以下の内容はhttps://tmrowing.hatenablog.com/entry/2025/01/22/075134より取得しました。


「いつか誰かが…」

前々回のエントリーでは、「新課程対応とされる共通テスト」のリーディング第4問の英文を取り上げました。

「遅い=粗い では困ります」
tmrowing.hatenablog.com

毎回、その記事の内容やテーマを考慮し、「本日のBGM」を流しているのですが、先のエントリーではJohn Mayerの “Slow dancing in a burning room” にしていました。
これまでも「素早い情報処理に追われる」と受験生からの悲鳴が聞こえ、有識者からの批判がなされてきた共通テストのリーディングで、 “Slow Life” という話題が投げ込まれた、という皮肉な現象を私なりに揶揄したものでした。

BGMはともかく、記事の内容にはごく一部では反響がありました。
しかしながら、巷の「共通テスト」の解説では、新形式で「表現する意識」とか「書き手の視点」が打ち出されていて良い、というようなものが散見されて凹むというか萎えるというか…。

先の記事では

一般論では「拙速の戒め」で、「いくら速くそのタスクをこなしたとしても、それが拙ければその意義は…」と注文が付くだろうと思いますが、「ゆっくりやったのに、その結果が雑」ではもっとダメだと思うのですね

と書いていますが、これは今回の共通テストの作問チームへの苦言でもあります。
今回の出題が「英文ライティング」の代替問題として好ましいとか、高く評価したりしている人は、英文ライティングやそのフィードバックをその程度のものだと考えている、ということなのだと思います。私はそれには全く与しませんので。

「フィードバック」に関しても、昨今は、

  • 生徒の書いてきた英文にある誤りを全て直していませんか?

というような揺り戻しで、 “teacher feedback” も、所謂 “peer feedback” も作品のimprovement に殆ど寄与していないのではないかと思う実践を見聞きする機会が増えたように感じています。
日本の教育現場での英文ライティングの実践やフィードバック研究の知見が深まったり、広がったりしているのかもどかしい思いです。
今年の共通テストの「リーディング」での第4問では、修正後に完成するとされる英文が285語と結構長く、使われている語彙レベルも確かに高いのですが、前々回の記事で示しているような広さ深さのWCFをかれこれ20年以上実践している指導者が高校現場にいる、ということを、少なくとも日本の英語L2ライティングのフィードバック研究者には知っておいて欲しいと思います。

生徒本人のdraft → peer feedback → revision → teacher feedback というprocess approachを採った指導評価の例として、次のworksheetの写しを見て下さい。


私の過去のセミナーやワークショップを受講された方には「またか…」と思われるかも知れませんが、これは、2004-2005年度ですから、約20年前の実践です。2枚目の写真の右頁に見える「チェックリスト」は大井恭子先生の作られたものを踏襲しています。

今の私は、これと同じことをやろうとは思いませんが、高校段階でのライティングの指導評価の「現在地」は、これよりも豊かで深いものになっているでしょうか?
「作文の指導評価で、ダメ出しするのは簡単、良いところを指摘して伸ばすのが大事だ」なんて、いう声をよく聞きます。
でも、L2の作文のダメ出しって簡単じゃないし、対象言語でダメ出しされたものを十分に咀嚼できるようなら、もうかなりの英語力ですから。
母語でフィードバックのコメントを書いてあげましょうよ。
私は、今年の「共通テスト リーディング 第4問」で示された285語の「英文」のクオリティに疑義を呈して、それに対し詳細なWCFを与えました。
一方、問題文の構成、全体の枠組みで、最後のteacher commentを見る限りでは、DNC の作問チームは次のようなメッセージを込めているのかとさえ思いたくなりました。

何よりも、表現する意欲が大事。多少の間違いは気にせず、自分の意見とその理由を書くこと。まずは量を書けることを目標に、正確さはやりながら改善していけば良い。
教師の与えるフィードバックも、生徒が書いた内容に反応することが重要で、ローカルエラーを指摘して表現する意欲を減じてはならない。 “engaging” なフィードバックを心がけて。

今回のエッセイはTextInspectorの分析によれば、CEFRの C1レベルのライティングになり、使われている語彙のレベルも、A1レベルに次いで、B2レベルの語彙が多いことでもわかるように、十分に「中級者以上」の英語素材で書かれているわけです。
にもかかわらず、「1ピースとしてのライティング」として読んだ場合には、多くの「?」が浮かびます。まさに、その部分こそ「つながりとまとまり」などの英文ライティングの肝だと思うのですね。

参考までに、今年の共通テストの「リスニング」の第5問の英文を取り上げてみましょう。
建前上の設定は「レクチャー」ですから、「書かれた話しことば」です。
分量は私の持っているソフトのワードカウントでは278語。懸案の「エッセイ」の285語とほぼ同量と言って良いでしょう。

