はじめに
ROXXプロダクト開発部でエンジニアリングマネージャーをしている梅本です。
2025年に、Zキャリア AI面接官の技術的な裏側をまとめた記事を書きました。
前回はシステム構成やリアルタイム対話、評価の自動化など、技術の話が中心でした。 今回は少し視点を変えて、サービスを作り続けるチームの話をします。
AIだからこそ生み出せる体験や価値がある——日々の開発の中で、そう感じる場面は少なくありません。ただ同時に、その不確実性をコントロールする難しさも感じています。ビジネスの変化が速い中ではなおさらです。
それでも、不確実性と向き合いながら手応えのある価値を届けられたとき、これまでにない体験を生み出せると感じています。選考体験はまさにそういう題材だと思っています。候補者にとっての「安心して話せる場」と、企業にとっての「運用できる品質」——この両立に正解はなく、日々仮説検証を繰り返しています。
Zキャリア AI面接官はAXスクワッド*1が扱う手段のひとつで、題材は「選考体験」全体です。
まず前提として、Zキャリア AI面接官がどんなサービスかを短く振り返ります。前回記事の導入を引用します。
「当初はZキャリアプラットフォームとの連携システムとしてスタートしましたが、現在では単独利用も可能なAI面接システムとして進化しました。」 「候補者との自然な対話を実現し、面接結果を自動的に評価・分析することで、採用業務の効率化と質の向上を実現しています。」 — ROXX開発者ブログ「Zキャリア AI面接官の技術紹介」(2025/08/29)
Zキャリア AI面接官は、候補者にとっては会話体験、企業にとっては採用オペレーションの一部です。だからこそ、良いモデルを選ぶだけではなく、観測・検証・運用を最初からプロダクトに織り込んでいます。チームの動かし方も、ここから逆算しています。
ROXXの別記事で、弊社CTOのkotamatさんはチーム生産性の本質をこう表現しています。
「僕が考えるチーム生産性の根幹は、『不確実性のマネジメント』という思想に基づいている。」 — 「AI時代における、生産性の高いチームの磨き方」(2025/12/22)
この記事では、その思想を前提に、AXスクワッドが日々どう意思決定し、どう改善を回しているかを書きます。
AXスクワッドとは
ミッション:採用プロセスをAIでイノベーションし、候補者のLTVを最大化する
AXスクワッドは、もともと「AI面接官」を中心にしたチーム(AI面接スクワッド)として立ち上がりました。現在は、扱う題材を一段広げて「選考体験そのもの」を見ています。AI面接はその手段のひとつで、候補者が安心して進める導線、評価の納得感、企業側の運用負荷など、採用プロセス全体を改善対象にしています。
ミッションは次の通りです。
- 採用プロセスをAIでイノベーションし、候補者のLTVを最大化する
ここでいうLTVは、売上換算ではなく「候補者体験を軸にした長期的な価値」です。候補者が新しいキャリアに挑戦し、その先の環境で活躍できるところまで支援します。その結果として、企業側の採用も良くなる、という考え方です。
チーム:目的起点の小さな自律チーム
ROXXでは複数のスクワッドが並行して動いています。スクワッドとは何か、共通基盤チームの記事から引用します。
「スクワッドとは、職能横断で自律した、概ね8人以下のメンバーで構成されたチームのことです。」 「重要なことは、スクワッドが職能横断的で自律していることです。スクワッドはスクワッドごとにPOを持ち、エンジニアだけでなくビジネスメンバーも含み、ステークホルダーもスクワッドの中に含まれます。」 — 「新領域への挑戦に向けて。ROXX 共通基盤チームの役割とは」(2024/04/03)
AXスクワッドもこの考え方に沿っています。エンジニア・デザイナー・ビジネスメンバーが同じ責任範囲で意思決定し、仮説検証→実装→運用改善を小さく速く回すチームです。
ここで大事にしているのは、「うまく話す」より「よく聞く」ことです。
この感覚は、ROXXの別記事で、エンゲージスクワッドのプロダクトオーナー(PdM/PO)である「いかり」さんが言語化しています。
「そのために、最も重要なスキルは話すことではなく、聞くことだと考えています。」 — 「話す人より、聞ける人がプロダクトを動かす」(2025/12/11)
さらに同記事では、PdM/POの役割をこう表現しています。
「POやPdMの役割とは、ユーザーの声・数字・マーケの意見・営業の知見・現場の状況・経営判断を聞き、つなぎ合わせ、未来に向けて最大多数の最大幸福を意思決定することと考えています。」 — 同上
AXでもまさに同じで、候補者の声、企業の声、数字、現場運用を"聞いて"、つなぎ合わせ、意思決定しています。
私たちの開発の型:仮説→実装→運用改善を高速で回す
1) 課題はユーザーストーリーで定義し、KGI/KPIに落とす
選考体験の議論は、モデル・プロンプト・精度の話(AIの実装側)に寄りがちです。 でもスクワッドの出発点は常に体験課題です。
- 候補者はどこで詰まっている?
