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一人読書会『アンナ・カレーニナ』(トルストイ)⑫ ……第4部、17章~23章……

 

一人読書会『アンナ・カレーニナ』の12回目は、

第2巻の、

第4部の17章~23章を読んでみたいと思う。

 

17章

 

レーニンがホテルの部屋に帰って来ると、妻のアンナから電報が届いていた。「シニカケテイマス。ドウカカエッテキテクダサイ。ユルシテイタダケレバ、ラクニシネマス」電報を読んだカレーニンは、ごまかしであり小細工に過ぎないと思ったが、「もしこれが本当だったとしたら」と思い直し、ペテルブルグに戻って妻に会おうと決心した。カレーニンが呼び鈴を押さないうちに玄関番がドアを開けた。「奥さまはどうしている?」「昨日無事ご出産なさいました」「体の具合は?」「お加減は、大変お悪うございます」カレーニンが妻の部屋に入ると、医者と助産婦とヴロンスキーがいた。ヴロンスキーは立ち上がってこう言った。「あの人は死にかけています。医者たちの話では、希望はないそうです。ぼくの立場はまったくあなたのお気持ち次第ですが、どうか、ここにいることをお許しいただけませんか……しかし、ぼくは仰せのとおりにいたします、ぼくは……」夫の姿に気づいたアンナは言った。「わたしに驚かないでね。わたしは今でも、昔のままよ……ただ、わたしの中にもう一人の女がいるの。わたしその女が怖い。その女があの人を愛して、それでわたしはあなたを憎もうとしたんだけれど、やっぱり前の自分が忘れられなかったの。その女はわたしじゃないわ。今のわたしが本当のわたし、完全なわたしよ。わたしはもうじき死ぬの。死ぬことはわかっているわ。わたしに必要なのはただ一つ、お願い、わたしを許して、何もかも許して!」カレーニンの心は千々に乱れ、いよいよ収拾がつかなくなったので、彼はすでにそれと戦うことをあきらめてしまった。主治医も他の医者たちも、これは産褥熱で、99パーセント助からないと言っていた。みんな今か今かと死を待っていた。カレーニンはヴロンスキーに会い、こう言った。「わたしは妻を許しました。わたしは妻とともにいるべきだし、そうするつもりです。もし妻があなたに会いたがったら、わたしはあなたにお伝えします。しかし今は、離れていていただいたほうがいいでしょう」ヴロンスキーはカレーニンの感情は理解できなかった。しかしそれがカレーニンの世界観に内在する何か崇高な、自分には理解すらできないものの現れであることは、感じ取っていた。

 

18章

 

レーニンとの会話の後、カレーニン家の表階段に出てふと足を止めたヴロンスキーには、自分がどこにいるのか、これからどこへ行かねばならぬのか、歩いて行ったものか何かに乗ったものかということが、なかなか思い出せなかった。彼が今の自分を言葉で言えぬほど不幸だと感じている理由は、最近冷めかかってきたと思っていたアンナへの情熱が、彼女を永遠に失ったとわかった今、かつてないほど激しく燃え盛ってきたことであった。病気の間アンナのありのままの姿を目にし、その心を知った彼は、自分はこれまで一度も彼女を愛してこなかったのだと感じた。しかも今、真実のアンナを知り、本物の愛で愛するようになったこのときに、自分は彼女の前で辱めを受け、自分の恥ずべき記憶だけをその心に残したまま、永遠に彼女を失ってしまったのだ。三晩もろくに眠らずに過ごした後で帰宅したヴロンスキーは、服も脱がずにソファにうつぶせに伸びて、組んだ両手に頭を乗せた。深い眠りに落ちたかに見えたが、すぐに突然、強烈な電流を体に放射されたかのように飛び起きた。ふと耳を澄ますと、奇妙な、狂ったようなささやき声が聞こえてきた。「一体なぜ人は狂うんだろう、なぜ自殺するんだろう?」彼は戸口まで行ってドアを閉めた。机に近寄ると、レボルバーを手に取り、シリンダーを回して装填してある薬室に合わせ、考えに沈んだ。拳銃を左の胸に当てた。そして引き金を引いた。発射の音は彼の耳には聞こえなかったが、胸に受けた衝撃の強さに立っていることができなかった。客間を早足で駆けてくる召使の足音がして、彼はふとわれに返った。自分が自殺を図ったことを理解した。「ばかな! しくじったか」そう言うと彼は手探りで拳銃を探した。1時間後に兄嫁のヴァーリャと3人の医者が駆けつけ、ヴァーリャは医者たちと力を合わせてヴロンスキーをベッドに寝かせ、そのまま部屋に残って看病を続けたのだった。

