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今回は、中国のゲーム規制とその効果についてご紹介します。
中国で、18歳未満の未成年に対し、オンラインゲームは平日は禁止、金土日の週末は午後8時から午後9時までの1時間しかできないという厳しい規制がかけられていることはご存知だと思います。
この規制は、オンラインゲームのみで、ネットアクセスを必要としないゲームアプリや家庭用ゲーム機で遊ぶゲームは対象外です。
それでも、あまりに厳しすぎる規制であるため、海外からはさまざまな批判が巻き起こりました。このあたりの事情については、「vol.90:今どきの子どもたちのネット事情。ゲーム規制、教育改革をしたたかかに生きる子どもたち」(https://tamakino.hatenablog.com/entry/2021/09/19/080000)でご紹介しました。
この規制をどう受け止めるかは人それぞれです。しかし、大きな効果があがったことは確かです。「2024中国ゲーム産業未成年保護報告」(伽馬データ)によると、週に3時間以上ゲームで遊ぶ未成年の割合は、規制がかかる前の2021年には62.1%であったものが、2024年には24.9%にまで減っています。ゲームに課金する月額も「しない」が62.42%、30元(約640円)以下が20.13%、合計で82.55%の未成年が月に30元以下、つまりは自分のお小遣いの範囲で楽しむようになっています。
成果は間違いなくあがりました。しかし、この規制はオンラインゲームについてであり、ゲーム機、いわゆる箱ゲーは対象外です。しかし、ゲーム機は子どもが自分のお小遣いで買うのは厳しく、親に買ってもらうことになります。これであれば、買う時に親と子どもの間で、ゲーム機の使い方について話し合い、約束をすることができます。親が管理することが難しいオンラインゲームについて規制をかけることは、3年経った今、やってよかったと評価されるようになっています。
日本では、香川県が2020年に制定した「平日60分、休日90分」の上限目安を定める「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」が大きな議論になりました。上限目安は定められましたが、罰則はありません。
この条例に関しては、「ゲームを悪者にするな」「家庭内のことに行政を口を挟むのは問題だ」という批判が相次いでいます。
また、韓国では2011年11月から「シャットダウン制度」を実施していました。これもさまざまな批判があり、2021年8月に廃止をされています。しかし、その後、「ゲーム時間選択制」が導入されています。
シャットダウン制度は、ネットではシンデレラ法とも呼ばれるように、16歳未満の未成年が、深夜0時から午前6時までの間、オンラインゲームにアクセスすることを禁止するもので、運営各社は午前0時になると16歳未満のアカウントを強制シャットダウンします。
しかし、日本と同じように「ゲーム悪者論」「家庭や未成年の自己決定権の侵害」などの理由から反対論は多く、また、スマホゲームは規制対象外であったために規制の効果がなくなってしまったことから廃止をされ、現在は未成年本人、保護者が自主的にゲーム禁止時間を定め、ゲームごとに設定ができる「ゲーム時間選択制」に移行をしています。どの程度制限するか、どの時間帯を制限するかは家庭に任されます。まったく制限をかけないことも可能となりました。
このようなゲーム規制は、ネットでは大きく反発されます。ゲームが好きな人にとって見れば、自分が大好きなゲームが悪者扱いされるのは、なんとも悲しい気持ちになるからです。しかし、このような規制をかける側も、悪書追放のような、悪質なコンテンツだから排除すべきだと考えている人はごく少数にすぎません。なぜなら、規制をかける大人側も、もはや子ども時代には自分もゲームでさんざん遊んだ世代になっているからです。
問題となっているのは、世界保健機関(WHO)が、国際疾病分類に収録したgaming disorderです。このgaming disorderは当初「ゲーム依存症」と和訳されましたが、日本語訳として不適切だという指摘があり、現在では「ゲーム行動症」と呼ぶことになっています。いずれにしろ、疾患として認識をされているのです。
このゲーム行動症と診断をするには、次の4つの条件を満たさなければなりません。
1)ゲームに対する制御が自分でできない。自分でゲームを中断することができない状態であること。
2)生活の中でのゲームの優先度が過度に高くなっている。仕事や勉強よりもゲームを優先させてしまう状態であること。
3)このような行動により、学業、仕事、家庭生活などで明確な問題が生じていること。
4)このような問題がありながら、ゲームをやり続けたり、ゲームをする時間が増加傾向にあること。
一般には、この状態が12ヶ月以上続くとゲーム行動症として診断されますが、問題が深刻な場合はそれよりも短期間であっても診断は可能だとしています。
なお、このような依存による問題を自己診断できるテストを、久里浜医療センターが公開をしています(https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/screening/)。ゲームだけでなく、アルコールやSNS、ギャンブルの依存度を診断するテストも用意されているので、興味のある方は試してみてください。
