前回の記事
で紹介した「エピソード」の和訳です。
先日、全国的に有名なファーストフード店でランチを食べました。研修中の若い女性が私にサービスをしてくれました。彼女は丁寧に話し、私は彼女の言っていることを完璧に理解しましたが、カウンターの端にいるお客さんに食べ物を運んできた男性のウェイターが何を言っているのかは聞き取れませんでした。彼は「こちらがご注文の品です。お食事をお楽しみください。」のようなことを言ったに違いありませんが、彼の言葉は一言も聞き取れませんでした。彼は日本語の能力が限られた留学生なのか、それともただ話し方が粗かったのか疑問に思いました。
その後すぐに、彼がキッチンスタッフに言ったことに驚かされました。
「おあと5人様お待ちです!」
それは非常に明瞭で、彼が日本語のネイティブスピーカーであることを確信しました。
私は、「私は現在、適切な顧客サービスを提供しています」という事実を明示的に述べることを強調する言語使用と、必要な情報を明確かつあいまいさなく伝えることを優先する言語使用の対比が明らかになる瞬間を目撃しました。それが物語の終わりではありません。食事を終えた後、私はレジカウンターに行きました。私が望んでいた若い女性が私に対応してくれることなく、例の男性がレジに来ました。驚くことに、彼が言った請求額の日本語は聞き取ることができました。「やっぱりそうだ!」と思いましたが、その自己満足は長続きしませんでした。支払いを終えて振り返り、ドアに向かおうとしたとき、後ろから明るい声が聞こえてきました:
「※☆〜*〜!」
完全に意味不明。驚きです。
- 「こちらがご注文の品になります。」
は簡潔には、“Here you are.” とか “Here’s your order.” がより一般的なやりとりでしょうか。
最後に客に向かってかける言葉としては、
- 「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています。」
辺りになるのだろうと思いますので、AI生成の際にも、何回かそこだけやり直して、日本語に寄せています。客商売での定型表現としては、
- We look forward to serving you again.
とか
- Thank you for choosing us.
ですが、英語圏のファストフード店では何と言ってますかね?
• "Thanks for dining with us. See you again soon!"
• "Thanks for stopping by. Come back again soon!"
• "We appreciate your business. Enjoy the rest of your day!"
辺りでしょうか。
知らないことはまだまだたくさんありますね。
ということで、今日の「気になる語法」は、
- knowledge界隈
です。
動詞はknowで派生名詞がknowledgeというくらいの知識は皆さんお持ちでしょう。
通例は不可算扱いのknowledgeも形容詞で修飾されると、不定冠詞がつくことがある、というのも、大学入試では問われたりするのか、教材でもきちんと触れられていますね。
I have been with you for eleven years, and have an intimate knowledge of the business.
私はあなたと11年間一緒に働いてこの仕事がよくわかっています。 (西尾孝『実戦英単語活用事典』日本英語教育協会、1981年)
辞書にも当然のように用例があります。
John has a basic knowledge of German.
ジョンにはドイツ語の基礎知識がある. (Wisdom英和)
He gained a first knowledge of Iran. 彼はイランについての直接の知識を得た。
(『実用英語サクセス小英和』日本英語教育協会、1985年)
入試問題でこの知識が直接問われることは少なく、誤文選択や誤箇所指摘の設問でも、knowledgeや不定冠詞に下線が引かれているのは極めて稀ではないかと思います。
For people to be considered cultured, it is necessary for them to have a general knowledge of the important landmarks, past and present, in several fields, such as literature, art, history, and politics.
教養のある人と見なされるためには、文学、美術、歴史、政治など、いくつかの分野における過去から現在までの特筆すべき重要な事象について、一般的な知識を持っておくことが必要です。
まあ、某大某学部のようにいやらしい作問もあるにはありますけど。
Sigmund Freud, the founder of psychoanalysis, said several times of Nietzsche that he had a more penetrating knowledge of himself than any other person who ever lived or was ever likely to live.
