こんにちは。
株式会社ラクスで、楽楽精算のプロダクトデザインチームのリーダーをしているimamuです。
ラクスでは現在、「ベストオブブリード」戦略から「統合型ベストオブブリード」戦略へ進化を目指し、製品開発を進めています。 www.rakus.co.jp www.rakus.co.jp
私たちプロダクトデザイン組織でも、デザインガイドラインの整備やUIリニューアルを行っています。 tech-blog.rakus.co.jp note.com
その一環として、UXライティングガイドラインについても共通化と各製品への浸透を目指して取り組んでいます。
でも実はこのライティングガイドライン、私たち自身が楽楽精算のプロダクト開発に関わる中で感じていた、ごく個人的な実務上の困りごとから生まれたものでした。
この記事では、現場の小さな課題感が、どのように事業戦略をプロダクトに落とす取り組みへと広がっていったのか、そのプロセスをご紹介します。
楽楽精算でぶつかった「言葉」の課題
楽楽精算は17年以上の歴史を持ち、400画面以上、2万社以上のお客様に使われているプロダクトです。その時々のユーザーニーズや業務環境、技術的な制約、組織体制に合わせて、数多くのエンジニアやデザイナーが文言の決定に関わってきました。
そうした積み重ねの結果、機能や画面ごとに似た意味でも異なる用語が使われている、トーンが異なっているといった状況が多く発生していました。
表現揺れの例
〇〇をご確認のうえ、もう一度〜〜してください。
〇〇をご確認の上、再度〜〜して下さい。
〇〇を確認してから、改めて〜〜してください
そのため、新しく文言を検討する際、どの表現を正として判断すれば良いのかが不明確で、担当者の経験や感覚に頼った議論となりがちでした。
このような状況が生み出すのは、単に検討や合意に時間がかかるという問題だけではありません。プロダクトとしてどんな体験を提供したいのか、ユーザーにどんな状態になってほしいのかといった意図を表現するという、デザイナーの価値提供そのものを難しくさせていると感じました。
そして、まずはプロダクトとして一貫した言葉を使える体制を作ろうと考えました。
楽楽精算ライティングガイドラインの立ち上げ
なぜライティングガイドラインなのか
一貫した言葉を使うために、まず整理したのは既存文言の調査手法の確立でした。当時は現在のようなAIツールもなく、過去にどんな表現が使われているのかを確認するだけでも手間がかかり、デザイナー自身で完結できない場面も多くありました。その結果、十分に調べきれないまま判断せざるを得ないこともありました。
そのため、まずは私自身でコードを調べ、デザイナー自身が文言を調査できるよう、調査手順や資材の整備を行いました。
それにより文言検討のスピードや精度は一定改善しましたが、それだけでは根本的な解決にはなりませんでした。
過去の文言を参照できるようになっても、「これからどういう言葉を使っていくべきか」「どんな基準で判断するのか」は、依然として属人性が高いままでした。
そこで次に取り組んだのが、UXライティングガイドラインの策定です。当時、私はUI刷新プロジェクトの立ち上げと並行して携わり、チームメンバーと分担して検討を進めました。
ライティングガイドラインの判断基準
ライティングガイドラインの目的は、属人性の排除と品質の担保です。
それにより、デザイナーの検討コストを下げるとともに、サポートサイトを作成しているCSとの合意形成をより納得感を持ってスムーズに行える状況をつくりたいと考えていました。
そのため、ガイドラインは抽象的な指針ではなく、誰が見ても判断の拠り所として使えることを意識して信頼性の高いリソースを参照しました。
具体的には、社内のコミュニケーションガイドラインや、以下をはじめとした複数の書籍や公的機関によるガイドラインを参照しています。
この時点ではプロダクト横断で使うことを明確に見据えていたわけではありませんでしたが、結果として他のチームやプロダクトとも共有しやすい基準になりました。

ライティングガイドラインで何が変わったか