日本では、2019年に国レベルでのゲーム行動症に対する調査が行われています。無作為抽出をした10歳から29歳の9000名を調査したものです。その結果は「Development and validation of a nine-item short screening test for ICD-11 gaming disorder (GAMES test) and estimation of the prevalence in the general young population」(Susumu Higuchi他、https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34232907/)にまとめられています。
その結果、驚くことに、ゲーム行動症の可能性がある人の割合は、5.1%(男7.6%、女2.5%)という高いものだったのです。ゲームユーザーの中での割合ではありません。すべての10歳から29歳の若者の5.1%がゲーム行動症の疑いがあるのです。10歳から29歳までの人口は、だいたい2300万人ほどですから、ゲーム行動症の疑いがある人は115万人ほどいることになります。
中国でも、西南大学が文献調査からゲーム行動症の率の推定を行っています(https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1876201824003502)。この研究は、過去の5939件の調査論文から、利用できる条件を備えている43件を選び出し、集計をしたものです。その結果、12歳から18歳までの未成年の10%にゲーム行動症が疑われるという結論を得ました。
個人的な実感でも、中国ではゲームにのめり込む未成年が多く、そののめり込み方が半端ではない印象を持っています。そこからは、人間離れした技を身につける達人やeスポーツの強豪プロプレイヤーが登場してきますが、その代償としてゲーム行動症も大量に生んでいることが容易に想像できます。
ゲーム規制は、ゲームを悪者にしているのではなく、このような疾患から子どもたちを守るためのものです。私たち大人は、子どもたちを守る責務があります。
中国では、ゲームに限らず、小説、テレビドラマ、アニメ、映画のすべては公開前に国家新聞出版署の検閲を受けなければなりません。ここで不合格となれば公開はできないことになります。
検閲の中心となっているのは、性表現と暴力表現ですが、さらに中国の場合は歴史観思想観も検閲の対象となります。例えば、中国の過去を含めた指導者たちを茶化したり、こき下ろすような内容は不合格になります。クマのプーさんに見立てた批判表現もNGです。「これは某指導者のことではなく、動物のクマのことです」などという子どもじみた言い訳は通用しません。
ゲーム行動症の問題も、以前から国家新聞出版署は問題にし、騰訊(タンシュン、テンセント)、網易(ワンイー、NetEase)などと協議を続けていました。ゲーム企業もゲーム行動症を防止する取り組みには異論はなく、2017年から自主規制として未成年のゲーム時間の規制を行ってきました。
1)平日は1.5時間まで
2)休日は3時間まで
3)身分証による実名登録、年齢確認が必要
というものでした。
ところが、2021年8月3日に、国営メディア「新華社」傘下の経済参考報が、唐突に「精神アヘンが数千億元の市場に成長」という記事を掲載しました。精神アヘンとはゲームのことで、テンセントの人気ゲーム「王者栄耀」の名前を挙げ、名指しで電子薬物として批判をしました。
国営系メディアがこのような厳しい批判記事を掲載するということは、多くの人が政府からのメッセージだと考えます。テンセントはその日のうちに、新しい規制策「双減双打」を発表します。平日は1時間、休日は2時間に制限時間を厳しくするというものです。さらに、12歳以下はゲーム内課金ができないようにしました。
テンセントがこの施策を発表すると、問題の「精神アヘンが数千億元の市場に成長」の記事は突然削除されました。そして、「ネットゲームが数千億元の市場に成長」という穏便なタイトルに変更され、本文からも「精神アヘン」「電子薬物」といった際どい表現が削除されました。これは、政府がテンセントの策を了承したことを意味するものだと誰もが考えました。
ところがそうではなかったのです。国家新聞出版署はより厳しい規制策を発表しました。平日は完全に禁止、金土日の週末は午後8時から午後9時までの1時間のみというものです。
この結果、先ほど触れたように、3年後の今、3/4の未成年が週のゲーム時間が3時間以内になるなど大きな成果があがっています。当初は、規制のかかるオンラインゲームの時間は大きく減っても、規制の対象ではない家庭用ゲーム機の利用時間が大幅に増えるのではないかと言う人もいましたが、そのような家庭用ゲーム機の利用時間も含めて、多くの未成年が週に3時間以内になっているのです。利用時間の面では大きな効果があったことになり、ゲーム行動症も大きく減少していると思われます。
しかし、効果があったことは間違いありませんが、ほんとうにこれは正しい規制だったのでしょうか。ゲームをしなくなっても、無気力に寝ているだけになってしまったら意味がありません。
そこで、今回は、時間だけでなく、未成年の生活がどうなったかを報告書から読み解き、ゲーム規制の功罪を考えます。また、日本と中国の未成年のゲーム時間の比較もしてみたいと思います。
日本でも、5.1%の未成年にゲーム行動症の疑いがあるわけですから、放置をしていいわけはありません。だからと言って、中国のような厳しい時間規制をすればいいのかというと、それは直感的に違うと誰もが思いますし、民主的な日本にはこのような強引な規制は合いません。今回の記事を読んで、子供たちが健全にゲームを楽しむ環境をつくるにはどうしたらいいかを考えるヒントにしていだければ幸いです。
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