はじめに、これまでの振り返り
- 文化は衰退している、音楽も然りという論説について。いやー全体は知りませんが、個々には面白いものがあると思いますよ!という話を素人なりに書いてみたシリーズ。
- 前回はハンス・ジマーさんの話から流れて、澤野弘之さんについて書かせて頂きました。今回はモダンメタルにおける音像、音響の変化について。
モダンメタル=Djent以降のDAW/技術駆動/都市型サウンド
まず過去のメタルの音作りと感情表現って?
- メタルの音作りと世界観には以下のようなイメージあると思います(もちろん本当はこんな集約不可能、複雑なのですが敢えての雑語りです念のため)。
- 音圧勝負、かつては「ドンシャリ」気味、高低だけ大きく中音が希薄。
- 外部への怒りの表明、英雄的ふるまいへの賛歌、エピックファンタジー。おれの車は早い、女は全員抱いた、ドラゴンを倒すぜ。
- 変化の契機としてLoudness Warの終焉があるのではないか説。
- 20世紀後半から21世紀初頭にかけて音楽業界で繰り広げられた、「いかにして自分の楽曲を他の楽曲よりも音量を大きく聞こえさせるか」という競争。
- CD時代(1980年代後半~2000年代中盤):ピークに達する。
- 「海苔波形」: 音の大小の差(ダイナミックレンジ)がほとんどなくなり、波形がまるで「海苔」のように平らに塗りつぶされた状態の音源が多く生まれる。
- OASISの『Morning Glory』がベンチマークと言われる。
- Metallicaの『Death Magnetic』、ギターヒーローverが一番音質マシと言われた。
- 日本でもAKBの"Everyday、カチューシャ"が音割れしていると言われた。311を乗り越えたMixだから!という言説があったが、今思えばファンの無理筋な擁護だったと思う……。秋元康は魚市場で流れるラジカセでベースの音なんか誰も気にしないと言うから、それも一つの思想という見方もありますが……。
- Spotify、Apple Music、YouTubeなどの主要なストリーミングサービスが「ラウドネス・ノーマライゼーション(音量正規化)」を導入したことが大きな転換点となり、この戦争は終了します。
- ja.wikipedia.org
いまのメタルは聞きやすい?男性神話から女性神話へ
- いまのメタルはぐっと聞きやすくなっていると思います。
- 外部要因:Loudness War終焉によりダイナミクスが復活、進化したから。
- 内部要因:怒りだけではない、内面的テーマが増え、表現方法が変わったから。
- 鳴っているけど煩くない。
- かつては対立概念だったオルタナ、エモコア等の表現流入、女々しさの肯定、男性神話から女性神話へ。
- 「俺はこうだ!こうするぜ!」から「俺はもうこうしか生きられない……」へ。
- 内省的、絶望的、あるいは複雑な感情を表現するために、ダイナミクスの変化や空間的な音響表現が使われるようになった。
- ポストグランジ以降のクワイエットラウドの進化。
- 代表例、言わずと知れたNirvanaの"Smells Like Teen Spirit"
- Nirvana自身はPixiesからの影響と言うているらしい。
- Linkin Parkの"Numb"、Puddle Of Muddの"Blurry"等。ポストグランジ以降、この手法は内省~感情の爆発表現として多用され、音響の進化により複雑化していく。
- "Numb"のPVは学校で居場所のない、抑圧されている女の子がキャンバスに自分の衝動を叩きつける、という内容で非常に象徴的。
- "Blurry"は後にAce Combatシリーズに使われていましたね。この曲の煽情力の高さが評価されたってことじゃないかしら。
Djentという発明
- もうひとつ、メタルの発展の中で大きいのはDjentだと思っています。
- Meshuggahが発案した(と言ってよいはず)必殺技。
- 多弦ギターを超低チューニング+ブリッジミュートでピッキングし、「ズン」「ズギュン」といった爆発するようなアタック感の強い低音リフを生み出す。ドラムのリズムと連動して聴覚を爆撃するスタイル。
- (ただし本人たちはその呼称を嫌っているという説も……)
- おおむねWikiの引用なので、モダンメタルの現代事情については以下の記事読んでもらった方が早いかと思います。
- rollingstonejapan.com
- ここが面白ポイント
"2020年代における現行メタルが、ジャンルとしての純度よりも、情動の伝達力や自己物語化の手段として機能しているがゆえに起きていることでもある。"
"つまり今のメタルは「他ジャンル適応力」と「情動アピール力」が異様に高く、それによってTikTokやYouTube Shortsといった短尺メディアでも、爆発的な感情の解放やダイナミックな展開が「ポップ」と受け取られヒットしているのだ"
- Sleep Tokenの代表曲:Chokehold
