どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。
今回はジェレミー・アレン・ホワイトが主演男優賞に食い込む可能性もありそうな作品。流行りのジャンル、音楽伝記映画です。

WATCHA4.0点
Filmarks4.0点
(以下ネタバレあり)
ブルース・スプリングスティーンを知らないことについては、おそらく『カセットテープ・ダイアリーズ』という映画の感想について記したものにいっぱい残っているだろうし、そこから増えても減ってもいない。『カセットテープ・ダイアリーズ』を見たのにも関わらず、である。どうでも良いけど当時のブログを読み返したら舞台となったイギリス、ルートンタウンが公開当時2部のサッカークラブとして紹介されていた。プレミアリーグにも昇格して日本人選手も所属することになるとはちっとも知らない頃である。民家からスタジアムに入る、なんて話題になったりもした。一応調べてみたらリーグ1の8位。3部まで降格してるやないかい!時が経つのは早いものである。上がって下がって下がっている。
で、本作。70.80年代あたりのミュージシャンの伝記映画は多く作られ、そしてある程度売れている現状。同じようなアレかと思いきや監督はスコット・クーパーである。完全に西部劇的な作りの人の印象であり、ライブシーンで盛り上がっていぇー!な予想がまるで起きない。これは本当にどうでも良いのだが、前作『ほの蒼き瞳』のクリスチャン・ベールもランドーだったし、今回のジェレミー・ストロングもランドー(表記はランダウ)である。その一致はなんだ。
話を戻すと、そういう予想でいるとまあまんまとそういう雰囲気で行きます!内省です!とめっちゃ言ってくる画面作りである。映画館で見る意味のある暗さMAX、顔がよく見えるように光を当てる気がない!撮影監督はこれまでも組んできたマサノブ・タカヤナギ。
ヒット曲を生み出し、次回作が期待される状況で、しかしスプリングスティーンが製作するのは罪を犯したものたちの音楽。今年リバイバルで映画館で見たテレンス・マリック『バッドランズ』をテレビでたまたま見て、実話だしと調べ始める。そこで罪を犯した人の視点を自分に重ね、幼少期からの家庭、自分と重ねていく様子が白黒で現される。
というわけで、くらーい音楽になってしまう。Born in the U.S.A.のような曲はでき、プロデュースサイドとしてはこういうバンバン行こうぜ!って感じだけども、スプリングスティーンはそうは言ってくれない。むしろそっちを人質に寝室で録ったあの音質の『ネブラスカ』を所望する。所望はするんだが、そこに対してエンジニアたちが頑張って達成したり、それを売り出しにかけるところも劇的にちっともせず、むしろそこから内省は拡大し、クライマックスは専門家による聞き取りの始まり。ちょうど最近TBSラジオ『Session』にて取り上げられたことで知った、ACE(子ども期の逆境体験)について、これほどビシッと表現した映画が直後にくるかね、という感じである。幼少期に受けた仕打ちは、現代であれば当然虐待に近いものがある。家庭内で別の部屋にいるのに喧嘩が聞こえてくる、これも精神的虐待に入るからね、覚えておきましょう。酒場に車つけて息子に迎えに行かせてる母さん、あんたも結構ヤバいぞ。
https://www.tbsradio.jp/articles/101837/#google_vignette
そうした経験があって、彼のクリエイティビティにプラスになった部分が『ネブラスカ』なのだし、マイナスになった部分がフェイとの色々である。スプリングスティーンはそれを抱えて今も生きる道を探し続けている。父ともある種の和解ができた。まあ本質的にあの手の父親の反省は、単に自分のマッチョ性が堅持できなくなって強く出れなくなったりしたことを「丸くなった」という表現で誤魔化しているだけだと思ってはいるが(父親役のスティーブン・グレアムは『アドレセンス』と合わせてのベストクソ親父of2025ですね)。あとは、そうした困難を抱えてまでも、どうして音楽をするのか、スプリングスティーンにとっての音楽の衝動ってなんなんだろう、とは思ってしまう。伝記映画の常道としての原初の喜びやデビューまでの苦難を全く描かずに進んだこととトレードオフだろう。
まあとにかく、そういう生きづらさを抱えた上で共に生きてます、そういうメッセージ自体はいいけど心の中の千鳥が「ちょっと待てえー」ボタンを押すのも事実だ。スプリングスティーンくん、きみめっちゃ再生産してるやんけ。母親が離婚して父親との連絡がほとんどない状態のヘイリーちゃんにとって、一瞬現れて母親と愛し合っていたスーパースターの存在は普通に新たなトラウマを増やしただけである。子ども期の逆境体験重ねがけである。そういうこともあるだろう、とは思うけど、既に特権的なミュージシャンが軽い気持ちでファンに手を出した結果責任取れない話として考えると、ヘイリーちゃんには本当に可哀想である。膝の上!?僕32歳だよ?とか言ってたがお前は30にもなって大学生のバンドマンみたいな女遊びをするなよ。と。
あとまあ、この手の作品でアーティスト、クリエイター側に無理を強いることで商業性と芸術性についての喧嘩が起こるのはよくあることだが、少なくとも本作においてはプロデューサーサイドとマネージャーがめっちゃスプリングスティーンを信頼して、お前のやりたいようにやれ、なんとかする、という姿勢が全力で好きだったことは書き留めたい。TBSラジオ案件ばかりで恐縮だが、『異業種Pたちの人生エンタメ会議室』を聞いているおかげか、なぜかちょっとだけ高い解像度で製作サイドの視点で見れてこの人たち報われて良かったなぁって思えた。