以下の内容はhttps://theresalight.hatenablog.com/entry/20240825/1724576075より取得しました。


Mt. Washington - 山をなめてはならない

皆さんこんにちは。


暑くて外にも出られないし、むちゃんこヒマなので、そして最近ブログを上げていないこともあり、過去の下書きなぞを整理してたんです。
そしたら1つすごいのが出てきました。


米国にいるときに山に登って遭難した話。
(注)これ以外に眠ってた下書きとしては、「これはSなのかMなのか」「今日はガーミンに少しだけ謝る(笑)」「モーゼの十戒への追加要望」「無人島に持っていく10枚」「遅ればせながらUTMF2022を観て」「海外通販で関税消費税がかかった際に通関業者から不当に請求される手数料を支払わない方法」など。UTMFだけはいい記事書いたんですがもうout of dateです。あとのはゴミです(笑)。


当時は、教訓にもならないほどお粗末な話なので上げるかどうか迷ったのですが、時間が経っていることもあり、上げることにしました。

もう山に登ることなどないと思っていたのですが、最近また少し山に登っている自分に対する改めての警鐘にもするべきであり、随分と長いこと下書きに眠っていたものを、多少加筆修正してアップすることにしました。



2020年8月、いまから4年も前になりますが、当時米国に駐在していた私は、北東部最高峰のMt. Washingtonに登ろうとしていました。
theresalight.hatenablog.com

北米東部は、中学校の地理でも習った通り、アパラチア山脈というなだらかな山脈しかないので、この山は北東部最高峰といっても標高は1917mと2000mにも満たないのですが、北緯44度と緯度が高く、周りにほかに高い山がないこともあり、「世界最悪の気象」の場所とも言われるほど風が強く天候が厳しいのです。これまでの最大瞬間風速は毎秒103m、最低気温はマイナス42度。
その一方で、頂上まで自動車道路が伸び、アプト式の登山電車もあり、頂上には天文台レストハウスもあり、ハイカーのみならず車や登山電車で訪れる観光客が多い場所でもあります。

ja.wikipedia.org



以下、ここに登ろうとしたときの遭難記です。
文章が(当時の下書きのまま)常体となりますが、その方が緊迫感も出ると思いますので、ご容赦ください。

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8月29日、久々の5kmレースで20分を切り調子にのっていた私は、予定通り、そのまま車を北に6時間走らせ、ニューハンプシャー州のゴーハムという街までやってきた。ここはMt. Washingtonの登山口まで車で15分の街。


ここで1泊して、翌日Mt. Washingtonに登るのが計画。
もともと土曜日に登る予定だったが、土曜日は雨予報だったため、日曜日に予定を変更していた。日曜日の天気予報は「風」マーク。ただし、Mt. Washingtonの予報は、雨や雪マークの他は、風マークばかりで、晴れとか曇りという予報はそもそもほとんどない。もともと風が強い場所だし、風マークはそれほど気にせずにいた。


翌朝。

予定通り6時に起き、登山口であるピンカムノッチに向かう。
ピンカムノッチの標高は700mほど。

登山口のピンカムノッチ

この時点で風が明らかに強かった。
私は若いころディンギーヨットに乗っていたので、風に対する感覚はある方で、まあ、ピンカムノッチで風速8mといったところだったろう。

基本的に天候に対して臆病な私は、そのまま車に戻って家に帰ろうかとさえ思った。なにもせずにまた車を6時間運転して。。
だが、駐車場には車がそこそこあり、ハイキングの格好をして歩き出す人たちもいた。

「トレランシューズも試したいし、とりあえず林の中のトレイルだけでも歩くか」
そう思って少し歩くことにした。


一応、当初予定していた通りの、Tuckerman Ravineという山頂までのコースに沿って。
服装は、長袖ベースレイヤーに半袖Tシャツ、その上にウィンドブレーカー。下は、ロングタイツに短パン。
このほかに、ウールのミッドレイヤー、レインウェア、ニット帽、手袋を持参。水と食料も十分に備えていた。
むしろクマが怖かったので、クマ除けの鈴もつけていた。

予定していたルート


林の中のトレイルを歩く限り、頭上で風が鳴っているのはわかるが、木々に遮られて、体で風を感じることはなかった。
時折雨も降り出したので、レインウェアに替え、ザックにもレインカバーをかぶせて歩いた。
キロ15〜16分という、平地を歩くのとさほど変わらないペースで順調に進み、適宜休んで水分もエネルギーも補給した。
見晴らしのいい場所、風を遮るものがない場所に出たら、状況を見て戻るつもりだった、この時点では。

