目の空所に入る、

  • cup of tea

に関しては、私自身も、否定の文脈でしか見聞きしたことがありませんでした。

Not my cup of tea.
「私の好みではない」 
くだけた言い方。It’s not my cup of tea. の省略表現。
(山田詩津夫 『アメリカ人ならだれでも知っている 英語フレーズ4000』 小学館、2005年)

というような知識があったので、この出題でもちょっと「?」が浮かんだのでした。

ただ、この記事を書いていて、次のような記述を見つけました。例の辞書です。

be someone’s cup of tea  (話) 好み [得意] である
「自分の (好みの) 紅茶である」 が本来の意味で、 イギリス人の紅茶好きから生まれた表現。今ではアメリカでもよく使われる。 Whodunits are not my cup of tea (推理物はぼくの好みじゃない)。
否定構文で使われる傾向が強いが、肯定文で使うこともある。 If you want to go and see a movie, how about a good shoot-'em-up Western? Now that's my cup of tea. (映画を見に行くなら、派手な撃ち合いのある西部劇はどうだい。 それこそ私の好みさ)。 よく just で調子をつける。 Let's not invite Frank. No doubt he's a nice fellow, but he's just not my cup of tea. (フランクは招待するのをやめよう。 確かに彼はいいやつだが、どうも私の好みじゃない)。 「得意である」の意味でも使われるが、この場合も常に「好きである」という意味合いが含まれているのが特徴。 「好きだから、 うまくできる」という考え方である。 We're going to offer Mark the role of the murderer in our new play. It should be just his cup of tea. (今度の芝居では、マークに殺人者の役を与えようと思っている。 その役はまさに彼のお得意のはずだ)。 From what you've told me, this should be your cup of tea. It's an editing job in a publishing house. (お話を伺ったところでは、この仕事はあなたのお得意のはずです。出版社の編集業務ですよ)。 なお、アメリカではあまり使われないが, be someone's dish of tea という言い方もある。 ◇ be exactly what [the kind] someone likes [does] best
(『アメリカ口語辞典』 朝日出版社、1983年)

ちゃんと、肯定文でも使うと書いてありましたね。『マケーレブ本』を愛用と、頻繁に言っていたくせに、私の読み込みが甘かったです。この辞書は最後に、穏当なパラフレーズを示してくれる所が好きです。因に、

  • what you do best 自分がいちばん得意なこと

っていう言い回しは、『チャンクで積み上げ英作文』のStandard編の「副詞節マッチング」で入れてありますので、ご確認下さい。even thoughとeven if の項目です。

それにしても、「英国人の紅茶好きに由来する表現で、今では米国でも使われるようになった表現」を日本の学習者が英語の試験で問われるとは…。
杉下右京なら何と言いますかねぇ?

本日はこの辺で。
本日のBGM: お茶 (UA)

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