
この記事は ノバセル Advent Calendar 2025 16日目です。
こんにちは。ノバセルでエンジニアをしている松村です。
「エンジニアをしている」と書きましたが、実は今月からエンジニアに職種転向したばかりです。これまではデータサイエンティストとして働いていました。昨年のアドベントカレンダーでは「データサイエンティストがビジネス職寄りの仕事をやってみて感じたこと」という記事を書きましたが、今回はその続編のような形で、エンジニアへの転向について書いてみたいと思います。
振り返ると、私のキャリアはざっくりデータエンジニア → データサイエンティスト → エンジニアと、3つの職種を経験してきたことになります。この変遷と昨今の技術的変化の中で感じているのは、「職種の境界が曖昧になってきている」ということです。
本記事では、自身の経験を棚卸ししながら、AI時代における職種の変化について考えてみます。
複数の職種で学んだこと
まずは自分のキャリアを簡単に振り返ります。

1社目:データエンジニア兼データサイエンティスト(2年半)
新卒で入社したのはHR SaaS系の会社(300人規模)でした。データ分析組織の立ち上げメンバーとして、データエンジニアとデータサイエンティストを兼任していました。
データエンジニアとしては、BigQueryとGoogle Cloudを中心としたデータ基盤の開発を担当しました。AirflowやDockerを使ったETLパイプラインの構築など、データを「使える状態」にするための基盤づくりに注力していました。
また、データサイエンティストとして、作成した基盤のデータを用いた分析でビジネス側との議論だったり、社内での啓蒙活動も行っていました。
この時期に学んだのは、データは勝手に分析できる状態にはならないということです。データを収集し、変換し、品質を担保し、分析者が使いやすい形で提供する。この一連の流れを設計・実装する経験は、後のキャリアでも大きな財産になっています。
2社目前半:データサイエンティスト
現職のノバセルに入社してからは、主にデータサイエンティストとして統計分析や機械学習モデルの構築を担当してきました。
データサイエンティストとしての仕事を通じて学んだのは、分析やモデル構築そのものよりも、「何を解くべきか」を定義することの難しさと重要性です。どれだけ精緻なモデルを作っても、解くべき問題が間違っていれば価値は生まれません。それは社内向けの分析であっても、顧客向けの分析であっても変わりません。
2社目中盤:データサイエンティスト+PdM的役割
昨年のアドベントカレンダー記事で書いた通り、途中からはPdMのような役割も担うようになりました。営業同行、顧客課題のヒアリング、プロダクトのあり方についての議論など、ビジネス側に近い仕事にチャレンジした時期です。
この経験を通じて、データサイエンティスト協会が定義する「ビジネス力」の重要性を実感しました。

2社目現在:エンジニア
そして今月から、エンジニアとして新たなスタートを切りました。
きっかけは、約4年前に自分を採用してくれた方からの打診でした。しばらく別の部署で働いていたのですが、今回声をかけていただき、提示されたキャリアプランが納得のいくものだったため、転向を決めました。
正直、迷いや不安はありました。これまで培ってきたデータサイエンティストとしてのスキルセットを活かしながら、新しい領域でやっていけるのか。ただ、最終的には打診してくれた方と、自分の力を信じることにしました。
現在は顧客向けのプロダクトの開発に携わっています。その中でAI(ML)エンジニア的な動きをする場面も出てくるだろうと期待しています。
生成AI/LLMがもたらす職種の融合
ここからは少し視野を広げて、AI時代における職種の変化について考えてみます。
従来の役割分担
従来、データ系・エンジニア系の職種は比較的明確に分かれていました。
- データエンジニア:データ基盤の構築・運用
- データサイエンティスト:分析・モデル構築
- MLエンジニア:モデルの本番実装・運用
- アプリケーションエンジニア:プロダクト開発
もちろん会社や組織によって定義は異なりますし、複数の役割を兼任することも珍しくありませんでした。ただ、それぞれの職種に求められるコアスキルは比較的はっきりしていたように思います。
AI時代に何が変わったか
生成AI/LLMの登場により、この境界が急速に曖昧になってきていると感じます。

