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嘘みたいな偶然「悪なき殺人」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は2019年の東京国際映画祭で観客賞と主演女優賞をとっている作品になります。2年、公開までかかってしまうんですね。でも、観客賞をとった近年の作品を見ると、ここ5年はこれ以外は日本語作品なので、その時点でこの作品のパワーを感じます。ちなみにその時のタイトルは「動物だけが知っている」。この「動物」の意味がね、またね…

WATCHA4.5点

Filmarks4.4点

(以下ネタバレ有)

1.まさかまさか過ぎるわそんなん

 えーとですね、もう構成が大変お上手。よくできている!!

 羅生門スタイルって喧伝されてますけど、まあ連作短編に近い感じですね。エヴリーヌ・デュカという女性の失踪事件を、共済組合の外回りをしているアリス、その顧客の農夫のジョゼフ、パリでウェイトレスをしているマリオン、アリスの夫のミシェルとコードじぼわーるの街アビジャンに住む青年アルマン、という4章構成で5人の視点からこの事件を時系列もシャッフルしまくって見せる、っていうやり方。羅生門よりパルプ・フィクションとかの方が近い。あとあれだ、ファーゴ。(監督とのオンライン取材では同じタランティーノでもジャッキー・ブラウンが挙げられてましたが、見てないんで知らん!)

 で、本当に上手いな、と思うのが冒頭と1章で。冒頭は明らかにアフリカと思しき町で、現地の青年がなんかしらの動物背負ってチャリ漕いでるんですよね。それで、サヌー師とかいうやつのとこに行く(サヌーって浦和にいたよね)。こっちゃそんなもの見せられると思ってなくてビックリする。これは後々効いてくるんですが、一旦置いておいて、1章に入る。そうするとアリスが出てきたり、事件の説明なんかもしだす訳ですが、ここで既にミシェルとジョゼフは見せておいて、各章で見方が変わるとこんなことになっちゃうよ、というイベントもしっかり提示してある。安心安全のタイムループもの的でもありますが、非常にここがしっかりしている。若干のスロースタート感はありますが、ここでの仕込みが非常に優秀なのが後になればなるほど分かる。それでいて、全体を通底する重要な会話が実は一番この話に関係なさそうな共済組合加入者のおばちゃんとアリスの間でなされている。

「夫のこと愛してる?」「愛してるなら問題ないわ」「失踪した女の人は愛し合っていなかった」

 そのまま字面通りに受け取ると、結構ウザい近所のおばちゃんスタイルなしょーもない発言なんですが、事実、この映画は愛、それも実らない愛の話な訳ですよ。これをここで忍ばせてあるのは、本当に上手い。

2.みんな悪人でみんな実らない

 ちゃんと振り返っていくと、各々の人物の実らない愛はアリス→不倫相手のジョゼフ、ジョゼフ→死体のエヴリーン、マリオン→エヴリーン、ミシェル→アルマンの運営する架空のアカウント、アマンディーヌ及びマリオンの容姿、アルマン→モニーク、そしておそらくはエヴリーン→夫もそう。

 それでいてコイツらみーんなどこかしら悪い訳ですね。アリスは不倫程度(それを程度と呼ぶのかは個人の倫理観による)ですけど、ジョゼフは死体遺棄からの隠ぺい・あと犬の射殺(この犬で時系列がすぐわかるのが親切)、マリオンは思いっきりストーカー、ミシェルはメッセージアプリにハマって送金・最後には殺人、マリオンは詐欺。ラストでびっくりいするモニークをフランスに連れてきたエヴリーンの夫だって褒められたもんじゃない。ミシェルは結果的にエヴリーンを殺しましたが、すっごい悲しい奇跡の連鎖が彼の下に転がってきてしまって彼女を殺してしまっただけで、どこか可哀想にも見える。その結果、全員が裁かれるほどの大悪人ってわけじゃないのに、人が一人死んでしまった(正確にはジョゼフも死んでますけど)。どうしてこうなっちゃった系にも近いし、やっぱり非常に近いのは貫井徳郎の『乱反射』ですかね。乱反射のほうが、よりそういう社会への警鐘感が強いですが。

 んで、まあ彼らとキャストも魅力的で。

 ジョゼフはやっぱり死体を藁の中に横たえておきつつ、藁を上手いことテトリスして、横穴式石室を作って一緒に寝る、という絶叫ものの気持ち悪さを醸し出していて、この演出だけでフレッシュ!見る価値ある映画だった!と思わせてくれました。

 3章の主人公で、一気に空気感が変わるマリオンを演じたナディア・テレスツィエンキーヴィッツ(すごい名前だ)さんは絶品の表情。目がくりくりしてて大変可愛らしいのに、エヴリーンへの眼差しや愛が重ーい感じが実によくて、あ、コイツなら行き違いの末にエヴリーン殺してそうだわ、という雰囲気をさせまくっている。実際そう思った後に起こる口論での表情も素晴らしいし、決別後に拠点となっているトレーラーで寝そべりながら、ただガンガン足元の棚を蹴っているんですけど、これがまた絶品。

 そしてですよ!ここの章のラストでいっちばん怖いミシェルでクリフハンガー的に終わる訳ですが、彼を演じたドゥニ・メノーシェが本当に最高。ドゥニ・メノーシェさんは、以前『ジュリアン』で恐怖以外の何物でもない最凶最悪のDV夫を演じていてその年の悪役オブザイヤーにもノミネートした記憶があるんですが、もう本当に彼が最高。私にとってのドゥニはもはやヴィルヌーヴでは無くてメノーシェかもしれない。もうね、ネットでメッセージをやり取りする時の基本中の基本、個人情報を開示しない、金は送らない、相手の性別を信じない、みたいな地雷を徹頭徹尾踏んでいく訳です。しかも恋する乙女みたいな顔して。白人中年男性が20代女性にこれをしていると思うと、本当に吐き気がするレベルですが、騙されている、と分かってみているとどうにもそう見えないのも事実。加害と被害の線引きが曖昧に見えるんでしょうか(そう考えると、やっぱミシェルは悪人だな)。アマンディーヌの存在を信じてマリオンをヒッチハイクで拾いかけるとこなんかでのやっば!と思う顔からの、到着したらアリバイ的にアリスにキスする感じとか、うん、こっちはこっちで気持ち悪い!!いやはや本当に素晴らしいです。

 なお、ミシェルはコートジボワールまで行って落とし前をつけようとするのに、俺の純情を返せ、的なスタンスで結局何もできず、新たにアニメアイコンの相手とメッセージのやり取りをしているので本当にダメな人でした。救いがない、ととるべきか、新たな加害の可能性を考えるべきなのか。

 という訳で、キャラの魅力に溢れていて、なおかつ脚本・構成も素晴らしいな!と思える傑作でした。好き!




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