今後、個情法に課徴金制度とともに、和解的処理としての確約の制度が導入される可能性がありますが(JILISレポート14頁の注140参照)、その場合、確約自体のエンフォースメントを考える必要があると思うので、そのことについて書いていきます。
関係法律
- 独禁法上の確約制度は、次のような仕組みになっている。すなわち、①公取委が違反の疑いがある場合に、確約通知を行うことができる(独禁法48条の2第1項。なお、ガイドラインも参照)。②確約通知を受けた者は、確約計画(法律上は「排除措置計画」)を提出し、確約認定を申請する(同法48条の3第1項)。③公取委は、確約計画が十分かつ履行見込みがある場合には、確約認定を行う(同条3項)。④確約認定がされた場合には、排除措置命令や課徴金に係る規定は、「当該認定に係る疑いの理由となつた行為及び排除措置に係る行為については、適用しない」(同法48条の4本文)。⑤確約計画違反等の場合には、確約認定を取り消さなければならない(同法48条の5第1項)。この場合、排除措置命令や課徴金納付命令は、取消決定の日から2年間はこれを行うことができる(同条3項)。景表法上の確約制度も、基本的に同様の仕組みである(景表法26条〜29条。構造を理解する上では、景表法のほうが読みやすい)。なお、薬機法の広告規制には、課徴金制度が導入されたが、確約制度は導入されていない。
- 外為法上の対内直投制度の執行は、次のような仕組みになっている。①財務大臣は、一定の事由がある場合には、対内直投の内容の変更又は中止を勧告する(外為法23条4項)。②勧告を受けた者は、勧告を受けた日から10日以内に、財務大臣に対し、勧告を応諾するかどうかを通知しなければならない(同条6項)。③勧告応諾通知をした者は、勧告に従って対内直投を行わなければならない(同条7項)。④勧告不応諾通知をした者に対しては、財務大臣は、当該者に対し、対内直投の内容の変更又は中止を命令することができる(同条9項)。勧告応諾通知をした者や命令を受けた者の義務違反は、罰則の対象となる(同法70条1項12号、13号)。経済安全保障推進法の基幹インフラ制度も、基本的に同様の仕組みである(経済安全保障推進法52条6項〜10項、92条1項3号、4号)。
- 個情法の執行は、次のような仕組みになっている。個情委は、一定の違反がある場合には、事業者に対し、是正措置を勧告でき(個情法148条1項)、事業者が正当な理由なく勧告に係る措置を取らなかった場合において個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるときは、勧告に係る措置を取ることを命じることができる(同条2項)。
コメント
- 上記の確約制度・勧告制度は、いきなり命令を発出するのではなく、多かれ少なかれ、行政庁と被疑違反者の相互の関わり合いの中で是正措置を形成すること、つまり、和解的処理を目指す点で共通している。
- そのための仕組みとして、外為法と個情法は、「勧告前置の行政処分」を採用する点で共通する。いずれにおいても、勧告は、相手方の権利義務を形成する効果を持たず、講学上の行政指導としての性質を持つ。しかしながら、外為法上の勧告は、これを応諾した場合、それに従う公法上の義務が課されるのに対し(なお、これは、勧告の応諾という事実を要件として法律が発生させる効果であり、勧告の効果ではない。したがって、前記義務は、勧告の行政処分性を基礎づけるものではない。)、個情法上の勧告はそうではない。つまり、外為法と個情法では、「勧告止まり」だった場合、つまり、和解的処理が行われた場合のエンフォースメントの有無が異なる。
- このような観点から見ると、独禁法の確約制度は、独自のエンフォースメント手段を持たないと言ってよい。確約計画違反が認められた場合、公取委は、確約認定取り消すことができる(法文上は取り消さなければならない)が、もともと、確約認定の効果は、排除措置命令・課徴金納付命令の根拠規定の適用除外であり、確約認定が取り消された場合でも、それらの規定の適用が「復活」するに過ぎない。公取委は、改めて違反認定を行うことにより、排除措置命令・課徴金納付命令を発することができるが、時間がかかるし、証拠が残っているかは不明であるし(一方、証拠を保全した上で確約認定を行うこととすれば、確約制度は取消訴訟の可能性をなくすにとどまり、期待されたような迅速化の効果は限定されることになろう)、事業者から見れば、もともと(つまり、確約を行わない場合には)課されるかもしれなかった不利益が繰り延べられただけであり、少なくとも法律上は、確約計画を遵守するための固有のインセンティブがないことになる。
- しかしながら、外為法を参考にすれば、確約計画を行った事業者に制裁を課すことは、理論上の障害はないはずである。その場合、(外為法のような)刑事罰だけでなく、課徴金を課すことも、立法裁量の範囲内であろう。
- なお、欧州委員会が確約違反を理由に制裁金を課した例として、CASE AT.39530 (Microsoft – Tying)がある。また、Vande Walle, Simon「デジタルプラットフォーム事件における問題解消措置と確約措置の実効性」も参照。