
こんにちは、SmartHRのwattunです。
私は2022年1月にQAエンジニアとして入社し、2024年4月からはQAエンジニアとプロダクトオーナーを兼務してきました。そして2026年1月から、プロダクトマネジメント本部で新しいチャレンジをすることになりました。
入社時点では、「QAエンジニアの役割は品質を守ることだ」と考えていました。しかし、この4年間で、「QAエンジニアの責務」についての見え方は大きく変わりました。品質を守るという役割を超えて、「組織がどう判断し、どう進むか」を支える役割としてQAエンジニアを捉えるようになったのです。
この記事では、これまでの経験を通じてたどり着いた「QAエンジニアの責務」について整理してみます。 次のステージに進む自分自身の棚卸しであると同時に、「QAという仕事にも、いろいろな関わり方がある」と思ってもらえるきっかけになればうれしいです。
この記事でわかること
- QAエンジニアの責務を「品質に関する意思決定の質とスピードを上げること」と捉える考え方
- 意思決定を前に進める土台としての「規範づくり」「可観測性の設計」「判断の場づくり」
- 前提・問い・事実・残余リスクで論点をそろえる整理の仕方
- 2025年下期の取り組みを例にした、QAエンジニアの関わり方の適正化の考え方と進め方
QAエンジニアの責務は、品質に関する意思決定の質とスピードを上げること
私がこの4年でたどり着いた、QAエンジニアの責務の定義は「ソフトウェア品質に関する意思決定の質とスピードを、組織にもたらすこと」です。 これは、QAエンジニアの責務の捉え方がほかにもあり得ることを前提にしたうえで、私の経験から整理した1つの見方です。
意思決定が求められる場面
ソフトウェア開発では、あらゆる場面で判断や意思決定が行われます。
- どの課題や機能に、どこまで投資するか
- どのような設計や実装方針を採るか
- リスクや不確実性をどの程度許容するか
- 障害やインシデントが起きたとき、どこまで遡って何を見直すか
- 将来の変更やプロダクトの拡張をどのように見込んでおくか
こうした判断は、多くの場合「完全な情報が揃っていない状態」で行われます。 意思決定が止まるのは、「何が分かっていれば進めてよいか」の合意がないときです。前提・問い・事実を整理すると、残すリスクと決めるべきことが分かれ、判断が進みやすくなります。 QAエンジニアが向き合っているのは、この「気づき → 判断 → 行動」の経路そのものです。
意思決定を支える土台づくり
QAエンジニアは、組織がソフトウェア品質に関する判断を日常的に行えるよう、必要な能力を設計します。 そのために、次のような土台を整えていきます。
- 規範づくり
- どのような観点で品質を捉えるのか、どこまでを許容範囲とするのかを言語化し、「良い/良くない」を判断できる基準として共有する
- 可観測性の設計
- その規範に対して、いまの状態がどうなっているのかを、いつでも確認できるようにする。必要な指標だけを絞り込み、「誰が・いつ・どこを見ればいいか」がわかる形で整える
- 判断の場づくり
- 関係者どうしが前提をすり合わせ、「今回どこまでやるのか」「何を残余リスク(その時点で意図して残すリスク)として受け入れるのか」といった結論を出せる場を設計する。決定者・締切・必要な根拠を明確にし、判断が持ち越されないように運営する
QAエンジニアは、自分がすべての判断を下すのではなく、こうした規範・可観測性・判断の場を通じて「組織がきちんと判断できる状態」をつくり続けることで、ソフトウェア品質に関する意思決定を最適化していく役割だと考えています。
ソフトウェア品質に関する意思決定が最適化された組織の姿
QAエンジニアが目指す「意思決定の最適化」が実現されたとき、組織はどのような状態になっているのでしょうか。 ここでは、自分なりに二つの切り口から、そのイメージを言語化してみます。
同じ前提をそろえて話せるようにする
一つは「どんな前提を共有して話せているか」という視点です。 ソフトウェア品質に関する情報を一部の担当者に閉じず、関係者どうしで「同じものを見て話せている」状態です。
- プロダクトの各部位がどのようなリスクを抱えているか
- どの程度の信頼性を持っているか
上記のような情報が、エンジニア、プロダクトマネージャー(PM)、ビジネスサイドの全員に対して「可観測(いまの状態を、必要な人がいつでも確認できる状態)」になっています。 情報の可観測性が高まった結果として、「なんとなく不安だからリリースを止める」といった主観的な判断ではなく、リスクとリターンを意識した意思決定がしやすくなります。 たとえば、「この部分にこれだけのリスクが残存しているが、ビジネス上の機会を優先してリリースし、直後にパッチを当てる」といった解像度の高い判断が可能になります。
守るところと進めるところをはっきりさせる