途中で滝を見たり。

虹を見たり。

池を見たり。

この過程で、何組かのハイキング客とすれ違った。


やがて木が低木となりハイマツと高山植物の地域になった。
このような見晴らしのいい場所に出た。


風を遮るものはないのだが、この時点で、風はほとんど吹いていなかった。これを、風は吹かなくなった、天候が好転した、と誤認したのが最大の判断ミスであった。天気予報は一日強風だと言っていたのだ。
見晴らしのいい場所に出て、ここで満足して帰るべきであった。



しかし、まだ、行ける、と思ってしまった。
そして、距離にしてもう半分以上来てる。
これは上まで行けるのではないか。

さらに先に進むことにした。
前方に滝が見えた。
この滝の上に向かってかなり急な岩場を登る。手を使う必要もあるような斜面。
風はほとんどないが、足場は濡れているし、ゆっくり着実に登らないと、滑落の危険もありそうだと思った。


今思えば、戻るならここであった。


しかし、ペースを落としてゆっくり行くことにしてしまった。

滝の上まで出ると、再びハイマツと高山植物のやや平坦な地帯になった。


そこを抜けると、低木もなくなり、岩場のやや急な斜面に出た。

道標が、頂上まで0.6マイル(約1km)だと言っている。これが頂上に上がる最後の登りであろう。

この距離なら行けるだろう。これは間違いなく頂上まで行ける、そう思ってしまった。
まだ写真をとる余裕があった。これが最後の写真。


この岩場を登っている最中、風が急速に強まってきた。

しっかりと足場を固めて歩かないと、風にあおられる。時折吹く突風は20mは超えているだろうと思った。
風には雨も混じっており、気温も相当低い。
霧と雨で、視界は悪い。20mくらい先しか見えない。
もちろん、他に登っている人などいない。


まずい。
これはまずいかもしれないぞ。
バテたらまずい。落ち着いていこう。
そして寒い。


道標は頂上まで0.4マイル(約640m)を告げていた。


戻るか。
いや、この風のなか、さっきの滝に沿った急斜面を降りていったら、滑落の危険が高い。
この山は、頂上にはレストハウスがあって人もいるハズ。そこが他の山と違うところだ。頂上にたどり着けさえすればなんとかなる。
むしろ、助かるためには登るべきだ。あと600m、行こう。
そう判断した。

この時点でのこの判断は間違っていなかったかもしれない。しかし、戻るのを考えるのが遅すぎた。


幸い、ルート上には20〜30mごとにケルンがあった。視界は悪かったが、このおかげで道に迷うことはなかったし、ケルンごとに、ケルンの陰で風をよけながら休むことができた。
この状況で道に迷ったりしたら絶望的である。

体が冷えるほど休んではダメだが、休んで体力を回復し焦らずにゆっくり行くことにする。
風が強くても、歩くことはまだできる。焦ってバテたり、足を踏み外すことの方が危ない。
ミッドレイヤーを取り出して着ることにし、食料も食べて体を温める。
やってはいけないことは装備を失うこと。着替えているうちに手袋を落としたら、それでもうアウトかもしれない。レインウェアを飛ばされたらアウトだろう。


風はますます強くなり、空が鳴っている体感温度も下がる。焦りと不安。
何回かケルンの陰で休んでいるうちに、このままここで休んでいようか、とも思ったりした。
再び歩き出すのを躊躇させるような風の強さ。

人は山でこうやって死ぬんだろうな、とも思った。


いや、これ以上体を冷やしたら危ない。
これ以上、ここで天候がさらに悪化したらもっとまずい。
行くしかない。

残り0.4マイルが長い。
気を強く保って、力強く行くことにする。


やがて次第に斜度が緩やかになり、頂上に近いことを思わせる。歩くのがだいぶ楽になる。


風はますます強くなるが、突如、舗装道路に出る。山頂下の駐車場であった。


着いた。助かった。


猛烈な風と、ほとんどない視界のなか、建物を見つける。


ところが、その建物は予想とは違う、小さな土産物屋のような小屋であった。無人で鍵がかかっており中には入れない。
とりあえず建物の陰で風は遮ることができるが、気温は相当低く、寒い。


おかしい。もっとちゃんとした建物があるはずだ。
他の建物を探しに行くか。
いや、建物の陰を出たら、飛ばされそうな風だ。

風は、これまで自分が体験したことのないような強さで吹いている。
建物の陰で、風は多少遮られているものの、気温自体が低く、汗もかいており、体はどんどん冷えていく。
山頂にたどり着いて、助かったと思ったのに、全然助かってない。
この、猛烈な風の山頂に、自分一人しかいないのかもしれない。途方もない絶望感。


