きょうはいつもとちがうところから。いま、
を勉強会で読んでいる学生さんから質問を受けて、ちょっとおもしろかったので、書いてみます。質問 (のひとつ) は、Exercise 3.21についてのものでした。問題は
二重否定は正の様相演算子と見なすことができる。では、それは、正の様相のうち必然性タイプの様相か、それとも可能性タイプの様相か。
というものです (以下の話に合わせて少しだけ表現は変えています)。背景から説明しましょう。
以前のエントリ
で使った定義に依拠します。まず、正の様相とは、帰結関係にかんして単調な1項演算子のことでした:
定義 (必然性・可能性)
次の条件を満たす1項結合子
を 正の様相 (positive modality)と呼ぶ。
(
)
ならば
が正の様相であり、さらに次を満たすとき、
を必然性と呼ぶ。
(
)
が正の様相であり、さらに次を満たすなら、
を可能性と呼ぶ。
(
)
次に、否定というのは、帰結関係を反転させる演算子のことでした:
定義 (否定)
次の性質を満たす1項結合子
を否定と呼ぶ。
(
)
ならば
すると、 を2回否定で反転させれば、
となるので、
は上の定義にのっとれば正の様相であるということになります。上の問題は、これを踏まえて、では二重否定は (
の仲がよい) 必然性なのか、それとも (
と仲のよい) 可能性なのか、を聞いています。すなわち、
は成り立つのか、あるいは、
は成り立つのか、両方とも成り立つのか、それともどちらも成り立たないのか、ということですね。上の定義 () を満たすというだけでは、これらは成り立ちそうにありません。他方、二重否定の導入や除去、あるいはド・モルガンの法則が自由に使える古典論理ならどちらも成り立ちますが、古典論理では
ですから、現実性
と可能性
と必然性
がぜんぶ一つに潰れてしまいますね (同じようなことを上のエントリでも見ました)。ということで、もう少し細かく分析したいところです。
そのために、否定を2種類考えます。すなわち、
()
()
を満たす です。これらが上の否定の定義を満たすことはすぐにわかると思います。すると次のことがわかります。
命題
もちろん、上記のうち「〇〇ではない」の部分は「上の定義以外の他の性質を仮定しないかぎり」という条件つきです。
が必然性演算子であることを見ましょう。まず、正の様相の条件
を満たすことは明らかです。次に、() を満たすことは以下のように示すことができます。
(
の定義)
(1,
)
(2,
)
(以上と同様に)
(3, 4,
の定義)
(5,
)
(6,
)
が可能性演算子であることも、これのちょうど鏡像のような形で示すことができます。
次に、「〇〇ではない」の項目については、モデル論を使うのが楽でしょう。これらの否定は、可能世界意味論における2項の到達可能性関係を使ってモデルすることができます。すなわち、
すべての
なる
について
ある
なる
について
です。 は「すべての到達可能世界で
が偽」なので不可能性、
は「偽になることもありうる」なので非必然性 (unnecessity) と呼ばれます。
モデルの構造についてはもう少し細かい条件をつけないといけないのですが、ともあれ基本的には、上の真理条件を使って、 が可能性演算子ではないとかを示す反例モデルを構成することができます。また、上の真理条件を見ると、
が必然性であること、
が可能性であることもすぐに納得がいくのではないかと思います。
以上で、上の命題は証明できたとして、この2種類の否定についてもう少し説明しておきます。先に少し触れたように、これらは鏡像のようなもので、以下のような帰結関係が成り立ったり成り立たなかったりします:
や
が必然性や可能性ではあるけれども、その両方ではないというのは、これらの性質がうまく組み合わさっているから、と言えるでしょう*1。古典論理の否定 (関連性論理の否定もですね) は、ここの
と
の両方の性質を併せもってしまっているので、二重否定
は必然性でも可能性でもあるのだけれど、強すぎて潰れてしまう、ということですね。
ちなみに、直観主義論理の二重否定は、必然性だけれども可能性ではありません*2。直観主義の否定は、上の2種類の否定の性質を併せもっているわけではない (どちらかというと 系列の否定で、
とは相容れない感じです) のですが、構造規則のおかげでいろいろとやれちゃうので、必然性になってしまうんですね。
また、直観主義論理では
が成り立つので「 が真ならばそれは必然的に真である」だということになります。これは少しおかしいように感じるのですが、モデルにおける遺伝性やS4への埋め込みを考えると「まあそうか」とも思えますね。
この「直観主義論理の二重否定=必然性」については、Kosta Došenによる仕事があります。
K. Došen, Intuitionistic double negation as a necessity operator.
彼は、上でみた到達可能性で定義される「様相演算子としての否定」*3を始め、このあたりの領域で非常に重要な仕事をしています。
というわけで、わりと「だからなんなの」的な話でしたが、掘れば何かがでてくるんじゃないかなあとも思います。