CBDC第2次中間整理ほか(末尾の資料参照)を読んだ上でを読んだので、そのメモです。なお、クイックに現状を把握するには、進捗状況のペーパー→連絡会議の第2次中間整理→川上先生ブログ、という順番で読むのがよいのではないかと思います。
- 以下のような構成が想定されているものと理解した。
- 日銀がCBDC台帳を管理し、仲介機関(銀行、資金移動業者等)が顧客管理DBを管理し、ウォレットプロバイダがウォレットを提供する。
- CBDC台帳は、内部管理番号がキー項目であり、そのフィールドの一つとして残高が記録される。内部管理番号は、CBDCの保有者には開示されない。
- 顧客管理DBは、口座IDがキー項目であり、そのフィールドとして内部管理番号が記録される。つまり、口座IDと内部管理番号を突合できるのは、顧客管理DBの管理者(=仲介機関)のみである。
- 保有・移転は、CBDC台帳の記録とその書き換えをもって行う。
- CBDCは、必ず仲介機関を通じて保有・移転され、暗号資産やステーブルコインで言うノンカストディアルウォレットによる保有や移転は認められない。したがって、(それ自体でCBDCを移転できる)署名鍵のようなものは存在しない。
- ウォレットは、単なる顧客認証や移転(支払)指図のためのユーザーインターフェースである(暗号資産やステーブルコインのウォレットとは異なる)。ウォレットは、仲介機関またはウォレットプロバイダのサーバと通信することで、これらの機能を果たす。
- 川上先生のブログでは、移転業務が為替取引に該当するか、移転業務について追加的規制を課す必要があるかがそれぞれ検討され、いずれも消極の見解が示されている。前者の文脈で、電子決済手段等取引業が為替取引とは別建ての規制となっていることが指摘されている。
- もっとも、冒頭の構成に関する理解が正しいのであれば、ウォレットプロバイダの移転業務は、実は電子決済等代行業(のうち決済指図伝達業務)に近いのではないか。3号電子決済手段等取引業(電子決済手段の管理)として行われる「移転」は、電子決済手段のP2P移転可能性ゆえに、まさしく「移転業務」であり、4号電子決済手段取引業や電子決済等取扱業は、移転元口座の残高を減少させ移転先口座の残高を増加させる行為であるため、やはり「移転業務」であるのに対し、冒頭の構成の構成においては、ウォレット(=ウォレットアプリやウォレットプロバイダのサーバ)それ自体で移転が行われるわけではない。むしろ、仲介機関に指図して移転を行わせている点で、決済指図伝達行為を行っているのではないか。
2025/9/14追記
- なお、上記は仲介機関の行為が為替取引であることを前提としているようにも思われるが、この点は必ずしも自明ではない。CBDCは日銀の負債であり、(ウォレットプロバイダの負債でないだけでなく)仲介機関の負債ではない。個々の保有者の残高の増減も、日銀が管理するCBDC台帳上行われ、顧客管理DB上行われるわけではない(この点で日銀当預とは異なる。)。これらからすると、仲介機関の行為こそが決済指図の移転であるようにも見えてくる(日銀は銀行免許を受けた銀行ではないので、いずれにせよ、そこへの決済指図伝達は電代業には当たらないのであるが)。一方で、(日銀負債性ではなく)現金同等性を強調したり、CBDC台帳のインフラ性を強調するのであれば、別の整理もありうるかもしれない。
- その上で、KYCやAML/CFT義務の課し方は、少し考える必要があるかもしれない。
- これまでの考え方からすれば、仲介機関にKYC/AML義務を課し、ウォレットプロバイダに対する委託を認めるのが素直であるようにも思われるが、ウォレットプロバイダの自由な参入を認めたいのであれば、仲介機関との契約締結を求めるのは不合理である(これは電代業に関して指摘されているのと同じことである。)。
- そこで、ウォレットプロバイダにもKYC義務を課し、仲介機関とウォレットプロバイダの一方のKYCすれば他方のKYC義務は免除するという建て付けが考えられる。
- 一方で、KYCは、AMLの始まりに過ぎず、より重要なのは、いかにCDDや取引モニタリングを行うかである。ウォレットプロバイダの自由な参入を認める場合、彼らにこの役割を期待することは難しく、仲介機関に中心的な役割を果たしてもらうほかないようにも思われる。そうする場合、ウォレットプロバイダから仲介機関に関連するデータを仲介機関に集約する仕組みが必要である。
- 以上の検討を通じて、捉え方によっては、CBDCを試金石として、電代業規制の合理性やFATFで一時期議論されたdata poolingやpartneringが改めて問われているようにも感じた(そこを棚上げして、CBDCに特化した解決をすることも可能であるが)。
資料
- 中央銀行デジタル通貨に関する実証実験「概念実証フェーズ1」結果報告書
- 中央銀行デジタル通貨に関する実証実験「概念実証フェーズ2」結果報告書
- 中央銀行デジタル通貨に関する実証実験 「パイロット実験」の進捗状況(2024年4月)
- 「中央銀行デジタル通貨に関する実証実験 「パイロット実験」の進捗状況(2025年5月)」
- 「中央銀行デジタル通貨に関する実証実験 「パイロット実験」の進捗状況(2025年5月)」【別冊】
- 中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会中間整理(2022年5月13日)
- CBDC(中央銀行デジタル通貨)に関する関係府省庁・日本銀行連絡会議
- CBDC(中央銀行デジタル通貨)に関する有識者会議
- 川上貴寛「デジタル円ブログ」
- 市古裕太『デジタルマネービジネスの法務』