ガイドラインを使い始めてまず変わったのは、文言検討やレビューの進め方でした。「この表現が正しいかどうか」を感覚で考えたり、過去事例を探し回ったりするのではなく、ガイドラインを参照しながら理由を説明できるようになりました。
その結果、レビューや議論の焦点が「わかりやすそう」といった個人の感覚から、「ガイドラインの考え方に沿っているか」「なぜわかりやすいと判断できるか」といった論点に移っていきました。特にCSとの文言調整においては、判断の根拠が明確になったことで、合意形成にかかるコストが大きく下がったと感じています。
また、デザイナー自身にとっても、毎回ゼロから考えなくてよくなったことで、検討のスピードが上がりました。文言に悩む時間が減った分、UIや体験の設計といった本来注力すべき検討に時間を割けるようになり、結果として担当できる案件や工程の幅が広がっていきました。
共通ガイドラインへの進化
製品戦略とライティングガイドライン
ちょうどこの頃、会社としての製品戦略も「統合型ベストオブブリード」へと舵を切りました。その結果、プロダクト単体ではなく、シリーズ全体で一貫した体験を提供することが、より強く求められるようになっていきました。
それに応えて、UI刷新や共通デザインガイドラインの立ち上げといった取り組みもはじまり、UIコンポーネントやレイアウトについては一定の一貫性を担保できる仕組みができあがっていきました。
こうした中、次に課題として浮かび上がってきたのが「言葉」の扱いでした。UIの構造や使われ方が共通化されていく一方で、文言だけが個別最適のままでは、体験としての一貫性を保つことが難しくなります。
そこで、共通のライティングガイドラインを組み込み、UIコンポーネントやデザイン原則、デザインパターンと合わせて参照できる状態を目指しました。
共通化と浸透に向けた取り組み
まず行ったのは、各製品におけるライティングの扱われ方や、ガイドラインの有無、運用状況を整理することです。製品ごとに歴史や体制、課題感が異なる中で、どこまでを共通化できそうか、どこは個別性を残すべきかを整理しました。また、共通化を進めるうえで、検討フローをどう設計すべきかも把握する必要がありました。
そうした整理を進める中で、楽楽精算のライティングガイドラインをベースとして選びました。信頼性の高いリソースに基づいていること、他職種との合意形成を前提にしていること、安定した運用実績があったことが理由です。
楽楽精算のガイドラインをたたき台として、プロダクト固有の要素を分離し、共通化できる観点や考え方を抽出しました。そして、各プロダクト固有の用語や言い回しは禁止するのではなく、それぞれ固有のガイドラインとして参照できる仕組みを作りました。
また、UI/UXの共通化をより組織に浸透させるため、楽楽精算のライティングガイドラインやデザイン原則、UIコンポーネントの策定に直接関わっていないメンバーにもライティングの共通化を推進してもらいました。
現在はさらにデザイナー全員が参照しやすいよう、AIによる可読性の向上やツール整備を進めています。
実務での活用状況
こうした取り組みの結果、楽楽従業員ポータルに代表される新規プロダクトでは、共通のガイドラインに基づいたコンポーネントやレイアウト、用語やトーンを使用し、統一感のある体験を提供できるようになりました。
今後はさらに既存プロダクトについても、既存の体験の良さを活かしつつ、統一感のある使いやすい体験を提供できるよう取り組みを進めています。
おわりに
振り返ってみると、この取り組みは最初から「事業戦略に貢献しよう」と考えて始めたものではありませんでした。出発点は、楽楽精算の実務の中で感じていた、言葉に関する小さな違和感でした。
デザイナーが事業戦略に関わる方法は、必ずしも大きな意思決定の場に直接参加することだけではありません。日々の実務で生まれる判断を構造化し、再現できる形にしていく。その積み重ねが、結果として事業戦略をプロダクトに落とし込むことにつながっていくのだと思います。
この記事で書いた取り組みや判断が、UI/UXデザイナーの事業的価値を考える際の参考になれば幸いです。
もしこの記事を読んで、ラクスでのプロダクトづくりやデザインの関わり方が気になったら、採用情報も覗いてみてください。まずは気軽に、カジュアルにお話しできたら嬉しいです。