精神分析の創始者であるジークムント・フロイトは、ニーチェについて、彼はこれまで生きた、またはこれから生きる可能性のあるどの人間よりも、自分自身について深い洞察を持っていると何度も語った。
ちょっと変わったところでは、正誤辞典。
(X) He has considerable knowledges of Russian politics.
(○) He has a considerable knowledge of Russian politics.pixs
(彼はロシアの政治についてかなりの知識があります)
knowledge は, 「身につけた知識」 の意味では不定冠詞と共に用いられることがある.ただし,複数形で使うことはできない。
(木塚晴夫&ジェームス・バーダマン『日本人学習者のための米語正誤チェック辞典』 マクミラン、1997年、p.317)
この「…用いられることがある」というのが適切な記述、という印象です。
形容詞がつくと常に不定冠詞がつく、というのは過度の一般化でしょう。
辞書の記述から。
Maki has (a) good [has no, doesn't have (any)] knowledge of American culture.
真紀はアメリカ文化のことをよく知っている[全然知らない] (Wisdom英和)
とあるように、不定冠詞は( )に入っています。同辞典の「コーパスの窓」のコラムでは、
不定冠詞との関係 具体的な場面を意識していう場合は不定冠詞をとることが多い. また, その際, 形などの修飾語を伴いやすくなる. なお, 不定冠詞を伴うとしばしばひと通りの体系的知識を暗示する
You need to have a knowledge of computers to understand the book.
この本を理解するにはコンピュータのひと通りの知識が必要です.
「多い」「伴いやすくなる」という穏当で妥当な記述です。
現代の英語では形容詞との結びつきでひとつひとつ違う様相を呈しているので、辞書の記述と言えども鵜呑みにせず、実例ありきで対処するのが吉。
He had an intimate knowledge of painting, music and other arts.
絵画,音楽その他の芸術に精通していた. (ランダムハウス英和)
She has an intimate knowledge of the Asian market.
彼女はアジアの市場を熟知している。 (Oxfordコロケーション)
上記二例では、不定冠詞となっている intimateですが、Google BooksのNgramViewerだと比較的近年で頻度の逆転が見て取れます。
比較の対象として、basicを取り上げています。
全体では、2015年には入れ替わりが見られます。basicも無冠詞が急上昇していますが、まだ不定冠詞との差があります。
米では20世紀末には入れ替わりの兆しが見られ、2010年以降は差が開いています。
英では今が入れ替わりの見られる時期かもしれません。
COCAで、knowledgeを修飾する形容詞の上位はこのようになっていますので、普段から気にしておくのが良いでしょう。
さあ、名詞knowledgeにも慣れてきたと思いますので、今日の本題で、
- without the knowledge of の語義と生息域
です。
辞書の成句でも取り上げられているのですが、
多くの辞書の記述では
- without A’s knowledge = without the knowledge of A
となっているにも関わらず、成句の項では用例は所有格のものだけが収録されています。
without A's knówledge
(1) A<人>の知らないうちに
He borrowed it without her knowledge. 彼は彼女に無断でそれを借りた. (Wisdom英和)
withòut O's knówledge = withòut the knówledge of O
O〈人〉に知らせずに, 無断で; O〈人〉の知らぬまに
He crept out without his wife's knowledge.
彼は妻が気づかないうちにそっと出ていった. (G6)
この知識があれば、次のような読解の素材文に対応可能でしょう。
Digital technology also brings potential problems. There are threats to privacy: digital systems can gather and communicate large amounts of information about people, often without their knowledge.
デジタル技術は潜在的な問題ももたらします。プライバシーへの脅威があります。デジタルシステムは、人々に関する大量の情報を、しばしば本人の知らないうちに収集し、伝達することができます。
辞書でwithout the knowledge of の用例を載せているものもあります。
without the knowledge of
…に知られずに, に無断で
He married without the knowledge of his parents.
彼は両親に無断で結婚した. (クラウン英語イディオム)
この例では、his parents とあるので、対象は2人であることが分かります。
三省堂の『クラウン英語イディオム辞典』は2023年。
私が高校生の頃使っていた、小学館の『新選英和辞典』 (1981年)にも似た用例があります。
We got married without the knowledge of our parents.
