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今回は、純電気シンギュラリティについてご紹介します。
欧州と中国で、新エネルギー車(NEV=New Energy Vehicle)について、重要な2つの発言がありました。
ひとつは、メルセデス・ベンツのオラ・ケルレニウスCEOが、ドイツの経済誌「Handelsblatt」のインタビューに応えたものです(https://www.handelsblatt.com/unternehmen/industrie/ola-kaellenius-mercedes-benz-steht-seit-jeher-fuer-das-besondere/100146297.html)。
インタビューの内容は、メルセデス・ベンツのブランドの特別性について語ったものですが、この中で、EUの2035年の燃料車規制について触れた部分が大きな話題になっています。
EUの2035年規制は、ゼロエミッション車=CO2排出量ゼロの車以外販売を禁止するという厳しいもので、ガソリン車、ディーゼル車はもちろん、HEV(Hybrid Electric Vehicle)も、さらにはPHEV(Plug in Hybride Electric Vehicle)も販売禁止になります。BEV(Battery Electric Vehicle)や燃料電池車、またCO2を排出しない合成燃料エンジン車しか販売できなくなります。
ケルレニウスCEOは「このままでは大きな壁に衝突することになり、環境を悪化させるばかりか、自動車産業の経済を崩壊に導く」と厳しく批判をしました。
もうひとつは、中国の新興NEVメーカー「蔚来」(ウェイライ、NIO)の共同創業者である秦力洪総裁が、成都市のモーターショーで使った言葉「純電拐点」(純電気シンギュラリティ)です。NEVは、中国ではBEV+PHEVと定義されています。日本のハイブリッドであるHEVは、CO2排出量が多いためにNEVには分類されず、各省により時期は異なりますが、最も早い海南省では2030年から燃料車、HEVなどの高排出車が販売禁止になります。多くの省、都市では2035年から2040年にかけて、NEV以外の自動車の販売が禁止されていきます。
そのため、この規制を見据えた選択をするのであれば、BEVかPHEVかということになりますが、いよいよPHEVではなくBEVを選ぶ人が増え、この動きが始まると一気にすべての人がBEVを選ぶようになるという特異点のことを純電気シンギュラリティと呼んでいます。
NIO社内では、この純電気シンギュラリティがいつくるのかということが議論されるようになっているということを公の席で披露をしました。秦力洪総裁によると、純電気シンギュラリティはすでに始まっているということですが、自社のポジショントークの面もあると思われるため、後ほどデータで検証をします。
今回は、この2つの重要発言についてご紹介し、中国EV市場に起きている重要な変化をご紹介します。
その前に、ケルレニウスCEOの発言をきっかけに、SNSでは再び「EVはオワコン」という話が増えるようになりました。ケルレニウスCEOの発言が「EVに転換するのは無理。ガソリン車に戻せ」と言っているのだと曲解して、EVを否定しているという話になっているのですが、ケルレニウスCEOは規制をやめろなどということは一言も言っていません。いきなり販売禁止にするのではなく、段階的に進めていかないと、2035年のショックが大きすぎることになると警告しているのです。
今のままいきなり2035年を迎えたとしたら、駆け込みでガソリン車とディーゼル車を買う人が大量に現れ、その人たちは10年ぐらいはその車に乗るわけですから、CO2規制が想定どおりに進まなくなってしまいます。
ですので、PHEVという中間段階の自動車販売を強化して、2035年までにCO2排出量の規制を段階を追って厳しくしていき、2035年にはCO2排出量ゼロの自動車しか販売できなくなるというスムースな流れにする必要があると提言しています。
つまり、2035年規制をやめろとか、制限を緩めろとは言ってなく(ただし、EUの中には地域事情が異なる国があるため、実施年も地域で変えるなど柔軟な運用が必要だということは述べています)、いきなり厳しい規制を突きつけるのではなく、それまでに段階的に規制を厳しくしていくべきだと主張しているのです。
このケルレニウスCEOの話を、「欧州ではEVがまったく売れていない。ガソリン車では日本車に勝てないものだから、EVシフトというのを出してきたら、今度は中国にボロ負け。だから今度はハイブリッドだと言い出している」と揶揄するストーリーに仕上げている例もあります。
しかし、国際エネルギー機関(IEA)の「Global EV Data Expore」(https://www.iea.org/data-and-statistics/data-tools/global-ev-data-explorer)を見てみれば、このストーリーはだいぶ間違っていることがわかります。
欧州のNEV販売量は確かに停滞気味です。

