昨年9月頃から、電力消費が伸びないのにGDP統計の基礎となる付加価値だけが伸びるという謎の現象が起きている。分散型太陽光発電の普及などが影響していると界面新聞が報じた。
消費電力と付加価値の乖離という謎
中国の工業生産に必要な電力量とその生産が生み出した付加価値の関係で不思議なことが起きている。一般的には、たくさん電気を使えばたくさんの生産ができ、たくさんの付加価値を生み出すことができる。そのため、工業での電力消費量は、しばしば、工業の好調さを見るための指標として使われる。
ところが、昨年9月頃から、発電量と生み出した付加価値が乖離をし始めているのだ。電力はさほど使っていないのに、多くの付加価値を生み出している。あるいは、同じ付加価値を生み出すのに、少ない電力で足りているということになる。もはや、電力消費量を工業生産の指標に使うことができなくなっている。

自給太陽光発電は統計に含まれない
徳邦証券のマクロ経済チームの張浩リーダーが界面新聞の取材に応えた。このような不思議が起きている理由は主に2つあるという。ひとつは統計技術上の問題で、もうひとつは好調な工業生産の構造の変化だ。
中国では、分散型太陽光発電がかなり浸透をしている。生産工場の屋上には太陽光パネルが敷き詰められ、発電をし、生産などに使う。しかし、このような自家発電的な電力は、統計上は発電量に含まれていない。このため、多くの生産拠点で電力会社から供給される電力量が減少をしている。
このような体制をとっているのは大企業が中心で、生産量も大きい。しかも、好況感は大企業ほど強くなっているため、統計にも影響することになっている。

電力を使わない業種が好況になっている
もうひとつは、好況になっているのが、電力をあまり消費しない業界が中心になっていることがある。電力を大量に消費する建設関係や化学工業分野は伸びが鈍化をして苦しんでいる。一方、電力をさほど消費しないコンピューター、情報通信分野が好況になっている。このため、工業全体としては、少ない電力で多くの付加価値を生み出すことになっている。
電力消費の大きな業種は生産調整に
また、財通証券のチーフアナリストである陳興氏によると、中国の工業生産全体が生産能力が過剰になっていることを指摘している。建設関係や化学工業分野も、生産能力が過剰となっており、需要が非常に弱くなっているため、生産調整を行うようになっている。大きな電力を使う分野の生産が生産調整に入ることで、消費電力量が大きく落ちている可能性があるという。

根強いGDP統計の水増し説
この問題が中国で注目されているのは、しばしば海外で議論される「中国のGDP統計は水増し」という話に関連をするからだ。海外のメディアは、電力消費量、衛星写真による夜間照明の明るさなどを指標として「中国のGDP伸び率と乖離している」と主張することが多い。つまり、中国のGDP統計は信じられないと主張する人が多い。
しかし、電力消費量にはこのような事情がある上、省エネも進むため、電力消費量と付加価値の間にきれいな相関関係を求めることは難しい。また、夜間照明の明るさは主に個人消費と相関するが、中国のGDPに占める個人消費の割合は39.6%と低い。OECDの平均で約54%、米国の68.1%と比べると極端に低い。中国のGDPの内訳は政府支出と投資が大きな割合を占める途上国型なのだ。そのため、個人情報を見る代替指標とGDPが相関しないのはあたりまえのことなのだ。
連邦準備銀行の代替GDP
一方、米国サンフランシスコ連邦準備銀行(SF Fed)では、8つの経済指標を因子モデル化し、中国のGDPの代替指標を計算するChina Cyclical Activity Tracker(https://www.frbsf.org/research-and-insights/data-and-indicators/china-cyclical-activity-tracker/)を公開している。
この代替GDPと中国政府発表のGDPの比較では、ほぼきれいにリンクをしている。しかも、2020年以降、GDPと代替GDPの差が急速に縮まっており、中国の統計の精度があがってきていることがうかがわれるという。
中国の2025年上半期のGPD速報値は、前年から5.3%の成長となった。早速、各国のメディアでは「おかしい」「中国の統計は信用できない」という反応があがっているが、SF FedのTrackerに言及する報道はほとんどない。

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