- なぜ途中離脱する?
- 企業が評価を信用できないポイントは?
こうした問いを立て、仮説とファクトを区別しながら指標に落とします。
AIによって「作ること」のコストが下がった今、「何を作るべきか」を見極める力がより重要になっています。AXでは、エンジニアもこの見極めに主体的に関わっています。コードを書く力だけでなく、問いを立てて検証ループを回す力が、そのままアウトカムにつながります。
2) VOCを"そのまま積まない"。キメラを作らないための「軸」と「○○戦略」
BizDevが一体になっているのはAXの強みです。エンジニアも候補者の声や企業の声、現場運用に触れながら、プロダクトの仮説立案や優先順位付けに関わっています。距離が近いぶん早く拾えます。
ただ、距離が近いほど、互いの意見に引っ張られやすいのも事実です。VOCを大事にしながらも、VOCをそのまま聞いて作り続けると"キメラ"が出来上がる——この罠は、どのプロダクトでも起こり得ます。
だからAXでは、VOCを「答え」ではなく「材料」として扱い、施策ごとに"軸"を先に揃えるようにしています。
具体的には、施策ごとに「○○戦略」と名前を付けて共有し、チーム内で合意を取ります。中身はシンプルで、次の4点を1枚に落とします。
- 何を変えるのか(打ち手)
- なぜそれをやるのか(仮説/狙い)
- 何で効いたと判断するのか(KPI)
- 今回やらないこと(非目標)
こうしておくと、競合の動きやVOCはもちろん参照しつつも、「自分たちだから出せる価値」に寄せて迷いなく意思決定できます。迷ったときは「どの○○戦略の話か?」に戻って、論点を揃えます。
ただし、一度立てた戦略も都度見直しを入れています。試してみたら想定よりKPIの測定結果が芳しくないこともありますし、ソリューションのオペレーション負荷が高すぎるから、より負荷が低くスケールしやすいものにシフトする、といった判断もあります。BizDev一体だからこそ、この温度感を高く保ちながら見直しを入れられるのがAXの特徴です。
また、ファクトが揃い切らない領域だからこそ、仮説ベースで"攻めた施策"を出すこともあります。ただしその場合も、必ずKPIを明確にし、施策としての効果をチームで振り返って次の改善につなげます。
さらに、特定のKPIについては分科会を設けて、観測→仮説→実装→振り返りの回転が止まらないようにしています。
3) "見える化"を先に作る(データ・行動・可観測性)
改善サイクルを回すには、まず「現状が見える」ことからです。 AI面接官は、対話体験・評価・運用のすべてが絡むので、観測設計が肝になります。
- 意思決定のためのダッシュボード(例:Looker Studio)
- 候補者体験の行動分析(例:Clarity / Datadog RUM)
- サービスの監視とアラート(例:Datadog APM / Sentry)
- 候補者アンケート(AI面接終了後の任意回答)
「数字を見る」だけでなく、「なぜその数字になっているか」まで追える状態を作ります。候補者がどこで詰まっているのか、なぜ離脱するのかを見逃さないための土台です。
特に候補者アンケートは、AI面接終了後に任意で回答いただくページを用意しており、候補者の率直な意見をプロダクト改善の参考にしています。また、候補者へのインタビューも実施しています。数値では見えにくい「体験としての感想」が直接返ってくることで、改善の手応えを得られています。
4) LLMプロダクトの"品質"は、テストの作り方から変える
LLMプロダクトでは、仕様(=評価軸)と実装(=プロンプト/モデル/体験)が絡み合います。仕様を固めてから実装するのではなく、評価軸を先に設計し、評価→実装→再評価のループを回し続けることになります。
評価の設計がプロダクト設計そのものになります。
この"評価を回し続ける仕組み"の技術的な裏側は、前回の記事「Zキャリア AI面接官の技術紹介」でも詳しく解説しています。
「AI面接の品質を継続的に改善するため、promptfooを活用した自動評価システムを構築しています。」 「面接の会話履歴から自動的にテストケースを生成し、プロンプトや評価基準の変更が既存の面接品質に与える影響を検証しています。」 — ROXX開発者ブログ「Zキャリア AI面接官の技術紹介」(2025/08/29)