これは、欧州最大の市場であるドイツでの減少が大きく効いています。

ドイツでは、多くの人がパワーのある車に乗りたがります。日本ではプチ高級車扱いをされているフォルクスワーゲンゴルフが大衆車の世界です。それは、市内は自動車の侵入規制が強く、多くは都市間移動に使うからです。アウトバーンを走ることが多いので、ある程度のパワーのある車を志向します。
後ほどデータをご紹介しますが、中国でもこの高級車領域はNEVが弱い部分になっています。長距離をしっかりと走れること、そしてブランドの高級感が求められるため、まだまだ歴史の浅いNEVではかなわない部分があるのです。
例えば、VWのBEVの旧モデルID.3の最高時速は140km/hで、現行モデルのID.4でも160km/hです。日本の制限速度は最も高い場所でも120km/hなのでじゅうぶんと言えますが、走りを重視する人には、この余裕のなさは不安を感じるのではないでしょうか。ハイエンドモデル領域では、EVはまだまだ消費者のニーズを満たしているとは言えません。
このような状況で、EVの売れ行きが厳しくなっていたところに、EV補助金の原資としてコロナ対策予算をあてていたため、これが裁判により憲法違反だと判断されました。補助金制度はすぐに中止されたため、これでEVが売れなくなってしまいました。
また、フランスでも、中国EVから国内産業を保護するために、EV補助金を縮小したため、EV販売が停滞をしています。
しかし、英国を始めとするその他の国では順調に成長をし、欧州全体としては昨年並みを維持しているというのが現状です。

欧州の2023年のBEV販売台数は220万台、2024年も220万台で、現状維持です。一方、PHEVは2023年が100万台で2024年が98万台と微減をしています。ケルレニウスCEOの提言のように、本来はいったん中間段階であるPHEVに移行をして、それから2035年に本格的にBEVに移行するというのが望ましいのですが、現状はそうなっていません。
これでいきなり2035年がやってくると、駆け込みで燃料車がバカ売れをし、それに10年は乗るということになり、CO2排出量はほとんど減らないということになってしまいます。
このケルレニウスCEOの提言が注目されるのは、もうひとつ、メルセデスの大きな戦略転換があるかもしれないからです。メルセデスはわずか数年前まで、PHEVは開発しないと宣言していました。燃料車をつくっているところに、PHEVもBEVも開発するというのは投資の無駄になるため、2035年に販売禁止になるPHEVは開発せず、燃料車の製造を継続しながらBEVを開発するという戦略を打ち出しました。しかし、ケルレニウスCEOの発言を聞くと、メルセデスもPHEVを出してくる可能性があるかもしれません。この点でも、ケルレニウスCEOの発言が注目されているのです。
一方、私たちの日本では、補助金はどんどん増えているのに、なぜかNEVが売れない不思議な国になっています。