 

19章

 

レーニンは妻を許し、苦しみ悔いる妻を哀れんだ。彼はヴロンスキーも許し、哀れんだ。絶望に駆られて彼がした行為のうわさが耳に入った後では、なおさらだった。彼は息子のことも以前にまして哀れに思い、これまであまりにもほったらかしにしてきたことで自責の念を覚えるようになっていた。だが新しく生まれた女の子に対しては、単なる哀れみだけでなく優しさも混じった、何か特別の感情を覚えていた。はじめ彼は単なる同情の気持ちから、自分の子でもないこの弱々しい女の赤ん坊の面倒を見はじめたのだった。なにせこの子は母親が病気の間、放っておかれていたので、もしも彼が面倒を見なければ、きっと死んでしまっていたことだろう。しかも彼自身は、自分がどれほどこの子を愛しているか、気づいていなかったのである。しかし時間がたつにつれてますますはっきりしてきたのは、いくら今の状態がカレーニンにとって自然であったとしても、いつまでも今のままでいるのは許されないということであった。社交界の知人たち、とりわけ女性が、自分と妻の事情に特別の関心を持っていて、何か隠しがたい喜びを感じているのに、カレーニンは気づいていたのである。カレーニンが妻の寝室へ向かうと、アンナとベッツィ夫人の会話が聞こえてきた。カレーニンは寝室に入ると、アンナが話があると言う。「ベッツィさんのお話では、ヴロンスキー伯爵がタシケントへ出発する前に、家へお別れの挨拶に来たいとおっしゃっているそうです。それでわたしは、お目にかかることはできないとお返事しました」。するとベッツィ夫人が「わたしは所詮他人ですが、でもアンナさんのことが大好きで、あなたのことも尊敬しておりますから、あえてひとつ忠告させていただきます。どうかあの方と会ってあげてください。ヴロンスキーさんは本当に立派な方ですわ。その方がタシケントへ行ってしまわれるのですから」「奥さまのご厚情とご忠告には感謝したします。しかし、妻が誰かにお目にかかれるか、かかれないかということは、妻が自分で決めることです」彼はいつもの癖で、威厳たっぷりに眉を持ち上げてそう言った。

 

20章

 

レーニンが言った「おまえの判断にも、とても感謝している。わたしはまた、ヴロンスキー伯爵がこの地を去ることにしたのなら、わざわざうちに挨拶に来るなんて、まったくの無駄だと思うよ。ただし……」「それはさっき申し上げたじゃありませんか。どうしてくりかえされるの?」アンナは夫の言葉をさえぎった。「ひとりの男が自分の愛する女に、その人のために身を滅ぼしてもいいと思いつめ、本当に自殺まで試みた女に、別れを言いに来ようというのに。そしてその女は、その男なしでは生きていけないというのに。まったくの無駄だなんて!」彼女は唇をぎゅっと結んで、ぎらぎらと光る目を、ゆっくり擦り合わされている夫の血管の浮き出た手に落とした。アンナのためにはヴロンスキーとの関係を絶つのが一番だとカレーニンは思っていたが、それは無理だと誰もが言うなら、あらためて二人の関係を認めてやってもよいとさえ思っていた。ただ子供たちに恥をかかせたり、彼らを失う破目になったり、自分の立場が変わったりさえしなければよかったのだ。たとえどれほどひどいことになろうと、離婚するよりはましだろう。離婚してしまえば、妻は八方ふさがりの、恥ずべき立場に追い込まれ、自分も愛するものをすべて失ってしまうのだから。しかし彼は自分の無力を感じ、今後の展開を予測していた。きっと自分は皆に反対されて、今の自分にこれほど自然で正しいと思えることをさせてもらえず、本当は間違っているのに連中には必然と見えることをさせられることになるだろうと。

