はじめに、これまでの振り返り
- 文化は衰退している、音楽も然りという論説について。いやー全体は知りませんが、個々には面白いものがあると思いますよ!という話を素人なりに書いてみたシリーズ。
- 前回はモンダメタルについて書かせて頂きました。今回はブラックメタルにおける音像、音響の変化について。
まずブラックメタルとは原初なんだったのか?
- 自分は昔、ブラックメタルMLの読者だった時代があり。あの時代の空気というのは何となく分かる、つもりなのですが、いったん言語化してみます。(迂闊なこと書くとブン殴られそうで今でも怖いんだよな……)
- ええと、ざっくり要約すると。
- ブラックメタルは商業化したメタルへのカウンターとして始まった側面あり。メタル本来の攻撃性、邪悪さを取り戻すべきだという運動体でした。
- 「塗りつぶせ、もう一度殺意で俺を全部塗りつぶすんだ」(by『ベルセルク』より)
- そこでVENOMです。
- VENOMは下手クソ、低音質、しかしそこには現代(当時)のメタルが失った本物の邪悪さが宿っているのではないか?
- テクニカルなベイエリアクランチは糞、初期スラッシュこそ本物というテーゼ。いまの人が聞いたらポカーンってなるかも……「いや、それはおかしい」
- でもそういう時代だったんですよ……。
- (VENOMの影響は限定的で、BathoryやCeltic Frostこそ挙げるべきではと指摘あり。ごもっともなんですが、当時のブラックメタルMLではVENOM~初期スラッシュが崇拝されていたので、ここでは敢えて例として書かせて頂いています)
- 故に初期ブラックメタルは音質劣悪、しかしそこにリアルが宿るという主張があった。
- あとTrve信仰。ネオペイガニズム発のキリスト教否定から悪魔主義、というのがあったわけですが。悪魔主義って結局キリスト教に囚われていない?という自問から生まれた超越者信仰、それがTrve。
- おれが神だ(『英雄本色』より)
- ホントはメタルヘッズが集まって酒飲んでVenomはいいよなーとか話していたはずが、チキンレース化して教会に火を付けたり、最終的には殺人にまで至るという流れがあるわけですが、一応そこにはネオペイガニズムやTrve信仰という裏付けもあったわけですね。
- ちなみにおいらがネオペイガニズムを日本で言うとこれなのかしら?と思ったのは、手塚治虫の『火の鳥 太陽編』を読んだ時だったりします。
- 大和朝廷時代、ここでは仏教が外来種、日本の土着神を武力で制圧していくというお話。ここで広目天とか増長天が本当に姿かたちを持って動くのが漫画のイマジネーションの素晴らしさ。うーん手塚はやっぱり天才や。
- 戻ってブラックメタルに関して言うと、やっぱり反キリスト教ってのは大きいテーマだったんじゃーないかしら。日本ではそこが正直希薄なので、ブラックメタルMLにおけるTrve信仰がどうなるかと言うと「実家住まい、アニメオタク、童貞はクズ」という主張になる。
- メロデス聞いてるやつはアウト、アニメ好きは排斥しよう、みたいなノリもありました。なんかこうやって書いてると悪い意味でマッチョの塊だなあ。ただ当時のおいらはこのマッチョイズムを愚かにもカッコいい!とか思っていたんですよね……。
- でも本当は「実家住まい、アニメオタク、童貞」の数え役満だったので、隠れキリシタンのような気分もありました。本当に勇気あるTrve信仰とは、「実家住まい、アニメオタク、童貞」でなにが悪い!と宣言することだったのではないか、と今なら思います。
- ただよう言わんかったね……意気地なし!
- やっぱりこれもちゃんとしたプロによる良記事あり、ブラックメタルの始点も含めたお話なので読んでみて下さい。
- rollingstonejapan.com
"ブラックメタルはというと、少なくとも初期の段階では、もっと積極的に「悪」というものに目を凝らしていたように思う。そして特定の価値観を、あっさり否定してしまう勇気(あるいは無謀さ)を持っていた。デスメタルが録音技術や演奏技術に重きを置いていたのに対して、ブラックメタルはその洗練を拒んだ。いや、拒んだなんて生易しいものじゃなかった。初期のブラックメタルは、ローファイという言葉でも追いつかないくらいの“徹底ぶり”だった。そして、宗教的な信仰――「神を敬う」という考え方そのものにも、激しく背を向けていた。ブラックメタルはある意味で、きわめて神学的な音楽だった。でもそれは、いわゆる教会の神学じゃない。むしろ、H・P・ラヴクラフトの物語に出てくるような、異形の神々の神学だ。そこでは、真の神々は人間を愛さず、崇拝する者さえも容赦なく破滅へと導いていく。"
Lo-Fiだからこそ描けるサウンド
- めちゃくちゃ脱線、本筋に戻ります。
- えーそんな運動体、初期ブラックメタルの中でやはり特筆すべきはBurzum。
- 初期Burzumは濁った音質の中でトレモロリフの反復、絶叫を繰り返すというスタイル。
- これは確かに商業メタルにない禍々しさを宿していると同時に、霧の中を彷徨う酩酊感のようなものを(半ば偶然に?)獲得してしまった。
- つまりLo-Fiだからこそ描けるサウンドがあるということ。この後、Burzumは殺人で刑務所入ったり、ダークアンビエント路線に移行したり、TRPGに入れあげたりするのですが。ここら辺の話は割愛します。
- 長くなり過ぎたので一気に現代へジャンプしますが、じゃあLo-Fiだからこそ描けた霧の風景をもう一度、現代のハイファイ技術で描き直したらどうなるか?
