他人の発言をあまり疑わずに受け入れてしまう人がいます。
そういう人が多いともいえます。例えば「朽木さんが君のことを悪く言っていたよ」などと言う話を聞くと、実際はそうではなくてもまずそれを信じてしまう。
そして朽木さんが自分の悪口を言っているいる前提で、朽木さんに対して大変ひどい扱いをしてしまう。敵対してしまう。そんな人たちって少なくないと思います。
最初に吹き込まれたからといって、どうして他人の発言をあまり疑わずに受け入れてしまうのか。最初にだれかから、例えば「朽木さんは君の悪口を言っていた」など吹き込まれるとと、それを信じてしまう、最初のその情報を信じてしまうのは、何か心理的な理由があるのかどうか、気になっていました。

これにはいくつかの人間の心理の傾向が影響しているようです。
●ひとは最初の刷り込みに弱い「アンカリング効果」
「アンカリング効果」です。これは最初に聞いた情報が刷り込まれる傾向がある。特にそれが強いインパクトを持っていれいるほど、他の情報や判断基準の基礎となり、それ以降の判断に影響を与えるという心理現象です。朽木さんについて「自分の悪口を言っている!」などという、いわば「強い情報」を聞くと、それがアンカー(錨)となってしまい、他の情報が入ってきてもそのアンカーに引き寄せられる形で評価が偏ってしまいます。
●一度刷り込まれたらそれを裏付ける情報だけに目がいく「確証バイアス」
「確証バイアス」、これは、自分が初めに聞いて刷り込まれた情報や信じた情報の裏付け情報だけに目が入って、刷り込み情報を、強化しようとする傾向を指します。一度「朽木さんが自分の悪口を言っている」と聞くと、その情報を無意識に前提として受け入れ、それを裏付ける証拠や情報に注意を払いやすくなります。逆に、それを否定する情報には気づきにくくなるため、最初の印象がどんどん強固になるらしいですね。
●オートマチックで思考停止(考えたくないんだよ)「認知の省エネ」
こうした心理が働く背景には、人が情報を効率的に処理するために行う「認知の省エネ」も影響しているらしいです。脳はあまり「働きたくないなあ、楽をしたいなあ」という傾向があり、最初の情報に基づいて判断し続けることは「楽ちん」だからそうしてしまう。オートマチックに、あれは悪人、と決めつける。いわば思考停止する。これは「認知の省エネ」と言われるものです。他の要素を確認することにはエネルギーを使いますからそれを省こうとする。そんな努力?エネルギーを使用する思考を怠れば、自然と認知や判断が一方向に偏ってしまうことでしょう。

さらにいくつかの理由も考えられます。
●ヒューリスティックス(経験則)
これもある種の「省エネ」ですが、複雑な状況で素早く判断するために、脳は「経験則」を使います。悪口や噂話といった感情的な情報はインパクトが強く、特に親しい人や信頼できる人が発することで信憑性が増し、短時間で「あの人が自分の悪口を言っているのはどうやら本当らしい」と判断されやすくなります。このプロセスが「ヒューリスティックス」と呼ばれるもので、脳がエネルギーを節約するために行う自動的な判断手法です。
●「情報源の信頼性への依存」
「朽木さんが自分の悪口を言っている」という第三者の発言、特に、その第三者が普段から信頼されている場合や、話の内容が刺激的で感情に訴えるものであれば、無条件で信じやすくなります。この「情報源への信頼性」を重視する傾向は、人が社会的に生きる上で「信用できる情報を優先的に得たい」という心理から生まれています。
●「認知的不協和の回避」
噂や悪口を耳にして、自分の中で相手に対する評価が揺らぐと、「相手の評価を見直す」よりも「噂を信じる」ほうが楽になることがあります。「朽木さんは自分の悪口を言うような悪い人だ」という考えと、「朽木さんは実はいい人なんだ」という考え、この二つの相反する考えがぶつかり合う、つまり不協和を起こすのですが、人間は、そんな考え方のぶつかり合い、認知の不協和、それを避ける心理傾向があります。自分の中での認知のバランスを保つため、知らないうちに「誰か言っていることを信じる」という簡単な道を選ぶのです。これも「省エネ」かもしれませんね。
さらに『これは秘密にしておいてくれ...!』と信頼を操作するための巧妙な誘導を行うことも!
ある部長が、部下に対して「朽木課長が君の悪口を言っていた」と吹き込み、あたかも部下を思いやるかのように「君がいつも頑張っているから気の毒でね」と同情を示します。そして、最も重要な部分として、部長は念入りに「ただ、朽木課長にはこのことは絶対に話さないでくれないか」と釘を刺します。理由はなんとでもでっちあげることはできます。「一応チームだからな」「あまりいい話じゃないからね」とかなんとでも。こんな「秘密にしておいてくれ」と釘を刺すことで、部下は「秘密の情報を打ち明けてくれたんだ」となおさら部長を信頼し、さらに、部下が朽木課長に直接確認することを防ぎつつ、課長に対する疑念を心の中で増幅させていくように仕向けているのです。
この「言わないでくれ」という釘刺しは、部下の心に強い抑制をかけます。部下は真面目であるがゆえに、部長からの「内密に」という言葉を忠実に守り、課長に直接確認することがありません。次第に、朽木課長への不信感を抱くようになり、批判的な態度を取るようになります。しかし、朽木課長が「最近何かあったのか?少し様子が違うけれど」と尋ねても、部長に口止めされた手前、部下は真実を話せず黙り込んでしまいます。内心では葛藤を抱えつつも、部長からの釘刺しによって本音を明かせない状況に追い込まれていくのです。
この例は、部長が部下の信頼を巧みに操り、表向きは「配慮」を装いつつも、実際には「内密に」という釘刺しを使って部下が課長と直接向き合うことを阻止する、非常に計算された心理操作の一例です。
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以上のように、こうした心理的メカニズムが絡み合い、他人の発言をあまり疑わずに受け入れてしまう傾向が人間には一般的にあるのだと考えてもいいでしょう。
ぼくなんか、こうした悪口の罠になんどもはまりました。御用心御用心。
©️朽木鴻次郎 プロダクション黄朽葉
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