
私が安涼奈さんを知ったのは、
YouTubeチャンネル『安涼奈/Alyona』においてだった。
外国人による「日本再発見」みたいな動画は、
かなり以前より数多く有ったのだが、
そんな中でも内容が良くてよく観ていたのが、
『安涼奈/Alyona』だったのだ。
【安涼奈】(アリョーナ)
1994年、ロシア南部出身。
2014年に来日。
大学時代からモデルとしても活動し、
現在は会社員として勤務する傍らYouTuber、モデルとしても活動を続ける。
国内旅行が好きすぎて2017年には47都道府県制覇。
2021年から本格的に登山を始め、日本各地の山へ登っている。
YouTubeチャンネル『安涼奈/Alyona』と『安涼奈の山登り』で、
日本での暮らしや登山の魅力を発信中。

途中から、安涼奈さんのもう一つのYouTubeチャンネル
『安涼奈の山登り』も始まり、
〈安涼奈さんも山登りを始めたんだ~〉
と驚き、観るYouTubeもこちらの方が多くなっていった。
そんな安涼奈さんの本が発売された。

本書は、正式には、
『日本で山登りはじめました。 外国人の私が感じる特別な魅力』
という長いタイトルの本で、
山登りを始めて4年半で600座以上登った安涼奈さんが、
その中から厳選した49の山の旅日記を記したものだ。
山登りのエピソードだけでなく、
温泉、ごはん、お酒に、出会った仲間たちなどのことも書かれていて、
一緒に旅をしているような気分にさせられるが好い。

2014年に留学生として来日し、
2017年までの約3年間で、全国47都道府県を巡る旅をした。
山登りを始めたキッカケは、
2020年の8月に、友人と二人で上高地を観光で訪れたとき、
「なぜ、私は山に登ってないの?」
と思ったというのだ。
「私の人生を一変させた」絶景とまで言い切っている。

あの日、上高地を訪れてなければ、私はどうなっていたのだろう。そして、なぜ山への愛がこんなにも強いのか。頭のなかで疑問が湧くが、ひとつだけ強く信じていることがある。山との出会いは必然だった。そう、私は思う。
気づけば、その日からわずか2年半ほどで、私は百名山踏破を成し遂げてしまった。きっかけを与えてくれたのは、あの日の上高地だった。(13頁)

本書には、49の山の旅日記が掲載されているのだが、
所々にコラムが挟まれていて、これがすこぶる面白い。
- どうやって来日したのか じつは宇宙に行くようなもんだった
経済的余裕のない家庭で育ったので、
遊びに出かける金銭的な余裕はまったくなかった。
もし日本に旅をしようとしたら、1人分の旅費だけでも、
家族全員の年収を合わせても足りなかった。
そんな状況だったから、当時の安涼奈さんは、
日本は遠い遠い宇宙のように見えていたそうだ。
- 日本を好きになったきっかけはアニメだった
安涼奈さんが日本に興味を持ったキッカケになったのは、
子供の頃に見たアニメ「カードキャプターさくら」だった。
登場するキャラの生活を通して、
日本の文化や歴史などに興味を持ったそうだ。
- 私が「日本の山」にこだわる理由
今もなお、ピンとくるような答えはみつけられていないが、
改めて自分に問いかけてみて、
次のようなことを思いついたそうだ。
➀下界では見られない「美しい景色」
➁自分の足でしか辿り着けない「場所の特別感」
③登頂時の「達成感」
④体を動かす「喜び」
⑤下界では味わえない「開放感」
⑥下界では出会えない「人」
⑦山でしか見られない「夕日と朝日」
⑧山での「宿泊の特別感」
日本の山にあって、国外の山にはない魅力とは?
間違いなく「特別な何か」があるが、それは……


- 「安涼奈」って何?
サンクトペテルブルグ国立大学在籍中に、
K先生に「安涼奈」と付けていただいたのだとか。

- 山から得た一番の産物
私はとても元気でたくさんしゃべる。でも、日本では「おしとやかな人の方が好かれる」とずっと思い込んでいた。だから、日本人とコミュニケーションするときは、私は感情を抑えて、おしとやかな自分を演じようとしていた。そして、毎回毎回「嫌われなかったかなあ、大丈夫だったかなぁ」と不安を感じていた。(中略)山でこうやって楽しそうにしている日本人をたくさん見るうちに、じつは壁を作る必要なんてないのかも、と思った。そう気がついてからは、私も山で出会う人たちと自分の感情を素直に話すようになった。そして、次第に下界でも同じような態度を取るようになっていった。うれしければ喜ぶ、元気な自分は隠さない、それでもいいよと、山が私に教えてくれた。(117~118頁)
- 「なんちゃら名山」にこだわるわけ

この他、
- 山の情報の集め方
- 会社員でも年間82日も山で過ごせるわけ
- 毎年恒例の島根旅
- おいしいお店との出会い方
などのコラムが用意されている。
本文の方で特に印象に残ったのは、
32「恵那山」(中央アルプス)の「イマを楽しみなさい!」という記事。
この時は、登山ガイド、ジャーナルライターとしても活動する粟野宏一郎氏と一緒に登っているのだが、この粟野氏は安涼奈さんにとって師匠のような存在。
そんな粟野氏から言われた一言を記している。
神坂峠の登山口を出発して30分経ったところで、突然粟野さんから「ねぇねぇ、アリョーナ、気になることがあるんだけど」と声をかけられた。「気になることがある」と言われた私は、粟野さんが私に何か聞きたいことがあるのだと思い、「はい、何でしょうか?」と聞き返した。そしたら、質問ではなく、叱られたの(笑)! 「気になる」という日本語には微妙なニュアンスも含まれているのね。日本語って同じ表現でも意味がたくさんあって本当に不思議。
「歩きながら、ずっとスマホでYAMAPを見ているよね? 山頂まであと何kmなのか、時間はどれくらいかかるか、そんなことばっか考えているんでしょう。違うのよ、アリョーナ。あとどれくらいかなんてどうでもいい。イマを楽しみなさい! イマが幸せなんだよ」
その通りすぎて、返す言葉もなかった。粟野さんは、人生の大先輩でもあるけれど、どんな状況も楽しめる才能の持ち主でもある。私は素直に教えに従い、スマホをポケットにしまった。
すると、単調で変化がないと思い込んでいた登山道も、木々の隙間に南アルプスを見つけたり、滅多に見られない好きな花を発見したり、しゃがんで苔を眺めたり。私は一生懸命に「イマ」を楽しんだ。粟野さんとのトークも、なんだかいつも以上に盛り上がった気がする。(150~151頁)
今の登山者は、YouTube、Instagram、YAMAPなど、
SNSで発信している人が多く、
いかに見映えのイイ画像や映像が撮れるかばかりを気にしている。
「いいね」がもらえそうな画像や映像ばかりを狙い、
自分自身が楽しんでいないような気がする。
他人が撮った映える写真の場所に立ち、
同じような写真を撮り、同じような感想を漏らしている。
それはもはや「確認作業」に他ならない。
恵那山に登った日から、もう2年ほど経つ。けれど、粟野先生の教えは決して忘れてなんていなくて、ずっと素直に従っている。スマホばかり見ていると、脳内に粟野先生が現れて、また同じ言葉で繰り返し叱ってくれる。「幸せなのは、イマ」なんだもんね。叱ってもらえて本当によかった。(152頁)
こんな、素直な心を持っているからこそ、
こんな素敵な山旅ができ、素敵な文章が書けるのだろう。
今後の彼女の活躍から目が離せない。