この状況、さっきよりまずいのではないか。
さっきは、進むことで事態を変えることができた。
今はもうこの風のなか進むことができない。
天候が回復でもしない限り、事態の打開が期待できない。それどころか体温は奪われ続け、事態は徐々に悪化していく。
このままでは間違いなく凍死する、と思った。


できることはただ1つ。
助けを求めること。
凍える手で911にかけた。


こんな山頂でも、911はつながった。

「どうした」
「Mt. Washingtonの山頂にいる。凍えている。助けがほしい」
「なんでそんなところにいる」
「ハイキングをした。判断を誤った」
「服装はどんな服装だ。一人か。食料と水はあるか」
「服装は一応上着を来ているが、寒い。一人だ。水と食料はまだ十分にある」
「いま山頂のどこにいる」
「建物の陰だ。土産物屋みたいな小さな建物だ。閉まっていて中には入れない」
「山頂には天文台があるはずだ。そこには人もいるはずだ。ちょっと待て、天文台につなぐ。携帯の電池はあるか」
「まだ十分にある」

911のコールというのは、事態が片付くまで、基本的に繋ぎっぱなしになる。
天文台の人も含めて3者の通話になる。

「わかった。今、探しに行く。ちょっと待ってろ」


しばらくすると、霧の向こうに2人組の姿が。


「おーい、ここだ」

助かった。。



天文台レストハウスは、立派な建物で、いわゆる山小屋的なものではなく、しっかりした作りの、スキー場のレストランを思わせる建物であった。
そこには普段からレスキュー隊が常駐している。
そのレスキュー隊から、ひどく叱られたのは言うまでもない。


天気予報を見なかったのか。
風速70マイル(秒速31メートル)だぞ。気温は34°F(1℃)だぞ。
この山ではこういう日に人が死ぬんだ。8月だって死ぬんだ。
車さえ上ってこない日にハイキングとかどういうつもりだ。




山をなめるな、と言うと、いい古された言い方になってしまうし反省にもならないので、その本質が何かを今回の体験から考えてみた。

天気予報を見ろ、という当たり前のことはさておき、山をなめるな、というのは、言い換えれば、「標高上昇による天候悪化度合いを甘くみるな」ということだと思った。
標高が上がれば、当然気温は下がるし、遮るものが減るので(樹木も減るし)風も強くなる。この程度が大きいということを認識すべきだと思った。

最後の岩場で風が急速に強まったのは、時間が経ってそういう天気になったからというよりも、標高が上がってそういう天気の場所に入ったからなのだろう。

レスキュー隊からも言われた。危ないと思ったら、とにかく下れ。向きを変えて、とにかく下れ。
下れば、状況は少なくとも悪化しない。下れるうちに下れ。


私は、ピンカムノッチで8mの風が吹いていたにもかかわらず、登り始めた。標高上昇による天候悪化をなめていた。
せめて林道だけで戻るべきであった。一時的に風が弱まったのを、時間経過による天候回復だと誤認した。時間ではない。そこでは(そこは谷だった)何らかの理由で風が弱い場所だったのであり、さらに上に登れば、ますます天候は悪化することを知るべきであった。
戻るべきか、と思ったときには、戻れる状況ではなかった。山頂に有人の建物があり、山頂までなんとかたどり着けたのは、運がよかったとしかいいようがない。



さんざん絞られたあと、このまま歩いて下るわけにはいかないから、と車で少し下までレスキュー隊に送ってもらった。
「ここからは自動車道路に沿って下りていけ。そのまま下まで行くと、ピンカムノッチと全然別のところに行っちゃうから、5kmほど進んだところで交差しているトレイルに入れ。そのトレイルがピンカムノッチまで連れて行ってくれるから」

ありがとうございます。そしてごめんなさい。


車から下ろしてもらったところも、まだ樹木のないところで、実は相当に風が吹いていたのだが、不思議と不安はなかった。
舗装道路で足場がしっかりしているからか、下っている限り状況が悪化することはないと分かっているからか。
でもあまりに寒かったので、5km、走り通したけど。

ようやくトレイルの入口に着いた。

ここからは、木々が風から守ってくれる。そしてなんとかピンカムノッチに着くことができた。





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長くなりました。

山に登るとき(実はそれ以外も含めてだったりしますが)、進むか退くかの判断をする際の基準を修正しなくてはなりません。
それが甘いというのは、まあそういう傾向にあったといえばその通りですね。

「怪しい店だな、でも行っちゃえ!」みたいな。

山はそれでは済みません。そして人に迷惑をかけるのが本質的に異なる点です。

そしてこの体験を忘れてはいけません。




さ、そろそろ日も陰ってきたので活動再開しますか。



ではまた。


  
 




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