ABEMA、ドラマに「後付け」広告 AIで商品画像合成 - 日本経済新聞を見て若干考えたことがあるので、それについて書いていきます。問題は2つあります。
ステマ規制の根拠は何か?
- 第1の問題は、ステマは表示主体を誤認させる行為であるが、それ自体が自主的合理的選択を阻害するから規制されるのか、それとも相当程度の蓋然性をもって商品の内容を誤認させ、それによって自主的合理的選択を阻害するから規制されるのかというものである。
- これについて、ステマGL(「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準」)は、「一般消費者は、事業者の表示であると認識すれば、表示内容に、ある程度の誇張・誇大が含まれることはあり得ると考え、商品選択の上でそのことを考慮に入れる一方、①実際には事業者の表示であるにもかかわらず、第三者の表示であると誤認する場合、②その表示内容にある程度の誇張・誇大が含まれることはあり得ると考えないことになり、この点において、一般消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択が阻害されるおそれがある。」としている。
- ①は表示主体の誤認を問題にしており、②は商品の内容の誤認を問題にしている。「それ自体が自主的合理的選択を阻害するから規制される」という立場からは、②を問題とする必要はないから、ステマGLから窺われる消費者庁の立場は、「相当程度の蓋然性をもって商品の内容を誤認させ、それによって自主的合理的選択を阻害するから規制される」というものだということになる。
プロダクトプレイスメントはステマ規制の対象か?
- 第2の問題は、プロダクトプレイスメントのうち、単に商品を登場させるケースは、ステマ規制の対象になるかというものである。
- これについて、日弁連意見書(2017年)は、以下のとおり述べていた。
- 「テレビドラマのシーンの中で,自社の製品を登場させて,それとなくアピールする手法(プロダクト・プレイスメント)もしばしば行われている。これについては,その態様が推奨表示と評価するに至らない程度にとどまる場合には,消費者の選択に与える影響も大きいとはいえず,また,法文上も景表法第2条第4項にいう「広告その他の表示」に該当せず,規制の対象にはならないと考えられる。/他方,自社の製品を登場させるにとどまらず,俳優をして積極的に当該商品を推奨する台詞を述べさせるような場合は,消費者の商品選択に与える影響も大きくなるし,実質的な広告に該当するものとして規制の対象とすべきである。もっとも,この場合においても,番組のエンドロール等で,「取材協力」等の表示をすることにより,当該事業者が無償で商品を提供したり,協力費を提供したりしたことを消費者に認識させることが可能と思われる。」
- ここでは、単に商品を登場させるケース(単にプロダクトプレイスメントと言う場合、専らこちらを指すことが多いと思われる)と、俳優に商品を推奨する台詞を言わせるケースが区別され、前者はステマ規制の対象とすべきでないが、後者は対象とすべきであることが述べられている。その上で、後者を適法に行いうるための方法として、エンドロールへの事業者名の表示が挙げられている。
- 一方、ステマ告示・ステマGL制定時のパブコメ165番では、以下の考えが示されている。
- 御意見の概要:「(第3の2(2)アについて)「映画等におけるエンドロール等の表示」に関連して質問があるのですが、いわゆる、プロダクトプレイスメント(映画やドラマのシーン内で、自社の製品・サービスを積極的に利用・表示してもらうために、自社の製品・サービスを撮影のために無料で提供したり、または、広告費用を支払うこと)についても、今回の規制の対象になり、「映画等におけるエンドロール等」に表示が必要になるでしょうか。/また、プロダクトプレイスメントが、今回の規制の対象になる場合、エンドロールに、当該事業者の名称を、例えば、「協力」「撮影協力」「スペシャルサンクス」と記載するだけでは不十分で、エンドロールにおいて、事業者の名称とともに、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言まで必要になると考えるべきでしょうか。」
