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今回は、低空経済についてご紹介します。
2024年、中国では低空経済元年という言葉がよく使われました。低空経済とは、高度3000mまで、特に1000m以下の空中を、さまざまな作業、物流、旅客輸送に利用することを指します。大阪万博で展示される「空飛ぶクルマ」は低空経済の主役中の主役です。
この低空経済を支えるのは、ドローンとeVTOL(electric Vertical Takeoff and Landing、電動垂直離着陸機)の2つです。フードデリバリー企業「美団」(メイトワン)はすでに大都市でのドローン配送を始めていて、毎日のように飲食品を運んでいます。これについては、「vol.160:美団のドローン配送が本格化。なぜ、大都市でドローン配送が可能なのか、そのテクノロジー」(https://tamakino.hatenablog.com/entry/2023/01/22/080000)でご紹介しました。
低空経済は、どの国でも大きな成長産業とみなされ、開発と整備が進められていますが、問題は安全性です。ドローンやeVTOLは機械である以上、故障が避けられず、墜落するという最悪の事態が起こり得ます。そのため、高度な安全対策が必要になります。
美団のドローン配送は、ファストフードの飲食品など比較的軽いものを運ぶため、旅客輸送ほどの安全対策は必要ありませんが、それでも安全技術の開発は簡単ではありませんでした。深圳や上海といった大都市で空中輸送をするわけですから、墜落が起きると、地上の車や人に大きな影響が生じるからです。
低空経済の難しさを理解していただくため、美団がどのような安全技術開発を行ったのか、簡単に復習をしておきます。
ドローン配送で問題になるのは次の5つの点です。
1)GPSなどの測位衛星信号が乱れる
大都市では窓ガラスに覆われた高層ビルが乱立をしています。この窓ガラスはGPS(中国の場合は北斗)の測位衛星信号を乱反射するため、ドローンは現在地を正確に把握できなくなります。高層ビルの並んだ道路で、カーナビや地図アプリの現在地がふらつくのと同じ現象が起こります。
2)墜落は絶対に避けなければならない
ドローンも機械である以上、故障から逃れることはできません。しかし、それでも墜落をさせるわけにはいきません。建物などに落下をして損傷を与える程度であればまだしも、人に墜落することは絶対に避けなくてはなりません。また、道路などに墜落した場合、自動車を運転している人が驚いて急ブレーキを踏むなどして、二次被害を生むことも考えられます。
3)離着陸地から人を排除する必要がある
未来想像図などでは、マンションのベランダにドローンが宅配便を運んでくれるシーンがよく登場しますが、これは非常に危険な行為です。子どもや動物などがドローンに手を触れようとするかもしれません。プロペラで取り返しのつかないケガをすることになります。プロペラ部分を何らかのカバーで覆ったとしても、ドローンに手を触れると、想定しない力がかかったことにより、姿勢を安定させようとして、ドローンが想定外の挙動をする可能性があります。この場合、指が挟まれたりして大きなケガにつながる可能性があります。そのため、離陸時、着陸時はドローン周辺から人を排除する必要があります。
4)騒音を抑える
ドローンを飛ばしたことがある人はわかると思いますが、ドローンは非常に大きな騒音を出します。それも、蚊の羽音に似た、人にとって不快な音になります。ドローン配送が常態化をすると、航路付近のマンションの住人から苦情が出てくることは必至です。この騒音を抑える技術も必要になります。
5)航空管制の自動化
大量のドローンが航路を往復することになるため、人の操縦で衝突や接触を防ぐことはもはや不可能です。自動で航路を指示する航空管制システムが必要になります。
美団は2017年11月から、都市部でのドローン配送を目標に研究開発を進めてきました。そして、試験営業に漕ぎ着けるまで5年かかっています。その間に、どのような技術開発を行ったのでしょうか。簡単に復習しておきます。
1)視覚情報から測位する技術
現在地が正確に把握できない問題は、搭載したカメラの視覚情報から現在地を推定するSLAM(Simultaneous Localization and Mapping、位置推定と環境地図作成)技術を使うのが定石です。これは月面探査車などに使われている技術で、身近なところではお掃除ロボットなどに使われています。移動をしながら、環境を把握して地図をつくり、自分の位置を推定していくというものです。
ところが、このSLAMは移動をしながらちょっとずつ地図をつくっていくというもので、高速で移動するドローンでは高速に位置推定ができるようにする工夫が必要になります。また、飛行をしていますから、3次元での位置推定が必要になります。
