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通信の秘密に関するメモ

いくつか思ったことがあるので、雑駁ですが書いていきます。憲法上の通秘保障はまたの機会に。

 

電通法上の通秘保障

保存は通秘侵害か?

  • 実務上、「通信の秘密を侵害する行為は、「知得」(積極的に通信の秘密を知ろうとする意思のもとで知ること)、「窃用」(発信者又は受信者の意思に反して利用する こと)、「漏えい」(他人が知り得る状態に置くこと)の3類型がある。」とされる(通信の秘密の確保に支障があるときの業務の改善命令の発動に係る指針)。
  • 「電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドライン(解説)」改正案(8月4日までパブコメ中)は、通信ログの保存は「通信の秘密の侵害に該当し得る」が、正当業務行為として違法性が阻却される場合があり、「誹謗中傷等の違法・有害情報に係る投稿への対応」のために3〜6か月程度それらを保存すること は、正当業務行為に該当し、「社会的な期待に応える望ましい対応」である旨述べている(ログ保存WGにおける電通個情GL解説改正案について)。
  • ここで言う「通信の秘密の侵害に該当し得る」がどのような意味なのかは分からない。一見、「解説」は、保存が通秘侵害となることを前提に、その違法性阻却を論じているように見えるが(Digital Rights Ireland判決とも整合する。)、注意深く読むと、あくまで通秘侵害となるのは知得、窃用、漏洩であり、保存はそれらの蓋然性を高めることから、必要最小限度の範囲で行うべきことを述べているという読み方も成り立つように思われる。前者であるとすると、正当業務行為による通秘侵害の違法性阻却においては、「国民全体が利用する通信サービスの社会インフラとしての特質を踏まえ、利用者である国民全体にとっての電気通信役務の円滑な提供を果たすという見地」からの正当性・必要性・相当性が必要とされてきたこと(例えばゼロレーティングガイドライン。誹謗中傷対策は電気通信役務との関係では外在的な要請であろう。)との整合性が問題となる。

 

通秘侵害としての介入

  • 高木浩光氏は、DNSブロッキングに関連して、以下のように述べている「私の提案としては、通信への「介入」が、通信の秘密侵害の第4の要素として、従前より暗黙的に存在してきていたはずとする説を唱えたい。/「介入」とは、わかりやすい一例は、通信内容の改ざんである。…僅かな通信内容の変更は「改ざん」と言うほどではなくとも、少しずつ通信回線の信頼性に影響を及ぼし得るもので、「知得」「漏えい」「窃用」では言い表せられない何か、それが「介入」と呼ぶのが相応しい、第4の通信の秘密侵害の要素と言うべきではないかと、私は考えるのである。/ここ10年で問題となった事例を当てはめてみると、DPI広告は、通信内容の改変による広告とビーコンの差し込みであり、典型的な「介入」であったし、7SPOTが楽天やAmazonへのアクセスを遮断していた件も、検閲の一形態であるが、より一般的に言えば「介入」であったし、最近の「通信の最適化」と称するTCPペイロードの改ざんは、検閲とは言えなくても、「介入」であった。」
  • 私はこの見解に賛同するのが、このことは、SSL/TLSと対比すると直感的に理解しやすいと考えている。SSL/TLSは、IP通信のconfidentialityとintegrityを確保するためのプロトコルであるが、このことは、通信サービスがその機能を果たすためには、confidentiality (secrecy)だけでは意味がなく、integrityも重要であるという(ある意味当然の)ことを示している。SSL/TLSが通信の信頼性を技術的に担保するものであるのに対し、(電通法上の/憲法上の)通秘条項がそれを制度的に担保するものなのだとすれば、通秘条項がintegrityを保障するのは当然のことである。そのintegrityを毀損する行為が、「介入」である。

 