 

21章

 

まだ広間から出きらないうちに、ベッツィ夫人はドアのところでばったりオブロンスキーと出くわした。「ぼくはすっかりまじめな人間になったんですよ。なにせ自分の家庭だけではなく、よそのご家庭のもめごとまで、まとめようとしているところですから」「あら、それは嬉しいですわ! あのご主人、彼女をいびり殺してしまいますわ!」「だからこそ、ぼくもペテルブルグまでやってきたんですよ」「どうか、ご成功をお祈りしますわ!」オブロンスキーが妹の部屋に行ってみると、彼女はまさに涙にかき暮れているところだあった。「女は人を好きになると、相手の欠点まで好きになるっていうけれど」唐突にアンナは言った。「わたしはあの人の美点が憎らしいの。あの人とは暮らしていけない。だって兄さん、あの人の姿を見ただけで生理的な反発を感じて、つい取り乱してしまうのよ。わたしできない、あの人と暮らすことはできないわ。どうすればいいの?」「離婚してしまえばすべて解決するのに」さりげなくいちばん大事な考えを口にすると、オブロンスキーは意味ありげにアンナを見た。アンナは何も答えず頭を振ったが、急にかつての輝くような美しさを取り戻したその顔の表情から、オブロンスキーはアンナが離婚を望まないのは、それがとても手の届かぬ幸福だと思い込んでいるからに過ぎないということを見て取った。「とにかく、ぼくが感じていることを、うまくそのまま言えさえすればいいんだ。ぼくはあの人のところへ行ってくる」

 

22章

 

オブロンスキーはカレーニンの書斎に入っていった。「じつはぼくは、妹のことで、そしてあなた方二人の状況のことで、相談があって来たのです」カレーニンは陰気な薄笑いを浮かべて義兄の顔を見つめていたが、書きかけの手紙を手に取って義兄に渡した。オブロンスキーは手紙を読みだした。「わたしの存在がきみを苦しめているのはわかっている。わたしはきみを責めはしないし、これまでのことは全部忘れて新しい生活を始めようと、心から決心している。だから、きみのほうから教えてほしい。何がきみに本当の幸せを与え、きみの胸に安らぎをもたらすのかを。わたしは、きみの意志ときみの正義感に衷心から従うつもりだ」。「アンナはけっして自分からは言わないでしょう。しかし、彼女が願うとしたら、たった一つのことしかありえません」オブロンスキーは続けた。「それは、夫婦関係を解消し、それにまつわるすべての思い出を消し去ることです」「離婚ですか」「ええ、ぼくの言っているのは離婚のことです」カレーニンが離婚を不可能と見なす最大の理由は、離婚を認めることがすなわちアンナを滅ぼすことを意味するからであった。離婚してしまえば、妻はきっとヴロンスキーと一緒になるだろうが、教会の掟にのっとれば、夫の存命中に妻が再婚することは許されないのだから、二人の関係は非合法の、犯罪的な関係となる。「あの男と一緒になっても、一年か二年すれば相手に捨てられるか、それとも彼女が新しい相手とくっつくことになる」カレーニンは思った。「とすれば、非合法な離婚を認めたこのわたしも、彼女の破滅に対する罪を負うことになるのだ」。「問題はただ一つ̶̶どんな条件であなたが離婚に応じられるかです」とオブロンスキーは言った。「よし、わかりました。恥もこの身に負うし、息子も渡しましょう」とカレーニンは答えた。オブロンスキーは感動して、「カレーニンさん、きっとアンナはあなたの寛大な態度に感謝しますよ」と言った。

 

23章

 