美団は、このためにEDPLVOというアルゴリズムを開発しました。これについては、「EDPLVO:Efficient Direct Point-Line Visual Odometry」(https://www.cs.cmu.edu/~kaess/pub/Zhou22icra.pdf)という論文にまとめられています。これは視覚情報から輪郭線を高速で抽出をし、ワイヤーフレーム情報から現在位置を推定する技術です。非常に高速で動作をするため、ドローン搭載のチップで位置推定ができるようになりました。
2)不時着戦略を計算しながら飛行
ドローンの墜落確率をゼロにすることは不可能なので、問題が生じた場合でも地上に影響を与えないように、常に不時着戦略を計算しながら飛行をしています。
カメラで地上を常に撮影をし、2つの条件に合った場所を抽出します。ひとつは一定以上の広さを持った平面です。広場や建物の屋上などです。もうひとつの条件は、動くものが観察されない場所です。広場や屋上に車や人がいる場合は除外をされます。つまり、人や車がいない広いスペースを抽出し、そこを不時着適地として選び、常に不時着をするにはどのような飛行ルートを通ればいいかを計算しながら飛行をしています。
美団のドローンには3つのバッテリーが搭載されています。メインバッテリーは飛行に使うためのものですが、この電源が失われた場合またはローターなどに不具合が生じた場合は、サブバッテリーに切り替わります。サブバッテリーに切り替わると、あらかじめ計算しておいた不時着戦略を実行して不時着を行います。荷物は運べなくなりますが、墜落することは免れます。
万が一サブバッテリーにも問題があった場合は、非常用バッテリーに切り替わります。非常用バッテリーは非常に小さく、パラシュートを開くために使われます。この場合は墜落となりますが、降下速度が遅くなるため、地上の人や車に大きな影響を与えずに済みます。現在のところ、不時着は何件か発生をしていますが、パラシュートによる墜落は起きていません。
3)専用のステーションを開発
離着時に人を遠ざけなければならない問題は、離陸地(ショッピングモールなど)はスタッフがついて監督をしているため問題は起こりません。着陸時は、専用の着陸ステーションを開発しました。高さ3mほどのロッカー内蔵のステーションで、荷物を運んできたドローンはこの天井部分に着陸をするため、人が触れることはできません。荷物は天井から自動でロッカー内に吸い込まれ、受け取る人はスマートフォンでロッカーを開錠して荷物を受け取ります。

4)騒音を抑えるへクスコプター
この研究開発は、市販のドローンのテストから始まりました。市販ドローンが利用できるのであればそれに越したことはないからです。しかし、テストの結果、すべての市販ドローンでは条件に合わず、結局、自分たちでドローンを開発することから始めざるを得ませんでした。
最も大きな問題が、市販のドローンの多くはクアッドコプター(ローター4つ)だったことです。ローターが4つの場合、万が一、ひとつのローターが失われると、残りは3つとなり、姿勢を安定させることが非常に難しくなります。もうひとつ失われると2つになり、もはや姿勢を制御することは不可能になり、墜落をするしかなくなります。
そこで、美団はへクスコプター(ローター6つ)のドローンを開発しました。これであれば万が一2つのローターが失われても、4つ残るため、姿勢を安定させながら不時着ができるからです。
また、ローターが増えたことにより、1つあたりのローターの負担が減り、騒音も大きく減りました。騒音を軽減する形状のローターブレードを開発し、騒音が大きくなる回転数をできるだけ使わないようにする工夫もしました。
5)4次元セルで管理する航空管制
美団では、航路を管理する4次元セル方式の航空管制システムを開発し、自動化を行いました。航路にあたる3次元空間と時間の経過による4次元でセルを設定し、ドローンが飛行する場合には、利用したいセルを予約して飛行することになります。すでに他のドローンにより予約されているセルを避けて飛行をするため、衝突が起こらなくなります。
美団は、この研究開発に5年の時間を要しました。荷物を運ぶだけでも、これだけの開発が必要になります。旅客輸送に使う場合は、この比ではないほどの安全技術の開発が必要になります。そのような開発が一定程度進み、2024年には試験飛行が盛んに行われました。このため、2024年は低空経済元年と呼ばれます。2025年は、航空局による認証、認可が行われることになり、今年2025年に試験飛行だけでなく、試験営業に漕ぎ着ける企業が登場してくると見られています。
そこで、今回は、eVTOLの開発や運用がどこまで進んでいるのか、そして、どのようなサービス提供が想定されているのかについてご紹介をします。
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