- 御意見に対する考え方:「景品表示法でいう「表示」には(注:「とは」?)、景品表示法第2条第3項及び第4項の規定に基づく「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」(昭和37年公正取引委員会告示第3号)第2項に規定されている「表示」であり、商品、容器又は包装等による広告(同項第1号)、見本、チラシ、パンフレット、ダイレクトメール、口頭による広告(同項第2号)、ポスター、看板(同項第3号)、新聞紙、雑誌等による広告(同項第4号)、インターネット等による広告(同項第5号)等の表示が対象となる(注:「含まれる」?)ところ、映画やドラマのシーンにおける表示も同法の「表示」に該当すると考えられます。/ただし、仮に、「映画等」が「事業者の表示」と判断される場合であっても、映画等のエンドロールにおいて事業者名が記載されている場合については、一般消費者にとって、映画やドラマ内に当該事業者の表示が行われていることが明瞭となっているものと整理しております。そのため、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言までは必要ないと整理しております。」
- ここでの質問は、「単に商品を登場させるケース」を想定していると思われる。日弁連意見書によれば、このようなケースはそもそもステマ規制の対象ではないが、消費者庁は、そのような区別に言及せず、むしろ、このようなケースもステマ規制の対象であることを前提に、それを適法に行いうる方法としてのエンドロールへの事業者名の表示について説明している。
ステマ規制の根拠・再考
- このことを前提とした場合、第1を再考する必要が生じる。単に商品を登場させるケースでは、日弁連意見書が言うように、類型的に商品の内容の誤認を生じさせる蓋然性が高いとも思われるからである。考えられる説明は、さしあたり3つある。
- 1つ目は、「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められる」表示は類型的に商品の内容の誤認を生じさせる蓋然性が高いのであり、「単に商品を登場させるケース」に限ってはそれが低いという反論は許さないというものである。
- 白石忠志「景品表示法検討会ヒアリングにおける意見」12頁参照。ただし、個別の事件で商品の内容の誤認を生じさせる蓋然性が高いことを認定する必要があるかどうかと、それがないとする反論を一切許さないことは、一応別と考えられる(委任規定の趣旨に照らした受任規定の解釈といった手法もありうる)。
- 2つ目は、「第1の問題」に関する上記の仮説がそもそも間違っており、ステマ(表示主体の誤認)は商品の内容の誤認とは関係なく、それ自体が自主的合理的選択を阻害するから規制されるのだというものである。
- 3つ目は、実はステマGLは日弁連意見書と同じ立場なのだが、パブコメ回答作成時にはそのことを失念してしまい、「単に商品を登場させるケース」と「俳優に商品を推奨する台詞を言わせるケース」の区別を看過し、前者に関する質問(に見える)に対し、後者に関する記述をもって応答してしまったというものである。
- ステマ検討会の委員であった早川雄一郎は、「ステルスマーケティングに係る米国FTCの規制構造と日本法への示唆―ニュー・メディアをめぐる問題を中心に―」207頁(PDFの49頁)注203において、結論として日弁連意見書と同様の立場に立つ。
結論/その他
- 以上のとおり、プロダクトプレイスメントが規制対象なのかは、少なくとも消費者庁の文書を見る限り、よく分からないように思われる(規制対象ではないというのが常識的な議論なのだろうが)。仮に規制対象ではないとしても、サブリミナルな手法による自主的合理的選択の阻害という観点からは、改めて規制対象に含めることは検討されてよいのではないか(誤認によらない自主的合理的選択の阻害があるということである。なお、仮にそうする場合、法改正が必要となる)。パラダイムシフト専門調査会中間整理が述べているのはそういうことであり、第5回専門調査会では、山本龍彦委員がサブリミナルな手法による意思決定の歪曲を禁止するAI規則5条1項(a)に言及している。
- プロダクトプレイスメントがステマ規制の対象となる場合、エンドロール(や動画の冒頭、概要欄など)に記載しておけば足りるとしてよいのかどうかは、改めて検討すべきではないか。というのも、そのような記載は、Instagramで大量のハッシュタグに#prを紛れ込ませるやり方(違法とされる)と同様に、表示主体の誤認を払拭する効果はほとんどないと思われる。特にプロダクトプレイスメントは、特にステルス性が高く(インフルエンサーによるステマや口コミの捏造のケースと異なり、推奨行動の外観すらない)、それに対して、エンドロールの記載は、一言一句までは読まない人も多いし、そこに事業者名が記載されていたところで、当該事業者がどのシーンにどのような態様で関与しているかは分からず、それでは自主的合理的選択を回復するには至らないのではないか。
- 今回、ステマGLで一定の考え方が示されたが、元祖ステマ規制?である放送法12条についても、考え方を整理しておくべきだと思われる。同条は、「放送事業者は、対価を得て広告放送を行う場合には、その放送を受信する者がその放送が広告放送であることを明らかに識別することができるようにしなければならない。」としており、ステマ告示よりも厳格にも見える。