- 冒頭の低音ドローンを長く引き伸ばして鳴らし続けることで不穏な感情表現。うっすら聞こえるアンビエントパッド。ひっぱりに引っ張った上で爆発するDjent的サウンド。
- 静寂→緊張→爆発→崩壊→静寂
- 結果としてジマーさんやトレント・レズナーさんの映画音楽のアプローチに近いと言えるのでないか。
- 一方でピッチフォークでは最新アルバムが酷評されてました。
- pitchfork.com
"ありきたりなポップと流行のメタルコアをぎこちなく融合させた作品"
"ジェントというジャンルを革新しているというよりは、2013年の創造的ピークから遺物を略奪し、美化していると言える"
"履歴書を充実させるためだけにボランティア活動をしている大学生を思い起こさせる"
"楽曲というより、寄せ集めの断片を慌てて繋ぎ合わせたようなもの"
- うーん、散々な言われよう。しかしこれは文化的盗用ではなく、浸透と拡散とも言えるのでは。Djentという秘術、魔法がみんなに知れ渡り、誰もが利用できるようになった。それ故の作品だと。『葬送のフリーレン』でそんな話あったでしょう。
- ゾルトラークの魔法、ですね。
- 気を取り直して続き、Tik TokでめちゃくちゃバズったSpirit Boxの"Circle with me"もこの路線と言えますね。サビでのDjent爆発、クリーンとグロウルの使い分け。
- これをDAW/技術駆動/都市型サウンドと便宜上呼びます(おれ発のジャーゴン)
- Baby Metalさんは最近、この都市型モダンメタル勢とのコラボが多い。
- Bring Me The Horizon、Polyphia、Electric Callboyなど。
- 初期にコラボしたDragonForceさんのことも思い出してあげてください。
- ちなみにPolyphiaのティム・ヘンソンさんは今度、ジマーさんとサントラ参加しているそう。
- (ジマーさんとツーショット写真のティムさん可愛すぎるだろう)
- theriver.jp
水槽の中には色々な魚が泳いでいる、という話
- メタル言うと未だに十年一日、あれでしょう、なんかピロピロいうやつ、みたいな残念なイメージで語る方いますが、それは何十年前の話ですかと……。
- 80〜90年代ぐらいで認識が止まっていて、更新されていないのでは。
- あーいや、典型的なメタルサウンドというのは現在でも存在して、ぼかーそういうのも愛好してますけどね。
- より細かいこと言うと、典型的なメタルに思える音像にも変革は起きていて、例えばこれ言わずと知れた大御所、レジェンドJudas Priestの"Panic Atack"
- 冒頭の浮遊感あるシンセパッド、切り込むギター、徐々に密度が高まっていく。これずっと高音圧・高密度が統一されていた過去の音像、それこそ"Painkiller"とは全然違う。ちょっとIn Flamesの"Cloud Connected"的とも言えます。うーん、さすが名プロデューサー、アンディ・スニープさんの業物や。
- ことほど左様にジャンルという水槽の中には色々な魚が泳いでいるんですよ、ということは理解した上で話しておきたい。その中には都市魚や幻想魚、古典魚もいるんですよと。
- ただ音響アプローチの変化については、勿論これメタルだけで特権的に起きていることではない筈。
- 延々メタルについて書いてきたのは、この分野であれば自分がある程度の実感と自信を持って話せるから、というだけの理由です。
- 例えばSigur Rósさんなんか、ポップミュージックかつ音響に凝りまくった最前線のランナーですよね。
- あと残念ながら門外漢で詳しくないのだけど、この種の音響革命が起きまくっているのはおそらくヒップホップの文脈なんだろうな、と思います。
- どなたか詳しい方がここら辺を掘って説明してくれると嬉しいです(他人任せ)。
ここまで再整理、映画音楽、モダンメタルの収斂進化
- ジマーさん、レズナーさん、ゲーム音楽、澤野弘之、モダンメタル。
- いずれも音響設計で観客の情動を揺り動かしている。
- 直接に引用している部分もあるけど、これは短期勝負に最適化した収斂進化なのでは、という仮説。
- 特にクワイエットラウドの進化、内省から爆発というエモ表現にDjentの魔術が利用されている。
- 高密度過ぎたDjentやプログメタルから敢えて空間を開けることで対比のコントラストが目立つように。
- Djent、グロウルがエモ表現として活躍する時代、SFで言う浸透と拡散。
- 便宜上、これらをDAW/技術駆動/都市型サウンドと呼ぶ。
続き
- 一方で、観念や幻想を音像として提供する山岳湖畔幻想派もいるのではないか、という話。じゃあそれが、なんなのかと言うところでハイ、それはブラックメタルですよと。
- 以下に続きます。
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