3000語以上の語彙レベルの語を赤でハイライトした形でレクチャー英文のスクリプトを示します。

LexiTracker経由での日本語訳

米国では毎年何百万ものクリスマスプレゼントが贈られていることをご存知ですか? 残念ながら、そのプレゼントの最大 3 分の 1 は使われずに残ったり、捨てられたりしています。この無駄を減らすことは、環境保護に役立ちます。これを行う効果的な方法は、再贈与に対する人々の態度を変えることです。

では、再贈与とは何でしょうか? 再贈与とは、プレゼントを受け取った人がそのプレゼントを別の人に渡すことです。イラン、イタリア、パプアニューギニアなど、多くの場所では、再贈与は一般的に受け入れられている習慣です。しかし、米国では、少し複雑です。

アメリカ人を対象にした調査では、76% が再贈与は問題ないと考えていると答えましたが、実際には、再贈与に消極的な人が多くいます。別の調査では、再贈与をした人が申し訳なく思っているのに対し、元のプレゼントを贈った人の大半は、再贈与した人がプレゼントをどう使おうと自由だと考えていることが示されました。最終的にギフトを受け取った人の 90% がギフトに満足していたにもかかわらず、再贈与者は依然として過度に心配しているようです。

再贈与者の気持ちを変えるにはどうしたらよいでしょうか。ある実験では、1 つのグループには National Regifting Day と呼ばれる特別な日について知らせ、もう 1 つのグループには知らせませんでした。この情報により、最初のグループは再贈与は問題ないと感じ、他のグループよりも 3 倍多く再贈与しました。このようなイベントは、再贈与に対する前向きな姿勢を促進するでしょう。

もう 1 つのアイデアは、不要なギフトを譲ったり交換したりできるオンライン ギフト交換などのシステムを促進することです。これらのギフトを欲しがっている人を簡単に見つけられるため、再贈与は非常に簡単になり、不要なギフトを捨てることはほとんどなくなります。

次に、TextInspectorでの語彙分析。writingとして分析しています。

まず全体概況。C1+です。高い評価ですが、懸案の「エッセイ」とほぼ同等と見ていることになります。

EVPは、A1が最大で、以下、レベルが上がるにつれて少なくなっています。これはB2レベルが異様に多かった「エッセイ」とは大きく異なります。

最後はMetadiscourse

metadiscourseに関わる語彙項目の使用は、先の「エッセイ」でも、この「レクチャー」でも少ないことは少ないのですが、「エッセイ」と比べて、「レクチャー」では、logical connectiveの使用が突出していることがわかります。
日本の高校生のエッセイを長年指導評価してきた私の経験からも、この logical connectivesの使用率の高さは、「自分の意図を誤解なく伝えたい」「論理性を高めたい」という伝え手の思いの反映といえるでしょうか。

「共通テスト」の制約から言えば、この第5問のレクチャーは「1回読み」だということを忘れてはいけません。
一読了解ならぬ、一聴了解できるように書かれた英文だということです。

主題の提示で最も重要な書き出しの段落
主題を支える為に必要不可欠な端的な例示
聞き手を置き去りにしないやり取りの言葉かけ

などなど、

  • 表現への意欲を高め、効果的な伝達のためにスキルを伸ばし磨く

ということを高校生に求めるのであれば、先の「エッセイ」もこの水準・内容のものを素材とするべきだったのでは、と正直思います。

因に、この「レクチャー」をLexiTracker経由でreviseさせるとどうなるか?
クリック一つでこんな結果が!

書き直しの箇所がボールド(太字)でハイライトされ [ ] で示されています。
このrevised versionでは、総語数が296語に増量しました。

以下、書き直しの箇所。

Revisions Made:
1. Added [approximately] to provide a clearer estimate of the number of gifts going to waste.
2. Changed [An effective way] to [One effective way] to make the sentence more concise.
3. Added [To clarify] to introduce the definition of regifting.
4. Changed [many places] to [countries like] to provide more specific examples.
5. Changed [it is a bit more complicated] to [it is somewhat more complex] to make the language more precise.
6. Added [a significant] to emphasize the percentage of respondents who believed regifting was acceptable.
7. Changed [many are reluctant] to [many people are still hesitant] to make the language more concise.
8. Added [Interestingly] to highlight the contrast between the regifter's feelings and the original gift giver's attitude.
9. Changed [it seems clear] to [it is clear] to make the language more direct.
10. Added [we can try] to introduce the solution.
11. Changed [informed] to [made aware] to make the language more precise.
12. Added [at a rate] to provide more context for the comparison

この指摘と修正は、先のブログ記事で示したリーディングセクションでの「エッセイ」の修正と読み比べると面白いのでは?

長々と書いてきましたが、市井の一英語講師にできるのはこの程度のことです。

繰り返すのはいつも同じ言葉。

  • より良い英語でより良い教材
  • より良い英語でより良い評価

では、何をもって「良い英語」とするのか? そこに合意はあるのか?
「英語教育の明日」を担う、関連諸領域の研究者に期待します。

本日はこの辺で。

本日のBGM: Gift (Vaundy)

open.spotify.com




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