日本のボールペンはサラサラ書ける。この技術に追いつこうと、太鋼集団ではペン先材料の開発を行い、日本水準に追いついた。しかし、ビジネスベースに乗せるという大きな課題が立ち塞がっていると太鋼集団が報じた。
シェアは小さくても高級市場は独占の日本文房具
中国は年間380億本のボールペンを生産し、世界の需要の8割を提供している。中国市場でも国内産ボールペンが売れており、日本勢は三菱鉛筆が頑張っているが、2024年の文房具市場でのシェアは3.8%でしかない。その他、ゼブラ、パイロットは1%以下でしかない。しかし、50元(約1100円)以上の高級文房具に限ると、日本製が60%を占め、それにドイツ製が続き、国内製は10%程度でしかなくなる。
つまり、日本は、中国市場でも高級文房具の市場で存在感を示している。
簡単には真似ができない滑らかな書き味
日本の筆記具が高級であるのは、さまざまな理由があるが、その中心にあるのが「滑らかな書き味」だ。それは、日本国内でもメーカーのジェルインクボールペンと、100円均一ショップで販売されている中国製ボールペンを比べてみると、すぐにわかる。やはり中国製は書き味がザラザラ、ゴツゴツして、インク切れやボタることもまだ起こる。

秘密はペン先の材料にある
この秘密はペン先にある。ボールペンの先端にはボールがあり、それを支持するボール受けがある。このボール受けはボールを支持するだけでなく、非常に微細な溝が5本ほど刻まれている。この溝がインクをボールに供給している。
日本のペン先は、下村特殊精工がステレンレス鋼を生産している。ステンレス鋼に鉛、硫黄、テルルなどの微量元素を添加することにより、微細加工ができ、なおかつ必要な強度が得られる鋼材を提供している。中国企業は、長い間、この下村のレシピがわからず、微細加工ができないペン先材料しか提供できなかった。これが、日本と中国のボールペンの品質の差になっている。

国家プロジェクトとしてペン先を開発したものの…
中国は早くからこの問題を認識し、2011年にペン先材料の開発が国家プロジェクトとして承認された。太原鋼鉄集団の太鋼技術センターの王輝綿氏が中心となり、高品質のペン先材料への挑戦が始まった。
当初は微量元素をどのように配合するか、順列組み合わせでの試行錯誤が続いたが、2016年に日本製と同等水準のペン先材料を開発したと発表した。
このペン先材料はすぐに国有企業の太鋼集団で生産が始まったが、問題が発生した。太鋼集団の最も小さな炉で生産をしても、1回に60トンが生産できる。ところが、世界で必要とされているペン先材料は年間1000トン程度なのだ。つまり、17回炉を動かすだけで、世界の需要量を上回ってしまうのだ。
技術としては日本に追いついたものの、需要量が少なすぎて、とてもビジネスベースに乗らない。一方、日本は技術だけでなく、少量の高品質の材料を生産してビジネスベースに乗せられる構造ができあがっている。これが、日本と中国の技術開発環境の違いだ。

一郷一品の中国、一社一品の日本
中国では「一郷一品」の仕組みが基本になっている。同じ製品を生産する中小企業が集まって町や都市を形成している。使い捨てライターの町、ボールペンの町、家具の町、スニーカーの町、花火の町などがたくさんある。
このような町は、ただ中小企業が集まっているだけでなく、仕入れや間接部門を共有し、一括仕入れで原材料を安く調達し、大量に生産し、国内だけでなく海外にも輸出することで収益を得ている。つまり、中小企業の集合体だが、ひとつの大企業として機能しているのだ。
そして、鋼鉄などの基本原材料は巨大な国有企業が大量に生産する。中国は、標準品を大量に安くつくれる構造になっている。
一方、日本は「一社一品」の構造になっている。特定の用途に特化をした高品質のものを少量生産できる構造になっている。単価が高くなるため、少量生産でもじゅうぶんビジネスになる。
技術の差よりもビジネス構造の差
日本の製造業と中国の製造業は相性がいい。互いに足りないところを補いあえるからだ。そして、日本の高い技術に中国はまだ追いつけていないところがたくさんある。しかし、それは技術の難易度が高いから追いつけないのではない。ペン先材料のように技術的には追いつくことは可能だが、中国の産業構造が少量の高品質製品を生産してビジネスベースに乗せられる体制になっていないため、技術は開発できても、それを生産し、安定供給することが難しい。そういう関係になっている。
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