もう一つは「どこで何を決めきるか」という視点です。 品質に関する判断が、特定のフェーズや役割にだけ集中せず、「どこで何を決めきるか」があらかじめ整理されている状態です。 すべてを最後のタイミングでまとめて判断しようとすると、その一点に判断が滞留し、待ち時間や手戻りが大きくなってしまいます。 そうではなく、プロダクトのライフサイクル全体のなかで、
- このタイミングでは、ここまでを確定させる
- ここから先は、残るリスクを理解したうえで進めてよい
といった「守るところ/進めるところ」の線引きが共有されていると、守るべきところでは迷わず守りつつ、進められるところは進める、というリズムを取りやすくなります。 結果として、特定のフェーズに判断が溜まりにくくなり、要件検討から運用までの流れが、淀みなくつながりやすくなります。
こうした理想像に近づく話を、日々のQAの仕事とどう結びつけるかも考えてみます。
日々のQA活動が意思決定の最適化を支える
ソフトウェア品質に関する意思決定の最適化は、特別な場面だけで起きるのではありません。 日々行っているQA活動そのものが、意思決定の最適化を担っています。 たとえばQAは、次のような場面で関わっています。
- 仕様や方針をレビューするときに、「どこまで分かっていればこの一歩を踏み出せるか」という前提を揃える
- 設計・実装・テストの観点をすり合わせるときに、「何が確かめられれば前に進めると言えるのか」という問いを整理する
- 検証や運用の結果から、「実際にはどのように動き、どんなリスクやパターンが見えてきたか」といった事実を集めて共有する
こうした活動を通じて、ソフトウェア品質に関する前提・問い・事実が少しずつそろっていきます。 QAエンジニアの責務を「ソフトウェア品質に関する意思決定の質とスピードを、組織にもたらすこと」と捉えるなら、日々のQA活動は、その意思決定が迷わず行えるように進み方を整えていく活動だと思っています。
ここで紹介した「前提・問い・事実」は、振り返りや相談の場で次のように整理すると、論点がそろいやすくなります。
- 前提:何が分かっている/分かっていないか(誰が、どこまで共有できているか)
- 問い:今回、何を決める必要があるか(いつまでに、誰が決めるか)
- 事実:判断に使える観測結果は何か(再現手順、ログ、指標、ユーザー影響など)
- 残余リスク:決めたうえで、何を意図して残すか(いつ、どうやって回収するか)
もし、「自分たちだとどうだろう?」と思ったら、最近の開発で「どんな場面で判断に迷ったか」をメンバー同士で出し合うことをおすすめします。 その1つ1つについて、
- どんな前提が共有されていなかったのか
- どんな問いが立っていなかったのか
- どんな事実が足りていなかったのか
を振り返ると、「どこから手をつければ意思決定が楽になるか」が見えやすくなります。 そのうえで、「そのときどんな残余リスクを受け入れていたのか」を言葉にしておくと、次の判断での線引きも揃えやすくなります。
ここまで書いてきた抽象的な考え方が、実際の現場でどう試されているかも触れておきます。
QAエンジニアの関わり方を適正化しようとした2025年下期の取り組み
ここからは、私がチーフを担当していた品質保証本部プロダクト基盤ユニットで、2025年下期に取り組んでいた「QAエンジニアの関わり方をどう適正化するか」というテーマの実例を紹介します。 品質保証本部プロダクト基盤ユニットは、複数の基盤系プロダクトの品質保証を担っている組織で、そのなかでも課金基盤チームと権限基盤チームに重点的に関わっています。 この取り組みはまだ仮説検証の途中であり、2026年上期でも継続して取り組む予定です。
開発フェーズごとに「守るべきもの」を明文化
課金基盤チームでは、「どのフェーズで何を守るのか」という観点が、プロセスとしてはっきり見えづらいところがありました。2025年下期は、そこに手を入れるために、開発プロセスの各フェーズごとに「ここでは何を守るのか」を定義し、その定義に沿って動けるようにテンプレートやチェックリスト、スクリプトなどの型を用意して、実装前までの工程で運用してみました。 観点が見えづらい状態だと、フェーズごとに「ここで何を守るのか」がそろいにくく、レビューで同じ確認が繰り返されやすくなります。
まだ試行段階ではありますが、各フェーズで「何のためにこの作業をしているのか」が説明しやすくなり、同じものを守るための重複作業や効果の薄い作業が見えやすくなって削減や改善の対象がはっきりしてきました。また、フィーチャー開発の流れとステークホルダーがチェックリストで可視化され、「どのタイミングで誰と話せばよいか」が共有しやすくなりました。
「どこにQAエンジニアが必須か」を見直し始める
課金基盤チームでは、これまで「ここはQAエンジニアが並走していないと不安だよね」という前提で関わってきた部分が多くありました。各フェーズで「何を守るか」を言葉にしていく中で、少なくとも今見えている範囲であれば、「ここはチームだけでも守れそうだな」「ここは引き続きQAエンジニアが深く入っていた方が良さそうだな」といった切り分けのイメージが少しずつ持てるようになってきました。