DNSブロッキングの何が問題なのか

  • DNSブロッキングの文脈で、それが「オンラインカジノサイトを閲覧する者だけなく、すべてのインターネット利用者の宛先を網羅的に確認する」ことを重視した議論がされることがあるが(「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会中間論点整理(案)」)、このような議論には違和感がある。「オンラインカジノサイトを閲覧する者」かどうかは、通信の秘密を侵害してみて初めて分かることであり、それによって正当化の可否が分かれるのは、不合理である。刑訴法上の強制処分に関して議論されてきたように、正当化は、ブロッキング全体について、類型的に行うべきであろう。そのほうが、通信という、オンラインにおける様々な活動を支える基礎的な層を保障した趣旨にも沿うし、一度やり始めると他のターゲットにも容易に転用可能であるという、slippery slopeな側面と向き合いやすくなるのではないか。
  • なお、このことは、通秘侵害の態様として「介入」を認めるかとは一応別問題である。現在でも、ブロッキングは通秘の知得・窃用という形で、通秘侵害と認められているからである。

 

検閲禁止と通秘保護の関係

  • 憲法は、21条1項で表現の自由の保障を定めた上で、2項前段で検閲禁止を、後段で通秘侵害の禁止を定めている。一方、電通法は、3条で検閲禁止を、4条1項で通秘侵害の禁止を定めている。
  • 憲法上の表現の自由と検閲禁止の関係は、札幌税関事件判決で一応は決着している。最高裁は、検閲禁止を絶対的保障と解した上で、その強力な効果を考慮して「検閲」を狭く解釈し、一般的に「検閲」と呼ばれるものでも、憲法21条2項の「検閲」に当たらないものは、表現の自由によって統制することとした。すなわち、憲法21条2項の「検閲」とは、「行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるもの」である。
  • 一方、最高裁のような「検閲」解釈によれば、通信の「検閲」というものがありうるのかについて、疑問が生じる。「発表」とは一対一のコミュニケーションである通信を含まないようにも思われるからである。
    • なお、最高裁は歴史的経緯を強調しているが、第2次世界大戦中、郵便の検閲は実際に行われれていたようである。一方で、信書や電話の「検閲」は、例えば刑事収容施設においては、現在でも行われており(刑事収容施設法2章3款、4款)、絶対的保障説を前提にこのようなことを認めようとする限り、通信の「検閲」は、憲法21条2項の「検閲」からは除外せざるを得ないのかもしれない。
  • 一方、電通法の文脈では、「「検閲」とは、一般に国その他の公の機関が強権的にある表現又はそれを通じて表現される思想の内容を調べることをいう。」とされている()。この解釈については、さしあたり、2つの疑問が生じる。第1に、なぜ「国その他の公の機関が強権的に」という限定が付されているのか、第2に、なぜ札幌税関事件判決と異なる解釈が取られているのかである。
  • これらについて、現時点での私の仮説は、電通法の解釈は、公衆電気通信法制定時の憲法学説に由来しているのではないか(第2関係)、そして、通信自由化時、少なくとも公的機関を主体とする点は修正されてもよかったが、憲法との関係が意識され、そうされなかったのではないか(第1関係)、というものである。
    • なお、公衆電気通信法は、昭和28年6月23日法案提出、同年7月27日成立、札幌税関事件判決は、昭和59年12月12日言渡し、電通法は、同年4月10日法案提出、同年12月20日成立である。つまり、電通法の立案時には、札幌税関事件判決は存在しなかった。
  • 札幌税関事件判決の「検閲」解釈は、(そこに通信の「検閲」が含まれるかはさておき、)介入を含むといえる。一方、現在の電通法の「検閲」解釈は、介入を含まない。もっとも、「国その他の公の機関」が無目的に「強権的にある表現又はそれを通じて表現される思想の内容を調べる」ことはないと思われるので、電通法が想定する「検閲」も、実際には介入を目的としてしており、ただ、予防的に「調べること」それ自体が禁止の対象と解釈されている、と理解するのがよいのではないか。
  • このように考えると、電通法の検閲禁止と、前節の通秘侵害の一態様としての「介入」の禁止はほとんど同じ意味になる。通信自由化後の現在、憲法上の通秘条項と電通法上のそれを一致させる必要はないのであるから(後掲の曽我部(2013)20頁に賛同する。)、仮に通信の「秘密」という文言を重視して4条に「介入」の禁止を読み込まないのであれば、3条の「検閲」の公的機関を主体とする解釈を改めるべきであり、逆に、読み込むのであれば、3条は死文化する(4条と統合してもよい)ことになるのではないか。

 

通秘侵害の主体は誰か?