私たちは両親に無断で結婚した。
この場合のour parentsでは、新郎と新婦双方に両親がいる可能性があるので、対象は最大4人ですね。
物書堂など、手軽に的確な用例検索ができる辞書であれば、この “the knowledge of …” の部分を含んだ用例も得られます。
親の目を盗んで(=内緒で)賭けトランプをする
play cards for money without the knowledge of one's parents. (Wisdom 和英)
He returned to Italy without the knowledge of his friends.
友人たちが知らないうちにイタリアに戻ってしまった.(研究社英和活用大)
私が取り上げた the knowledge of A では、「Aが知ること;Aに知らせること;Aに知られること」という意味のつながりを持っています。これがAタイプです。
一方で、ジャマイカの国民的英雄と言われるマーカス・ガーベイ (Marcus Garvey) の残した有名な言葉、
A people without the knowledge of their past history, origin and culture is like a tree without roots.
過去の歴史、起源、文化の知識を持たない人々は、根のない木のようなものだ。
に見られる、the knowledge of Bでは、「Bを知(ってい)ること」という意味のつながりを持っていることに注意が必要です。これをBタイプとしておきましょう。
実例で確認します。
Operation Nanhe Fariste:- On 11.01.2025, RPF /BBS rescued a minor girl aged 16 years from PF No.06 of BBS R/S , who had run away from home without the knowledge of her parents. The rescued girl was handed over to Child Welfare Committee, Bhubaneswar as the guidelines of SOP.
Operation Nanhe Fariste:- On 11.01.2025, RPF /BBS rescued a minor girl aged 16 years from PF No.06 of BBS R/S , who had run away from home without the knowledge of her parents. The rescued girl was handed over to Child Welfare Committee, Bhubaneswar as the guidelines of SOP. pic.twitter.com/3bNFgNB9Lz
— RPF KHURDAROAD DIVISION (@rpf_ecor_kur) 2025年1月12日
ナンヘ・ファリステ作戦:- 2025年1月11日、RPF / BBSは、BBS R/SのPF番号06から、両親に知られずに家から逃げていた16歳の未成年の少女を救出しました。救出された少女は、SOPのガイドラインに従って、ブヴァネーシュワールの児童福祉委員会に引き渡されました。
ここでの without the knowledge of はAタイプですが、文脈に注意が必要です。
(?)「親に知らせずに」というよりは、(○)「親に知られずに」という意味を表すもの、と解釈するのが適切だと思います。
入試問題でもこのAタイプが実際に読解素材文には現れますが、あまり注目されていない模様。
A person or persons unknown have produced a copy of the Mosquito buzz for use as a cell-phone ring tone, evidently with the idea that it will enable students to receive notification of new text messages while sitting in class, without the knowledge of the teacher.
何者かが、モスキート音を携帯電話の着信音として使用できるようにコピーを作成しました。明らかに、それは学生が授業中に教師に気付かれることなく新しいテキストメッセージの通知を受け取ることを可能にするという考えに基づいています。
これは明らかにAタイプです。ここでも (?) 「無断で」というよりは、(○「知られずに」という解釈が吉。
I have never been able to tell him directly how much I love him. This, I must admit, has been a great failing of mine. He left for California today, and I am incredibly sad because I am certain that he did so without knowledge of how I really feel.
私は彼にどれほど愛しているかを直接伝えたことが一度もありません。それが私の大きな欠点であることを認めざるを得ません。彼は今日カリフォルニアへ旅立ちましたが、私はとても悲しいです。なぜなら、彼が私の本当の気持ちを知らないまま行ってしまったと確信しているからです。
こちらはBタイプ。ここでのwithoutでの副詞句は、he did so (= he left for California) を修飾するものです。of に続くのが人ではなく how SVで名詞節=ことがら、であることを確認。
A lot of people are trying barefoot running without preparation and without the knowledge of what happens when you take off your running shoes, and I was one of them.
www.npr.org
多くの人が準備もせず、ランニングシューズを脱いだときに何が起こるのかを知らないまま裸足ランニングを試していますが、私もその一人でした。
こちらもBタイプですね。ofに続くのが what Vで名詞節です。
続いて英語ニュースから。
Andy Vermaut shares:Jofra Archer plays for Barbados side without Rob Key's knowledge: Jofra Archer plays in Barbados without the knowledge of England management, despite still recovering from an elbow injury.