ただし、自動テストだけでは不十分です。人の目によるチェックも欠かせません。開発者だけで完結させず、ビジネスメンバーに協力してもらいながら作り込むことが大事です。
たとえば、AI面接官(社内では「みどり」と呼んでいます)の発話内容を改善するためにプロンプトチューニングが必要な場面があります。エンジニアはpromptfooでトライアンドエラーを繰り返しつつ、ビジネスメンバーに実際の会話体験を評価してもらいます。そうやって、数値だけでは拾いきれない「体験としての違和感」を拾い上げています。LLMの出力は確率的なので、テストを通っても体験として違和感が残ることがあります。この"最後の詰め"が一番難しく、同時に一番手応えのあるところだと感じています。
5) 社内を巻き込んで検証・改善する
スクワッド内だけで完結しないことも多いです。事業部のメンバーを巻き込んで助けを借りることも必要です。ROXXのフラットな環境がこれを後押ししてくれます。
たとえば、複数のメンバーが同じ環境でAI面接を一斉に実施するユースケースがありました。このとき、社内の10人以上のメンバーを巻き込んで検証を複数回にわたって実施しました。その結果、音声文字解析をWebRTCに切り替える、動画解析を並行処理する、Geminiモデルをフェイルオーバーさせる、といった解決策を推進するイニシアチブが生まれました。
こうした「実環境に近い負荷をかけて問題を炙り出す」検証は、机上の設計だけでは見えない課題を早期に発見する上で欠かせません。
また、ドッグフーディングができる環境も作っています。社内選考でもAI面接官を利用しているため、新しい施策の検証を弊社の人事に協力してもらい進めることもあります。その上で、施策を全企業に展開するかの判断を行っています。
6) アーキテクチャとATS連携で「運用できる」を支える
採用プロセスを支えるプロダクトは、リアルタイムの対話、評価・分析、外部連携がひとつにつながります。どれかだけ強くても成立しません。そのため、機能の境界を意識して分割し、変更に強い形にしています。
また、AI面接官は「面接だけ提供できれば良い」わけではありません。企業が実運用に載せるには、既存の採用業務フローに自然に入っていく必要があります。そこで、ATS連携を含めて「運用まで含めた体験」をプロダクトとして設計しています。連携の仕様差分・権限・通知・監査など、地味だけど効くポイントを潰していくことが、結果的に候補者体験も支えています。
具体的な採用管理システムとの連携事例として、2025年5月に「sonar ATS」、2026年2月に「採用一括かんりくん」とのAPI連携を開始しました。
速さと品質のトレードオフにどう向き合うか
①負債は「いつまでに/誰が/どの状態まで」を決めて返す
開発スピードと品質維持はトレードオフになりがちです。 だからこそ、負債は放置せず、
- 誰が
- いつまでに
- どの状態まで
を決めて計画的に返済します。
インシデントが起きたときは、責任を個人に帰さずチームで振り返り、再発防止策と学びを残します。
②「開発が日次で前に進む」運用を設計する
不確実性が高い領域(選考体験×AI)では、「スプリントを回す」だけだと日々の判断待ちが積み上がります。 AXでは、日次で意思決定し、日次で改善を前に進めるために、コミュニケーションの"段取り"を先に作っています。
ROXXの別記事でも、弊社CTOのkotamatさんが朝会をこう位置づけています。
「僕たちのチームの朝会は、単なる進捗報告の場ではない。」 — 「AI時代における、生産性の高いチームの磨き方」(2025/12/22)
AXでも同じで、朝の短い時間で「今日1日を走れる状態」を作りにいきます。運用としては大きく3段階です。
(1) BizDev朝会:スクワッド全員で"今日の論点"を揃える
まず、エンジニア・デザイナー・ビジネスメンバーが揃って、候補者体験と事業側の状況を含めて擦り合わせます。