特にBEVが激減をしています。それはそうです。充電スポットがまったく足りず、今、BEVを買ってしまうと、ほぼ確実に電欠での立ち往生を経験することになります。そうならないように、気を使いながら車に乗るというのは誰でも嫌なのはあたりまえです。
この不安があるために、ケルレニウスCEOの主張のように、日本ではPHEVに人気が出ればいいのですが、自動車メーカーが積極的に開発してくれない、車両価格が高い、補助金が少ないということから、今ひとつ勢いがありません。
一方、HEVは大人気で、すでに新車販売の50%以上がHEVになるなど、日本はHEV大国になっています。2035年に燃料車は販売禁止になりますが、HEVは禁止になりません。政府は「電動車」という不思議なカテゴリーを考案しました。HEVはバッテリーで動くため電動車だというのです。
しかし、以前のHEVはバッテリー駆動だけで走ることはできませんでした。この電動車というカテゴリーが生まれて以降、HEVにもEVモードが搭載されるようになりましたが、バッテリー駆動で走れるのは数百メートルから2km程度です。
今、HEVがかなり売れていて、2035年になってもHEVは販売ができます。つまり、仕組みを大きくは変えないということです。その上、火力発電は温存、風力発電は行き詰まり、頼みの太陽光発電もメガソーラーによる環境破壊に対する批判が強くなり、今後は反対運動が厳しくなり、設置は進まなくなるでしょう。さらには原子力発電所の再稼働も、市民の反対や運営側の不透明さにより進みません。
八方塞がりの深刻な状況ですが、これでなぜか、日本政府は、CO2排出削減で世界の主導的な役割を担うと公言しています。
電動車という不思議なカテゴリーがあるからだと思いますが、日本ではHEVとPHEVは同類のハイブリッドにまとめてしまい、混同をしています。多くのメディアの記事でもきちんと区別をせず、曖昧な書き方をしていることが多くなっています。HEVは充電できないハイブリッド、PHEVは充電できるハイブリッドという書き方が目立ちます。
しかし、IEAと中国はBEVとPHEVを次世代のNEVと定義していて、HEVは燃料車に含めています。米国では州によって規制が異なりますが、カリフォルニア州などでは、HEVは販売禁止になります。世界では、PHEVとHEVはまったく異なる乗り物だとして明確な線引きをしているのです。
簡単に言えば、PHEVはBEVベースのハイブリッド、HEVは燃料車ベースのハイブリッドです。ここは、後ほどの説明にも必要になるので、簡単に整理しておきます。
HEVは、基本燃料車ですが、燃料車は走り出しと加速時にガソリンを無駄遣いし、燃費が悪くなります。そこで、この走り出しと加速時に、バッテリーで駆動するモーターの力で補助をするという考え方です。バッテリーには、回生ブレーキで充電をします。燃料車として考えると、燃費を大きく改善する賢い仕組みです。しかし、通常走行のほとんどはガソリンエンジンで駆動します。
PHEVは、基本EVでバッテリーで駆動をします。バッテリー残量が少なくなると、ガソリンエンジンが発電機を回し、バッテリーを充電します。エンジンは発電機を回すために使うので、最も効率のいい回転数を保つことができ、燃費がものすごくよくなるわけです。
ただし、やっかいなのは、エンジンを駆動にも使うことがあることです。これは主に乗り味の演出のために使います。特に高速での加速時、高速での定速走行時には、モーターだけでなく、エンジンの力も使ってパワフルな走行を楽しめます。
ただ、基本はEVであるということが重要です。一般に80kmから120km程度走行できる大容量バッテリーを搭載し、市内走行であればエンジンを使うことはなく、BEVと何も変わらなくなります。家に帰ったら、安価な普通充電器で充電します。普通充電は時間がかかりますが、寝ている間に充電をすれば問題になりません。万が一、充電が足りずに出発した場合でも、ガソリンエンジンが動いて走りながら充電ができます。
この、市内走行であればエンジンを使わず、BEVと同じ、つまりCO2排出ゼロというのが大きなポイントです。自動車の利用の90%以上は100km以下の短距離走行ですから、BEVと同じようにCO2排出を抑えることができます。一方、遠出をする時は、充電スポットが見つからなくても、ガソリンを入れておけば、どこまででも走ることができ、航続距離の不安はありません。
もうひとつ、REEV(レンジエクステンダー、Range Extender Electric Vehicle)というのもあります。これはバッテリー走行しかできず、バッテリーはガソリンエンジンで発電機を回して充電します。充電スポットでの充電も可能です。PHEVに比べて、ガソリンエンジンは駆動にはまったく使わないため、仕組みが単純であり、車両価格が安くなるというメリットがあります。日本では、日産のe-Powerがこのタイプです。もちろん、IEAの定義ではNEVではありませんし、中国、欧州、米国などではいずれ販売禁止になる車種です。日本では販売が継続できます。
中国では、NEVの販売は完全に軌道に乗り、2025年に入っても好調です。

しかし、純電気シンギュラリティという言葉が示すように、状況は変わりつつあります。これまでNEVの世界はBYDによる1強その他という状況でしたが、2位以下が伸びてきて、BYDが余裕で1位ということでもなくなりつつあります。
そういう伸びてきているNEVメーカーもあれば、戦略ミスにより脱落をしていくメーカーもあります。
いずれにせよ、BYD1強の状態が次第に崩れてきて、混戦状態になると見られています。焦点は、純電気シンギュラリティがどの段階でやってくると読むか、そこまでの間、BEV、PHEV、REEVのどこに資源を集中すべきかが重要になっています。
今回は、純電気シンギュラリティがどのようなもので、これをめぐって各社がどのような戦略を取り始めているのかをご紹介します。
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