  • 通秘侵害の正当化は、通秘侵害が罰則の対象とされていることもあり、伝統的に刑法上の違法性阻却事由に仮託して行われてきた。そのこと自体がどうかという疑問があるが(後掲の曽我部(2020)68頁)、同時に、個人責任を原則とする刑法の枠組みに依拠することによって、議論が歪められないよう注意する必要がある。
  • ブロッキングにおいては、知得・窃用が行われるとされる(「安心ネットづくり促進協議会 法的問題検討サブワーキング 報告書」)。しかし、ISPは、通信を媒介しているのであり、もともと接続先IPアドレス等を処理している。そうであるにもかかわらず、ブロッキングが「知得」とされるのは、(通秘侵害の態様として「介入」が認められておらず、「検閲」は公的機関が行うものに限定されているからであるとともに、)DNSブロッキングを行うことを決定し、これを実行する個人を基準とした通秘侵害が考えているからではないか。
  • 公衆電気通信法は基本的には行政組織法・公務員法であった。その前提であれば、国家は違法な行為をしてはならないので、専ら職員や第三者の個人責任を問題とすることも必ずしも不合理ではない。しかし、電通法は行政作用法(のうちいわゆる業法)であり、当該法人の意思決定に従って行動している個人の責任を専ら問題とすることには、違和感がある。本来的には、通秘侵害を事業者の行為規制と位置付け、それを従業者・第三者に対する罰則によって担保する(国家による侵害の問題は憲法に「返上」する)ような法改正が望ましいが、現行法でも3条・4条は業規制の一部でもあると解釈することが可能であり、そうすることが、ブロッキングを「素直」に検閲又は介入の問題とすることと整合的なのではないか。

 

「現在の危難」の解釈

  • 法令に基づかないDNSブロッキングにおいては、基本的に、緊急避難による違法性阻却が試みられてきた。緊急避難の要件は、「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為」で、「これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合」とされている(刑法37条1項)。このうち、現在性については、ブロッキングの対象となる違法行為が現に行われていることをもって満たすかのような議論がされることも多い。しかし、現在性は、単に時間的な要求ではないと思われる。
  • 最決平成29年4月26日刑集71巻4号275頁は、正当防衛の急迫性に関して、「刑法36条は,急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに,侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものである。」とした上で、「事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容,侵害の予期の程度,侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,侵害場所にとどまる相当性,対抗行為の準備の状況(特に,凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等),実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同,行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し,行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだとき…など,前記のような刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には,侵害の急迫性の要件を充たさない」とし、「被告人は,Aの呼出しに応じて現場に赴けば,Aから凶器を用いるなどした暴行を加えられることを十分予期していながら,Aの呼出しに応じる必要がなく,自宅にとどまって警察の援助を受けることが容易であったにもかかわらず,包丁を準備した上,Aの待つ場所に出向き,Aがハンマーで攻撃してくるや,包丁を示すなどの威嚇的行動を取ることもしないままAに近づき,Aの左側胸部を強く刺突した」被告人の行為について、「被告人の本件行為は,刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとは認められず,侵害の急迫性の要件を充たさない」とした。ここでは、刑法の緊急行為性(言い換えれば、あくまで刑法秩序からの逸脱であること)が強調され、時間的には「不正の侵害」が存在していたにもかかわらず、急迫性が否定されている。
  • 緊急行為である点で、正当防衛と緊急避難は共通しており、それゆえに、前者の急迫性と後者の現在性は実質的には同義に解されてきた(最判昭和24年8月18日刑集3巻9号1465頁)。そうであれば、平成29年決定の内容は、緊急避難にも当てはまり、「恒常的な枠組み」(後掲の曽我部(2013)20頁)であるブロッキングとの関係では、危難の現在性を否定すべきではないか。
  • なお、上記の昭和24年判決は、既に、「公益のための正当防衛等(注:緊急避難を含む)は、国家公共の機関の有効な公的活動を期待し得ない極めて緊迫した場合においてのみ例外的に許容さるべき」としていた。賭博罪の保護法益たる勤労の美風の保護にはまさにこれが当てはまるし、知的財産権も、民主主義の下で国家が政策目標を達成するために人為的に設計し、運営しているものであることからすれば、そのエンフォースメントは、国家の責務である、言い換えれば、国家の保護が不十分だとしても、そのことを理由に刑法秩序からの逸脱が許されるものではない、と解するべきではないか。

 

参考文献




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