- それがAlcestでありDeafheavenのアプローチなのではないかと。
- 思想的にもかつてのTrve信仰の「攻撃的自我神格化」ではなく「内的幻想の肯定」や「喪失美への耽溺」といった内省化への転換あり。
追記:初期ブラックからAlcestの連続性
- なんで初期ブラックからAlcestやDeafheavenに飛ぶのか分からん、という指摘あり。AlcestやDeafheavenは別にブラックメタルの代表的存在ではない、別潮流にさえ思えるが、実はBurzumとも連続性ある、という認識あり書いています。そもそも彼等はふつうにBurzumからの影響を公言しているんですよね。
- 自分なりに補足ともなる記事を書いてみました。実は孫とも言うべき関係にあると認識しています。
- これまた日本におけるブラックメタルの第一人者の方が、もっとそのものズバリな記事を書かれていました。上述の始祖を誰とみなすべきか、という話も含めて興味深い内容と思います。
- SIGH 川嶋氏コラム番外編!|HMV&BOOKS onlineニュース
"Black Metal の連中は徹底して Anti-Life Metal を貫いた。そんな彼らが主として音楽的テンプレートとしたのは、Venom の "Black Metal" ではなく、スウェーデンの Bathory が1987年に発表した "Under the Sign of the Black Mark"。このアルバムは、90年代ブラックメタルのプロトタイプというよりも、すでにその完成形と言ってしまって差し支えない。ヴォーカルスタイル、リフ、ギターの音色、全体の音質、シンセの使用まで、90年代以降のブラックメタルにおいて主流となったスタイルは、すでに87年の時点で完全に完成、このアルバムにて提示されている。まったくメタルを知らない人に、「ブラックメタルって何?」と聞かれたら、とりあえずこのアルバムを聴かせておけば問題ない、そんな作品である。"Black Metal" というアルバムを発表した Venom が90年代において直接の、そして一番の影響力を持たなかったのはある意味不思議ではあるが、もちろん Venom 直系のバンドも存在しているし、何より Bathory 自体、特にそのファーストアルバムにおいて、いくら Quorthon が必死になって否定していたとしても、Venom から多大な影響を受けているのは明白であるから、Venom を Black Metal の始祖の一つと捉えることに何ら問題はない。"
"シューゲイザーとは何かという問いに、物凄く簡略化して答えるなら、ギターは轟音なのにヴォーカルは妙に甘ったるくポップな音楽の総称ということになるだろう。そういう意味で、"Le Secret" は間違いなくシューゲイザーだ。ギターのトレモロによって作り出される轟音の壁は、確実に Burzum によって作り出され、Emperor によって一般化されたブラックメタルスタイル。ブラックメタルのシューゲイザー化、もしくはブラックメタルとシューゲイザーの融合、その完成形が2007年の "Souvenirs d'un autre monde"。
またぞろ整理する、都市/山岳という独自ジャーゴンについて
- BMTHのようなDAW/技術駆動/都市型サウンドに対して、山岳湖畔幻想派サウンドとでも言うべき音響アプローチがあるのではないか。
- それはBurzumのような初期ブラックメタルが描いたトレモロリフの反復による五里霧中感、それを現代的にアップデートしたもの。
- Lo-Fiで偶然描かれた幻想を、ハイファイで意図的に再設計した。
- もちろん轟音ポストロックからの影響もあり。
- 都市型がクワイエットラウドを多用するのに対して、幻想派はスロウビルドによる長尺エモーション喚起を得意とする……本当?
- ただこれは適当にふかしているだけで、実際は都市型スロウビルドも幻想派クワイエットラウドも勿論ある。それこそジマーさんなんか意外にスロウビルド型じゃない?
- Man of Steelの"What Are You Going to Do When You Are Not Saving the World?"とか。
- そもそも音楽の展開はもっと色々あるので、一概には言い切れません……はい。
- Deafheavenはブラックゲイズだけど、山岳湖畔というより冷ややかな郊外という感じもする。
- ま、まああくまで便宜上のジャーゴンだから!
メタルの特異性、一方で特権的に起きていることではない筈
- Djentによる衝動爆発であったり、トレモロリフによる内省沈下であったり……。
- モダンメタルにせよブラックメタルにせよ、アプローチは異なるが音響によってエモーションを操作する、という意図は共通する。
- 結局、重要なのは「どう鳴るか」だけでなく「どう感じさせたいか」なので。
- しつこく書いておくと、映画音楽で起きているような音響操作がポップミュージックの一部、例えばこれまで書いてきたようなジャンル音楽、メタルでも起きている。
- 特にメタルが苗場、こういう実験場になりやすいのはジャンル特性もあると思う。
- ファインアートではなくあくまでポップアートの領域であり、メジャーからニッチまで異なる市場がある。
- かつての純血主義より雑食性が高くなっている。
- デス/ブラック/ゴシック/プログ/Djentの交配。
- めちゃくちゃ語弊あるかもしれないけど、ぼかーこれはエロ漫画市場に似ていると思うんですよ。
- メジャーと同人の二軸の市場がある。
- 快楽値が高ければ何でも良いというチャレンジ精神、NTRだBSSだサブジャンルが勃興し、よってたかって皆で模倣し、最強ビルドが整理、洗練されてゆく。
- 「快楽/感情の最適化競争」とも言えましょうか。
- こんなこと書いてると、絶対ブラックメタルMLだったらブン殴られてるんだよなあ……。
続き
- だいたい書きたいことは書いた、つもりなので落ち葉拾い的な雑談へ。
- 以下に続きます。
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