招かれざる客 である。
私はトラックドライバーをしている。とある納品先での出来事。ちなみにこれは余談だが、ポッキーは食べたときの音が「ポッキン!」なのでポッキー。これがもし「ボッキン!」ならボッ……嗚呼、野暮な話はやめておこう。
荷降ろしのためトラックを降りた直後、ある異変に気付く。なんだこのニオイは。「匂い」←こっちじゃなくて完全にこっちの→「臭い」。
そう、ヤツの臭い。ヤツって結局パクチーだよね。いや違う。成分的には違わないけどゼッタイ違う。不快感が違いすぎる。まあ、その納品先が外での荷降ろしなのでヤツがいてもなんらおかしくはない。にしても臭いが近い。不快だ。
荷降ろしを終え、トラックに乗り込むと「ン厶"ッ!臭い」←これはクサイ。臭いぞ!非常に臭い!これはトラックの中にヤツがいる!どこだ!どこにいる!姿を現せ!お前はもう完全に包囲されている!おとなしく人質 (私) を解放し投降するんだ!一人二役!早替り!東海道四谷怪談!知らんけど。
荷降ろしが終わっているのに、あまり長居をすると不審がられるので、私はやむなくヤツとともにドライブをすることになった。
ヤツはどこだ。気配 (臭い) はするのにどこにも見当たらない。しかしすぐ近くで臭う。どこなんだ。ヤツはいったいどこにいるんだ。
信号待ちをしているとき、私はある可能性に気付く。まさか…。まさかな……。ふと制服の胸ポケットに手をやる。胸ポケットにはボールペンが1本挿してある。そしてポケットの底あたりをそーっと指でなぞる。「ハッ!」何かある!指で制服越しに摘んでみる。「うわッ!」硬さといい、サイズ感といい、これは……ヤツだ!
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!
一刻も早くヤツを車内から出さなくては。しかしこんな時に限って、なかなか入れそうなコンビニがない。こんなことをしている間にもヤツは私の胸ポケットで息を潜めている。つもりだろうが私にはお前の居場所がわかっている!すでにバレているのだよ。
しかしもしヤツがその気になればポケットを這い上がってきて「なに?呼んだ?」とひょっこりそのニヤけた顔をのぞかせて私をヤりにくることも可能だ。それは困る。私はヤツを刺激しないよう、なんならヤツを説得する母親のような気持ちで優しい裏声で語りかける。「いつまで起きてるの。早く寝なさい。寝ない子のところにはサンタさんやってこないんだから」と。ヤツが仮に50のオッサンでもお構いなしだ。
そうこうしているうちに、めぼしいコンビニを見つけたので駐車場に入る。
私は急いでトラックを降り、制服を脱ぎ、恐る恐る胸ポケットを覗く。奥がよく見えない。スマホのライトで中を照らす。するとそこにはカッチカチのゴミの塊らしき物が見えた。私はそーっとそれを指で摘み出してみる。ゴミ。紛うことなきゴミ。親指と人差し指で軽くほぐしてみた。やはりゴミである。
私は思い出した。昔「金田一少年の事件簿」でポケットに溜まったゴミは、いざというとき種火として使えると。しかし今日ほどこのゴミがヤツではなかったことを悔やんだことはない。これでやっと解放されると一時でも喜んだ私のこのやり場のない気持ちをどこにぶつければいいんだと。で、ならヤツはまだ車内に潜んでいるのかと。
嗚呼…神様。私がいったい何をしたというのです。こんな仕打ちはあんまりではありませんか……。私は前前前世でヤツに何か悪さをはたらいたのでしょうか……。
意気消沈した私はヤツが潜むトラックに戻り、私の見えない所でクスクス笑っているであろうヤツに怯えながら暗然運転で帰社したのでありました。
その後、ヤツの姿を目撃した者はいない。
パクチーは嫌いです。
P.S.
パクチストは、ヤツのことも好きなのでしょうか? ヤツ LOVE? フミヤも納得の TRUE LOVE?
数年前の夏に妻が作ってくれたチャーハンを食べたとき「パクチー入れた?」「いや」「え"ッ!」「え"ッ?」のヤツ混入事件は、今となっては良き思い出なわけないやろがい!
97