ムリ である。
他人を変える事はそれに匹敵する。それが身内であれば、オリックス・バッファローズファンぐらいには変えれる可能性が無きにしもあらずだが、花咲か爺さんでもないかぎり、枯れ木に花が咲くことはないのだ。
せっかく読み始めていただいたのに大変恐縮ではございますが、ここから話が「下」の方へ流れます。もうすぐ御飯食べるぞーという方や、上品至上主義な方は十分ご注意くださいませ。
私はここ半年ほど、便秘に悩まされている。どれぐらい悩んでいるかというと、♬ピンクの小粒♬に頼らないと出ない。頼り過ぎてやや愛想を尽かされかけている。「またですか……」。可憐なピンク色のはずなのに、なんだかあずき色に見えてしまっているのだ。♬あずきの小粒♬ってもうそれただの小豆や。
このままではいけないとアマゾンで便秘に関する本を検索し、「真の便秘解消法」なる本を購入、熟読。乳酸菌やオリゴ糖を摂取し腸内環境が整うよう、また食生活や咀嚼回数などの見直しに取り組んでいる。勿論こういうことは結果が出るまでに時間が掛かる。
しかし私にはあまり時間の猶予がない。なぜなら会社の健康診断が近づいているからだ。健康診断には必ず付き物の検便。しかも2日分。
以前の私なら「てやんでい!2日分だぁ?10日分でも1年分でも上等じゃい!」ってな江戸っ子でした。”火事と検便は江戸の華” と云われる由縁です。
しかし現在の私はどうでしょう。自然排便なら1週間に1回、申し訳程度出るぐらい。ピンクの小粒に頼りたいところではありますが、いかんせん緩くなりすぎるのでここは自然排便が理想なのです。
健康診断1週間前にキットやらなんやらが配布され、私はこの1週間が勝負だと闘志を燃やすのでした。
今回の健康診断ではとてもじゃないが2日分など夢のまた夢。来たる1回のチャンスを必ずモノにし、その1回で2日分の採便を行うことにしました。贅沢は言ってられません。
私は検便キットをカバンのすぐ取り出せるポケットに納め、その日を今か今かと待ったのです……。
時は流れ、健康診断まであと3日に迫った朝。1件目の納品先に向かってる途中、ついにその時が来たのです。This is 便意。夢じゃないよね?これって夢じゃないんだよね?と何度もあたまで繰り返しながら、私はこの先にあるいつも立ち寄るコンビニに入りました。
カバンのポケットからキットを取り出し、上着のポケットにそっと忍ばせます。なんでしょう……この何とも言えない後ろめたさ。別にこれから悪い事をするわけでもないのに、気分はまるで麻薬の密売人。ポケットの中のブツに気づかれぬよう周りの視線を警戒しながら、私は取引場所 (トイレ) へと向かいます。
入店しトイレに着くと運よく誰も入っておらず、私はここ数日、検便のことで頭が一杯になっていたことを少し懐かしむような想いで中へ入りました。鍵を掛け、ひと息つく。やっと解放される。いやむしろ、やっと君に出逢える。ポケットからブツを取り出し、トイレットペーパーホルダーの台へ置きます。私は至福のひとときに身を委ねながらズボンを下ろし座ったのです。よかった……本当によかったと。
一連の動作を済ませ、私はズボンを上げました。台の上のブツを袋から取り出し、まずは1本目の採便に取り掛かります。
思えば長かった。こんなことでここまで心が疲弊してしまうのかと。便秘ってマジ大変だな。と。
ピッ
ん?
君はゆっくりと、しかし確実に回り始めた。
ちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょっと待てー!!!!
スローモーションで回り始めた君は「シュポー」という音と共に静かに私の前から消えたのです。
あ……あぁ……
放心状態で立ち尽くす私の耳元で囁きかける小田和正。
「もう……終わりだね……
君が……小さく見える……
僕は思わず君を……
抱きしめたくなる……」
そして情感たっぷりに歌い上げるのです。
「さよなら さよなら さよなら
健康診断どうするの?
愛したのはたしかに君だけ
そのままの君だけ……」
私はこれほどまでに自動洗浄を恨んだことはありません。通い慣れたコンビニなのに気付かないはずです。用を足せばすぐ流すのは当然のこと。しかし自動洗浄はその ”当然” の死角に居たのです。そのことに気付いた時には、もう遅い。
便器に「返してくれ!」と言えるはずもなく、私はただただ戻らない君を想うのです。
健康診断前夜。
もうこうなったら山に籠る修行僧の如く、トイレに籠るしかない。私は家族に「ちょっと精神と時の部屋で修行するから、待っていてくれ」と告げ、カラカラに乾いた雑巾から水分を絞り出す思いでトイレに籠った。
捨てる神あれば拾う神あり、とはよく言ったものだ。トイレに籠り約1時間。神は私を拾ってくれた。戻らない君との再会を果たすことができたのだ。私は歓喜した。普段なら「ハイハイ」と別れを告げるはずの君に「やっと逢えたね」と愛おしくすら感じるのだから、なんとも都合のいい人間である。
健康診断当日の土曜日。私の足取りは、いつにも増して軽やかだった。診断はものの30分ほどで終わり、長かった1週間はこうして幕を閉じたのである。あー長かった。
P.S.
まだ便秘は続いている。しかし自分の腸内環境ぐらいは自分でなんとかしたい。他人じゃないんだから。と巨人ファンに変えようと奮闘しているのである。
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