中国でスターバックスを売上、店舗数で抜いたラッキンコーヒーが、スタバの本拠地ニューヨークに出店した。しかし、苦戦をしている。モバイルオーダーのためのアプリ環境が大きなハードルになっていると新浪財経が報じた。
スタバを抜いたラッキンがニューヨーク出店
中国市場で、スターバックスを店舗数、売上ともに抜き、中国No.1のカフェチェーンとなった「瑞幸珈琲」(ルイシン、Luckin Coffee)が、今年2025年7月に米国ニューヨークに出店した。すでに5店舗に拡大し、スターバックスの本場で競い合うことになった。
しかし、スターバックスの壁は高く、中国市場のように簡単に打ち負かすというわけにはいかず、ラッキンは苦しんでいるようだ。

サードプレイスvsモバイルオーダー
ラッキンは中国市場でスターバックスとは真逆とも言える戦略で2017年6月に創業され、わずか2年弱でナスダック上場を果たした。
スターバックスはサードプレイス戦略に従い、居心地のいい空間をつくり、そこを自宅、学校・職場に次ぐ第3の空間として利用してもらおうというもの。中国でも、それまでの日本の喫茶店を見習った上島コーヒーなどのチェーンを打ち負かして、カフェの文化を大きく変えた。それ以降、国内系のカフェチェーンも登場してきたが、いずれもスターバックスの模倣にすぎなかった。
一方、ラッキンはまったく逆の発想だった。店舗の客席空間は最小限にし、スタンド形式の店舗を中心にする。また、現金決済を原則廃止し、モバイルオーダー、モバイル決済を基本にした。今でこそモバイルオーダーは珍しくないが、当時は非常に先進的な仕組みだった。むしろ、ラッキンによりモバイルオーダーが普及し始めたと言える。
低コストとデジタルマーケティング
このモバイルオーダーは2つの強みをラッキンにもたらした。
ひとつは、レジ業務のコストを抑え、その費用をコーヒー豆に注ぎ込み、良質のコーヒーを提供した。コーヒーの味は人の好みによるが、スターバックスよりも美味しいという人も多く、しかも価格はスターバックスの半分以下だった。
もうひとつは、注文をオンライン化したことにより、デジタルマーケティングのパワーを活かすことができるようになった。特にうまくいったのが「1杯注文するともう1杯無料」クーポンで、一人で2杯ものコーヒーは飲めないので、友人に勧める。その友人はラッキンの味を知り、ラッキンのファンになっていく。
この通称「核分裂」と呼ばれる手法は凄まじく、最も成長速度が速かった2018年Q1から2019年Q1の1年間で、顧客数は48.5万人から1690万人に増加した。1日あたり4.5万人の新規顧客を獲得していた計算になる。
ラッキンは同じ手法をニューヨークに持ち込もうとした。

損益分岐点の半分程度という現状
投資会社アライアンス・バーンスタインが2025年7月に発表したレポートによると、店舗の賃貸料が月1.5万ドル、運営経費が6.64万ドルであり、この他光熱費などを加えて、月の経費は9.2万ドルに達するという。
一方、現在の1日あたりの注文は500杯から600杯であり、売上は8.5万ドルとなり、クーポン割引の原資をマーケティング費用として考えると、1日あたり1000杯から1200杯は売らないと黒字ラインに達しないという。
価格はスターバックスとほぼ同じになっている。メインのラテはスターバックスが5.95ドルだが、ラッキンは5.75ドルになっており、大きくは変わらない。しかし、ラッキンには「初めての注文0.99ドル」クーポンが全員に配布されており、どんな味か試してみようと考える人は多いはずだ。このクーポンを配布している状況で、収支ラインに達しない程度の顧客しか獲得できていないというのはかなり深刻な状況だ。


ネイティブアプリという環境が致命的
ラッキンの大きな障壁になっているのがモバイルオーダーだ。モバイルオーダーをするには、まずアプリをダウンロードして、ユーザー登録をし、クレジットカードなどを登録しなければならない。これが高いハードルになっている。
ラッキンをよく知らずに、新しいブランドだからと思ってふらりと入ってくる顧客もいる。しかし、注文をしようとすると、「まずはアプリをダウンロードしてください」と言われてしまうのだ。多くの人が面倒に感じたり、むやみに個人情報を登録することに拒否反応があり、買わずに近くのスターバックスにいってしまう。
中国ではミニプログラムという優れた仕組みがあった。SNS「微信」(ウェイシン、WeChat)の中から起動できる小さなアプリで、ラッキンのミニプログラムを起動すると、ユーザー登録不要(WeChatアカウントが使われる)、決済登録不要(WeChatペイが自動適用)で、すぐに使える。初めてラッキンを利用する人でも、ミニプログラムコーナーで検索したり、2次元コードをスキャンしたり、リンクをタップすることですぐに使えて注文ができる。
一方、米国にも同様の仕組みであるApp Clips(iPhone)、Instant App(Android)があるが、特殊な用途に限られ、中国のようには普及をしていない。
このようなことはラッキンは進出をする前からわかっていたことだ。この問題を解決する方法を何か考えていることだろう。それがどのくらいうまくニューヨークの消費者の心をつかむことができるか。それで、ラッキンのニューヨーク進出の成否が決まる。
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