- 候補者側で起きていること(問い合わせ/ログ/録画)
- 企業側の運用で詰まっていること(ATS連携/権限/通知など)
- その日に動かす仮説と、見る指標(KPI)
「聞く」→「つなぐ」→「今日の意思決定」に落とす、の短距離走です。
(2) Dev朝会:エンジニア×デザイナーで"実装と設計"を詰める
BizDev朝会の直後に、エンジニアとデザイナーで、より踏み込んだ話をします。
- 今日やること/やらないことの線引き
- 実装の不確実性(影響範囲/設計判断/リスク)
- UI/UXの詰め(文言・ガードレール・導線)
ここで「止まりそうなポイント」を先に出して、日中の判断待ちを減らします。
(3) Discord常時接続:判断の"待ち時間"をなくす
朝会で論点を揃えても、実装を進めると細かな判断が必ず発生します。 そこで日中は、Discordを繋いだ状態にして、いつでも互いに相談できるようにしています。
この「基本はdiscordを繋げて適宜コミュニケーションを取りながら進めていく」スタイルは、ROXXの別チームでも実践されています。
「基本はdiscordを繋げて適宜コミュニケーションを取りながら進めていくスタイル」 — 「ab_dev入場エントリ 〜チーム開発を知る!〜」(2023/06/28)
こうした運用が効くのは、仲が良いからだけではありません。"不確実性の先出し"と"意思決定の高速化"を仕組みにしているからです。
おわりに:候補者体験を起点に、採用プロセスをAIで更新していく
AXスクワッドは、選考体験という題材を扱っています。Zキャリア AI面接官は、ありがたいことにより多くの企業や候補者の方に使っていただけるようになりました。一方で、候補者体験を磨き上げるところにはまだまだ改善余地があり、その意味では0→1の連続だと感じています。
正解がない中で観測し、仮説を立て、小さく試して学ぶ——このサイクルを回すこと自体が、難しくも面白いところです。
観測・評価・運用の仕組みで継続的に磨き込み、「使われ続ける」状態を目指しています。
AI面接官はそのための手段の一つです。候補者が安心して進める導線、評価の納得感、企業側の運用負荷——採用プロセス全体を対象に、改善の射程を広げています。
そして、私たちのミッションは一つです。
- 採用プロセスをAIでイノベーションし、候補者のLTVを最大化する
ここでいうLTVの軸足は、どこまでも候補者体験です。候補者が新しいキャリアに挑戦し、その先の新しい環境で活躍できるところまで、プロダクトとして支援していきます。
そのために、日々の小さな学びを積み上げ、選考体験をアップデートし続けます。
参考
- Zキャリア AI面接官の技術紹介(2025/08/29)
- AI時代における、生産性の高いチームの磨き方(2025/12/22)
- 話す人より、聞ける人がプロダクトを動かす(2025/12/11)
- 新領域への挑戦に向けて。ROXX 共通基盤チームの役割とは(2024/04/03)
- ab_dev入場エントリ 〜チーム開発を知る!〜(2023/06/28)
梅本 誠也 Seiya Umemoto
Zキャリア プロダクト開発部 エンジニアリングマネージャー
韓国で5年間正規留学し、その間は業務委託として機械学習とデータエンジニアリング分野の開発を経験。新卒でアプリケーションエンジニアとしてフロントエンド、バックエンド、インフラを幅広く担当。前職のパーソルキャリアではリードエンジニアとして社内のデータ分析基盤の構築・運用保守に従事し、生成AIを活用したアプリケーション開発にも携わる。ROXXジョイン後は、Zキャリア AI面接官のテックリードとしてプロダクトグロースに従事。現在は同社にてエンジニアリングマネージャーとしてAXスクワッドをリードし、選考体験をイノベーションするミッションに従事。
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*1:スクワッドとは、Spotifyモデルにおける職能横断で自律した小規模チームのことです。詳しくは「新領域への挑戦に向けて。ROXX 共通基盤チームの役割とは」をご覧ください。