心臓を外れたとはいえ、ヴロンスキーの傷は危険なものだった。実際、何日間か、彼は生死の境をさまよっていたのだ。炎症が引いて体が回復していくにつれて、彼は自分の心痛の一部をなしていたものがすっかり消え去っているのを意識した。例のセルプホフスコイが一計を案じて彼にタシケント勤務を用意してくれたので、ヴロンスキーは二つ返事でその話を受けた。「ひと目だけあの人に会えたら、その後は世を捨てて、ひとりで死んで行くのに」そう思っていた彼は、その考えをベッツィ夫人にもらしたが、アンナのもとを訪れたベッツィ夫人が持ち帰った答えは否定的なものだった。「かえってよかったんだ。いつまでも未練にとらわれていたら、最後の気力までなくしてしまいかねないからな」知らせを受けたヴロンスキーはそう思った。だが翌日、当のベッツィ夫人が朝から彼のもとを訪れ、オブロンスキーから届いた朗報によれば、カレーニンが離婚に同意したから、アンナに会えるようになったと告げた。ヴロンスキーは自分が決めたことをすっかり忘れ、ただちにカレーニン家に出かけ、アンナの部屋へ入り、いきなり彼女を抱きしめて、その顔に、手に、首筋に、キスの嵐を浴びせたのだった。「本当、あなたはわたしを虜にしてしまったわ。もうわたしはあなたのものよ」彼の片手を自分の胸に押し付けながら、アンナはようやく言葉を発した。「こうなるのが当然だったんだ! ぼくたちが生きている間は、これが当然なんだ。今それがわかった」ヴロンスキーは答えた。ヴロンスキーはタシケントへの赴任を断り、自分のふるまいが上層部の不興を買っているのを見ると、直ちに退役してしまった。一月後にはカレーニンは息子と二人きりでわが家に残り、アンナは離婚の申し出を受けず、きっぱりと拒絶したまま、ヴロンスキーとともに国外へ発った。

 

第4部の17章~23章は、

レーニンとアンナとヴロンスキーのパートで、

リョーヴィンとキティはまったく出てこない。

アンナとヴロンスキーの不倫が発覚し、

アンナにもカレーニンにもお互いへの愛情が感じられない展開なので、

現代の読者からすれば「離婚すればいいのに……」と考えがちだが、

当時のロシアの状況では、そう簡単な話ではなかったようだ。

この時代のロシアは、結婚に関する法にも慣行にも、ロシア正教会の理念が深く関与し、結婚は神と教会が二人の人間を一つにすることであると定義され、結婚に関する法には「妻は家長である夫に従い、夫への愛と敬意と無限の服従のうちに暮らし、一家の主婦としてたえず夫に喜びと慈しみを提供することを務めとする」といった条文が含まれていた。

夫に対しては「妻を自らの身体のごとく愛し」「妻の欠点を矯正する」ことが要求された。

結婚が神による結合だとすれば、それを人間の手で解消する離婚は原理的には不可能で、ただ必要と慣行に基づいた便宜的な手段があるだけだった。

離婚が成立しても、不貞を犯したとされた側は、

離婚後も(もとの配偶者の死後も)再婚する権利が認められていなかった。

レーニンがアンナのために離婚を避けたいという気持ちには、

こういった複雑な思いがあったことも否めず、

若い頃に読んだときにはカレーニンが悪者のように思えたが、

70代になって読むと、カレーニンの考えや思いに共感する部分もあった。

第2巻のラスト(第4部のラスト)は、

レーニンは息子と二人きりでわが家に残り、

アンナは離婚の申し出を受けず、きっぱりと拒絶したまま、

ヴロンスキーとともに国外へ発つことになった。

「結婚」および「家庭」というのが、

アンナ・カレーニナ』の中心テーマであるのだが、

リョーヴィンとキティの関係には「楽しみ」しかないのだが、

アンナとヴロンスキーの関係には「心配・不安」しかない。

 

さて、これからどうなるのだろう……

早速、第3巻にとりかかろうと思う。

 




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