2025年下期は、それを具体的な関わり方に落とすために、QAエンジニアが必ず関わるフェーズとチームに任せる前提で進めるフェーズを一度整理し、「なぜそこはQAエンジニアが重く関わる必要があるのか」「なぜそこは任せられるのか」を、感覚ではなく言葉で説明できるようにしました。まだ試行回数は少なく、「この切り分けで本当に十分か」はこれから確かめていく段階ですが、「QAエンジニアが常に並走していないと不安」という前提から、「どこまでをチームの責任範囲とし、どこからを一緒に見るのか」を前提を揃えて話せる状態には少しずつ近づいてきています。
チームが自律的に品質を守るための「視点」を導入する
権限基盤チームでは、チーム体制や開発計画の変化が大きく、その時々の状況に合わせて「どのタイミングで何を見て品質を守るか」を柔軟に考えていく必要がありました。2025年下期は、「何が守られていれば、品質が守られていると言えるのか」という品質保証視点を定義し、その視点を仕様検討・リファインメント・テスト分析/設計・リスク分析といったポイントに限定的に導入して、有効性を確かめるというアプローチを取りました。
まだ限定的な検証にとどまっていますが、視点を導入した箇所ではユースケース漏れや考慮不足に早い段階で気づける効果がみられた一方、一部の施策は機能の規模や特性によっては重厚すぎてしまい運用に乗り切らないことが分かり、どのケースに絞って使うべきかという課題がはっきりしてきました。ここでやりたかったのは、QAエンジニアが個別に「ここが気になる」と指摘するのではなく、チームが自分たちで同じ視点を持ち込めるようにするにはどうすれば良いかを探ることでした。
これらの取り組みは、どれも 2025年下期の時点ではまだ「途中経過」にすぎません。各フェーズでの「守るべきもの」の定義が十分かどうか、QAエンジニアの関わり方をどこまでスリムにできるのか、品質保証視点がチームにとって現実的な重さで回せるのかといった論点は、2026年上期以降も検証が必要です。
それでも、QAエンジニアの関わり方適正化という観点では、「どこで何を守るか」をプロセスと言葉のレベルに引き上げ、QAエンジニアが必須なポイントと任せられるポイントを意識的に分け、チームが自律して使える品質保証視点を試作するといった試行錯誤が、ソフトウェア品質に関する意思決定を、個人の頑張りに依存させすぎない形に少しずつシフトさせていくきっかけになりました。
QAエンジニアはどんな「進み方」を支えるのか
ここまで書いてきたことをあらためて言葉にすると、 私が考えるQAエンジニアの役割は、バグを見つけることそのものではなく、ソフトウェア品質に関する意思決定が、迷わず・納得感を持って行えるようにすることだと思っています。
そのためにQAエンジニアは、
- 品質についてどんな前提を共有しておくべきかを言語化し
- その前提に対して、何を見れば「進めてよい/立ち止まるべき」が判断できるかを設計し
- 実際のプロダクトの挙動や利用状況という事実を集めて、判断に使える形にしていく
といった仕事をしています。
それは、プロダクトの外側から評価する立場というよりも、
- どんな情報があればチームが決めやすくなるか
- どんな順番で話せば、合意にたどり着きやすくなるか
を考え続ける、チームの「進み方」の設計に近いものだと感じています。
QAエンジニアが関わることで、次のような変化が起きていきます。
- 不安や違和感が言葉になり
- どこまで守れれば十分か、どこからは許容範囲外かがはっきりし
- 決めたことと残したリスクが、次の判断へとつながっていく
こうした変化の積み重ねが、プロダクトの品質だけでなく、「このチームはどうやって決めて進んでいくのか」というスタイルそのものを形づくっていきます。
おわりに
この記事では、「QAエンジニアはソフトウェア品質に関する意思決定を最適化する人」という私なりの考えを書きました。
現場ではもちろん、きれいごとだけでは進みません。 既存プロダクトの複雑さ、チームの状況、スケジュールの制約。そうした現実に向き合いながら、ここに書いたような理想像とは、まだ距離がある場面もたくさんあります。 それでも、日々の仕事を「ただテストする/レビューする」ではなく、「気づき → 判断 → 行動」が回りやすくなるように整えていくという目線で見直していくことで、組織の意思決定の質とスピードは少しずつでも上げていけるはずです。
この記事を読んで、「QAエンジニアってこういう関わり方もあるのかもな」と少しでもイメージが広がったり、自分のチームでの関わり方を言葉にしてみようかなと思ってもらえたらうれしいです。 これからQAエンジニアを目指す方も、すでに現場でやっている方も、PMやエンジニアとしてQAエンジニアと一緒にものづくりをしている方も、どこか一行でも「これは自分ごとにできそうだな」という部分があれば、書いた甲斐があったなと思います。
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