
本作『架空の犬と嘘をつく猫』を見たいと思った理由は、
大まかに言うと、二つ。
➀オール佐賀県ロケの映画である。
➁伊藤万理華、深川麻衣、向里祐香など、私の好きな女優が出演している。

森ガキ侑大監督が映画化したヒューマンドラマで、
主人公・羽猫山吹(はねこ・やまぶき)を高杉真宙が演じるほか、
山吹の幼なじみで恋人となる佐藤頼に伊藤万理華、
山吹の初恋の相手・遠山かな子に深川麻衣、
母・雪乃に安藤裕子、
姉・紅(べに)に向里祐香、
父・淳吾に安田顕、
祖母・澄江に余貴美子、
祖父・正吾に柄本明、
その他、ヒコロヒー、はなわ、鈴木砂羽、松岡依郁美などが脇を固める。

羽猫家の長男・山吹(高杉真宙)は、
弟の事故死をきっかけに心を閉ざし、
空想の世界で生きるようになった母・雪乃(安藤裕子)のため、
まるで弟が生きているかのような嘘の手紙を書き続けていた。
父・淳吾(安田顕)は変わってしまった妻を受け入れられず、
愛人(松岡依郁美)のもとへ逃げ、
祖父・正吾(柄本明)は裏山に遊園地を作ろうという現実離れした夢を語り、
祖母・澄江(余貴美子)は骨董屋で「嘘」を扱いながら暮らしている。
唯一まともに見える姉の紅(向里祐香)は、
「嘘と嘘つきが嫌い」と言ってすべてに反抗している。
それぞれが不都合な真実から目をそらしている羽猫家の人々だったが、
ときに「家族をやめたい」と思いながらも、
互いに寄り添って生きている一家の、
(山吹が小学校3年生の時の)1988年から、
(祖母が亡くなる)2008年までを描いていく……
映画の冒頭、スクリーンいっぱいに麦秋の風景が広がる。
まるで、映画『ひまわり』のヒマワリ畑のように。

この麦秋の風景はラストにも登場するので、
監督は『ひまわり』を多少は意識していたのかもしれない。
佐賀平野の麦畑は、佐賀を象徴するものの一つであるが、
周囲のなだらかな里山、
広い広い空、
曲がりくねった細い水路(クリーク)、
点在する水門などが、
佐賀が舞台の物語であることを教えてくれる。


1988年。小学3年生の山吹は、
佐賀平野の田んぼに囲まれた一軒家で暮らしている。
3人きょうだいのうち、山吹の弟である青磁を事故で亡くして以来、
心ここにあらずの母と、

母親代わりに山吹の世話を焼く姉の紅。

居場所を求めるように愛人の元へ通う父と、

事業に失敗してばかりの夢見がちな祖父。

そして家族の中で唯一、子どもたちを気に留めてくれる祖母の6人家族。

まだ幼い山吹が身を守るために頭の中に描く嘘。
彼が母に対してつき続ける嘘。
母・雪乃、父・淳吾が、現実が受け入れられず、
空想や、愛人に逃げているという自分自身へつき続けている嘘、
祖父・は裏山に遊園地を作ろうという現実離れした夢(嘘)を語り、
祖母・澄江は骨董屋で「嘘」を扱いながら暮らしている。
様々な嘘が羽猫家を覆っており、
姉の紅は「嘘と嘘つきが嫌い」と言って、家を出て行く。
県内の大学へ進学し、印刷会社に就職後、
バイト先で再会した佐藤頼と結婚する。
山吹の人生は、平凡で、ありふれたものであるが、
祖母や、頼や、姉などからもらったかけがえのない言葉が、
彼を優しく包み、彼に小さな決心をさせ、彼を成長させていく。

この作品では(原作もそうであろうが)、一人ひとりの台詞に重みがあり、
特に、山吹が頼に「一緒になってほしい」とプロポーズした時に、
頼が山吹に返事した時の言葉にも感動させられた。
そして、祖母の葬儀のあと、マイクロバスに乗り込んでからの、
山吹が頼に発する言葉にも感動させられた。

これは後から気づいたことであるが、
感動させられるシーンには、必ず頼(伊藤万理華)が居たような……

最初は地味な存在だと思った頼であったが、次第に存在感を増し、
最後には影の主役であったと思わされた。

伊藤万理華とは、
『サマーフィルムにのって』(2021年)
で出逢い、その演技と存在感に衝撃を受け、
『もっと超越した所へ。』(2022年)
『まなみ100%』(2023年)
『悪い夏』(2025年)
などの作品でさらに評価を高めた。
『架空の犬と嘘をつく猫』は主演作ではないけれど、
(私にとっては)伊藤万理華の代表作になったといえる。
それほど本作での演技は素晴らしかった。

山吹を演じた高杉真宙の演技も良かった。
特に、姉の紅を訪ねていって、紅の前で自分の胸の内を吐露し、
慟哭するシーンは心を持って行かれるほど感動した。

山吹の初恋の相手・遠山かな子を演じた深川麻衣も確かな存在感を示した。
山吹が自分のことを好きだという気持ちを知っていて、
都合のいい時だけ山吹を利用しようとするのだが、
妖艶さが加わった深川麻衣の演技にも魅了された。
(極私的に)今泉力哉監督作品『愛がなんだ』(2019年)で出逢い、
まだ若手女優と認識していたが、
1991年3月29日生まれなので、早34歳。(2026年1月現在)
中堅と言われる世代になっても、
映画でもTVドラマでも大活躍しているのが嬉しい。

姉・紅を演じた向井佑香。
極私的には、映画『愛なのに』(2022年)で出逢い、絶賛し、
『福田村事件』(2023年)
『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』(2024年)
などを通して注目してきた女優であるが、
本作でも心に鬱屈を抱えた姉・紅を好演していた。
最近はTVドラマでもよく見かけるようになり、嬉しい限りだ。

その他、
山吹と頼のバイト先の店長を演じたはなわ、

風景写真家で、同居中の紅と緒方写真館を営む緒方樹を演じたヒコロヒーが、
芸人の顔を隠し、クールに演じていたのが印象深かった。

オール佐賀県ロケの映画なので、
映画を見ている間、知っている場所も多く出てきて、
〈伊藤万理華があの場所に座っていたんだな~〉
〈向里祐香があの場所に佇んでいたんだな~〉
と思うことしきり。

山吹と頼の感情が紡がれたバス停は、

「芦溝地区農村公園」という場所にロケのために設置され、
撮影後は撤去されていたのだが、
映画公開日の2026年1月9日から12日まで、
4日間期間限定でロケ地に再設置された。


このように、いつか、
『架空の犬と嘘をつく猫』のロケ地巡礼ができれば……と思っている。

「都道府県魅力度ランキング」で、
2024年最下位、2025年45位の佐賀県なので、(笑)
わざわざ佐賀県に来る人はいないと思うが、(来なくていいからね)
映画『架空の犬と嘘をつく猫』で佐賀県旅行をするのはどうだろう。
観光名所などは一切出てこないが、
佐賀県でいっとき暮らしているような気分にさせられるし、
人生の中のたった2時間で「架空の旅と嘘をつく旅」ができるのだ。
そんなひとときも悪くない。