私が実際に目にした変化として印象的だったのは、ビジネス職の方が自然言語経由で簡単な統計分析を回したり、Lovableのようなノーコードツールでアプリを作成したりしていたことです。これまでデータサイエンティストやエンジニアに依頼していたような作業を、ビジネス職の方が自分で完結できるようになってきています。
これはビジネス職 → DS/エンジニアの境界が曖昧になっている例ですが、逆方向の変化も起きています。
- データサイエンティストが生成AI/LLMを組み込んだアプリケーションを作る機会が増えた
- アプリケーションエンジニアがプロンプトエンジニアリングやRAGの実装を行うようになった
- MLエンジニアの守備範囲がLLMOps、エージェント開発などに拡大した
「AIエンジニア」という呼称については、既存の職種の枠組みでは捉えきれない新しい役割が生まれていることの表れかも、と感じています。
今後求められるスキルセット(私見)
では、このような時代にどんなスキルセットが求められるのでしょうか。あくまで私見ですが、いくつか考えてみます。
「T字型」から「π型」「櫛型」へ
よく言われる「T字型人材」*1は、1つの専門性を深く持ちつつ、幅広い領域の知識を持つ人材像です。しかしAI時代には、複数の専門性を持つ「π型」や「櫛型」の人材がより求められるようになるのではないかと考えています。
なぜなら、生成AIによって「浅い知識」の価値は相対的に下がり、「深い専門性」同士を接続できる能力の価値が上がるからです。
私自身の経験で言えば、データエンジニアリングの経験があったからこそデータサイエンティストとしてデータ品質の問題に対処できましたし、データサイエンティストとしての経験があったからこそビジネス側との会話でも技術的な裏付けを持って議論ができました。
ただし、境界を越えるには「深さ」が必要
ここで注意したいのは、境界が曖昧になってきたからといって、表面的な知識だけで越境できるわけではないということです。
生成AIを使えば、誰でもそれっぽいコードを書いたり、それっぽい分析結果を出したりできるようになりました。しかし、それが本当に正しいのか、本番環境で動くのか、ビジネス上の意思決定に使えるのかを判断するには、その領域における深い知識が必要です。
境界が曖昧になった時代だからこそ、各領域の「本質的な知識」を持つことの重要性はむしろ増していると感じます。
私が今後伸ばしたいスキル
転向したばかりの今、自分に足りないと感じているのはソフトウェアエンジニアリングで使われる言語への習熟度です。
これまではPythonをメインで使ってきましたが、現在のプロジェクトではRuby on RailsとTypeScriptを使っています。言語そのものの習得に加えて、ERD、データモデリング、単体テストなど、ソフトウェアエンジニアリングの基礎的なプラクティスについても学んでいるところです。
一方で、これまで培ってきたデータエンジニアリングの知識(パイプライン設計、データ品質管理など)や、ビジネス理解(要件定義、優先度判断など)は引き続き活かしていきたいと考えています。
キャリア戦略としての「越境」の意味
最後に、キャリア戦略として「越境」をどう捉えるかについて書いてみます。
前回記事との接続
昨年の記事ではビジネス職側への越境について書きましたが、今回はエンジニア側への越境です。方向は違いますが、「コンフォートゾーンを出る」という点では共通しています。

越境を繰り返すことで「接続点」が増え、結果として自分の市場価値が上がるのではないか——これは私の仮説です。
データエンジニアリングとデータサイエンスの接続点があるから、データの流れを意識した分析ができる。データサイエンスとビジネスの接続点があるから、顧客価値につながる分析ができる。そしてこれからは、データサイエンスとソフトウェアエンジニアリングの接続点を作ることで、様々に自動化されたものをプロダクトとして届けられるようになりたいと考えています。
不確実な時代だからこそ
生成AI/LLMの登場により、私たちの仕事のあり方は急速に変化しています。数年後にどんな職種が存在しているのか、データサイエンティストのような職種が残っているのか、正直わかりません。
ただ、そんな不確実な時代だからこそ、「境界を越える経験」が武器になるのではないかと思っています。特定の職種に閉じこもるのではなく、隣接する領域に越境し、接続点を増やしていく。そうすることで、変化に対応できる柔軟性が身につくのではないでしょうか。
私自身、まだ転向したばかりで偉そうなことは言えませんが、いずれまた振り返りの記事を書けたらと思います。