Andy Vermaut shares:Jofra Archer plays for Barbados side without Rob Key's knowledge: Jofra Archer plays in Barbados without the knowledge of England management, despite still recovering from an elbow injury. https://t.co/l6zP2aZr4q Thank you pic.twitter.com/bzKw0zGA6g
— Andy Vermaut (@AndyVermaut) 2023年12月11日
アンディ・バーモートがシェア: ジョフラ・アーチャーはロブ・キーの許可なくバルバドス代表でプレー: ジョフラ・アーチャーは、肘の怪我からまだ回復中であるにもかかわらず、イングランドの経営陣の許可なくバルバドスでプレーしている。
こちらはAタイプ。所有格の without Rob Key’s knowledgeと同じ文脈で使われています。
因に、Jofra Archerはバルバドス出身でイングランド代表のクリケット選手。Rob Keyも元代表選手で、現在はクリケットの英国代表チームのmanaging director。 (England and Wales Cricket Board (ECB) - The Official Website of the ECB)
AタイプかBタイプかの違いは、「人」か「ことがら」かの違いだからそこを見極めれば簡単、と言うのは易しいですが、次のような英英辞典の用例がヒットした時に、その語義が一読了解できるでしょうか?
- The legislation was introduced before Parliament without the prior knowledge of the king. (Oxfordアカデミック)
この英文は
- その法律は、国王の事前の承認なしに議会に提出された。
というような意味になるはずです。(X)「国王について知(ってい)ること」でも(X)「国王と知り合いであること」でもありません。
Aタイプの用法に習熟するためにも、やはり、典型例で without the knowledge ofに続く名詞との意味の結びつきを確認する作業を何回かはしておくのが良いでしょう。
次のsubjectsのような名詞がくる場合に双方の可能性を考えて最適解を得ることが大事です。
In 1945, shortly before the war’s end, water fluoridation abruptly emerged with the full force of the federal government behind it. In that year, two Michigan cities were selected for an official “15-year” comparison study to determine if fluoride could safely reduce cavities in children, and fluoride was pumped into the drinking water of Grand Rapids.
Other early experiments were performed, not only without publicity, but without the knowledge of the subjects. The scientific value of these experiments — and their ethics — were dubious in the extreme.
americanwaterlesscookware.com
1945年、戦争の終わりが近づく中、水フッ化物添加が連邦政府の全面的な支持を受けて突然登場しました。その年、ミシガン州の2つの都市が、フッ化物が子供の虫歯を安全に減少させることができるかどうかを判断するための公式な「15年」比較研究のために選ばれ、グランドラピッズの飲料水にフッ化物が注入されました。
他の初期の実験も行われましたが、それは公表されることなく、被験者にも知らされないまま でした。これらの実験の科学的価値とその倫理は、極めて疑わしいものでした。
ここでは「被験者のことをよく知らないまま」という解釈の可能性がないわけではありませんが、上述の和訳の方が適しているでしょう。
最後にこちらの英文を。
English learners in Japan tend to prefer a learning method that makes it seem as if they have substantially improved their English skills without the knowledge of others.
日本の英語学習者は、他人に知られることなく、自分の英語力が大幅に向上したように見える学習方法を好む傾向があります。
これ、結構、あるあるだと思います。そして、飛躍したらそれをお披露目したり、他者に教えたりする人もまた多い印象です。
所詮は語学。学習法なんて Whatever works. ですから。主役はあなた自身。
本日はこの辺で。
本日のBGM: 脇役であるとも知らずに (ゴンチチ)



